機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
190 / 202
第36章 お役目のない学園祭

189 秋の始まり

しおりを挟む
 学生会が学園祭の書類に埋まる頃、俺は研究室で黙々と文章作成に勤しんでいた。
 俺だけではない。等々力、高井戸、恩田も机を並べてうめきながら文章を書いている。

 この部屋内で現在、一番有能さを見せつけているのは世田谷だ。
 自分の書く部分こそ少ないが、杖の性能比較のための実験、俺達が書いたものの英訳、ラフ絵を清書して説明用のイラストにする等の作業を一手に引き受けてくれている。

 家庭事情のせいか英語ペラペラ。
 お絵かきもペンタブ使って軽々上手にこなす。
 攻撃魔法科筆頭だけあって、同じ威力で同じ魔法を連射したりという疲れる比較実験も、余裕かつ楽々と可能。

 世田谷がいなければ、きっと論文や資料作成に数倍の時間がかかったろう。
 この面では感謝してもしきれない。

 さて、研究室にも新しい学生が入ってきた。
 魔技大の3年生である。

 魔技大は3年後期で研究室配属が決まるので、入ってくるのはこの時期になる。
 入ってくる時期は遅いけれど、実際には俺達より1年上の学年な訳で、当然うちの高専から編入した学生も入ってくる可能性がある訳だ。

 そしてやはりと言うか、俺と恩田にとっては無茶苦茶馴染みのある先輩がその中にいた。
 通称『器用貧乏』、魔道具の設計から甘味作成までそつなくこなすが常に報われない悲しき男、創造制作研究会OBの玉川数人先輩である。

「ハローエビバディ。また会えるとは嬉しいぜ」

 という言葉の割に今日も疲れている。
 もっとも俺は、疲れていない玉川先輩を今まで見た事が無いのだが。

「今回は何故そんなに疲れているんですか」

「一般教養の第1希望にも第2希望にもくじ引きではねられた。なのでさっき教務に聞いて、まだ空いている処を求めて探し回った。第6希望でやっとコマを埋められた。もう疲れた。死む……」

 相変わらず、天性の報われなさを発揮しているらしい。
 まあ取り敢えず健在なようで何より……かなあ。

 他に入ってきた3年生は、男1人女3人。
 こちらは高専からではなく、普通に大学1年から組だ。

 ぱっと見では魔法使いでは無さそうな感じだ。
 まあ魔法工学は、魔法を使えなくても研究できる。
 それに魔技大に来るからには魔法に理解あるだろうし、優秀でもあるのだろう。

 今は同じ研究室というだけで、一緒に取り組む事等は特に無い。
 しかし来年魔技大に入ったら、世話になる可能性は高い気がする。
 なのでまあ、お互い上手くはやっていこうと思う。
 実際はあまり接点が無いのだけれど。

 ◇◇◇

 木曜日、午後7時過ぎ。金曜と違い、部屋にいる人数は少ない。
 居住者以外でいるのは、詩織ちゃんだけだ。

 これくらいの人数だと、何か家族って感じがする。
 まあ由香里姉と香緒里ちゃん以外は、血のつながりはないけれど。

「由香里姉は卒業単位は大丈夫ですか」

「ん、余裕よ余裕。もう専門幾つかしか残っていないしね」

 既に大学院も決まっている。

 相変わらず優等生ぶりを発揮しているようだ。

「そう言えば香緒里、学祭終われば第一次の研究室希望調査でしょ。何処か決めた?」

「まだです。一応調べてはいますけれど」

「しっかり調べた方がいいわよ。下手すれば院までお世話になるんだから。修と同じというのじゃなくて、ちゃんと自分で適性とか志望とか考えないと」

「由香里先輩はどうして決めたれすか」

 ジェニーが尋ねる。

「ジェニーと同じだと思うわよ。氷系魔法だと、選択できる研究室は1つしか無いわ。攻撃魔法科で研究室を選べるのは肉体強化系位よ」

「そうれすね。補助魔法科も、医学系なら選択肢は多いのれすが」

 補助魔法科は、4年になる時点で所属研究室は決定している。
 そしてジェニーの専門は、レーダー魔法を中心にした感知系。
 研究室は事実上1つしか無い。

「美南ちゃんみたいに他の科の研究室って荒業もあるけどね。だったら余計に事前準備が必要だけれども」

「私はロボットを作りたいですよ」

 3年生が参戦してきた。

「ロボット系の研究室は2つあるぞ。魔法生体工学か魔法制御工学系か」

「スーパーロボット系やリアルロボット系は無いですか」

「そんな物は無い」

 ゲームじゃないんだから。

「参考までに修、魔法工学科はどんな研究室があるの」

「今の時点では魔法基礎工学、魔法基礎理論、魔法情報科学、魔法制御工学、魔法制御科学、魔法生体工学の6つかな。うち魔法基礎理論は他の学科と共通で、実際は攻撃魔法科の主管。ただ魔法工学科自体が魔法学内では学際的な学科だから、他の学科の研究室に行くのも例年何人かいる。ジェニーのところも1人行ったと思うけれど」

「箱根先輩れすね。メカ強い人がいると何かと助かるれすよ」

「という訳で、選択肢はその気になればほぼ全学科の全研究室ってのが実態。過去には補助魔法科医学系に行った例もあるらしいし。無論他の学科に行くなら、ある程度事前に話を通しておいたほうがいいけどさ」

「良くも悪くも選択肢はよりどりみどり、って感じね」

 由香里姉は頷く。

「で、リアルロボット系はどれがお薦めなのですか」

「聞くなら俺より適任者がいるから後に紹介してやる。女装男子だけどな」

「オスカーさんなら、この前飯奢ってもらったですよ」

 オスカーさんとは魔法制御工学研究室所属で俺の親友、上野毛君の女装時の仮名だ。
 まあ常に女装しているのだが。
 上野毛め、既に青田刈りの毒手を詩織ちゃんに伸ばしていたか。

「一緒に人工女性ファティマを作らないか誘われたので、どっちかというと巨大電気人形ゴティックメードの方が作りたいと返事しておいたのです。それでもいいから宜しくと言っていたのです」

 有望な4年生にコナかけるのは多いけれど、3年まで手を伸ばしていたか。
 まあ俺も3年の時には既に新地先生に誘われていたしな。

 そう思って気づく。
 よく考えたら香緒里ちゃんは、学科面では現4年魔法工学科の筆頭。
 何処かの研究室に誘われていてもおかしくは無い。
 というか思い返すと、香緒里ちゃんに対してのそういうモーションを幾つか目撃したような気がする。

 その事を香緒里ちゃんに聞こうとして、そして俺は考え直す。
 今それを言わないというのは、それなりに何か理由があるのかな、と。

 なら今は聞かないのが賢明なのだろう。
 だから俺はこの件は、あえて今回はこれ以上聞かない事にした。

「そう言えば修は大学の転入試験、大丈夫なの」

「一応推薦枠には入っているので大丈夫かと……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...