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第20章 世を思ふゆえに物思ふ身は

99 雨上がりの空とパンパーティ

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 木曜日から土曜日は残念ながら雨。
 しかし今日、日曜日は何とか晴れた。
 そして今は、午後5時過ぎ。

 江田先輩は今日の午後3時の飛行機で、本土へと戻ったらしい。
 残念ながらあの後、豆大福のお礼を言うことは出来なかった。
 また会えるとは思うけれど。

 今年の学園祭も例年通り、特に大きな事故もなく無事に終わりそうだ。
 強いて言えば教授陣対抗パワードスーツ格闘大会で、どこかの先生の肋骨にひびが入ったらしい。
 でもまあ、それもいつもの範疇だ。

 例の刀工からの罵詈雑言メールは、あの後も何件か来た。
 しかしもう面倒なので、処理どころか読みすらしない。
 迷惑メールと同様、送信元を判断して自動でフォルダに投げるようにしておいた。
 念のためそのフォルダは消さずにとってはあるけれど。

 何にせよ、もう終わった事だ。
 ついでに言うと彼の刀工としての地位も、あの一件で終わった。
 元々かなり評判が悪い輩だったらしいし、自業自得と言ってもいいらしい。
 だから放っておいて問題は無い、多分きっと。

「これが終われば、学生会の仕事も終わりが近いな、って思います」

「まだ3月終わりまで、5ヶ月近くあるれすよ」

 香緒里ちゃんの言葉に、ジェニーがそう返答する。

「でも次の役員が来るのは来月だしな」

 そう、役員選挙は冬休み前だ。
 そしてもう、学生会に大きな行事はない。
 本年度の会計報告と来年度の予算案を作るくらいだ。

 つまりこのメンバーでの学生会の作業は、実質ほぼ終わり。
 そうかと思うと、物悲しい気分にもなる。
 4月になって完全に新体制になっても、卒業まではあと1年あるし、同じ学校だからいつでも会えるのだけれども。

「今年は来島者も過去最高を記録したらしいぞ。去年の5割増だと。あと例の日本刀勝負、テレビでも放送されていたぞ。修もいつになく格好良く映っていたな。何なら録画してあるけれど見るかい」

 そんな事を言う奈津季さんに、僕はわざとらしく肩をすくめてみせる。

「嫌ですよ、面倒くさい。テレビって向こうのテンポにあわせた上で、受け手に徹して見なければならないじゃないですか。面倒だし嫌いなんです。ネットの方が自分のテンポで見られて、よっぽどいい」

 そう言っておくが、今はそれほど嫌な気分にはならない。
 あの時の事を思い出してもだ。
 これは由香里姉を始め、皆のおかげだろう。

 あの後色々考えて、あの『馬鹿は嫌いだ病』の原因も思い出した。
 由香里姉が言っていた、あの香緒里ちゃんの件がきっかけだ。

 近所の馬鹿餓鬼が、由香里姉には手を出せないから、代わりに香緒里ちゃんをいじめようとしたんだった。
 私立の小学校に通ってお高くとまっているように見えた香緒里ちゃんが、憂さ晴らし用の格好の獲物に見えたらしい。
 それでたまたま現場に間に合った俺が、切れて色々やらかしたのだ。

 しかもその顛末を学校と向こうの親が全て俺が悪いという形で誤魔化そうとした。
 だから俺は怒って自分から警察に逃げ込み、警察で一部始終話して捜査を要求した。

 幸い警察がきちんと調べ、香緒里ちゃんにも話を聞いて。
 結果相手側に非がある事、向こうが俺より学年が上で身長体力ともに上である事、相手2人に俺1人だった事を併せ判断してくれた結果、無事俺はお咎めなしで済んだのだが。

 その時の無能で事なかれ主義で何もわかろうとしない大人への怒りが、多分俺の『馬鹿は嫌いだ病』の原因だ。
 結果、俺が小学校内で、教師からも他の児童からも浮いた存在になったのは、今では単なる思い出だけれども。

 今思うと、当時の俺が随分えげつない攻撃をしたのは確かだ。
 わざと追いかけさせて石段を登って7段上から飛び蹴りして、運良く2人まとめて倒れたところを肋骨狙って体重かけて飛び乗って、動けなくなった時点で用水路に転がして落としたんだっけ。
 俺もボロボロになったけれど。

 考えてみると、なかなかに酷いしエグい。
 でもまあ、今となっては済んだ事だ。
 例の刀工と同様に。

 なんて追憶にひたっていたら、何の前触れもなく、詩織ちゃんが出現した。

「今ですね、大学の魔女のサンドイッチ屋で最終日最後の売り切りセールをやっていまして。大量購入してきたのですが、皆さんいかがなのですが」

 そう言って中央のテーブル上に、でっかい紙袋から戦利品を並べ始める。

「いいですね。でもあの魔女サンド、いつもは売り切れで買えませんよね」

「雨が多い上に来島者数が増えたから、大目に色々発注し過ぎて大変らしいのです。でももう売り切れているですけれどね。残り全部を買い占めたのですから」

 いつの間にか学生会室から消えたと思ったら、そんな所まで行っていたのか。

「ちょこっと噂を廊下で聞きましてね。ダッシュで空間飛び越えて往復してきたですよ。何とか間に合ってあるもの残さずかっさらって来たですよ。褒めて下さいです」

「よしよし、愛いやつじゃ」

 奈津季さんが詩織ちゃんの頭をなでなでする。
 何だかなと思うけれど、この日常は結構好きだ。
 もちろん正面切って他人にそうとは言えないけれど。

 今年の学園祭を、俺達はパンを頬張りながら見送った。
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