機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第25章 バネ工場のお引っ越し

126 夢の取り分

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「それだけではないですよね。奈津季が特区ここを出る理由も話したらどうですか」

 奈津季さんが軽く頷いた。

「そうだな。洋菓子と和菓子両方やるにしても、どっちも毎日買ってくれるってものでは無いだろ。だから一緒に焼き立てパンでも売っていれば何とか生活できるかなって。で、どうせなら本場で修行しようかと」

 成程、そういう訳か。
 言われてみればそう、話は全部きれいに繋がる。
 江田先輩と幼馴染という事も、個人的に連絡を取っていたという事も。

 でも奈津季さん、何気に女の子しているんだな、やっぱり。
 そう思うと何か微笑ましい。

「じゃあ修君に最初から色々気を配っていたのは」

「奴に頼まれて、ってのも半分あってさ。人付き合い得意じゃないのに頑張っているから面倒見てやってくれって。色々と江田っちに似てて気になったのが残り半分かな。まあ修は優秀だったから、僕が面倒見るまでもなかったけれどさ」

「そんな事は無いです。実際随分助けられました」

 まさか江田先輩経由で繋がっているとは思わなかったけれど。

「じゃあこの場所は残念だけど、それまで取っておきますか」

「その必要はない。他の業者に先取りされる可能性もあるし。それに僕や江田っちがいきなり借りるには、ちょっと賃料が高すぎる。だからここを紹介するのを迷ったのは単なる僕の感傷。気にする必要は無い」

 何か香緒里ちゃんが言いたげだ。
 なので俺は目で合図する。
 大丈夫、任せたよと。

 そして香緒里ちゃんはは口を開く。

「正直ここは必要な広さより、少し広過ぎるかもしれません。それでも場所や他の条件がいいので、申込みが通れば借りるつもりです。ですからもし、奈津希さんや奈津希さんの先輩がこの島に帰ってきたら、その時はまたここについて相談しませんか。私にも修兄にもここまでの広さは必要ないし、こっちの商店街側の場所も必要では無いですから」

 なるほど、そういうことか。

「いいのか、それで」

 今度は俺の番だろう。
 俺は香緒里ちゃんと奈津季さんに頷いてみせる。

「費用上は問題ないですね。何せ商品の粗利益率が高すぎるんで、諸費用を使いまくらないと税金や内部留保が冗談みたいになりますから」

 会計担当として言うが、これは事実だ。

「悪いな、何かな……」

「何処がですか。僕らは奈津希さんにいい物件を紹介してもらった、それだけです」

 もちろん実際は、それだけではない。
 奈津季さんがここに色々な思い入れや感情を持っている事位は、俺にだってわかる。

 だから俺達は、奈津季さんがいつもの状態になるのを待ち続ける。

 ◇◇◇

 その日のうちに、ネットで物件の申込を提出。
 休み明けの7日には申込受領・賃貸契約許可の連絡が来た。
 なので8日午後、俺は学生会を休んで手続きしに行き、無事契約。

 なお契約は本日付だが、賃料は来月からとの事である。
 それで早速次の土曜日の11日、露天風呂明けの学生会全員で現場に乗り込んだ。

「広くて片付いてはいるけれど、やっぱり埃っぽいです」

 香緒里ちゃんの率直な感想。
 まあ5年間放置されていたのだ。
 埃っぽいのも無理はない。

「こういう時用のスペシャルな魔法があるんだ。必殺、ホコリ取りファイア」

 俺は慌てて、付近の火災報知器の電源を落とす。
 何という恐ろしい事をしているんだ、奈津希さんは。

 しかし見たところ床も壁も影響なく、ホコリだけが綺麗に燃えて無くなっている。
 若干の焦げ臭い匂いを除けば、確かに綺麗にはなっている。

「ならば私も、見よう見まねホコリ取りファイア」

 負けじと炎使いの愛希ちゃんが真似る。
 確かに綺麗になったけれど、よく見ると壁紙が若干熱で縮れていた。

「危ないな、焦がすなよ」

「でも修先輩なら直せますよね」

「確かに直せるけどさ」

 修復魔法で壁紙を元に戻す。

 危ない掃除が終わった後、俺はシャッターを全開にして空気を通した。
 奈津希さんの風魔法のアシストもあって、焦げ臭い匂いは無事消えていく。

「これで後はバネを持ってくればいいかな」

「そうですね、でもその前に」

 俺は白色の養生テープで、床に線を引く。
 商店街側の20坪と、搬入口側の30坪とが別れるように。

「これは何の線なのですか」
「整理用の線さ。工房としてはこっちを使って、こっちはフリースペースだ」

 奈津希さんの店の話は皆にはしていない。
 当分は3人だけの話ということにしている。

 その3人にはきっと通じているだろう。
 この20坪は将来の、夢のための取り分。

「ならばこっちに親父と私が買った、お母さんに見せられない機械でも置こうかと」

「駄目!どうしてもと言うならその30坪の端っこの方」

「いいのですか。実は学内あちこちに十数台の機械があるのですが……」

「却下、どうしてもというなら2坪まで」

「ここにバーベキューグリルとテーブル置けば、台風の日に安くなった食材を買って来てここでバーベキューできるよね」

「いいですね。でも鉄板だけ置けば熱源は愛希で十分ですよ」

「何だそこの冷蔵庫。お前も消し炭にしてやろうか」

 なんかもう、わやくちゃだ。
 でもそれが、何か楽しい。

 きっとバネ工場が稼働しても、20坪部分がお菓子屋兼パン屋になっても、何年かの時が過ぎ行きても。
 きっとこうして皆で同じように笑っていられる。
 そんな気がする。
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