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第34章 詩織ちゃんの家出
182 親離れ子離れ、先輩は場慣れ?
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「ちなみにアホゲルには『うちの娘に手を出すんじゃないこの爺!』とメールを送った。そうしたら『うるせえ機械オタクは工場に引き籠っていろ!』とメールが来た。何もかも気に食わない」
どこまでがシリアスか、分からなくなりそうだ。
でもまあ、何となく図式は読めた。
要は
○ 詩織ちゃんがゲルハルト氏と、内容不明の連絡を取り合っている。
○ ゲルハルト氏をよく知っている田奈先生としては、心配であるし気に食わなくもある。
といった処だ。
でもそれにしては、何か神経質すぎる気がする。
田奈先生は見てくれは悪いが、頭の構造は悪くなかった筈だ。
俺は単刀直入に聞いてみる。
「他に懸念事項か何かあるんですか」
田奈先生は頷いた。
「ごくごく最近、詩織の魔法の質がまた変わった気がする。おそらく新しい魔法を身に着けたのだろう。それも戦闘に有効なタイプの魔法をだ。アホゲルと連絡を取り始めたのは、そのすぐ後からだ。私はそれを、偶然の一致とは思わない」
その言葉を聞いた瞬間、俺は自分が色々と見逃していた事に気づいてしまった。
詩織ちゃんが奈津季さんの処に魔法の訓練に行った理由。対予知魔法を必要とした理由。
それは『似たような相手が他にもいる』から『その相手を倒す手段を探すため』に必要だという理由だった筈だ。
その手段は、予知魔法は手に入った。
ならばゲルハルト氏に連絡を取っているのは、順番からして戦闘後の後始末。
訂正、田奈先生の危惧は間違いなく事実だ。
でもそれに対して、俺達は態度を決めた筈だ。
奈津季さんが感じた未来を、そして詩織ちゃんの実力を信じる事にした筈だ。
俺達では手が届かない場所だけれども、それでも手を出したいけれど、詩織ちゃんをそんな危険な目にあわせたくはないけれども。
それでも信じて送り出してやろう、そう風遊美さんや香緒里ちゃんと話したのだ。
そして俺は更に気づく。
この俺の前にいるむさい中年親父も、きっとそれはわかっている筈だと。
俺より色々経験も積んでいるし危ない目にも何度となくあっている筈だからこそ、そしてそれらを自分で切り抜けてきたからこそ、きっと。
「何が起きるか。いや貴方の娘が何をやる気か、もう大体わかっているんですね」
「私の娘だからな」
田奈先生は頷く。
血の繋がりが無いじゃないですかなんて事は言わない。
血の繋がりが無くともあの2人が親娘なのは、俺が充分に知っている。
でもちょっとだけ、文句は言わせてもらおう。
「俺は、答のわかっている愚痴を聞くために呼ばれた訳ですか」
「同情してくれそうなのが他に居なくてな」
まあ気持ちはわからないでもない。
だから少しだけ、手出ししてやろう。
「詩織ちゃんには、ゴールデン・ウィークが終わったら家に帰るようには説得します。きっと本人もその気だと思いますけれど」
「頼む。あいつがいないと家庭内の立場が弱くてな」
おいおいおい。それが本音かよ。
いや、それも本音かよ。
そんな訳で、俺は部屋に戻った後、詩織ちゃんに言っておく。
「一段落したら、田奈先生の処に戻ってやってくれ。あれでも俺の恩師なんだ」
「いいのですよ。どうせ当初からその予定なのです」
詩織ちゃんはしれっとそう言い切る。
おいおい、俺と田奈先生の立場が無いじゃないか、それでは。
でもまあ、少しだけ安心している自分がいる。
それもまあ、癪に障らない訳でもないのだが。
「あと、杖をちょっと貸してくれ」
「新しいのが出来たのですか」
「いや、新型はまだだけれど、ちょっとやりたい事がある」
「取り上げたりはしないですよね」
「取り上げないから」
詩織ちゃんは例によって、どこからともなくヘリテージ2号を取り出す。
「できるだけ早く返して欲しいのです」
「すぐ終わる。3分位かな」
俺は自分のヘリテージ1号を構え、ヘリテージ2号に修復魔法をかける。
無論ヘリテージ2号が壊れている訳ではない。
だが、これを作った時点より俺の知識は更に進化している。
だからヘリテージ2号もより進化し、最適化された形に修理される筈だ。
効果は俺の1号や風遊美さんの3号で既に実証済み。
そして、ほぼ何も変わらない外見のまま、魔法が終了する。
だが俺の審査魔法は、確かな進化を確認していた。
「ほいよ。自分で確認してみな」
詩織ちゃんは2号を手に取る。
「ん、微妙だけど、確かに何か違うのです」
「負荷をかけた領域で連続使用する際の効率が若干良くなった筈だ。まあそんな使い方は、あまり望ましくは無いけどさ」
ちなみにこれは、風遊美さんがお姉さま軍団にこき使われ、新宿だの大阪だのデパート廻りさせられた時のデータを元にした改良である。
なお詩織ちゃんが奈津希さんと戦った時のデータも、当然確認分析済みだ。
ヘリテージはあくまで試作杖なので、データロガーを内蔵している。1号だけでなく2号、3号ともにだ。
何でも使える物は使うのだ。風遊美さんがこき使われたデータだろうと、詩織ちゃんのバトル記録だろうと。
それが明日を掴む糧となるのなら。
「とりあえず杖の方は、それが現状での世界最強だ。約束は果たしたから、ちゃんと持ち帰れよ」
それ以上は言う必要は決して無い。
詩織ちゃんもわかっている筈だと思う。
「で、次の新作杖はいつごろ完成の予定なのですか」
「順調に行って5月末から6月頭だな。ただ第1段階ではこれとそんなに性能変わらないぞ」
「少しでも性能向上すれば充分なのです。取り敢えずはピラミッドを見に行くのです」
おいおい。そう思いつつも俺は少し安心する。
詩織ちゃんがいつもの調子である事に対して。
◇◇◇
そして、次の日の早朝3時頃。
詩織ちゃんは、誰にも何も言わず姿を消した。
どこまでがシリアスか、分からなくなりそうだ。
でもまあ、何となく図式は読めた。
要は
○ 詩織ちゃんがゲルハルト氏と、内容不明の連絡を取り合っている。
○ ゲルハルト氏をよく知っている田奈先生としては、心配であるし気に食わなくもある。
といった処だ。
でもそれにしては、何か神経質すぎる気がする。
田奈先生は見てくれは悪いが、頭の構造は悪くなかった筈だ。
俺は単刀直入に聞いてみる。
「他に懸念事項か何かあるんですか」
田奈先生は頷いた。
「ごくごく最近、詩織の魔法の質がまた変わった気がする。おそらく新しい魔法を身に着けたのだろう。それも戦闘に有効なタイプの魔法をだ。アホゲルと連絡を取り始めたのは、そのすぐ後からだ。私はそれを、偶然の一致とは思わない」
その言葉を聞いた瞬間、俺は自分が色々と見逃していた事に気づいてしまった。
詩織ちゃんが奈津季さんの処に魔法の訓練に行った理由。対予知魔法を必要とした理由。
それは『似たような相手が他にもいる』から『その相手を倒す手段を探すため』に必要だという理由だった筈だ。
その手段は、予知魔法は手に入った。
ならばゲルハルト氏に連絡を取っているのは、順番からして戦闘後の後始末。
訂正、田奈先生の危惧は間違いなく事実だ。
でもそれに対して、俺達は態度を決めた筈だ。
奈津季さんが感じた未来を、そして詩織ちゃんの実力を信じる事にした筈だ。
俺達では手が届かない場所だけれども、それでも手を出したいけれど、詩織ちゃんをそんな危険な目にあわせたくはないけれども。
それでも信じて送り出してやろう、そう風遊美さんや香緒里ちゃんと話したのだ。
そして俺は更に気づく。
この俺の前にいるむさい中年親父も、きっとそれはわかっている筈だと。
俺より色々経験も積んでいるし危ない目にも何度となくあっている筈だからこそ、そしてそれらを自分で切り抜けてきたからこそ、きっと。
「何が起きるか。いや貴方の娘が何をやる気か、もう大体わかっているんですね」
「私の娘だからな」
田奈先生は頷く。
血の繋がりが無いじゃないですかなんて事は言わない。
血の繋がりが無くともあの2人が親娘なのは、俺が充分に知っている。
でもちょっとだけ、文句は言わせてもらおう。
「俺は、答のわかっている愚痴を聞くために呼ばれた訳ですか」
「同情してくれそうなのが他に居なくてな」
まあ気持ちはわからないでもない。
だから少しだけ、手出ししてやろう。
「詩織ちゃんには、ゴールデン・ウィークが終わったら家に帰るようには説得します。きっと本人もその気だと思いますけれど」
「頼む。あいつがいないと家庭内の立場が弱くてな」
おいおいおい。それが本音かよ。
いや、それも本音かよ。
そんな訳で、俺は部屋に戻った後、詩織ちゃんに言っておく。
「一段落したら、田奈先生の処に戻ってやってくれ。あれでも俺の恩師なんだ」
「いいのですよ。どうせ当初からその予定なのです」
詩織ちゃんはしれっとそう言い切る。
おいおい、俺と田奈先生の立場が無いじゃないか、それでは。
でもまあ、少しだけ安心している自分がいる。
それもまあ、癪に障らない訳でもないのだが。
「あと、杖をちょっと貸してくれ」
「新しいのが出来たのですか」
「いや、新型はまだだけれど、ちょっとやりたい事がある」
「取り上げたりはしないですよね」
「取り上げないから」
詩織ちゃんは例によって、どこからともなくヘリテージ2号を取り出す。
「できるだけ早く返して欲しいのです」
「すぐ終わる。3分位かな」
俺は自分のヘリテージ1号を構え、ヘリテージ2号に修復魔法をかける。
無論ヘリテージ2号が壊れている訳ではない。
だが、これを作った時点より俺の知識は更に進化している。
だからヘリテージ2号もより進化し、最適化された形に修理される筈だ。
効果は俺の1号や風遊美さんの3号で既に実証済み。
そして、ほぼ何も変わらない外見のまま、魔法が終了する。
だが俺の審査魔法は、確かな進化を確認していた。
「ほいよ。自分で確認してみな」
詩織ちゃんは2号を手に取る。
「ん、微妙だけど、確かに何か違うのです」
「負荷をかけた領域で連続使用する際の効率が若干良くなった筈だ。まあそんな使い方は、あまり望ましくは無いけどさ」
ちなみにこれは、風遊美さんがお姉さま軍団にこき使われ、新宿だの大阪だのデパート廻りさせられた時のデータを元にした改良である。
なお詩織ちゃんが奈津希さんと戦った時のデータも、当然確認分析済みだ。
ヘリテージはあくまで試作杖なので、データロガーを内蔵している。1号だけでなく2号、3号ともにだ。
何でも使える物は使うのだ。風遊美さんがこき使われたデータだろうと、詩織ちゃんのバトル記録だろうと。
それが明日を掴む糧となるのなら。
「とりあえず杖の方は、それが現状での世界最強だ。約束は果たしたから、ちゃんと持ち帰れよ」
それ以上は言う必要は決して無い。
詩織ちゃんもわかっている筈だと思う。
「で、次の新作杖はいつごろ完成の予定なのですか」
「順調に行って5月末から6月頭だな。ただ第1段階ではこれとそんなに性能変わらないぞ」
「少しでも性能向上すれば充分なのです。取り敢えずはピラミッドを見に行くのです」
おいおい。そう思いつつも俺は少し安心する。
詩織ちゃんがいつもの調子である事に対して。
◇◇◇
そして、次の日の早朝3時頃。
詩織ちゃんは、誰にも何も言わず姿を消した。
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