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第25章 バネ工場のお引っ越し

124 引っ越しの必要性

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 5月3日。ゴールデンウィーク第2陣の初日。
 ジェニーと奈津季さん引率の2年生、1年生組は空飛ぶ漁船で海へと出ていった。

「晩御飯は刺盛りな」

 そう奈津季さんが言っていたので、多分その辺の大物を狙っているんだろう。

 俺と香緒里ちゃんは工房で例によって例の如くバネ作業。
 ただ、この工房も大分手狭になってきた。

 最初は俺1人のスペースだったのに、今では
  ○ バネ工場兼倉庫
  ○ 刀製造工房
  ○ 一般機械加工工房
  ○ ロビーのバイク工房
  ○ 空飛ぶ漁船格納庫
となっている。

 この前までは、更にロビーの飛行機械まで陣取っていた。
 なおこの飛行機械は、詩織ちゃんとまた別の意味でロマンな作品だった。
 何というか、荒廃した未来の地球に置いたらピッタリするような出来栄え。
 無骨、かつパワフルな雰囲気が異彩を放っている。

 1600ccエンジン駆動のダクテッドファンで浮き上がり、400ccのエンジンで発電機を駆動。
 浮上と基本的な姿勢制御、前進等は魔法無しで動かしつつ姿勢制御をMJ管等の魔法制御で行うスタイル。

 由香里姉のキャンピングカー並に場所を取るとんでもない代物だったが、内燃機関を使っていることもあって、飛行性能は今までの課題作品と比べても圧倒的に上だった。

 エンジンパワーに物を言わせ空気抵抗とかコンパクト化とかを無視。
 頑丈さが良くわかるフレーム構造。
 3人位は平気で乗れる積載力。
 ガソリン満タンにしておけば余裕で30分は飛行できる実用性。
 ちょっとでも魔力があれば操縦可能な汎用性。

 まだ評価点は公表されていないが、今までにない方向性の代物だけに高評価が期待される。
 まあそれはともかくとして。

「そろそろバネ工場の移転も考えたほうがいいでしょうか」

「そうだな」

 問題はこっちの方だ。
 香緒里ちゃんの言葉は俺も考えていた事。
 来年度を過ぎれば、俺も香緒里ちゃんも学生会を卒業する。
 その際は当然、この学生会の工房を使えなくなる。

 どっちみち、ここを出ていかなければならないのだ。
 ならば今のうちから、手頃な移転場所を探しておいた方がいい。

「でも魔技大のレンタルラボじゃ小さいし、使いにくいしな」

「出来れば車を横付け出来て、ここから近い場所がベストですけれど」

 本来そういった用途に相応しいのは、特区公社運営の研究団地にある貸し工場や貸倉庫だ。
 しかしこれらは空港側の台地にあるので、学校から遠い。
 高専や魔技大で学生をやりながら仕事するなら、もう少し近い方が嬉しいのだ。
 まあ本土の、特に東京のあたりの人が聞けば何と贅沢なとか、3kmなんで近いうちだと言われそうだけれども。

「とりあえず今日、帰りに役所でも見てくるか」

 役所そのものはGWでお休み。
 しかし貸しラボやレンタルスペース等の公告は、いつでも閲覧可能になっている。

「そうですね。今のうちから探しておけば、いい場所もあるかもしれないです」

「なら、とりあえず5月分は何とか片付けるか」

「そうですね」

 とりあえず今は、バネ作業に集中することにした。

 ◇◇◇

 香緒里ちゃんとそんな相談をした2時間後。
 いつか見た光景が時を超えて再現されている。
 マンション屋上の露天風呂で。

「弱いから負けた。それだけだ」

「これが限界という事なのね」

「Int trap halt!」

「もう一回幽門が開けば大丈夫……多分」

「More people are killed by overeating and drinking than by the sword.」

 色々言ってはいる。
 しかし要は、食べ過ぎただけだ。
 食材が今ひとつのこの島で、釣ってきた魚で作った料理というのは、確かに魅力的ではあるから。
 
 今回暴食の罠にかかったのはジェニー、ソフィー、ロビー、愛希ちゃん、理奈ちゃんの5人。
 他は以前の経験なり、自制なりで何とかトド化を回避した。

 なお詩織ちゃんは、トド連中と互角以上に食べていた筈だけれど元気だ。
 あれは俺にもよくわからない。

 あとジェニー、確か前もトド化した筈だがその経験が活きていない。
 誠に残念である。

 トド化連中はロビーを除き寝湯でおくたばりになっていて、ロビーはぬる湯に足だけつけて上半身をデッキに倒している。
 なお危険な部分には一応タオルがかかっているようだ。

「確かに今日も美味しかったですけどね」

 確かに今日の夕食は美味しかったのだ。
 鯛とアジとカンパチの3種盛り。
 ノーマルな刺身と漬けと炙りとカルパチョ。

「去年の春休みですよね。確か同じような事が起きたのは」

 風遊美さんがぬる湯にいるのも、いつも通り。
 横のメイン浴槽で奈津季さんが伸びているのもいつも通りだ。

「何なら毎年の恒例行事にするかい。ルイスにも魚の捌き方は伝授したし、あと3年は行事に出来るぞ」

「去年のGWは雨でしたけれど。こういうのも悪くないですね」

 確かに食べ過ぎるのも、後になればいい思い出になるかもしれない。

「ところで修、今日帰りが微妙に遅かったな。何かあったのかい」

 どうやら学校帰りに寄り道したのが、ばれているようだ。

「いやさ、ジェニーが例の魔法で修と香緒里の帰りを確認したんだが、着くまでに妙に時間がかかったからさ。何かあったのかと思って」

 成程、それでわかったのか。
 別に画す必要は無いので、言ってしまうことにする。

「実は今、工房の場所探しをしているんです」

 俺は風遊美さんと奈津希さんに工房探しの件を話した。

「成程、研究団地は学校から遠いですし、魔技大ラボは搬出搬入が大変ですね」

「そうなんですよ。だから出来れば運送会社のトラックが横付け出来て、学校とこのマンションに近い場所なんてあれば最高なんですけれど。そうは上手く行かないですよね」

「そうですよね……ん」

 風遊美さんが何かに気づいたようだ。

「奈津希、何か言いたい事があるんじゃないですか」

「いや、ちょっとね」

 奈津希さんの言葉が、微妙に歯切れ悪い。

「それにしても、相変わらず風遊美は鋭いな。隠し事出来たもんじゃない」

「誰かさん程では無いですわ。それで今聞いても大丈夫ですか」

「もう少し考えさせてくれ、明日の朝まで」

 俺には今ひとつ風遊美さんと奈津希さんの会話が理解できない。

「一応聞いておくけれど、修も香緒里も明日は何も用事無いよな」

「ええ。先月の決算表を確認するくらいですね」

 香緒里ちゃんも何も用事は無い筈だ。

「ありがとう、今はそこまで。悪いな何か」

「いえいえ、俺は何も聞いていないですから」

 何かはよくわからないが、とりあえずは聞かないでおこう。
 明日の朝にはわかるらしいし。
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