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第20章 世を思ふゆえに物思ふ身は

97 予見できた結果とその後始末

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 端の2本が倒れた。
 ただ居合家は笑みを浮かべている。

 カメラが近寄って結果を確認。7本全てが見事に切れていた。
 居合家は刀を収めてマイクを持つ。

「これ以上の試し切りは必要ない。何と呼ばれようとこの刀は本物だ」

 俺は彼に軽く頭を下げる。
 彼の技に、最大限の敬意を込めて。

 そして今度は自称刀工氏の刀の試し切りに入る。
 まずは竹なし1畳巻からだ。
 先程と同じようにあっさりと畳表は2つになる。

 だが、居合家の顔は浮かない。
 彼はマイクを取る。

「失礼、この刀だがこれ以上の試し切りは私はしたくない」

 例の刀工が喚くのが一段落するまで、居合家は辛抱強く待つ。

「何故消極的になるかと言うと、この刀は切った瞬間の響きに濁りがあるように感じるからだ。何度も使うかあまり固いものを切ると、刃体が折れる危険性がある。 それでも宜しければ竹入り1畳巻きで先程と同じように試させて頂く。それでよろしいか」

 再び刀工が喚くのを、了承と取ったのだろう。

「それでは試し切りをさせていただく。ただカメラは先程の刀を使った時と同じ配置で、そして人は出来るだけ離れていて欲しい」

 その意味がわかったのだろう。見物人がわっと距離を取る。

 喚き散らしている刀工を無視し、居合家が構える。
 大きな構えからの強烈な斬撃。

 金属質の響きを残して倒れる畳表。
 折れた刀と地面で回転した刃先。

「私の腕とこの刀では、残念ながらここまでだ」

 それだけ言って他は一切弁解せす、彼は自分の席に戻る。
 そして喚いている刀工氏を無視したまま、ビデオ解析が始まった。

「まずは両方の刀の畳表1畳巻きの時のモーションを半透明に重ねてみましたが、見事ですね。全く揺らぎ無く同一の速さで同一の動きをしています」

「ならば問題は7本切りの方ですね」

 こちらも半透明に重ねて、動きを検証する。

「こちらの刃が1本めの中央を過ぎた時点ですね、ここで既に畳表の動きと刃先の動きの違いが出ています。手元から畳表手前の刀は同一位置ですから、ここで刀本体に異常が生じたと考えられます」

「それでは別方向のカメラでも検証してみましょう」

 どうせどう検証しても同じだ。
 俺には刀が折れた原因がわかっている。
 当然解説をしている住吉教授も、わかっているだろう。

 紙とか藁とかわかりやすいものの斬れ味を良くするためだろう。
 刃先に使う硬くて折れやすい鋼を多く使い過ぎている。
 確かに研いだ時の見た目も良く簡単な物は良く切れるようになる。
 しかしその分折れやすい。

 しかも素延べと火造りの時の温度調整に失敗している。
 それぞれの鋼の接合面の一部に、泡状になった部分が内部に出来てしまっているのだ。
 叩いて磨いて表面上は誤魔化してあるけれど。

 実はこのあたり、工学部住吉教授が事前に解説しかけていたのだ。
 当の刀工氏は喚いていて聞いていなかったようだが。

 なお例の刀工氏は、会場から姿を消している。
 流石に見苦しいと、来賓として招いた日本刀関連の協会のお偉方から一喝どころでない説教があったのだ。

 という訳で、そろそろ色んな意味で頃合いだ。
 最後にという形で俺にマイクが回ってきた。
 さあ、片付けよう。

「さて、本日色々試して頂いたのですが、これは決して従来の日本刀とこの魔法特区で作った日本刀の優劣という問題ではありません。何処で作っても質の良い物はあるし、そうでない物もある。それ以上でもそれ以下でもありません。加えて伝統的な日本刀の製法は、ここで使っているような魔法技術も科学技術も使用せず、それでいてここの刀と同等以上の強度なり実用性なりを持っている。それは周知の通りであります。ここの刀も日本刀の伝統的な製法なりその結果として残っている名刀なりを持てる技術を総動員して分析し解析して作り上げたものです。まずは伝統的な日本刀あっての物だという事をどうぞ理解していただきたい」

 この辺は持ちつ持たれつよいう奴だ。
 此処から追い出された馬鹿にはわからないだろうが、この世界にはそれなりの礼儀と作法がある。
 あと有害な老害がいなくなったから、これも話してしまおう。

「そして最後に。お恥ずかしい話ですが、確かに工房の責任者は私で製法を開発したのも私。ですが本日お目にかけた刀は私の作品ではありません。工房には2人の後輩がおりましてどちらも私より腕がいい。なので刀に関しては後輩に任せきりになっております。下手な先輩より上手な後輩が作った方がよっぽどいいものに仕上がりますし使っていて安心できますから。という訳で伝統的な日本刀の技術に対する最大限のリスペクトと先輩としての恥ずかしい事実をもって、私の話は終わりにしたいと思います」

 我ながら良く口が回るなと思う。
 でもまだスイッチが入った状態なので仕方ない。
 会場に軽く一礼して、俺は自分の椅子に戻る。
 最後に来賓の誰かからありがたい言葉を頂いて、拍手とともにイベントは終了。

 そして俺のスイッチが切れた。
 途端に強烈な自己嫌悪が襲ってくる。
 最後の力を振り絞って簡易潜航艇に駆け乗り、一気に上昇して現場を離脱。
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