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第21章 優雅で感傷的な日本行事~冬の章・前編~
100 日本の常識、君の非常識
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中間試験が終わると12月になる。
次期学生会の幹部を決めなければならない月だ。
取り敢えず『学生会会長・副会長・役員募集』のポスターは学内掲示板7箇所に貼り出した。
しかし貼り出して1週間、反応は例年通り全く無い。
本音を言うと会長と副会長の2名は応募していただけると有り難いのだが。
俺は表に出る事は苦手なので。
午後3時の学生会室。
俺と香緒里ちゃんは来年度の予算案を作成中。
ジェニーとソフィーちゃんは学生会のWebページを更新中。
他は授業の予習復習をしている者もいれば、ネットサーフィンで時間を潰している者もいて、つまりは。
「暇だなあ」
と奈津季さん。
「何か面白い事あるですか?」
詩織ちゃんが真っ先に食いついた。
「今暇な4人ですと、グラウンド全体を使った鬼ごっことかソフトチャンバラでしょうか」
「やめてくれ、それは僕が絶対不利だ」
風遊美さんと詩織ちゃんは空間操作魔法を使えるし、ルイス君は空を飛べる。
「なら奈津季は何か、案があるのですか」
「その前に質問。冬休みまであと実質3週間だろ。今年は皆はどんな予定なんだ」
奈津希さんはそう言って立ち上がり、ロッカーの側面にかけてあったカレンダーを外して持ってくる。
「私は冬は特に予定は無いですね」
「俺は31日昼の便で帰省して4日に戻ってくる予定」
「私も修兄と同じです」
「冬休みの予定は無いれすよ」
「私は30日に東京に出かけて6日に帰る予定なのです」
「僕は29日から6日まで国に帰る」
「私は30日から6日までです」
奈津希さんはだだっとカレンダーに○×印と矢印を入れる。
「つまり移動前日は準備に使うとしても、21日の夜から27日までは皆空いている訳だ。なら取り敢えず、どこかで日本風クリスマスパーティやろうぜ」
「日本風のクリスマス、パーティですか」
「私はわかるれすよ」
ジェニーが食いついた。
「ケーキを食べてチキンを食べて、プレゼントを交換するお祭りなのれす」
「正解」
にーっと奈津希さんは笑う。
「日本のクリスマスはキリスト教と関係ない。単にうまい物を食べてプレゼント交換をするお祭りだ。本当はその後恋人とホテルでしっぽりウッシッシという恒例行事というか様式美もあるんだが、それは省略」
「それの何処がクリスマスなのですか?」
風遊美さんとルイス君が納得いかない感じの表情をしている。
まあ当然だろう。
「日本人の宗教観は世界でも類を見ない程いい加減でな。何でも取り入れて勝手に改造してお祭りにしてしまうんだ。バレンタインはチョコレートの日、ハロウィンは仮装して馬鹿騒ぎをする日という感じにさ。クリスマスもそれと同様。一応キリストの生誕日だという知識はあるけれど実質ただのお祭りの日だ。そうだよなジェニー」
「はいれす。日本を知っている人の間では常識なのれす」
「そこで何故ジェニーに聞くんだ」
ルイス君のもっともな質問。
「修や香緒里に聞いても当たり前過ぎてその異常さに気づかないからな。ジェニーは日本に来る前から日本文化について詳しいし」
「他にもクリスマス撲滅デモとかサンタ狩りとか楽しい行事が色々あるのれす。この機会に日本の文化について色々知ってほしいれす」
それは日本の文化なのだろうか。
だとしても大分偏った文化だと、俺は思うのだけれど。
「そういう訳で、プレゼント交換用のプレゼントが必要な訳だ。自作してもいいし注文してもいい。ただし予算は5,000円以内に限定しよう。自作の場合でも材料費は5,000円まで。特に魔法工学科3人は自重しろよ」
香緒里ちゃんも詩織ちゃんもかなり稼いでいるので、金銭感覚がとってもアバウトになっている。
材料費なんて全く考慮しないで、平気で高い素材を発注したりしているし。
まあ俺も人の事を言えた義理はない気がするけれど。
「という訳で24日火曜日18時にパーティ開始。プレゼント選定までにそんなに猶予は無い。船便を使うなら締切はかなり早くなるしな。なお当日の料理は僕に任せてくれ。正しい日本風パーティ料理を見せてやる。さあ、これで色々暇を潰せないかい」
確かに。
注文するにしても自作するにしても、3週間というのはなかなか微妙な期間だ。
何せここは南端の孤島、本土なら翌日配達の荷物でも1週間以上かかる世界だ。
早々に色々決めなければ間に合わなくなる。
「香緒里ちゃん、作業中止。会計は来年に回そう」
暇だから作業していたのであって、予算案自体は来年作っても十分間に合う。
「そうですね。私も工房に行きたくなりました」
「私も行くですよ」
「あ、詩織は少し待ってくれ。これから日本式クリスマスを知らない人対象に、ジェニー先生と僕で講習会をするから」
あ、何か下らなくて面白そうな気がする。
「俺達も聞かせてもらっていいですか」
「勿論。なあジェニー」
「はいれす」
どんな内容でやる気だろう。
それにしても急な話なのに、ジェニーはやる気満々だ。
ルイス君が手回し良くホワイトボードをセットする。
ソフィーちゃんはカメラをセットした。
そして、誤解と偏見に満ち溢れた、日本式クリスマスの解説が始まる……
次期学生会の幹部を決めなければならない月だ。
取り敢えず『学生会会長・副会長・役員募集』のポスターは学内掲示板7箇所に貼り出した。
しかし貼り出して1週間、反応は例年通り全く無い。
本音を言うと会長と副会長の2名は応募していただけると有り難いのだが。
俺は表に出る事は苦手なので。
午後3時の学生会室。
俺と香緒里ちゃんは来年度の予算案を作成中。
ジェニーとソフィーちゃんは学生会のWebページを更新中。
他は授業の予習復習をしている者もいれば、ネットサーフィンで時間を潰している者もいて、つまりは。
「暇だなあ」
と奈津季さん。
「何か面白い事あるですか?」
詩織ちゃんが真っ先に食いついた。
「今暇な4人ですと、グラウンド全体を使った鬼ごっことかソフトチャンバラでしょうか」
「やめてくれ、それは僕が絶対不利だ」
風遊美さんと詩織ちゃんは空間操作魔法を使えるし、ルイス君は空を飛べる。
「なら奈津季は何か、案があるのですか」
「その前に質問。冬休みまであと実質3週間だろ。今年は皆はどんな予定なんだ」
奈津希さんはそう言って立ち上がり、ロッカーの側面にかけてあったカレンダーを外して持ってくる。
「私は冬は特に予定は無いですね」
「俺は31日昼の便で帰省して4日に戻ってくる予定」
「私も修兄と同じです」
「冬休みの予定は無いれすよ」
「私は30日に東京に出かけて6日に帰る予定なのです」
「僕は29日から6日まで国に帰る」
「私は30日から6日までです」
奈津希さんはだだっとカレンダーに○×印と矢印を入れる。
「つまり移動前日は準備に使うとしても、21日の夜から27日までは皆空いている訳だ。なら取り敢えず、どこかで日本風クリスマスパーティやろうぜ」
「日本風のクリスマス、パーティですか」
「私はわかるれすよ」
ジェニーが食いついた。
「ケーキを食べてチキンを食べて、プレゼントを交換するお祭りなのれす」
「正解」
にーっと奈津希さんは笑う。
「日本のクリスマスはキリスト教と関係ない。単にうまい物を食べてプレゼント交換をするお祭りだ。本当はその後恋人とホテルでしっぽりウッシッシという恒例行事というか様式美もあるんだが、それは省略」
「それの何処がクリスマスなのですか?」
風遊美さんとルイス君が納得いかない感じの表情をしている。
まあ当然だろう。
「日本人の宗教観は世界でも類を見ない程いい加減でな。何でも取り入れて勝手に改造してお祭りにしてしまうんだ。バレンタインはチョコレートの日、ハロウィンは仮装して馬鹿騒ぎをする日という感じにさ。クリスマスもそれと同様。一応キリストの生誕日だという知識はあるけれど実質ただのお祭りの日だ。そうだよなジェニー」
「はいれす。日本を知っている人の間では常識なのれす」
「そこで何故ジェニーに聞くんだ」
ルイス君のもっともな質問。
「修や香緒里に聞いても当たり前過ぎてその異常さに気づかないからな。ジェニーは日本に来る前から日本文化について詳しいし」
「他にもクリスマス撲滅デモとかサンタ狩りとか楽しい行事が色々あるのれす。この機会に日本の文化について色々知ってほしいれす」
それは日本の文化なのだろうか。
だとしても大分偏った文化だと、俺は思うのだけれど。
「そういう訳で、プレゼント交換用のプレゼントが必要な訳だ。自作してもいいし注文してもいい。ただし予算は5,000円以内に限定しよう。自作の場合でも材料費は5,000円まで。特に魔法工学科3人は自重しろよ」
香緒里ちゃんも詩織ちゃんもかなり稼いでいるので、金銭感覚がとってもアバウトになっている。
材料費なんて全く考慮しないで、平気で高い素材を発注したりしているし。
まあ俺も人の事を言えた義理はない気がするけれど。
「という訳で24日火曜日18時にパーティ開始。プレゼント選定までにそんなに猶予は無い。船便を使うなら締切はかなり早くなるしな。なお当日の料理は僕に任せてくれ。正しい日本風パーティ料理を見せてやる。さあ、これで色々暇を潰せないかい」
確かに。
注文するにしても自作するにしても、3週間というのはなかなか微妙な期間だ。
何せここは南端の孤島、本土なら翌日配達の荷物でも1週間以上かかる世界だ。
早々に色々決めなければ間に合わなくなる。
「香緒里ちゃん、作業中止。会計は来年に回そう」
暇だから作業していたのであって、予算案自体は来年作っても十分間に合う。
「そうですね。私も工房に行きたくなりました」
「私も行くですよ」
「あ、詩織は少し待ってくれ。これから日本式クリスマスを知らない人対象に、ジェニー先生と僕で講習会をするから」
あ、何か下らなくて面白そうな気がする。
「俺達も聞かせてもらっていいですか」
「勿論。なあジェニー」
「はいれす」
どんな内容でやる気だろう。
それにしても急な話なのに、ジェニーはやる気満々だ。
ルイス君が手回し良くホワイトボードをセットする。
ソフィーちゃんはカメラをセットした。
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