上 下
149 / 202
第29章 冬はつとめて(1) ~修4年冬編・前半~

148 プレゼントは誰のもの?

しおりを挟む
 今回は人数が多いので、クリスマスケーキも大きい。
 円形を14人でカットすると1枚ずつが薄くなるので、今回は長方形だ。
 ケーキの種類は例によって奈津季さん曰く『正しい仕様』の白色イチゴ入り。

 1年生3人によるシャンメリー開栓でパーティがスタートする。
 ケーキは例によって俺の魔法で7✕2にきっちりカット。
 そして食べるとやっぱり美味しい。

 スイーツに乏しい島といえど、島外へ出たり学園祭なりで結構俺たちは食べている。
 それでもやっぱり、この奈津希さんのケーキは美味しいと感じるのだ。

 さて、ケーキが終われば料理の番。
 チキン丸焼きにフライドチキンと、鶏虐殺祭りなメニューが並ぶ。
 具のためにわざわざ海に出たという手巻き寿司も健在だ。

「去年もこんなパーティやったのかい」

「そうみたいよ。私におすそ分けが残っていたから」

「悔しいな。1回分損した気分だ」

 鈴懸台先輩と由香里姉がそんな事を話している。

 ただ、残念だけど来年は、こんな感じには出来ないのだろう。
 何せパーティの主力の奈津季さんがいなくなってしまうから。

 そういう意味では最後にして最大のクリスマスパーティなのかもしれない。
 俺達にとっても。

「それではプレゼント交換まで、しばしご歓談をお楽しみ下さい。あとカラオケはご自由にご使用下さい」

 香緒里ちゃんのアナウンスで、真っ先にカラオケ装置に動く奈津季さんと詩織ちゃん。
 そして例によって猛獣対怪獣の戦いが始まる。
 まあこの辺は毎週金曜夜に展開される恒例行事と同じなのだけれども。

 それにして露天風呂にカラオケ装置って、もはや温泉旅館状態だ。
 責任の半分は俺にあるような気がしないでもないけれど。

 それにしても俺自身も、随分変わったと思う。
 1人が好きだったはずなのに今では島で一番騒がしい家の一員だ。
 でも今ではこんな生活もかなり気に入っているのだけれど。

 それにしても奈津季さん、変な歌ばかり歌っている。
 給食とみかんの次はファミレスか。そんな歌どこで憶えてくるのだろう。

 さて、そろそろ。

「お待ちどうさまでした。これよりプレゼント交換会を始めたいと思います。それぞれ自席の左に立ってお待ち下さい」

 そして何故か月見野先輩がカードを配る。

「去年の曲が長すぎたとお聞きして、交換用の曲を編集して持ってまいりました。テンポにあわせ、渡す、受け取る、渡す、受け取るとゆっくり回していってくださいな。なお曲は途中で切れますので、その時点で終了と致します」

 今回は月見野先輩がこの部分に関与したようだ。
 とすると絶対自分のプレゼントが自分に来る事もないし、自分に合わないプレゼントが来る事もないと思っていいだろう。

「それでは音楽を流しますわ。音楽内の手拍子にあわせてくださいね」

 香緒里ちゃんがカラオケ装置をパソコンモードにして、クリスマス用.wavというアイコンをクリックして戻ってくる。
 間もなく音楽が流れ始めた。
 曲そのものは昨年と同じ、WHAM!のいつものナンバーだ。

「そろそろ始まります。3、2、1、ハイ」

 テンポよくかつゆっくりとカードを回し始める。
 オオー、の処で手拍子が止み、音楽がフェイドアウト。
 うん、長さも半分程度だし、昨年より大分いい感じだ。

「さあ、ご自分のお持ちになっているカードを開いて、自分がプレゼントをいただく相手を確認して下さいな。自分で自分に貰う方はいらっしゃらないですよね」

 俺も手持ちのカードを開く。
 相手はジェニーのようだ。
 何だろう。
 いつもの言動からして微妙に不安。

「それではプレゼンターは学年上順でいきますね。最初は由香里から」

 由香里さんが、そこそこ大きめの箱を持ってくる。
 そして受け取るのは理奈ちゃんだ。

「開いて確認してみて下さいな」

 月見野先輩の言葉で、理奈ちゃんが包みを開く。
 出てきたのは若草色の小さめのディパック。

「魔技大とメーカーのコラボ製品の試作版よ。使い勝手はまだ完全に確認済ではないけどね」

 よく見ると両側がステッキホルダーになっていたり、メインの出し入れ口にがま口タイプの口金が入っていたりと色々凝っている。

「使いやすそうです」

「一応私が色々お願いして設計して貰ったからね。A4サイズの教科書も入るし、ステッキも背負ったまますんなり出せるはずよ」

 確かにうちの特区ではかなり便利そうだ。
 荷物を持っていても両手が開くし、杖を取り出すのも簡単だし。

「ありがとうございます。大事にします」

 早速理奈ちゃんは背負って確認している。
 黒ゴスロリに若草色のディパックが妙な似合い方をしているのが笑える。

 そして次は鈴懸台先輩だ。
 持ってきたのはごくごく薄い箱。

「実はルイスで良かったと思っているんだ。相手が修あたりだと意味が無いしな」

 何だろう。
 出てきたのは手書きの紙片5枚。

 紙面には『私と対戦権 1枚につき1回分 無制限有効』と記載されている。
 由香里姉と月見野先輩が同時に吹き出す。

「何なのよ翠、このノリは」

「小学生や幼稚園児が母の日に作ったお手伝い券レベルですわね」

 なかなか辛辣だ。
 でもルイスは微妙に嬉しそうだ。

「早速休み明けに使わせて貰います」

 で、次は月見野先輩。
 相手は何と鈴懸台先輩だ。
 ものは『えりくさあ』と書かれた怪しい液体入り薬瓶。

「対戦券でルイス君にのされた時等に使用してくださいね。飲めば内臓等用、かければ傷等外科用。効果は期待していいと思うけれど味は保証しないわ」

 との事だ。
 送り主が送り主だかえに、多分本当に効くのだろう。
 中身がどういう代物なのかは、俺は確認したくはないけれど。

 そして以降は、
  風遊美さんの『ドイツ製革製カードケース』が香緒里ちゃん。
  奈津希さんの『北海道スイーツ詰め合わせ』がロビー。
  俺の超小型魔法杖が月見野先輩。
  香緒里ちゃんの『ブローチネックレス(幸運効果入り)』が由香里姉。
  ルイスの『アイルランド製の銀の指輪』が詩織ちゃん。
  詩織ちゃんの『護り刀』が愛希ちゃん。
  ソフィーのメイプルシロップ詰め合わせが奈津季さん。
  愛希ちゃんのピンクゴールドのハート型ネックレスがジェニー。
  理奈ちゃんのシルバーのティアドロップ型ネックレスが香緒里ちゃん。
  ロビーの改造済10インチタブレットPCがソフィーの手に渡った。
という形となった。

 さて、問題は俺のだ。
 モノそのものは抱きまくら。
 長さ120cm位の、なかなかいい感じの大きさだ。

 しかし問題はそれについているカバー。
 厳密にはそのカバーに描かれた絵が問題なのだ。

 片面は、学生会Webページでお馴染みのジェニーちゃん。
 要は萌え漫画化したジェニーの絵だ。
 浴衣姿でこんなのベッドに入れていたら確実にその筋の趣味人と間違われる。

 しかし問題はもう片面だ。
 同じ浴衣姿のジェニーちゃんだが、こっちは帯がはだけて色々危ない絵になっている。

「ジェニー、この絵は何なんだ」

「寂しい一人の夜でも安心なのですよ」

 それは色々な意味で危険だろう。

「修先輩良かったですね。これで私がいなくても寂しくないのです」

 こら詩織、更に誤解を増すような事を言うでない。
 ここにいる連中は誤解しないと思うけどさ。

「それにしてもソフィーのタブレット、それ本当に5千円なのか」

 奈津季さん、その意見はもっともだ。
 ここは事情を知っている俺が説明しておこう。

「それは俺が買うところを見ていたから大丈夫ですよ。旧型で処理速度が遅いので投げ売りになっていたんです。確か3,980円だったかな。それを改造と魔法で処理速度等を上げて、最新型並に使えるようにしているんです」

 夏休みに訪れた秋葉原で、ロビーはこれと同じものを3台購入している。
 おそらく課題の機器制御用に買ったのだろうけれど、それをプレゼント用にしたらしい。

 なお、奈津季さんは既にプレゼントのメイプルシロップの瓶を開けている。
 見るとケーキの余りのスポンジ部分にかけ、凄く嬉しそうに口に運んでいる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

開発者を大事にしない国は滅びるのです。常識でしょう?

ノ木瀬 優
恋愛
新しい魔道具を開発して、順調に商会を大きくしていったリリア=フィミール。しかし、ある時から、開発した魔道具を複製して販売されるようになってしまう。特許権の侵害を訴えても、相手の背後には王太子がh控えており、特許庁の対応はひどいものだった。 そんな中、リリアはとある秘策を実行する。 全3話。本日中に完結予定です。設定ゆるゆるなので、軽い気持ちで読んで頂けたら幸いです。

処理中です...