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第22章 臭い缶詰とチョコレートケーキ~冬の章・後編~

110 今年は共同製作です

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 玄関扉を開けた瞬間、甘い匂いが漂ってきた。

「さあどうぞ、ここに座って」

 俺とルイス君は長いテーブルの短辺、つまりお誕生席に2人横並びで座らされる。

「今年は全員で共作したんだ。どうせ最後皆で食べるなら美味しくて満足感が高いのを作ろうってね」

 そう言って奈津季さんが持ってきたのは、巨大な茶色いケーキ。
 色々と装飾が乗っかっている。

「ケーキ部分は伝統的なホテルザッハーバージョンのザッハトルテ。甘くない生クリームまでがオリジナルで、あとの飾りは色々作った人の主張があるから聞いてみな」

「今年は水着バージョンは無いですよね」

「一応去年のを持ってきたけどね、風遊美に止められた」

 ルイス君は何の話だろうという感じ。
 だが1年の他2人は知っているようだ。

 改めてケーキを観察する。
 綺麗にチョコが塗られたケーキのあちこちに色々な装飾物がある。
 小さいピンクのハート型多数はまあわかる。
 クリーム製らしいピンクの薔薇の花もまあ良いとしよう。

 でも他にベニテングタケみたいな赤いキノコとか、タケノコ形のチョコとか、妙に真ん丸な球形のチョコとかは微妙だ。
 更にケーキの中心には見事としか言いようのないチョコレート製ダビデ像がそびえている。
 何だかニコニコ動画とか前衛芸術的な仕上がりだ。

「今のうちに、飾りの意味を聞いておいた方がいいかな」

「そうね。私と奈津季は基本的にケーキ部分メインで作ったから、あとはそれぞれ解説お願いね」

 由香里姉がケーキ部分を作ったと聞くと、ちょっと味が不安になる。
 まあ奈津希さんが監督しているんだろうし、大丈夫だろうけれど。

「じゃあまず無難なところで、このハート型は」

「私です。まずは愛をこめてという意味で」

 この一番無難でまともなのは風遊美さんか。

「ではこの薔薇は」

「私です。意味も風遊美さんと同じです」

 香緒里ちゃんか。
 まあここまでがまともな部類。

「この赤いキノコは」

「私。日本には有名なキノコのチョコがあると聞いて作りました。キノコは日本らしくスーパーマ●オのキノコです」

 ソフィーちゃんか。という事は、

「タケノコはジェニーだな」

「正解れす。キノコのチョコがあるならタケノコも当然必要れす」

 聞くと長そうなので深くは聞かない。
 ちなみに俺はタケノコ派だ。

「じゃあこの球体は」

「私ですよ。それは上のダビデ像と対なのです」

 やはり問題児しおりちゃんの仕業のようだ。

「まず像の方は、ダビデ像の格好をしたルイスなのれす。縮尺10分の1でかなりの自信作なのです。おちんちんの形と長さも実物準拠なのです」

 おいおいと突っ込みを入れたくなるが、確かによく見ると顔と髪型がルイス君だ。
 相当な技術力だけは認めざるを得ない。

「じゃあこの球体は」

「当然、修先輩なのです。うちの親父が『修は凝った面白い物を作るが最適化が甘い』と常日頃言っているので最適化テーマでつくったのです。なお人数分あるので必ず1人1個取るのです。実は中に当たりが1個あるのです」

 何だそりゃ。

「要は俺はただの名目で、当たり付きチョコを作りたかっただけじゃないのか」

「そうとも言うのです。当たったら使用したデスソースをプレゼントなのです」

 随分とタチの悪い物を入れているようだ。

「技術力は認めるけれどさ」

 横でルイス君が赤くなっているぞ。

「確かに詩織の技術力は凄いよな。僕もチョコでそこまでの細工は自信がない」

「実は細かい部分はアメで作って薄くチョコをかけているです。指はともかくおちんちんの皮がそのせいでちょっと厚く表現されてしまったです。そこが唯一の反省点なのです」

 反省すべき点はそこじゃない。

「女の子は食卓でそういう単語を言わないの。そっちを反省して欲しい」

「では次から男性器と言うです」

 反省していないし懲りてもいない。

 ケーキ披露の後は、とりあえず甘い物は夕食後という事で夕食会になる。
 まあ実情は毎日が夕食会なのだけれど。

 今日のメニューはつけ麺だ。
 野菜やチャーシューは自分で大皿から好きなだけ取って添える方式。

「今日はデザートが豪華だから、夕食は簡単にしたよ」

 そう奈津希さんは言うけれど、充分に美味しい。
 つけタレもさっぱり醤油と胡麻ダレと2種類用意しているし。
 ジェニーや詩織ちゃんがわんこそばの如くおかわりしているが大丈夫だろうか。

 そしていよいよケーキ登場。

「例によって9等分だから修、頼むな」

 毎度お馴染み工作魔法で正確に40度ずつ9個に切り分ける。

「ボールも必ず1個ずつ取るですよ。敵前逃亡はデスソースの刑ですよ」

 骸骨ラベルの見るからに不吉な小瓶が、威圧するようにテーブル上に置かれた。
 仕方ないので、俺も目の前のを1個取る。

「製作者は当たりがどれかわからないのか」

「完璧に仕上げたので私でも当たりはわからないですよ」

 確かに仕上げは見事だ。
 綺麗な球になっている。

「デスソース入り部分と外側をコーティングしたチョコは別なので、臭いでも色でも判別出来ないですよ」

「修、審査魔法で分別出来ないか」

「出来ますけれど無粋でしょう」

 実は奈津希さんは辛いのが苦手。中華料理やカレー等も辛さ控えめに作る。
 だからか、本気でおびえているようだ。
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