機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第22章 臭い缶詰とチョコレートケーキ~冬の章・後編~

106 ホーム・スイート・ホーム

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 本土のホームセンターは便利だ。

 島だと、
  ① カタログを調べて
  ② 寸法を調べて
  ③ 送料を調べる必要のある
材料を、
  ④ 実物を手にとって確認した上で、
  ⑤ その場で買う
事が出来る。

 千葉県北部にある、日本最大との名も高い某ホームセンター。
 そこで大量に買い物をして満足の俺は、正月明けの聟島空港に降り立った。

 手荷物のスーツケースには留守番のジェニーと風遊美さんと猛獣様なつきさん鎮圧用のケーキや焼き菓子が満載されている。
 俺が買った材料類は船で後送だ。

 例によって由香里姉運転のキャンピングカーで帰り、マンションの部屋でジェニーとやっぱり中に居た猛獣様のお迎えを受ける。
 猛獣様をお土産のスイーツで懐柔し、ついでに猛獣様が入れてくれた紅茶で一服。

「この部屋で奈津季が入れてくれた紅茶をいただくと、帰ってきたなという感じがするわよね」

「すみません奈津季さん」

「いいのいいの。キッチンは僕の領地。ついでに修のベッドも僕の領地に組み入れてくれれば毎日でもサービスしちゃうよ。もちろん修も付属で」

「うーん、最近はそれもいいかと思い始めているかも」

「やめて下さい」

 といつもの会話。
 確かに俺も今ではここが俺の家って感じだな。
 実家よりもずっと。

 由香里姉がいて、香緒里ちゃんがいて、ジェニーもいて奈津希さんもほぼ常駐している。
 風遊美さんを始め学生会の面子がちょくちょく遊びに来て、時々ルイス君が酷い目にあう。

 これが俺の日常だ。
 確かに本土より不便な事は山程あるけれども。

 実は奈津希さんに聞きたい事があるのだが、ずっと聞けないでいる。
 卒業とともに島を出る、という話だ。
 聞けば答えてくれるとは思うのだが、何となく聞きにくい。
 聞いたら何かが壊れてしまうような気がして。

「あと、これは年末に消費した補填分です」

 ケーキをぱくついている奈津季さんの前に、ボトルを3本置く。
 例の『奈津季さん曰く清涼飲料水』だ

 実はこれ、探すのに苦労した。
 普通の酒屋や酒を置いているスーパーには無く、かなり大きい酒専門店でやっと見つけた代物だ。
 なおかつ未成年が購入すると煩いので、うちの父に買ってもらった。
 値段は結構安いのだけれど。

「あ、気にしなくても良かったのに。でもサンキューな。いつもと違う銘柄だから楽しみだ」

 猛獣様は喜んでくれたようだ。

「そう言えば風遊美さんは。確か島居残りでしたよね」

「風遊美は暗くなる頃やってきて、飯を食べて風呂へ入って帰っていくという感じだな。年末は3人で年越し蕎麦も食べたんだぞ。納豆そばを前に固まっていたけどな」

「年始に強烈な缶詰で仕返しされたれすね」

「あれは酷かったな。北欧伝統料理の缶詰と聞いて喜んで開けたら、いきなり強烈に臭い汁が飛んできてな。本人はジェニー連れて空間移動で逃げるし僕は髪に汁がかかって臭い取れないし。悔しいから-180℃に冷凍してビニール3重にして冷凍庫に封印してある。あとで解凍して皆に食べさせてやる」


「頼むから凍らせたまま破棄して下さい」

 風遊美さんはどこで、そんな缶詰を仕入れたんだろう。

 ◇◇◇

「30日に北欧出身の会があって、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンやアイスランド等出身の学生が集まってパーティをしました。あの缶詰はパーティの余興に用意したものです。3個用意したのですが1個開けた時点で皆が『もういいよ』という感じなったので、1個を頂いて帰ったんです。奈津季の本気であせった表情を久しぶりに見ました」

「あの時の奈津季さんは面白かったれす。魔法で大量の水を出して被って、それでも臭いが取れなくて学校の水道で水かぶってたれす」

「言っておくけれど、本気で臭かったんだぞ。人生で最悪で最低な臭いだ」

「通称世界一臭い食べ物ですもの。でも奈津季が何も用心せず開けるとは思いませんでした」

「まさかシュール・ストレミング渡されるとは予想すらしてなかったからな。外で渡された事とその場で開缶してと言われた事にもう少し疑問を持てばよかった」

 状況は大体わかった。

「悔しいから今度学校で皆で食べようぜ。ついでにくさやとかホンオフェとかも用意して」

「俺の工房を汚染しないで下さい」

 俺の制作にかなりの影響が出てしまう。

 今いるのは例によって露天風呂。
 ぬる湯とメイン浴槽と寝湯は場所が近いので、顔を寄せて話している。

 ちなみに由香里姉と香緒里ちゃんは正月に食べすぎて体重が増えたいう理由で、歩ける風呂とサウナとミストサウナを行ったり来たりの状態だ。
 別に太ったようには見えないし、今のままで十分魅力的だと思うのだけれど。

「もう僕の臭いは取れたよな」

「もう大丈夫ですよって、何度も言ったのです。一昨日は一日中ここで浸かっていたようですけれど」

「どうしても気になるんだよな。自分ではわからないものだし」

「俺の分析魔法で見てももうそんな成分は見えないです。だから安心して下さい」

「ならいいけどな」

 そんなに酷い臭いだったのだろうか。

「ところで他の皆さんはいつ戻ってくるんでしたっけ」

「6日だな。ルイスは乗り継ぎ次第で7日になるかもしれない」

 明後日にはまた賑やかになるようだ。

「そう言えば詩織、あいつ無茶苦茶強いんだぜ。年末に何回かソフトチャンバラやったけど、間合いのとり方とか完全に武術経験者だぞ。空間魔法が強力すぎて何処にいるか何処へ出てくるか全く掴めないし。風遊美より戦いにくい相手は久しぶりだ」

「私も空間魔法は使えるので、何処に出る可能性が高いかはわかるのですけれど。それでも間合いのとり方や攻撃タイミングなんかの面で勝てないです」

「本人は『北斗神拳の伝承者なのですよ』とか言っていたけどな。確かにあれは本来拳や掌で戦う感じだな。間合いがごく近い上に身体が小さい事すら利点にしているから、正直すごく戦いにくい」

「それでも奈津季は強引に勝っていましたけどね。かなり反則な技で」

「あれは本来風遊美相手に開発した技だぜ。通称風雲無心剣」

「要は周りに風を起こして、風の乱れを感じた瞬間反対側に避けながらそっちに剣を振り下ろす、ってだけですよね」

「他に方法がなんだからしょうがないだろ。攻撃魔法科4年筆頭の名にかけてそうそう負ける訳にもいかないし。でもあれ、無刀の方が間違い無く強いぞ。同じ条件にしたらうちのクラスでも9割喰われるな、あれ」

「ルイス君もやっぱり強いですしね」

「あいつの空中浮遊こそ反則技だろ。剣が届かないし投げても風で落とされるし。1対1なら風の応用技で何とか勝てるけど、あんなの何人も相手にできやしない」

「ルイスくんと詩織ちゃんの両方相手では、筆頭さんも勝てませんでしたしね」

「あれは絶対無理ゲー。どっちかを意識した瞬間、もう1人に隙を突かれるんだぜ。あれで勝てる人間が居たらお目にかかりたいよ、まったく」

 年末4人でよく出ていくと思ったら、そんな事をしていたらしい。

「まあ詩織ちゃんの戦闘能力、もう実際に使わないで済めばいいんですけどね」

 詩織ちゃんが自分の胸を突いて自殺しかけた事、そのおかげで俺達が助かった事はここの面子は皆知っている。

「ああ、全くだな」

 奈津季さんがそう応え、頷いてくれた。
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