上 下
9 / 22
第2話 まずは自分の生活から

9 私が来るまでの経緯

しおりを挟む
 この辺の林の景色は、日本のものとかなり異なっている。
 季節のせいか下草が薄めか、ほとんど枯れているか。
 何より樹木が日本のものと違っている。幹がボコボコしていて、葉が小さく厚め。

 少し移動すると、樹種が変わった。葡萄の実を全部取った残りみたいな、ごちゃっとした何かが枝にくっついている。
 何の木だろう。食用になるのだろうか。

『地球のイナゴマメと似た種類です。かつて此処にいた人間からは、甘みの素として採取されていました』

 イナゴマメ、何処かで聞いたような気がする。覚えていないけれど。
 その甘みの素は、いつ頃収穫出来るのだろう。

『あと1ヶ月半くらいで収穫可能です』

 ならその頃、採りに来ればいいだろう。
 そう思いつつ、歩いてでは無く、地図上に移動地点を指示するという形で、移動していく。

 ◇◇◇

 野ブドウっぽい蔓も見つけたし、クローバーに似ているけれどもう少し小さく、葉っぱが頑丈そうな下草もあった。
 あと柑橘類らしい何かの木もあった。残念ながらまだ実が無かったけれど、種類としてはレモンに近いらしい。
 探せば結構食べられるものもあるようだ。

 ただし野菜類がどうにも見当たらない。これから夏の乾燥時期になるからだろう。葉っぱ系の野菜が少ないのだ。

 採取出来たのは、、全知によると、
  ○ ウマゴヤシに似た品種
  ○ スベリヒユに似た品種
  ○ バジルに似ているけれど、香りが弱い品種
の三種類で、あとはあまり食用に適さないらしい。

 たとえば、
  ○ ローレルに似た香りだけれど、毒があるので食用にしない方がいい木の葉
  ○ どう見てもヨウシュヤマゴボウで、植物体全体に毒があるが、茎や葉はそこまで毒は強くないので、煮沸すれば食べられる
という感じで。

 そしてある程度山の上を目指そうとしたところで、全知からストップがかかった。

『これ以上稜線に近づくと、隣接するミョウドーの地の土地神ナハルに気づかれます。今はナハルに会わない方がいいでしょう』

 何故だろう。わからないけれど、取り敢えず稜線から離れた場所へ移動する。
 すぐに全知から、追加説明があった。

『ナハルは、かつてフタナジマと呼ばれたミョウドー、ケカハ、セキテツ、トサハタの4領域の支配をもくろみました。そして此処ケカハの神が他世界へと去ったのを機に、ケカハへ侵攻、我が物として、更に沖にあるホノサーも併合しようとしたのです』

 おっと、神にも領地争いみたいな事がある訳か。
 そんな事を思いつつ、私は全知による説明に耳を傾ける。

『しかし侵攻でミョウドーの地を空けた隙を、トサハタの土地神ガシャールに攻め込まれました。結果ミョウドーは荒らされ、ナハルは領民の信仰を失うことになったのです。その後、セート海域の海神とセキテツの土地神アルツァーヤによる調停で、ナハルはミョウドーの地のみの土地神に戻ることを約束。それによりガシャールもミョウドーを去って、領地の区分としては元の形にもどりました』

 元の鞘に収まったという訳か。
 ただ土地が荒らされて、領民の信仰を失ったのなら、神としてのダメージは大きいだろう。自業自得だけれど。

『ですがナハルは、未だケカハ、及び周辺の他領域への侵攻による支配を諦めていません。土地は荒れましたが、それでもフタナジマの4領域の中では最も気候的に恵まれてもいます』

 うんうん、こういう奴ほど己の業を顧みず、他人のせいにするものだ。
 きっとそれは、神でも変わらないのだろう。

 ただ海神と土地神が裁定したというところに、少しだけ疑問がある。
 本来、神々の調停をするのは、もっと上位の神、たとえば維持神とかではないのだろうか。

『シナリスにそういった事を望んでも無駄です。ただこの事態は、シナリスがケカハの土地神を配置しなかった事が原因のひとつです。それをセート海域の海神とセキテツの土地神アルツァーヤが訴えた結果、シナリスも渋々ながら動いて、大西彩花さん、コトーミを他世界から召喚し、新たな土地神とした訳です』

 うーむ、私が来る前に、そんな出来事があった訳か。
 でもそうなると、ケカハの地をミョウドーより先に発展させて力をつけないと、私がナハルに襲われる可能性がある訳か。

『現在のナハルの力はかなり衰えています。ですから100周期程度は襲撃してくる事は無いでしょう。またある程度は海神やアルツァーヤ、そしてガシャールも力を貸してくれると思われます』

 なるほど。ならその3柱の神に挨拶しておいた方がいいな。
 そしてセート海域の海神とは、間違いなく……

『キンビーラです』

 なるほど、ならキンビーラが昨日現れたのは、きっと偶然では無い。
 こちらの様子をうかがっていたのだろう。どんな神がやってきたかを確認する為に。
 なら他の神にも挨拶した方がいいか、キンビーラに聞いておいた方がいいかもしれない。

 とりあえずキンビーラには後も世話になりそうだ。だから付き合いは大事にしておこう。イケメンでもあるし。
 取り敢えずは今日のうどん、美味しいのを考えることにしよう。
 まだ醤油はないけれど、天ぷらは作れそうだし、出汁もいりこが使えるようになったし。

 あまり急速にうどんを発展させると、後でマンネリに苦しむ事になるかもしれないけれど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

辺境領主になった俺は、極上のスローライフを約束する~無限の現代知識チートで世界を塗り替える~

昼から山猫
ファンタジー
突然、交通事故で命を落とした俺は、気づけば剣と魔法が支配する異世界に転生していた。 前世で培った現代知識(チート)を武器に、しかも見知らぬ領地の弱小貴族として新たな人生をスタートすることに。 ところが、この世界には数々の危機や差別、さらに魔物の脅威が山積みだった。 俺は「もっと楽しく、もっと快適に暮らしたい!」という欲望丸出しのモチベーションで、片っ端から問題を解決していく。 領地改革はもちろん、出会う仲間たちの支援に恋愛にと、あっという間に忙しい毎日。 その中で、気づけば俺はこの世界にとって欠かせない存在になっていく。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

家族もチート!?な貴族に転生しました。

夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった… そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。 詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。 ※※※※※※※※※ チート過ぎる転生貴族の改訂版です。 内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております ※※※※※※※※※

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

処理中です...