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第30章 冬はつとめて(2) ~修4年冬編・後半~

154 この様式美は間違いだ!

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 今年の2月14日は金曜日だ。
 ルイスとロビーは一度寮に着替え等を取りに行ってから俺と合流する。

 時間は午後6時ちょうど。
 そろそろマンションに向かってもいい頃合いだ。

「今年はダビデ像は無いだろうな」

「あれは勘弁してくれ」

「何デスか、ダビデ像とは」

 そう言えばロビーは、昨年のバレンタインデーを知らないのだった。

「昨年詩織がルイスそっくりのダビデ像を作ったんだよ。全裸のさ」

「OH!それは見たかったデス」

 そんな事を話しながらマンションへと帰る。

「とりあえず要注意は奈津季先輩と詩織と、あと理奈だな」

「でも注意しても逃げようは無いけどな」

「そんなに危険な行事なのデスか」

「わからない。出たとこ勝負だ」

 とか言いながらエレベーターで最上階へ行き玄関へ。
 インタホンを押してドアを開ける。

「ただいま……えっ」

「お帰りなさいませご主人様方」

 理奈ちゃんがメイド服で出迎えてくれている。
 黒いワンピース風の服に白いふりふりがついたエプロンドレス。

 うん、これはどう見てもメイド服だよね。
 よく見ると女性陣全員、デザインは違うがメイド服っぽい服を着用している。
 由香里姉や鈴懸台先輩や月見野先輩まで。
 何なんだ今年のコンセプトは!

 ご丁寧にも黒と白のテーブル掛けまで装備された席に案内され、着座を強制される。
 何が何だかわからないがまあその通りに座る。

「日本のバレンタインデーとはこんな感じなのデスか?」

「違うロビー、今回は一番今までで変だ!」

 一体何がどうしてこうなったのだろう。

「それでは本日のお食事をお持ち致します」

 凄く悪そうだがいい笑顔の奈津季さんが、キッチンからお食事を持ってくる。
 前にアジの開きパーティで使った巨大皿に乗ったそれは、超巨大オムライス。
 分厚さはそれほどでもないが、面積は新聞1面程度はある。

「それではメイドの皆から愛情を注ぎますわ。萌え萌えキュン!」

 そう言って奈津希さんはケチャップで小さくハートを書いて、由香里姉に渡す。
 由香里姉がどことなく恥ずかしそうにハートを描き次と交代。
 以降鈴懸台先輩、月見野先輩、風遊美さん、香緒里ちゃん、ジェニー、ソフィー、詩織ちゃん、愛希ちゃん、理奈ちゃんとケチャップでオムライスに色々描いていく。
 結果、黄色地に赤色の前衛芸術が出来上がった。

「それでは修様、申し訳ございませんがご協力頂けますでしょうか」

 香緒里ちゃん、微妙に恥ずかしそうに言わないでくれ。
 萌えという単語が理解できそうになってしまう。

「俺の魔法で14等分すればいいんだろ」
「出来れば皿に載せる処までご協力いただければ幸いなのれす」

 ジェニーが空の皿を並べていく。
 はいはい、俺の魔法でやればいいんだおう。
 確かに取り分けるのが面倒そうだし。

「という訳で、今回はちょっとメイド喫茶風にしてみたんだがどうだった?」

 オムライスを全員に配った時点で、やっとメイド喫茶モノマネの縛りを解いたらしい。

「勘弁して下さいよ。これ以上変な文化を伝道しないで下さい」

「前にクラスの男の子にやった時は評判が良かったんですけどね」

 今の台詞から察するに、今回の主犯は理奈ちゃんらしい。

「やはり男装女子による執事喫茶の方が良かったれすか」

 ジェニー、君の常識はどこかで矯正の必要があるようだ。

 改めて他のおかず類も運ばれてくる。
 ハンバーグとか鶏唐揚げとかポテトフライとか魚フライとか、まあパーティ的なおかずだ。

「本当はメイド喫茶状態のまま食事に突入して、スプーンを持ってご主人様に食べさせる処までやろうかという案もあったんだ。でも面倒だから中止した」

「懸命な判断です。出来ればメイド喫茶案そのものを撤回していただければもっと賢明だったかと」

「いやさ、理奈が面白いカタログ持っていてな、見ると三千円ちょいでメイド服が買えると書いてあるじゃないか。社長に相談したら春休み旅行の分と兼ねて強制労働3日でいいって言うから、ついな」

「恥ずかしかったけれど面白かったわ。ただこのメンバー外には恥ずかしくて見せられないけれど」

 由香里姉にもそんな願望があったのか。

「可愛いは正義なのですよ」

 詩織ちゃんおまえは面白がっているだけだろ!

 しかし、改めて女性陣を観察してみるとこれはこれで結構面白い。
 堂々系が鈴懸台先輩、奈津季さん、ジェニー、ソフィー、詩織ちゃん、理奈ちゃん。
 ちょっと恥ずかしい系が由香里姉、月見野先輩、香緒里ちゃん。
 真っ赤になって動けないのが愛希ちゃんだ。

「愛希、大丈夫か」

 ルイスも気づいたらしく声をかける。

「ん、でもこの格好……」

「大丈夫、似合っていると言っていいかはわからないが可愛いのは確かだ」

 愛希ちゃんがさらに赤くなった。
 出たなイケメン攻撃。
 本人は無意識だが、気づいたお姉さん方がにやにやしている。

 ひととおり料理もなくなったのを見計らって、奈津季さんが宣言する。

「さて、これからが今日のハイライト。ケーキ争奪戦だ!」

 そう言って空いた大皿を下げて何か持ってくる。
 見るとコーヒーカップ大のチョコケーキが14個乗っていた。

 更にコップとサイダーの瓶が運ばれてきて、各人の前にサイダー入りのコップが配られる。
 このサイダーは何を意味するのか。

 よく観察すると女性陣に、そこはかとない緊張感が漂っている。
 何か昨年もこんな緊張感があったような……

「さて解説しようか。何人かの強ーい要望があったので、今年のケーキは当たり付きになっている。率直に言うとデスソース混入済のケーキがこの中に一個ある。
 これからゲームをやって、負けた人の左隣から左送りにケーキを一個ずつ取っていく。全員が取り終わったら一斉に食べ始める。ルールは以上だ。なおゲーム及びケーキ選択時に魔法を使って判定するのは禁止な」

 ケーキはどれも同じように見える。
 とすると、取る順番はあまり気にしなくてもいい筈だ。
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