162 / 202
第31章 次の始まりの少し前に ~春の章~
161 飯をたかりに1万km
しおりを挟む
奈津季さんはすぐに戻ってきた。
まずはバゲット2本を入れたかごと取り皿3枚を持ってくる。
そして次の往復でハムとチーズの塊をそれぞれ3個ずつ持ってきた。
あとバターとバターナイフ。
最後はカップ3つとポットだ。
「こんな物しかないけどいいかい」
「充分なのです」
ハムもチーズも全部違う種類だ。
バゲットもそれぞれ違っている。
だが詩織ちゃんは、ハムにしか目がいっていない感じだ。
「修、パンとハムとチーズ適当に切ってくれ」
いいのだろうか。
ここでの値段はわからないけれど、日本で買えばどれもかなり高そうだ。
「すみません。あとでお代は払います」
「大丈夫大丈夫。香緒里がバイト代弾んでくれたしさ。それにこっちじゃハムやチーズは安いんだ。特にチーズはカマンベールの本場だしさ」
ならばとパンはとりあえず2cm幅、ハムとチーズはとりあえず3mm程度に5枚ずつ切ってみる。
「それでは、いただきます」
言い終わると同時に、詩織ちゃんがハムを1枚つまみそのまま口に運んだ。
「うーん、風味豊かだけどちょっとしょっぱいのです」
「それはジャンボン・ド・クリュ。生ハムだから塩気が強いかな。チーズとバゲットと一緒に食べれば美味しいよ」
そう言いながら奈津希さんは、紅茶を各々に注いでくれる。
そして自分はパンではなく、詩織ちゃん購入のお土産を取り出した。
「お、長野の平五郎か。この店は遠くて行けなかったんだ」
「時間が辛いので生ケーキは流石に無理なのです。なのでケークオキューブで残念だけど我慢して欲しいのです」
「充分充分。うむうむうむうむ。やっぱり日本の洋菓子は美味いよな」
その間に理奈ちゃんは、ハムとチーズを交互に2枚ずつ重ねた豪勢なサンドイッチを作って食べている。
俺もチーズと白っぽいハムをバゲットに乗せて食べてみる。
うん、精進料理も悪くはないけどこれも美味しい。
奈津季さんセレクトだけあって、パンもチーズもハムもなかなか美味しい。
そのせいか詩織ちゃんも理奈ちゃんも凄い勢いで食べている。
食べつつもすごい勢いで減っていくパン、チーズ、ハムそれぞれを追加で切っておく。
そうとう肉類に飢えていたかな、これは。
女子組は昼食もパンケーキだったらしいし。
「しかし詩織もとんでもないよな。まさか本当にここまで来るとは思わなかった」
「修先輩のおかげなのですよ。口外無用の凶悪兵器をレンタルする契約をしたのです」
おいおい、口外無用を口に出すなよ。
「良ければ後でちょっと見せてもらっていいか。どんな代物か見てみたい」
「いいのですよ、はい」
詩織ちゃんは、どこからともなく杖を取り出して、奈津希さんに渡す。
奈津希さんは受け取って持ち替え、軽く構えた。
「成程な、要は僕のお守りのフル機能版ってとこか。全属性対応にして増幅重視にして」
「正解です。機構そのものは例のボールペンの正常進化版ですね」
「でもまさか、これを量産するなんて怖い事言わないよな。由香里さんとかルイスのような強力な魔法使いが使ったら、それこそポーダブル核兵器とか戦略級の代物だろ」
「現に強力かつ凶悪な魔法使いが使っちゃっていますけどね。腹減ったという理由で」
当の本人以外の3人が苦笑する。
「安心して下さい。これは研究用で市販予定はありません」
「これより強力なのを作ると修先輩は言っているのですよ。それもいずれ私のものにするのです」
おいおい詩織、口外無用だろうが。
「本気か、って修に聞くのは野暮だよな。修が言ったからには目処はたっているんだよな」
奈津季さんの口調は軽いけれど、微妙に目が笑っていない。
「ええ。その杖はあくまで技術対照用ですから」
奈津季さんが言いたい事は、俺にもきっとわかっている。
だからこの場に相応しくない一言を、つい俺は付け加えてしまう。
「鉄砲も飛行機も原子力技術もいずれは開発されただろう、そういう事です」
「そこまでわかっているなら、僕も何も言わないけどさ」
「奈津季先輩、だーい丈夫なのですよ」
とお気楽っぽく言う詩織ちゃん。
「開発するのは修先輩ですし、香緒里先輩も私もついているのですから」
この時の俺は気付けなかった。
奈津希さんはきっと気づいていた。
詩織ちゃんが軽くそう言った言葉の裏に潜ませた真意に。
そして理奈ちゃんは関係なくサンドイッチをぱくついていた。
さて、楽しい間食も終わりに近づいたようだ。
既にバゲットは2本とも全て切り終えどちらも4切れずつ。
ハムは白いのが3分の2、生ハムと言っていたのが3分の2、そして俺が一番美味しいと思った白っぽいピンクのが残り3分の1と悲しい残量になっている。
チーズも似たような状況だ。
どっちもこんなに一気に消費するものじゃないだろうに。
日本で買ったらハムもチーズもどれも1個3千円以上はするだろう。
その残りのパンも見てる間に消えていき……
「はい終了~!」
俺は宣言した。
「うう、まだハムもチーズも塊で食べたいのです」
「今回に関しては詩織さんと同意です!」
おいおい理奈ちゃんまで。
「明日の昼はホテルバイキングだからそれまで我慢しろ」
「参考までに聞くが、明日の朝食は何だい?」
奈津希さんの質問に対し、俺はきっぱりと答える。
「由緒正しいお寺の朝御飯です!」
「ぶー!ぶー!」
詩織ちゃんがブーイングをしている。
「黙らっしゃい。それにどうせ新幹線でまた駅弁2個食べるんだろ」
「旅行で駅弁は旅のルールなのです。例え直後にバイキングがあっても、逃げられない戦いなのです」
奈津季さんが笑いだした。
「やっぱり変わらないな。まあ日本たってまだ2日目だから変わる筈も無いけどさ」
「真理は常に不変なのですよ」
うーん、何が真理なのか小1時間問い詰めたい。
「それよりいいのか。そろそろ日本側が心配しているぞ」
「一応由香里姉、月見野先輩、ジェニー、香緒里ちゃん、ルイスにはSNSで連絡は入れましたけれど」
「でもジェニーすら感知不能な距離だろ。おまけにSNSじゃ顔が見えない。そろそろ戻った方がいいと僕は思うな」
そうかもしれない。
腕にはめた日本国内のみ対応電波時計が、夜11時を回った。
確かに頃合いだろう。
「それではそろそろ帰ります。おい詩織、帰るぞ」
詩織ちゃんはちょっとだけ悩む素振りをする。
「うーん、ではこのハムの残りで我慢するのです」
おいおい。
「それが気に入ったかい。日本でもジャンボン・ド・パリと言えばこのタイプを買えると思う。まあ残り3分の1だし持って帰っていいよ。こっちなら高くはないしさ」
絶対高いと思う。
「なら私もお土産欲しいです。このチーズいいですか」
それも絶対高いと思う。半分残っているし。
「ま、いいよ。また買えるしさ」
「すみません、本当に」
「大丈夫だって。やばけりゃ仕送り頼むしさ。それより詩織に無理させるなよ」
この言葉の意味も、この時の俺には真意が伝わっていなかった。
詩織ちゃんには通じていたようだけど。
食卓を片付け、3人で奈津希さんにもう一度礼を言った後、詩織ちゃんは魔法を起動する……
まずはバゲット2本を入れたかごと取り皿3枚を持ってくる。
そして次の往復でハムとチーズの塊をそれぞれ3個ずつ持ってきた。
あとバターとバターナイフ。
最後はカップ3つとポットだ。
「こんな物しかないけどいいかい」
「充分なのです」
ハムもチーズも全部違う種類だ。
バゲットもそれぞれ違っている。
だが詩織ちゃんは、ハムにしか目がいっていない感じだ。
「修、パンとハムとチーズ適当に切ってくれ」
いいのだろうか。
ここでの値段はわからないけれど、日本で買えばどれもかなり高そうだ。
「すみません。あとでお代は払います」
「大丈夫大丈夫。香緒里がバイト代弾んでくれたしさ。それにこっちじゃハムやチーズは安いんだ。特にチーズはカマンベールの本場だしさ」
ならばとパンはとりあえず2cm幅、ハムとチーズはとりあえず3mm程度に5枚ずつ切ってみる。
「それでは、いただきます」
言い終わると同時に、詩織ちゃんがハムを1枚つまみそのまま口に運んだ。
「うーん、風味豊かだけどちょっとしょっぱいのです」
「それはジャンボン・ド・クリュ。生ハムだから塩気が強いかな。チーズとバゲットと一緒に食べれば美味しいよ」
そう言いながら奈津希さんは、紅茶を各々に注いでくれる。
そして自分はパンではなく、詩織ちゃん購入のお土産を取り出した。
「お、長野の平五郎か。この店は遠くて行けなかったんだ」
「時間が辛いので生ケーキは流石に無理なのです。なのでケークオキューブで残念だけど我慢して欲しいのです」
「充分充分。うむうむうむうむ。やっぱり日本の洋菓子は美味いよな」
その間に理奈ちゃんは、ハムとチーズを交互に2枚ずつ重ねた豪勢なサンドイッチを作って食べている。
俺もチーズと白っぽいハムをバゲットに乗せて食べてみる。
うん、精進料理も悪くはないけどこれも美味しい。
奈津季さんセレクトだけあって、パンもチーズもハムもなかなか美味しい。
そのせいか詩織ちゃんも理奈ちゃんも凄い勢いで食べている。
食べつつもすごい勢いで減っていくパン、チーズ、ハムそれぞれを追加で切っておく。
そうとう肉類に飢えていたかな、これは。
女子組は昼食もパンケーキだったらしいし。
「しかし詩織もとんでもないよな。まさか本当にここまで来るとは思わなかった」
「修先輩のおかげなのですよ。口外無用の凶悪兵器をレンタルする契約をしたのです」
おいおい、口外無用を口に出すなよ。
「良ければ後でちょっと見せてもらっていいか。どんな代物か見てみたい」
「いいのですよ、はい」
詩織ちゃんは、どこからともなく杖を取り出して、奈津希さんに渡す。
奈津希さんは受け取って持ち替え、軽く構えた。
「成程な、要は僕のお守りのフル機能版ってとこか。全属性対応にして増幅重視にして」
「正解です。機構そのものは例のボールペンの正常進化版ですね」
「でもまさか、これを量産するなんて怖い事言わないよな。由香里さんとかルイスのような強力な魔法使いが使ったら、それこそポーダブル核兵器とか戦略級の代物だろ」
「現に強力かつ凶悪な魔法使いが使っちゃっていますけどね。腹減ったという理由で」
当の本人以外の3人が苦笑する。
「安心して下さい。これは研究用で市販予定はありません」
「これより強力なのを作ると修先輩は言っているのですよ。それもいずれ私のものにするのです」
おいおい詩織、口外無用だろうが。
「本気か、って修に聞くのは野暮だよな。修が言ったからには目処はたっているんだよな」
奈津季さんの口調は軽いけれど、微妙に目が笑っていない。
「ええ。その杖はあくまで技術対照用ですから」
奈津季さんが言いたい事は、俺にもきっとわかっている。
だからこの場に相応しくない一言を、つい俺は付け加えてしまう。
「鉄砲も飛行機も原子力技術もいずれは開発されただろう、そういう事です」
「そこまでわかっているなら、僕も何も言わないけどさ」
「奈津季先輩、だーい丈夫なのですよ」
とお気楽っぽく言う詩織ちゃん。
「開発するのは修先輩ですし、香緒里先輩も私もついているのですから」
この時の俺は気付けなかった。
奈津希さんはきっと気づいていた。
詩織ちゃんが軽くそう言った言葉の裏に潜ませた真意に。
そして理奈ちゃんは関係なくサンドイッチをぱくついていた。
さて、楽しい間食も終わりに近づいたようだ。
既にバゲットは2本とも全て切り終えどちらも4切れずつ。
ハムは白いのが3分の2、生ハムと言っていたのが3分の2、そして俺が一番美味しいと思った白っぽいピンクのが残り3分の1と悲しい残量になっている。
チーズも似たような状況だ。
どっちもこんなに一気に消費するものじゃないだろうに。
日本で買ったらハムもチーズもどれも1個3千円以上はするだろう。
その残りのパンも見てる間に消えていき……
「はい終了~!」
俺は宣言した。
「うう、まだハムもチーズも塊で食べたいのです」
「今回に関しては詩織さんと同意です!」
おいおい理奈ちゃんまで。
「明日の昼はホテルバイキングだからそれまで我慢しろ」
「参考までに聞くが、明日の朝食は何だい?」
奈津希さんの質問に対し、俺はきっぱりと答える。
「由緒正しいお寺の朝御飯です!」
「ぶー!ぶー!」
詩織ちゃんがブーイングをしている。
「黙らっしゃい。それにどうせ新幹線でまた駅弁2個食べるんだろ」
「旅行で駅弁は旅のルールなのです。例え直後にバイキングがあっても、逃げられない戦いなのです」
奈津季さんが笑いだした。
「やっぱり変わらないな。まあ日本たってまだ2日目だから変わる筈も無いけどさ」
「真理は常に不変なのですよ」
うーん、何が真理なのか小1時間問い詰めたい。
「それよりいいのか。そろそろ日本側が心配しているぞ」
「一応由香里姉、月見野先輩、ジェニー、香緒里ちゃん、ルイスにはSNSで連絡は入れましたけれど」
「でもジェニーすら感知不能な距離だろ。おまけにSNSじゃ顔が見えない。そろそろ戻った方がいいと僕は思うな」
そうかもしれない。
腕にはめた日本国内のみ対応電波時計が、夜11時を回った。
確かに頃合いだろう。
「それではそろそろ帰ります。おい詩織、帰るぞ」
詩織ちゃんはちょっとだけ悩む素振りをする。
「うーん、ではこのハムの残りで我慢するのです」
おいおい。
「それが気に入ったかい。日本でもジャンボン・ド・パリと言えばこのタイプを買えると思う。まあ残り3分の1だし持って帰っていいよ。こっちなら高くはないしさ」
絶対高いと思う。
「なら私もお土産欲しいです。このチーズいいですか」
それも絶対高いと思う。半分残っているし。
「ま、いいよ。また買えるしさ」
「すみません、本当に」
「大丈夫だって。やばけりゃ仕送り頼むしさ。それより詩織に無理させるなよ」
この言葉の意味も、この時の俺には真意が伝わっていなかった。
詩織ちゃんには通じていたようだけど。
食卓を片付け、3人で奈津希さんにもう一度礼を言った後、詩織ちゃんは魔法を起動する……
20
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる