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第26章 私が楽しい理由~夏の旅行・前編
130 壁に耳あり⑵
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「風遊美先輩と詩織先輩対策ってどういう事ですか。弱みを握られているとか」
「二股だったら面白いんですけれど、そういう話ではないですよね」
風遊美さんはともかく、詩織ちゃんと誰かを二股したら、きっと体力的にか気苦労かで俺は死ぬだろう。
「さっき旅行が日本国内になっている理由を話したろ、その関連さ。あの2人は魔法使いに対する迫害や悪い意味での利用の被害を受け続けてきたんだ。具体的には風遊美は迫害とテロで家族を失い、EUの特区に逃げてきた時には心身ともにボロボロの状態だったそうだ。本人に聞くとかなり酷いPTSDにもなっていたらしい。記憶も飛んでいる状態だったそうだ。それで向こうの特区ではこれ以上良くならないと環境の全く異なる日本に逃してもらい今に至るという訳だ」
愛希ちゃんと理奈ちゃんが頷いた気配がした。
「詩織の場合もかなり酷い。何せ特異な魔法能力に目を付けられて、物心ついた時からずっと工作員として育てられてきたみたいだからな。あいつがいつも楽しそうなのは、常に楽しくない状態にいたからこそ何でも楽しめるように心が防衛行動起こした結果じゃないか。そう修が前に疑っていたし」
前に風遊美さんと奈津希さんにぼそっと言っただけなのに、よく憶えているな。
「だからあの2人に、今は間違いなく楽しいし、これからはもっと楽しいと納得させるのがきっとこの旅行の目的なんだ。詩織はまあ今家族にも恵まれているみたいだから、メインは風遊美なんだろうけどさ。この旅館なんて、間違いなく修が風遊美好みの場所を必死に探してきた結果だぜ」
その通りだ。相変わらず奈津希さん、怖い位にわかっている。
「確かに風遊美先輩、さっきも機嫌よく岩風呂に浸かっていましたね」
理奈ちゃんのおかげで、風遊美さんの現在位置を把握出来た。
なら出くわさないように用心しよう。
風呂で出くわすと、一番心臓に悪い相手だから。
俺にとっては。
「でもそれだと香緒里先輩、自分の魔法で稼いだ費用を修先輩に勝手に使われている事になりますよね。それで香緒里先輩は大丈夫なんですか」
あ、そう言われてみればそれもそうだな、と俺は思う。
俺自身は全く気づいていなかった。
理奈ちゃんなかなか鋭い。
ただ理奈ちゃんが言った通りなのだけれど、それでも俺は危機感を覚えない。
それは何故だろうと思うけれど、何故かそれが当たり前という気もするのだ。
奈津希さんの解説は、更に続く。
「そこは面白い関係でさ。修と香緒里は性格も何もかも違うんだが、基本的に考えている事はまるで同じなんだ。片方が何かしている時には必ずもう片方がバックアップしているというか。最初は香緒里が修のフォローをしているのかと思ったけれど、どうも逆パターンもよくあるみたいでさ。相談しなくても常に基本的な意見は一致しているし、2人ともそれを当たり前と思っているらしいんだ。かなり小さい頃からの幼馴染とは聞いているけれど、多分それ以上なんだろうな」
奈津希さんの今の言葉も含めて、ちょっと考えてみる。
確かに旅行の件について、俺は細かい理由までは香緒里ちゃんに説明していない。
でもそれでも理由は通じているだろう。確かにそう思っている。
言われてみればそれって、当たり前の事ではないよな。
もし香緒里ちゃんの立場にいるのが別の人なら。
例えば由香里姉だったらと考えてみる。
うん、間違いなくその辺の意図も説明するな、きっと。
他にも、例えば奈津希さんなら。
説明する前にきっと逆に俺に意図を確認してくるだろう。
でも香緒里ちゃんだと確かに無意識に大丈夫だろうと思ってしまう。
これは俺の過信なんだろうか、甘えなんだろうか、それとも。
「そういう意味では焼けるよな。僕なんかこの年でも独り身だしさ」
「でも誰かいるって、ジェニー先輩が言っていましたよ」
何だと?
俺も香緒里ちゃんも風遊美さんも、多分ばらしていないぞ。
「何でそういう話になるんだい。理由が聞きたいな」
「前にソフィーさんが心理実験のデータを集めた時、色々解析したんですって。奈津希先輩は修先輩にかなり好意を抱いているように見えますが、どうもそれは修先輩に似た別の第3の人間ではないかって。いくつかのパラメーターが相手が自分より先に行っている人間、おそらく先輩とか先生とかそういう関係なのを示唆しているって」
前にルイスが酷い目にあったあの心理検査か。
しかしなかなか恐ろしいデータが出るものだ。
「お、奈津季先輩が黙ったぞ、図星か」
「参考までに、他の人のデータはどうだったか聞きたいな」
奈津季さんが珍しく動揺を隠せない感じになっている。
「風遊美先輩は修先輩に関心が向いているけれど恋心まで行くかは不明だそうです。ジェニー先輩は修先輩にふられて二次元に婿を探しに行くと自分で言っていました。ルイスさんは奈津希さんにふられて詩織さんの方を向いているそうです。修先輩、香緒里先輩、詩織さんの3人はデータが特異すぎて解析不能との事です」
成程、他人事ならなかなか面白いデータだ。
「補助魔法科もなかなかやるな。で、理奈ちゃんと愛希ちゃんはどうなんだい」
「攻撃魔法科の1年には面白そうなのいませんしね。ルイスさんは色々な意味で上物なんですが、詩織さんに勝てる気がしないですから」
「というか魔法無し10cmの掌底で演習場ダミー人形を100%即死させるんだぜ。プラスどこでも出現自由距離関係なしの空間魔法使いなんて、攻撃魔法科じゃなくとも勝ち目ないだろあんなの。あれが魔法工学科なんて絶対何かの間違いだ」
「呼びましたですか」
「ぎゃっ!」
悲鳴と派手な水音。
どうも詩織ちゃんが予告なく出現したらしい。
これは密かにやばいかな。
俺はこの騒ぎに乗じて、こっそりと風呂場を逃げ出すことにした。
「二股だったら面白いんですけれど、そういう話ではないですよね」
風遊美さんはともかく、詩織ちゃんと誰かを二股したら、きっと体力的にか気苦労かで俺は死ぬだろう。
「さっき旅行が日本国内になっている理由を話したろ、その関連さ。あの2人は魔法使いに対する迫害や悪い意味での利用の被害を受け続けてきたんだ。具体的には風遊美は迫害とテロで家族を失い、EUの特区に逃げてきた時には心身ともにボロボロの状態だったそうだ。本人に聞くとかなり酷いPTSDにもなっていたらしい。記憶も飛んでいる状態だったそうだ。それで向こうの特区ではこれ以上良くならないと環境の全く異なる日本に逃してもらい今に至るという訳だ」
愛希ちゃんと理奈ちゃんが頷いた気配がした。
「詩織の場合もかなり酷い。何せ特異な魔法能力に目を付けられて、物心ついた時からずっと工作員として育てられてきたみたいだからな。あいつがいつも楽しそうなのは、常に楽しくない状態にいたからこそ何でも楽しめるように心が防衛行動起こした結果じゃないか。そう修が前に疑っていたし」
前に風遊美さんと奈津希さんにぼそっと言っただけなのに、よく憶えているな。
「だからあの2人に、今は間違いなく楽しいし、これからはもっと楽しいと納得させるのがきっとこの旅行の目的なんだ。詩織はまあ今家族にも恵まれているみたいだから、メインは風遊美なんだろうけどさ。この旅館なんて、間違いなく修が風遊美好みの場所を必死に探してきた結果だぜ」
その通りだ。相変わらず奈津希さん、怖い位にわかっている。
「確かに風遊美先輩、さっきも機嫌よく岩風呂に浸かっていましたね」
理奈ちゃんのおかげで、風遊美さんの現在位置を把握出来た。
なら出くわさないように用心しよう。
風呂で出くわすと、一番心臓に悪い相手だから。
俺にとっては。
「でもそれだと香緒里先輩、自分の魔法で稼いだ費用を修先輩に勝手に使われている事になりますよね。それで香緒里先輩は大丈夫なんですか」
あ、そう言われてみればそれもそうだな、と俺は思う。
俺自身は全く気づいていなかった。
理奈ちゃんなかなか鋭い。
ただ理奈ちゃんが言った通りなのだけれど、それでも俺は危機感を覚えない。
それは何故だろうと思うけれど、何故かそれが当たり前という気もするのだ。
奈津希さんの解説は、更に続く。
「そこは面白い関係でさ。修と香緒里は性格も何もかも違うんだが、基本的に考えている事はまるで同じなんだ。片方が何かしている時には必ずもう片方がバックアップしているというか。最初は香緒里が修のフォローをしているのかと思ったけれど、どうも逆パターンもよくあるみたいでさ。相談しなくても常に基本的な意見は一致しているし、2人ともそれを当たり前と思っているらしいんだ。かなり小さい頃からの幼馴染とは聞いているけれど、多分それ以上なんだろうな」
奈津希さんの今の言葉も含めて、ちょっと考えてみる。
確かに旅行の件について、俺は細かい理由までは香緒里ちゃんに説明していない。
でもそれでも理由は通じているだろう。確かにそう思っている。
言われてみればそれって、当たり前の事ではないよな。
もし香緒里ちゃんの立場にいるのが別の人なら。
例えば由香里姉だったらと考えてみる。
うん、間違いなくその辺の意図も説明するな、きっと。
他にも、例えば奈津希さんなら。
説明する前にきっと逆に俺に意図を確認してくるだろう。
でも香緒里ちゃんだと確かに無意識に大丈夫だろうと思ってしまう。
これは俺の過信なんだろうか、甘えなんだろうか、それとも。
「そういう意味では焼けるよな。僕なんかこの年でも独り身だしさ」
「でも誰かいるって、ジェニー先輩が言っていましたよ」
何だと?
俺も香緒里ちゃんも風遊美さんも、多分ばらしていないぞ。
「何でそういう話になるんだい。理由が聞きたいな」
「前にソフィーさんが心理実験のデータを集めた時、色々解析したんですって。奈津希先輩は修先輩にかなり好意を抱いているように見えますが、どうもそれは修先輩に似た別の第3の人間ではないかって。いくつかのパラメーターが相手が自分より先に行っている人間、おそらく先輩とか先生とかそういう関係なのを示唆しているって」
前にルイスが酷い目にあったあの心理検査か。
しかしなかなか恐ろしいデータが出るものだ。
「お、奈津季先輩が黙ったぞ、図星か」
「参考までに、他の人のデータはどうだったか聞きたいな」
奈津季さんが珍しく動揺を隠せない感じになっている。
「風遊美先輩は修先輩に関心が向いているけれど恋心まで行くかは不明だそうです。ジェニー先輩は修先輩にふられて二次元に婿を探しに行くと自分で言っていました。ルイスさんは奈津希さんにふられて詩織さんの方を向いているそうです。修先輩、香緒里先輩、詩織さんの3人はデータが特異すぎて解析不能との事です」
成程、他人事ならなかなか面白いデータだ。
「補助魔法科もなかなかやるな。で、理奈ちゃんと愛希ちゃんはどうなんだい」
「攻撃魔法科の1年には面白そうなのいませんしね。ルイスさんは色々な意味で上物なんですが、詩織さんに勝てる気がしないですから」
「というか魔法無し10cmの掌底で演習場ダミー人形を100%即死させるんだぜ。プラスどこでも出現自由距離関係なしの空間魔法使いなんて、攻撃魔法科じゃなくとも勝ち目ないだろあんなの。あれが魔法工学科なんて絶対何かの間違いだ」
「呼びましたですか」
「ぎゃっ!」
悲鳴と派手な水音。
どうも詩織ちゃんが予告なく出現したらしい。
これは密かにやばいかな。
俺はこの騒ぎに乗じて、こっそりと風呂場を逃げ出すことにした。
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