機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
175 / 202
第33章 詩織ちゃんの新魔法と裏切りの黒魔女

174 美味しいから仕方ない

しおりを挟む
「漁船が工房前から離陸したれす。もうまもなく着くれす」

 ジェニーがそう報告があったので、俺は立ち上がり、客間の掃き出し窓を全開にする。

 すぐに違和感たっぷりだけれど見慣れた代物が、学校上空からこっちに向かってくるのが見えた。
 ルイスの操船で鮮やかにスピードを落として着陸する。
 何時見ても色々シュールな風景だ。

「どうだった」

 結果はわかっているのだけれど、挨拶として一応聞いてみる。

「ちょっと獲りすぎた。残りは工房の冷蔵庫に解体済みで入っている」

 そう言いつつ、ルイスは前に巨大アジの開きをつけ込むのに使ったトロ舟を重そうに持って出てきた。
 解体作業を一通りやって、中身をトロ舟に入れてきたらしい。

 その後ろでロビーも同じようにトロ舟を抱えている。
 更にもう1個トロ舟を、女性陣で抱えている。

「他に荷物は」

「これで大丈夫ですわ」

 理奈ちゃんから返事があった。
 早速台所は戦場状態。と言ってもスペースの都合でキッチンで戦っているのは香緒里ちゃん、ジェニー、ソフィーの3人。
 他は手を洗って大広間でダベリング。ちょうどいいので世田谷姉妹を紹介する。

 ルイスは世田谷を見るなり、
「いつもお世話になっています」
と挨拶したので、やはり面識があるようだ。

 エイダちゃんが学生会に入るのも問題は無さそう。

「もう少し早ければ、今日の釣り大会もご一緒出来たのですけれど」

「まあどうせ、今日は泊まって宴会していくんだろ」

「私も1年生です。補助魔法科の日吉美雨と申します」

 そんな感じで、もう普通に話をし始めている。
 と、ルイスが俺に何か言いたそうな顔をしている事に気づいた。

「どうしたルイス」

 端っこに寄って聞いてみる。

「修先輩は世田谷先輩と知り合いなのか」

「5年で入った研究室の同僚だ。何でだ」

 ルイスは何故か、そこでうんうんと頷いた。

「攻撃魔法科の方で年度末位に色々あったらしいと聞いた。魔法工学科が反則技で優秀な学生を引き抜きいたという噂も聞いたが、事実だったんだな」

「おかげでうちの研究室の男3人で、賄賂代わりの杖を大量生産する羽目になった。ただこの件はオフレコな」

「了解した。確かに助教以上の杖が皆新型になっていた。それもこの関係だった訳だ」

 ルイスは何か納得できたという感じで頷いている。

「世田谷先輩は、別の方向から強さを求めたんだな」

 それはどう言う意味だろう。
 だが何故か、この時の俺はルイスの言葉の意味を聞き損ねてしまった。
 何かルイスの言葉と雰囲気に、色々な意味がありそうな気がしたのにも関わらず。

 そしておよそ、20分程経過後。
 全員で巨大な座卓を囲んで、昼食準備完了だ。

「お昼御飯はカンパチとキハダマグロ、スマのお刺身です。バラハタとロウニンアジは晩御飯で出します。だからちゃんとお腹の中に余裕を持っておいて下さいね。では、いただきます」

 香緒里ちゃんの宣言で昼食がスタートした。
 刺身と味噌汁と御飯だけという、それだけ書くと質素な昼食。
 しかし刺身が豪華すぎる。大皿5枚にそれぞれしっかり量が盛られていて、きっとこれを買うと……
 よそう、値段換算すると虚しくなる。

 場馴れした連中は、恐ろしい速度で狙った獲物を取って自分の皿へと運ぶ。
 最初はその勢いに怯んでいた世田谷姉妹も、直に状況を察してその戦いに加わった。
 さすが攻撃魔法科、反応が早い。

 俺は例によって、のんびりペースでゆっくりと食べる。
 この競争にはついて行けない。
 それに選ばなければ、刺身が完全に無くなる前にある程度食べられる。
 今までの経験からそれがわかっているから。

 ちなみに今の人数は13人。
 これに由香里姉達が戻ってくれば17人だ。
 多いよな、やっぱり。
 買い出しても買い出しても食料の減りが早いのは、もう仕方ない。

 皿の刺身が少なくなると、ルイスがキッチンへ行っては切って追加してを繰り返し、気づくと3升炊きの炊飯器の底が見え始めている。

「夜の方が豪華なんだから、食いすぎるなよ」

 そんなルイスの注意も既に遅かった模様だ。

 奈津希さん食事当番時のように無限御飯おかわり可能な環境ではないから、被害はそれほどでも無いだろう。
 余分に炊いた筈の御飯も全て無くなり、皿の刺身も何度も追加したにもかかわらずなくなったあたりで、昼食終了となった。

「それでは片付け後、午後2時半までが露天風呂が女子専用です。男性は内風呂の方でお願いします」

 飯後の休憩タイムに入る。
 なお世田谷は片付け後、真っ先に風呂の方へ飛んでいった。
 よっぽど露天風呂が気になっていたらしい。

 俺は3升の米を研いで、また炊飯器にセットする。
 御飯を炊いておいて、炊いた御飯をラップの上に広げて乗せておけば、誰か氷系魔法持ちが急速冷凍してくれる。
 それを火炎魔法持ちの鈴懸台先輩なり愛希ちゃんなりに解凍して貰えば、御飯が足りなくなっても大丈夫。
 奈津季さんがいない分は、こんな感じで小技と魔法を駆使している訳だ。

 でも誰か、火炎魔法と風魔法両方を使って、あの3分間炊飯をマスターしてくれると助かるのだけれど。
 ルイスは風魔法の他に火炎魔法も使えるようになった。
 それでも奈津希さんの真似は、そう簡単には出来ないそうだ。

 やっぱり奈津希さんの魔法は色々な意味で特異だったんだな、と何かしみじみ感じる。
 今はフランスのノルマンディー地方だけれど元気だろうか。
 まあ詩織ちゃんが時々会いに行っているらしいし、何も詩織ちゃんから聞かないから元気なんだろう、きっと。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...