186 / 202
第35章 高専最後の夏休み ~やり残した事は何ですか~
185 秘湯遊撃隊⑴
しおりを挟む
ロフトから下に降りる。
月見野先輩、風遊美さん、香緒里ちゃん、詩織ちゃん、理奈ちゃん、沙知ちゃんの6人が、懐中電灯やらタオルやら準備している。
「どうしたんだ?」
「これから秘境温泉の探検に行くので、護衛をお願いしたいのですわ」
この辺に秘境温泉なんて、あっただろうか?
しかも全員の格好は、島で着ている浴衣だ。
「修先輩もぶつぶつ言わずに、ユニフォームに着替えるのです」
詩織ちゃんの目線の先には、おそらく俺用と思われる浴衣と帯とタオルが用意されている。
「何なんだ?一体?」
「修兄、いいから早く着替えて下さい」
香緒里ちゃん、そんな理不尽な。しかし仕方ないので、台所の影でちゃっちゃと着替えた。
「で、何だ。そこのホテルの温泉でも行くのか?」
ロッジの目の前には温泉ホテルがあり、日帰り入浴が出来る。
「せっかく北海道に来たのに、こんな風呂じゃ野性味が足りないのです。なので取っておきの温泉を紹介するのです」
ああ、それでか。メンバーの顔ぶれに納得がいった。
温泉好きと興味本位組の集合体だ。
昨日の旅館は良い旅館だったのだが、実はちょっとだけケチがついた。
ある客が一番いい露天風呂だという貸切風呂を、キープしたまま返さなかったのだ。
なのでちょっと露天風呂ファン的には不満が残ったらしい。
その憂さ晴らしという面もあるのだろう。
「でも詩織の出身地って、道東じゃなかったっけ」
「深く追求してはいけないのです」
これはきっと近くない処に行くつもりだな。
「着替えたら私から2メートル以内に来るです。なお足場は保証しないので、濡れては不味い物は持ち込み禁止なのです」
そう聞いた俺は、スマホをテーブル上へと置く。
俺以外は皆出撃準備OKなようだ。
と言っても装備は懐中電灯と電池式ランタンとタオルで足は素足、服は浴衣だが。
「なお飛ぶ前に注意をひとつなのです。転んで水に浸かる方が、足場を間違えて落ちるより安全なのです。あとタオルや懐中電灯は、両手を離しても大丈夫なように帯にくくりつけておくのです。いいですか」
何か危なそうな注意事項を言っている。
一体何処へ連れて行く気なのだろうか。
「では、行くですよ」
その言葉と同時に、足底の感覚が消えて俺達は宙に浮いた。
そして、いきなり水中へと落ちた。
おい何だ、深いぞ。足がつかない。
いや今足が着いたけれど、体を伸ばしても頭が水中だ。
両手で周りを探りつつ、足で下を蹴って水を掻いて、頭を何とか水上へ出す。
水が目に染みて、目が開けてられない程痛い。
それでも少しだけ見えた方向へ水を掻くと、岩に手が届いた。
おいおいおい。
「大丈夫か」
そう言って周りを見る。
だが暗い。星空の明かりしか見えない。
懐中電灯の光が水中から出てきた。
とっさに見えた腕を掴んで、岩の方へと動かす。
風遊美さんだった。
「大丈夫ですか」
風遊美さんは目を瞑ったまま頷き、そして何か考えるようにちょっと間を置く。
「他の人も大丈夫なようです。今、全員の呼吸を確認しました」
誰かが岩の上に置いた電池ランタンで、何とか全員いるのが見える。
暗くて顔まではわからないけれど。
そしてやっぱり目が痛い。無茶苦茶に浸みて痛い。
そして水温は温かい。風呂の適温というか川自体がきっと温泉だ。
よく見ると周りに蒸気を吹いている場所もある。
「思ったより滝壺が深かったのです」
詩織ちゃんが、しれっとそんな事を言った。
「危ないだろ、溺れるかと思ったぞ」
「ごめんなさい。修兄に注意事項を言うのを忘れていました」
香緒里ちゃんの声。という事はこれは予定通りの事態なのだろうか。
「医療魔法持ちもレーダー持ちも空間転移持ちもいるのです。だから多少は何があっても問題ないのです。ところで沙知、ヒグマはどうですか」
「1km以内に2頭の大型哺乳類。でもこっちに向かってはいないですね。まあ近づいたら言いますから問題ないです。あと人も付近にはいないようです」
沙知ちゃんがさらっと、とんでもない事を言っている。
「頼む詩織、ここはどういう場所で、今はどういう状況か説明して欲しい。俺は結構混乱している」
まあ理解しても、逃げようは無いのだが。
「ここは道東部のとある自然公園のど真ん中で、今の時期だと公営のバスか自転車等で林道を詰めて、そこから沢登りをしないと来れない秘湯なのです。夜はバスは当然来ないしキャンプ禁止なので、誰も来る心配は無いのです。ただヒグマ生息地帯なので、沙知に一応警戒してもらっているのです。
なおここは危険立入禁止の先なので、周囲をうろうろしない方が賢明なのです」
「何か凄く目が痛いんだが」
「強酸性の温泉なので目にしみるのです。まあ暫く我慢するしかないのです。これも効能なのです」
そんな事を喋りながら、何とか足がつく場所まで移動する。
何歩か歩いて、やっと腰を下ろせる場所までたどり着いて一安心。
落ち着いてみると、なかなかここはすごい場所だ。
今いるのは20m近い滝の滝壺で、更にこの下も、ほんのちょっと先が滝になっているようで水音がする。
そして周りは切り立った岩場だ。
月見野先輩、風遊美さん、香緒里ちゃん、詩織ちゃん、理奈ちゃん、沙知ちゃんの6人が、懐中電灯やらタオルやら準備している。
「どうしたんだ?」
「これから秘境温泉の探検に行くので、護衛をお願いしたいのですわ」
この辺に秘境温泉なんて、あっただろうか?
しかも全員の格好は、島で着ている浴衣だ。
「修先輩もぶつぶつ言わずに、ユニフォームに着替えるのです」
詩織ちゃんの目線の先には、おそらく俺用と思われる浴衣と帯とタオルが用意されている。
「何なんだ?一体?」
「修兄、いいから早く着替えて下さい」
香緒里ちゃん、そんな理不尽な。しかし仕方ないので、台所の影でちゃっちゃと着替えた。
「で、何だ。そこのホテルの温泉でも行くのか?」
ロッジの目の前には温泉ホテルがあり、日帰り入浴が出来る。
「せっかく北海道に来たのに、こんな風呂じゃ野性味が足りないのです。なので取っておきの温泉を紹介するのです」
ああ、それでか。メンバーの顔ぶれに納得がいった。
温泉好きと興味本位組の集合体だ。
昨日の旅館は良い旅館だったのだが、実はちょっとだけケチがついた。
ある客が一番いい露天風呂だという貸切風呂を、キープしたまま返さなかったのだ。
なのでちょっと露天風呂ファン的には不満が残ったらしい。
その憂さ晴らしという面もあるのだろう。
「でも詩織の出身地って、道東じゃなかったっけ」
「深く追求してはいけないのです」
これはきっと近くない処に行くつもりだな。
「着替えたら私から2メートル以内に来るです。なお足場は保証しないので、濡れては不味い物は持ち込み禁止なのです」
そう聞いた俺は、スマホをテーブル上へと置く。
俺以外は皆出撃準備OKなようだ。
と言っても装備は懐中電灯と電池式ランタンとタオルで足は素足、服は浴衣だが。
「なお飛ぶ前に注意をひとつなのです。転んで水に浸かる方が、足場を間違えて落ちるより安全なのです。あとタオルや懐中電灯は、両手を離しても大丈夫なように帯にくくりつけておくのです。いいですか」
何か危なそうな注意事項を言っている。
一体何処へ連れて行く気なのだろうか。
「では、行くですよ」
その言葉と同時に、足底の感覚が消えて俺達は宙に浮いた。
そして、いきなり水中へと落ちた。
おい何だ、深いぞ。足がつかない。
いや今足が着いたけれど、体を伸ばしても頭が水中だ。
両手で周りを探りつつ、足で下を蹴って水を掻いて、頭を何とか水上へ出す。
水が目に染みて、目が開けてられない程痛い。
それでも少しだけ見えた方向へ水を掻くと、岩に手が届いた。
おいおいおい。
「大丈夫か」
そう言って周りを見る。
だが暗い。星空の明かりしか見えない。
懐中電灯の光が水中から出てきた。
とっさに見えた腕を掴んで、岩の方へと動かす。
風遊美さんだった。
「大丈夫ですか」
風遊美さんは目を瞑ったまま頷き、そして何か考えるようにちょっと間を置く。
「他の人も大丈夫なようです。今、全員の呼吸を確認しました」
誰かが岩の上に置いた電池ランタンで、何とか全員いるのが見える。
暗くて顔まではわからないけれど。
そしてやっぱり目が痛い。無茶苦茶に浸みて痛い。
そして水温は温かい。風呂の適温というか川自体がきっと温泉だ。
よく見ると周りに蒸気を吹いている場所もある。
「思ったより滝壺が深かったのです」
詩織ちゃんが、しれっとそんな事を言った。
「危ないだろ、溺れるかと思ったぞ」
「ごめんなさい。修兄に注意事項を言うのを忘れていました」
香緒里ちゃんの声。という事はこれは予定通りの事態なのだろうか。
「医療魔法持ちもレーダー持ちも空間転移持ちもいるのです。だから多少は何があっても問題ないのです。ところで沙知、ヒグマはどうですか」
「1km以内に2頭の大型哺乳類。でもこっちに向かってはいないですね。まあ近づいたら言いますから問題ないです。あと人も付近にはいないようです」
沙知ちゃんがさらっと、とんでもない事を言っている。
「頼む詩織、ここはどういう場所で、今はどういう状況か説明して欲しい。俺は結構混乱している」
まあ理解しても、逃げようは無いのだが。
「ここは道東部のとある自然公園のど真ん中で、今の時期だと公営のバスか自転車等で林道を詰めて、そこから沢登りをしないと来れない秘湯なのです。夜はバスは当然来ないしキャンプ禁止なので、誰も来る心配は無いのです。ただヒグマ生息地帯なので、沙知に一応警戒してもらっているのです。
なおここは危険立入禁止の先なので、周囲をうろうろしない方が賢明なのです」
「何か凄く目が痛いんだが」
「強酸性の温泉なので目にしみるのです。まあ暫く我慢するしかないのです。これも効能なのです」
そんな事を喋りながら、何とか足がつく場所まで移動する。
何歩か歩いて、やっと腰を下ろせる場所までたどり着いて一安心。
落ち着いてみると、なかなかここはすごい場所だ。
今いるのは20m近い滝の滝壺で、更にこの下も、ほんのちょっと先が滝になっているようで水音がする。
そして周りは切り立った岩場だ。
19
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!
カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!!
祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。
「よし、とりあえず叩いてみよう!!」
ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。
※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
赤き翼の万能屋―万能少女と出来損ない死霊術師の共同生活―
文海マヤ
ファンタジー
「代わりのない物なんてない。この世は代替品と上位互換に溢れてる」
万能屋。
猫探しから家の掃除や店番、果ては護衛や汚れ仕事まで、あらゆるものの代わりとなることを生業とするもの。
そして、その中でも最強と名高い一人――万能屋【赤翼】リタ・ランプシェード。
生家を焼かれた死霊術師、ジェイ・スペクターは、そんな彼女の下を訪ね、こう依頼する。
「今月いっぱい――陸の月が終わるまででいいんだ。僕のことを、守ってはくれないだろうか」
そうして始まる、二人の奇妙な共同生活。
出来損ないの死霊術師と最強の万能屋が繰り広げる、本格ファンタジー。
なろうに先行投稿中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる