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第26章 私が楽しい理由~夏の旅行・前編

131 夕食は回転寿司

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 翌朝旅館の精算をする時、1人で温泉卵5個ソーセージ2セット芋5個豚汁5杯を焼山の温泉蒸しで食べた強者の存在が判明した。
 おかげでかなり予算超過してしまった。
 もちろんそんな事をするのは詩織ちゃんしかいない。

 さて、今日もなかなかに強行軍だ。
 本日の予定は、いわゆる黒部立山アルペンルートを通って富山まで。

 具体的には、宿を出た後、
  ① 穂高駅までバスで移動し
  ② 信濃大町駅まで、各駅停車の電車に乗って
  ③ 信濃大町駅から扇沢まで、バスで移動
  ④ 扇沢から黒部ダムまで、トンネルの中を走る電気バスで移動
  ⑤ 電気バスの終点からケーブルカーの黒部湖まで、黒部ダムの上を歩いていき
  ⑥ 地下トンネルを走るケーブルカーで黒部平まで登って
  ⑦ 館山ロープウェイで断崖絶壁にせり出すようにして建っている大観峰駅まで行き
  ⑧ トンネル内を走るトロリーバスで室堂へと出て
  ⑨ バスで美女平まで下り
  ⑩ ケーブルカーで立山駅へ下りて
  ⑪ 私鉄で富山まで行って移動終了
という行程。

 非常に一般的で良くできた観光ルートだ。
 だから一般常識を守れば楽しく山岳観光を楽しめるのだが、残念ながらうちには常識が怪しい問題児が何人もいやがる。

 例えば③のバスの中で。川口浩探検隊の歌を歌いかけた馬鹿だとか。
 その時、一緒に歌おうとした馬鹿も2人いたとか。

 あとは⑧で到着した室堂で、一般的な観光ルートである展望台巡りをしている際に
「ついでだからあの山も登りたい」
という体力馬鹿2(大先輩1、1年1)を皆で止めるなんて事もあった。
 更には、その止めている最中にふっと姿を消して、1分後に『行ってきたですよ。おみやげの山頂の石』と言って現れた馬鹿もいた。

 そんなあれこれで、富山に着くころには引率者の俺は、疲れ果てた状態だ。
 わかるとは思うけれど、事案の半分以上は詩織ちゃんの仕業。
 まあジェニーとかソフィーとか奈津希さんとか愛希ちゃんも、それぞれやらかしているけれど。

 それでも他の人間は黒部ダムや山々の眺望に感動していたようで、ここを選んだこと自体は悪くはなかったと思う。

 本日の宿は、富山の駅近くにある普通のホテルにチェックイン。
 今日はシングルルーム11部屋予約、という力技だ。
 つまり全員個室なので、ルイスもこれで少しは復活……してくれるといいのだけれど。

 さて、宿についても観光は終わらない。
 この後、夕食の部なんてのも用意している。

 富山と言えば、魚介類が大変美味しいところだ。
 そこで日本の誇る庶民文化、回転寿司を味わってもらおう。
 そんな計画だ。

 ただし、11人という人数がちょっと辛い。
 駅前にあるような店では、全員入るのは多分、無理。

 なのでタクシー3台に分乗して、ちょっとだけ郊外へ向かう。
 スマホで順番待ち受付が出来て、席を取りやすそうな大型店を狙ったからだ。

 席は攻撃魔法科4人、北米連合3人、その他4人という形で順番待ちに入力した。
 どうせ11人同時に入れるようなテーブルはないから、仕方ない。
 回転寿司のルールは予習させておいたし、お金は十分に渡してあるから、幹事の俺と離れても問題はないだろう。

 タクシーで店に到着して、少しだけ待つ。
 到着後5分位で俺達のすぐ前まで順番が回った。
 なので最後の説明をさせてもらう。

「値段は気にしないで食べてください。渡した額で足りないということはまずない筈ですが、足りなければ俺に声をかけてくれれば払います。わさび有り抜きは個人判断で。席が空いたら奈津希さんの組、ジェニーの組、俺の組と言う淳で行きます」

 そう宣言したところで、店側から声がかかった。

「3名でお待ちのジェニー様、お席が空きましたのでご案内します」

 それでは夕食、回転寿司の部がスタートだ。
 ジェニー達の後、3分位で攻撃魔法科組、更に2分程度で俺達も案内された。
 
 風遊美さん、香緒里ちゃん、詩織ちゃん、俺の4人も、夕食開始だ。

「ほかより遅れたので、一気に攻めるのですよ。私はまず松と竹と梅のセット、それぞれわさび抜きで1セットずつです」

 おい待てそこの詩織!
 セット1つにつき、握り寿司が12個ずつあるんだぞ。
 
「ちょっと待て詩織。それ1人で食うつもりか」

「駆けつけ3杯というのです」

 それはドリンク用で、食べ物に適用させる言葉ではない。

「いいじゃないですか。私もまずはセットでお願いします。白身づくし、わさび抜きで」

 香緒里ちゃんは白身魚のにぎり5種類のセットをわさび抜きと。

「私も同じにします。わさびありで」

 風遊美さんはわさびあり。

「なら俺は地物三種と光り物三種といこう。注文するぞ」

 ここの回転寿司は、注文票に商品名とわさび有り無しを記入して、店員さんに渡す方式だ。
 一気にこんな大量注文して大丈夫だろうか。
 そう思いつつ記載して、店員さんに渡す。

「すみません、注文お願いします」

「はい、承りました」

 一瞬ぎょっとしたような表情が見えたきがしたのが、気のせいならばいいのだけれど。
 面倒かつ大量注文で、店員さんに大変申し訳無い。

 念の為、他のテーブルをかくにんしてみる。
 北米組は、単品を20皿くらい並べている。
 そして攻撃魔法科組にも、これでもかと皿が並び始めた。

 店員さんというより、店に申し訳ない気がしてきた。
 この大量注文する異様な集団、店からはいったいどう見えているのだろう。

 そして待つこと4~5分少々。

「お待たせしました。まずこちらが松、こちらが竹……」

 俺達の方にも寿司の大群が並び始める。
 細長い皿に12貫乗ったセットが3皿、5貫の皿が2皿、3貫の皿が2皿。
 もうテーブルは目一杯という状態だ。

「修先輩少食ですね」

「せっかくの回転寿司だし、あとは色々皿で頼むの!」

「私もそのつもりなのですよ。まずは一通りセットで確認するのです」

 考え方は間違っていない。
 でも量が間違っている。

「他にも食べたい物があったら注文して下さいね。一皿を2人で分けて食べてもいいですし」

「社長、ならば私はあとトビウオとトロサバとかっぱ巻きも欲しいのです」

 何貫食べる気だこいつは。

「じゃあ俺も注文するから一緒に注文するか」

「あ、なら私もお願いします。えびマヨいいですか」

 以降、この繰り返しとなる。
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