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第28章 心なき身にもあはれは知られけり~秋・俺の学生会で最後の学園祭~

145 主任教授からの臨時試験

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 砂浜に何とかホバギーを持ち上げ、田奈先生は潜航艇を降りる。
 俺も乗りにくいエアスクーターを降りた。

「さてここで長津田に問題だ。この2機を一番早く現場復帰させるのはどうすればいいか。配点30点で評価はAからEまで、C以上で一応合格」

「パワードスーツは魔法で修理可能です。ただホバギーは無理ですね。早急に汎用エンジン2機を含む部品を発注し、本体はこの島1台のレッカー車を頼んで工房へ搬送するしかないでしょう」

「評価B+。無難だが面白くない答えだ。点数にすると30点中21点」

「なら評価Aの回答は何なんですか」

 少なくとも俺には、他の方法は思いつかない。
 田奈先生は悪そうな笑みを浮かべた。

「なら評価Aの回答を見せてやろう。そのかわりお前が今持っている魔法強化具を全部貸せ。最低3点はあるはずだ」

 田奈先生の魔法は俺の上位互換。
 意識できる範囲に存在する機械の所在は、全て認知及び操作可能だ。

「壊さないでくださいよ」

 俺は独鈷杵型アミュレット先行試作品、小型万能杖試作1号招き猫型、奈津季さんへのボールペンを渡す。

「このボールペンはいい。誰かへ贈呈予定だろう」

 田奈先生はボールペンだけ俺に返して寄こす。
 何でそんなのわかるのだろう。
 まあいいかけれど

「それでは評価Aの回答を見せてやろう」

 田奈先生は右手にアミュレット、左手に招き猫を持ち、ホバギーの前に立った。

「久々の大技行くぞ。修理魔法と審査魔法と時間操作魔法の合わせ技。秘技『再生!』」

 凄まじい魔力が迸る。
 ただでさえAクラス以上の魔力が、アミュレットと招き猫で数倍に増幅されホバギー各所に降り注ぐ。
 全体の魔力量だけでも、一度だけ見た由香里姉の最終防御技『氷の城』以上。
 それが恐るべき力と精度でホバギー各所を変形していく。

 何が起こっているか解析魔法をかけて診る。
 使っているのは先生が言った通り『修理』、『審査』、『時間』。
 以前の時間に存在した形を『時間』と『審査』で確認し、『修理』する。
 更に必要部品で足りない部分は、周りのそれほど重要でない部位等から材料を調達したりもしているようだ。

 おそらく経過した時間は3分程度だろう。
 目の前に出たのは、ほぼ新品状態のホバギーだ。
 流石の田奈先生も、ちょっと呼吸が荒くなっている。

「どうだ、評価は」

「枠外扱いです。例外的処理が多すぎますしね。でも採点するならA+をつけざるを得ないでしょう」

 ただ、こんな方法論は反則だ。真似できたものじゃない。
 しかし今の魔法と考え方と方法論は参考になる。
 今度、機会があったら試してみてもいいかもしれない。

 そう思って、そして俺は気づいた。
 田奈先生がまだまだ悪そうな顔をしている事に。

 ちょっとばかし嫌な予感がする。
 かと言って、逃げられる状況でも無い。

「さて、さっきの試験でB+評価な長津田君に再試験だ。今の魔法を見て考えた事を表現してみろ。対象はこのパワードスーツだ」

 田奈先生の魔法で動いていたパワードスーツだが、損傷部位はかなり多い。
 例えばバランス調整用の電子機器や、バッテリー等の部品は再起不能だ。

「ひょっとして、便利な修理屋をやらそうとしていますか」

「明日は文科省の役人が視察に来るからな。派手目なものは出来るだけ用意したい。これが直れば予備機をデモンストレーション用に使えるしな」

 油断も隙もあったもんじゃない。
 まあ確かに今見た魔法の応用を試してみたいから、やってもいいけれど。

 田奈先生からアミュレットと招き猫を返してもらう。

「この魔道具に関しては評価はAをつけてやっていい。安定感があるし、無茶な出力に耐える耐久性もある」

「あそこまで無茶な使い方は想定していませんでしたけどね」

「対象は薊野姉妹あたりか」

「あとはあなたの娘です」

「成程、全部了解した」

 まあそんなやり取りは忘れて、俺も今のを参考にやってよう。
 田奈先生と同様、両手に魔道具を構える。

 実はこの時の両手の位置が、何気に重要だ。
 上手く双方からの力が、焦点となるパワードスーツで極大に共振するように。

 そしていつものような部位別修理では無く、全体に一気に魔法をかけてみる。
 要はさっきの田奈先生の魔法のコンパクト版だ。

 さあ、行くぞ。
 一気に魔法を発動する。

 2つの魔道具で増幅された魔法が共振、パワードスーツの中心で極大の波になる。
 それ以上細かい操作は、今回はしない。

 全てがあるべき場所に、あるべきように戻る事を意識する、それだけだ。
 後は魔法で、自動的に修理されていく。

 俺の審査魔法が修理完了と告げるまで、多分1分程度だったろう。
 おかげで俺の残存魔力は残量10%程度。

「今度はA評価だな。魔力の割には魔法のセンスはいい。ここは褒めてもいいだろう」

 全然褒めていない口調で言う。

「ただ新たに減点材料だ」

「何ですか」

 俺に心当たりは……微妙に色々とある。

「今私に貸したアミュレットとほぼ同じものを、うちの詩織に与えたな。そのおかげか、微妙につじつまが合わない事が起こっている。例えば学校に行っていてちゃんと島にいる日の筈なのに、ジョ●フル本●千葉ニュータウン店で買い出ししたレシートが出てきたりな」

 ジ●イフル●田千葉ニュータウン店とは、前に旅行で詩織ちゃんやルイスと出かけた超大型ホームセンターだ。
 でも、おい、まさか。

「詩織の魔力は私より高い。そして持ち魔法は空間魔法だ。そしてあのアミュレットは魔法による自己増幅型。普通の魔力A程度なら2倍程度、私の全力で4倍強。詩織の全力だと……何倍だろうな。きっと本土に遠隔移動して戻れる程度なのだろう」

 無茶苦茶すぎるだろう!

「それらの内容を併せ見た上で今回の試験結果を加味し、罪状は不問としよう」

「子供の教育は家庭の仕事です」

「どの口でそれを言う」

 詩織ちゃんに関してはお互い様だろう、きっと。

「あとこのエアスクーターのこの色と角と、妙にピーキーなセッティングは何なんですか」

「わからないか。06S指揮官専用機仕様だ。赤くて指揮官の角付きで3倍速い。要はシャア専用」

「誰ですかそのシャアって。中東方面の人ですか」

「本当に知らないのか、長津田。あの赤い彗星だぞ……。坊やだからか」

 勿論本当は知っている。
 というか赤くて角がある時点でもう答は想像がついていた。

 だだ知っているとは絶対言ってやらない。
 同類とは見られたくないからな。
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