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第23章 記念旅行は彼方此方に

113 注意はしておいた

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 総勢8人様の団体は無事、羽田空港のロビーに到着した。

「それではここから自由行動です。次は午後6時にホテルのロビー集合。もし遅れそうだったりその他何かあった場合は俺の携帯に連絡下さい。電車内等は通話禁止なのでいつものSNSで連絡してくれた方が嬉しいです。という事で解散」

 何故俺が、ツアコン宜しくこんな事をやっているのか。
 それはこの集団が、日本語を話せるくせに本土経験が無い奴ばかりだからだ。

 俺と香緒里ちゃんはまあ別として。
 風遊美さんとジェニーとルイスとソフィーは、海外から特区へ来た。
 だから東京をはじめ特区以外の日本の経験はほとんど無い。

 奈津希さんは生粋の日本人の筈だが、特区から外へ出たのは数えられる程。
 詩織ちゃんも北海道のど田舎にずっといたので、東京は家族旅行以外では知らない。

 なので仕方なく、俺がツアコンをやっている訳だ。
 それにしても、まさか学生会終了記念旅行で東京に来るとは思わなかった。
 まあ東京以外にも、温泉旅館に泊まったりするのだけれども。

 何故東京へ来たか。
 学生会終了記念旅行で何処へ行きたいか聞いた処、『東京』と『温泉』という案が断トツでトップだったのだ。
 ぶっちゃけ俺と香緒里ちゃん以外の全員が『東京』押し。

 それに風遊美さんの、
「どうせなら日本らしい温泉にも行ってみたいですね」
と言う意見も多数の賛意を得てしまった。

 かくして東京と温泉がメインという、合計5日間の豪勢な旅行が計画されてしまったのである。
 ちなみに旅行の予算は、香緒里バネ製造所の提供だ。
 まあその分みっちりと2日間、皆さんに工房で働いてもらったけれど。

 真っ先に出ていったのはカナダ・アメリカ組。別名オタク組だ。
 秋葉原等へ同人誌をあさりに行くらしい。

 続いて風遊美、奈津希、香緒里組もスタートした。
 これは美味しいスイーツを食べまくろう組だ。

 そして残ったのは俺とルイスと詩織ちゃん。

「ルイスは何処か行きたい処があるか」

「詩織に任せる」

「私は例のホームセンターに行きたいですよ」

「電車だと2時間近くかかるけどいいか」

「いいですよ」

 ルイス君も頷く。
 なのではるばると千葉ニュータウンまで、私鉄を乗り継いで1時間半。

「電車の本数が多いのは凄いが、これだと腰が痛くなるな」

 英国の状況はわからないが、この程度は通勤している人がいる距離だろう。
 だから俺としては、東京圏の元住民としてこう言わせて貰う。

「今日は途中まで座れただけマシだな」

「確かに人も多いな。どの区間も座席は埋まっていた」

 いやルイス、それは人が多いうちには入らない。

「甘いな。通勤時間は動けなくなる位に人が乗るんだ」

 Oh! という感じの間の後、ルイス君は納得したようだ。

「日本人はタフな民族なんだな。詩織を見るとそう思う」

 いやルイス、それは違う。

詩織あれを基準にしないでくれ」

 という感じで列車に揺られ、ニュータウンの真ん中っぽい名前の駅に到着。
 駅前で確認したところ、ホームセンターまでの無料バスの時間まで1時間近くある。
 それにお腹も空いてきた。

「バスまで時間あるし、ちょっとご飯食べて行こう」

「仕方ないですね」

 実はこれ、俺による計画通りだったりする。
 詩織ちゃんのテンションに任せると、絶対昼食を食べ損なうだろう。
 詩織ちゃんはともかくルイス君がそれでは可哀想だ。
 そういう判断で、こうなったのだ。

「近くにちょうどバイキングの店があるから、そこでいいか」
 俺はそう言って2人を案内する……

 ◇◇◇

 そして5時間ちょっと経過した午後6時5分前。
 ぐったり疲れた俺とルイス君、何故か元気な詩織ちゃんは無事ホテルへ到着した。

「修兄、目が死んでいるけれど何処へ行ってきたんですか」

「バイキング食べて、ホームセンターに行って、帰ってきた」

 本当にそれしかしていない。
 でも時間的に危険だったし、体力的にもぎりぎりだった。
 だだをこねる詩織ちゃんを何とかごまかしてやっと帰ってきたのだ。
 あの地平線が見えそうなホームセンターに実質4時間は少なすぎた。

「ルイスも何か死んでいるな、大丈夫か」

「大丈夫だ。久しぶりに我を忘れてしまった」

 実際、ホームセンター内は楽しかったのだ。
 あまりに大きくあまりに何でも売っているので、俺を含めて3人共テンションが上りまくってしまった。
 その結果がこれである。

 チェックイン手続きは先に着いた香緒里ちゃんがやってくれていた。
 なのでそのまま荷物を置きに行き、その脚で再びロビーへ戻る。
 夕食は外で食べる予定だからだ。

「今日は焼肉ですよね」
 と風遊美さん。

「ええ、日本食は明日の旅館で食べられますから」

 島だと普通の肉が少ない。
 離島なので大体冷凍肉か加工済みの肉ばかりだ。

 なので今日は焼肉バイキングの店を予約していた。
 三千円弱でノンアルコール飲み放題、一部高いお肉以外は寿司も惣菜も食べ放題という庶民的な店である。

「制限時間は2時間です。お残し厳禁。取ってくるのは自分で食べる分だけです。絶対元をとろうなんて欲張らないで下さい。いいですね」

 特に詩織ちゃんに向けて言っているのだが、聞いているだろうか。

「それでは各自、取りに行きましょう」

 全員で立ち上がって取りに行く。
 俺は握り寿司5かんとサラダ類少々、それにオレンジジュースを取って真っ先に席に戻った。
 待っていると上品に色々少しずつ取った香緒里ちゃんが戻ってくる。

「あれ修兄、それだけで大丈夫ですか」

「絶対食べきれない程取ってくる奴がいるから、それに備えて」

 香緒里ちゃんは笑う。

「食べ放題あるあるですよね。家族で行くとたいてい子供が取りすぎて、最後にお父さんがひとりでもくもく食べている光景」

「そうならなければいいんだけどな」

 次いで戻ってきたのは風遊美さん。
 持ってきた量は良識的だ。

 ルイス君が戻ってくる。彼も良識的な量だ。
 彼の場合は昼飯のバイキングで飽和攻撃をやって自爆したので、その反省が生きているのだろう。

 そしてそろそろ問題児の時間。
 詩織ちゃんが戻ってきた。
 テーブルの上にてんこ盛り肉、ポテトサラダ山盛り、ジュース3種類を置いてまた行こうとする。

「ちょっと待て、これ食べ切れるのか」

「まだまだ種類があるのですよ。寿司とうどんとカレーが呼んでいるのです」

 消えていった。

 そして奈津季さんも戻ってくる。
 取ってきたのは大量の肉と大量のデザートのみ。
 野菜も主食類も一切ないという割り切りが、甘党の猛獣に相応しい。

 そしてジェニーとソフィー、詩織ちゃんが一緒に帰ってきた。
 お盆にこれでもかと並べた大量の皿が見える。
 唐揚げカレーうどんとか訳わからないものまで作ってきている。
 ああ、俺は取りに行かなくて正解だったな、と心から思った。

「さて、それではみんなで頂きましょう」

 そして地獄の蓋が開く……
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