機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
177 / 202
第33章 詩織ちゃんの新魔法と裏切りの黒魔女

176 裏切りの黒魔女⑴

しおりを挟む
 プレ・プログレスの設計をCADでちまちまやっていると、大広間の方の気配が動いた。
 夕食の時間のようだ。

 部屋を出ると、卓球台を折り畳んで座卓にする作業中だった。
 元々の巨大座卓と併せれば18人は座れる。
 ただし既に、最大で17人の状態だ。
 また近いうちに、次の手段なりテーブルなりを考える必要があるだろう。

 皆でキッチンから大量の皿を運んでくる。
 ただでさえ種類が多いのに、全員に行き届くように4セット作ってあるから、無茶苦茶に皿数が多い。
 俺も重い重い炊飯器をおっちらせと運ぶ。

 見ると今回は、今までの中でも屈指の豪華さだ。
 刺身も元になる魚の種類が多い分、多種でかつ多量。他にあらや内臓の煮物もある。
 キッチンの都合で焼き物や揚げ物は作れなかったみたいだけれど、これはまあ後日のお楽しみか。
 刺身系だけでも刺身、漬け、カルパッチョ等あるのは奈津季さん時代と同じだ。

「食べ過ぎると酷い目にあうので気をつけるれすよ」

 一番暴食の罠にかかった回数が多い誰かさんが、自戒を込めてかそう注意。
 いただきますの唱和とともに、戦闘に突入。
 間もなく炊飯器でおかわりをし始める人が続出し、割とあっさり3升の御飯が空になる。
 おいおい。

 仕方ないから、俺は重い炊飯器をキッチンに持っていき、代わりに冷凍庫から冷凍していた御飯を出して釜に投入。
 再びよいしょと運んで、とりあえず一番キッチンから近くの席にいた愛希ちゃんに以来。

「ごめん、解凍お願い」

「はいはい」

 さすが優等生だけあって、きっちりほかほかに解凍してくれた。
 炊飯器を元の場所に設置した処に、再びおかわりの列が発生する。

 刺身もかなり大量に盛り付けてある筈なのだが、残りは少ない。
 ルイスがキッチンへ向かって冷蔵庫から刺身のサクを出し、切り始める。
 人数が多いので、本当に戦場状態だ。

 ちなみに今の時点で、俺はまだ刺身7切れと煮物少々しか食べていない。
 御飯もまだ1杯目だ。
 早すぎるだろう、いつもながら。

 ◇◇◇ 

 当然の結果として、無事全員がごちそうさまを認めた後は、トドが出現する。
 今は露天風呂は混浴ではないので、状態の確認は出来ないが。

 これが初回の1年生は全員暴食の罠にはまったらしい。
 鈴懸台先輩、ジェニー、ソフィー、愛希ちゃんといった懲りない面々も、まあいつも通りだ。
 そして世田谷もかなり危険な状態の模様で、妙な動きで露天風呂方面に向かった。大丈夫だろうか。

 一通り片付いた大広間は俺、ルイス、ロビーの男性陣のみ。
 俺とルイスは体調を、悪くする程暴食はしないし、ロビーはガタイそのものが大きいので常人より余裕がある。
 なので男性陣3人は今回も暴食の罠にははまらず無事だ。
 だからニュース番組を見ながら、3人でまったりしている。

「それにしても、なあ」

 ルイスがつぶやいた。

「何だ」

「世田谷先輩が来たのは、想定外だった」

 ルイスはそう言って、ため息をついた。

「何で?」

「攻撃魔法研究会の事実上の主戦力だから。学生会とも結構やりあっているし。別に仲が悪い訳では無い。でも立場として対立している」

 そんな感じなのか。

「創造製作研究会は、別に学生会と対立してはいなかったけどな」

「攻撃魔法科だけの特殊事情だ。親学生会側と親攻撃魔法研とは攻撃魔法科の2大派閥のようなもので、合同トレーニングもわざと2大派閥別で開催したりする」

 魔法工学科の俺は、全然そういう話は知らなかった。

「攻撃魔法科ってそんな恐ろしい世界だったのか」

「わざとだけど。抗争形式にした方が張り合いがあるし、模擬戦なんかでも熱が入るから。
 本当は攻撃魔法研究会の対立軸は学生会じゃなくて魔法分析研究会や魔法格闘クラブの筈だ。ただ奈津季先輩の頃からは、学生会のほうが戦力的に強くなってしまった。だから今は攻撃魔法研究会中心の一派対、学生会中心の一派という形になっている」

「要はプロレスの団体同士の物語みたいなものか」

「そうだ。そして世田谷先輩は向こう側の事実上の中心人物だ」

 俺にもやっと図式が見えてきた。

「それって、物語的にはまずいんじゃないか」

「僕もどう整理するか苦慮している。名目だの学年を無視すれば、世田谷先輩は既に去年から攻撃魔法研究会の中心人物だった。異常に発動が早い闇魔法使い。しかも闇魔法を味方支援だの陽動だのに使うタイプだ。
 実際はきっと強すぎるから、直接攻撃に魔法を使わなかっただけなのだろう。その辺はきっと由香里先輩や奈津季先輩と同じだ」

 確かに俺も、由香里姉が全力の攻撃魔法を出したのを、見たり聞いたりした事はない。
 知っている限りでは由香里姉の最強の呪文は『氷の城』。氷の壁による絶対防御魔法だ。

 奈津希さんも、詩織ちゃん相手に使った話を聞くまで、予知魔法併用技などを出したりしなかった。
 しかも詩織ちゃんの話を聞くに、その魔法技でさえ全力ではなかったらしい
 きっとルイスも、ある程度自制している部分があるのだろう。

 ただ奈津季さんには由香里姉も風遊美さんもいるし、ルイスには更に詩織ちゃんもいる。
 そういう相手が世田谷にいなかったとしたら……
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!

カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!! 祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。 「よし、とりあえず叩いてみよう!!」 ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。 ※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...