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第20章 世を思ふゆえに物思ふ身は
94 無礼な奴はいるもんだ
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「しかし書類が多いわりには処理が速いな」
今日は奈津季さんが居残り番だ。
つまらなそうに決裁書類や連絡調整関連の書類を見ては、学生会として発行する書類を作成している。
「去年も同じ仕事やりましたしね。内容も去年と同じものが多いですから」
ひょっとしたら来年もやるかもしれないし、その可能性は高いのだが。
「そう言えばルイス君は?」
いつもは決裁書類のはんこ押しをやっている筈の、ルイス君がまだ来ていない。
「今日は学内居合大会の第1予選なんだと」
そう言えばそんな書類も来ていたな。
でも
「うちに居合なんて授業や研究会ありましたっけ」
「実際は単位時間内に何本の藁苞を切れるかの競争だとさ。例の件で日本刀ブームが来ちゃってさ、未だに盛り上がったままの状態なんだ。ルイスもあの刀をいたく気に入っているしな」
「でも確かに見た目にわかりやすいし、面白そうな大会ですね」
「僕は刀使いじゃないから遠慮したけどさ、攻撃魔法科の半数以上は参加申し込みしている感じだ。大人げないことに翠さんも出場するらしいぜ」
それは確かに大人げない。
少なくともうちの学生の剣使いとしては、鈴懸台先輩は最強にして別格の存在だ。
「まさかクラウ・ソラスで居合い斬りやる訳じゃないですよね」
「天叢雲剣ってのを新調したらしいぜ。実態は香緒里の村正の拵えを変えただけらしいけどな」
鈴懸台先輩は6月の推薦試験で、専科の合格が決まっている。
だから単位さえ落とさなければ、あとはやりたい放題だ。
「ルイス君はどれ位まで行けますかね」
「トーナメントじゃないから予選くらいは通るだろ。本質的には風の魔法使いだが、剣を使った近接戦闘も得意だしな」
そんな雑談をしながら書類を処理していく。
今年は今のところ装備やテント類もあまり壊れていない。
なので予算上は割と問題が無い状況。
だが怪しげな日本刀の話がどこから漏れたのか。
その筋からの問い合わせが妙に多い。
刀鍛冶や居合道関係者から刀剣愛好家まで。
無論学校側に問い合わせをした場合は、教授会なり事務官なりが対応する。
でも生徒宛に来た場合は基本学生会対応だ。
そしてこの関係の問い合わせがあまりにも多すぎた。
結局そのほとんどに、定型文で対応する事にした。
『刀鍛冶が作った伝統的日本刀とは、作りと形は似ていますが製法的には別のものです。付けられた呼称については、模造刀等に付いている名称と同様のものと解してください。何をもって刀の優劣をつけるかはおまかせしますが、実物は学園祭で展示及び実演しますので、詳細は自分の目でお確かめ下さい』
勿論実際にはもっと敬語表現にして、学生会会長と制作工房責任者、つまり風遊美さんと俺の連名で返送したのだ。
学生会内での了解も取ったし、教授会にも決裁を取った上での措置である。
実は色々無礼な奴が多くて俺は腹をたてているのだが、まあそれはそれ、これはこれである。
手紙もメールも基本的に同様の措置とした。
正直俺はそんな面倒な輩などに、それ以上関わり合いにはなりたくなかったのだが。
忙しない感じのノック音。
こっちの返答を聞かずに扉が開く。
学生会担当教官、筑紫野先生だ。
「長津田君、最近 頭の悪い化石に喧嘩を売ったようね」
何のことだかは想像はついている。
日本刀の事で、思い出したくもないような汚い文面で罵ってきた、自称日本刀の第一人者にして一流刀工の事だろう。
「学生の身ながら大人の態度でもって、事実と予定だけを率直にお返事させていただいただけです」
「という訳で、学校側にも自称刀工を名乗る、頭が悪いカミツキガメが噛み付いてきましたわ」
やはり同じ件のようだ。
そして先生も頭にきている模様。
「処理はどうする予定ですか」
「殺っておしまいなさい」
残念ながら今日の留守番は風遊美さんだ。
「先生、この学校でその言葉を使うと冗談では済まなくなります」
「ノリが悪いわね。奈津季ならここで『手打ちにしますが、半殺しにしますか?』位聞いてくるわよ」
「ぼたもちじゃないんですから」
上方落語なお約束だ。
「まあ具体的に言うと、社会的に抹殺してもよしという事よ。既に刀剣保存協会や刀匠会にも話は通してあるわ。どうも腕が無い癖に口だけ煩い役立たずの爺さんのようね。だから旧来の日本刀そのものに傷がつかない決着なら、どう料理してもいいとの言質も取ったわ」
おっと、腹黒先生、どうやら本気で怒っているようだ。
何をしてもいいようおに、しっかり工作を進めている模様。
「という訳で爬虫類さんを、比較用の展示会と試し切り会、あと居合大会という名のメッタ斬り会に招待致しましたの。そこで旧来の日本刀と最近学内で流行りつつある日本刀と較べてどれ位勝算があるか、製作元代表に聞いてみていいかしら」
そういう事か。なら問題はない。
「あの2人の打った刀なら、国宝級の刀を持ってきても負けませんよ」
さらっと俺は事実を言ってのける。
「本当かしら」
「最近流行ったように見えても、元々は香緒里ちゃんが冬休みに博物館等で名刀と言われるものを見て、確認して作っています。それこそ単純な強度や全体の塑性弾性や材質も分子の構造に至るまで、完全に計算した上でそれを超える物にしているんです。ただ昔からの方法のまま発展も工夫もしないで作っているだけの民芸品に勝ち目があると思いますか。ただ馬鹿なりに汚い手を使ってくる可能性があるので、公平な査定者を呼んでおく必要はあるかと」
筑紫野先生はふん、と笑う。
「それは手を打ったわ。それにしても。長津田も毒を吐く時はあるのね」
「馬鹿は嫌いですから」
先生はにやりとする。
「じゃあ舞台設定は教授会でやりますわ。10月31日水曜日に予定しているから、よければ見に来てね」
そう言って先生は立ち上がり、どすどす去っていった。
今日は奈津季さんが居残り番だ。
つまらなそうに決裁書類や連絡調整関連の書類を見ては、学生会として発行する書類を作成している。
「去年も同じ仕事やりましたしね。内容も去年と同じものが多いですから」
ひょっとしたら来年もやるかもしれないし、その可能性は高いのだが。
「そう言えばルイス君は?」
いつもは決裁書類のはんこ押しをやっている筈の、ルイス君がまだ来ていない。
「今日は学内居合大会の第1予選なんだと」
そう言えばそんな書類も来ていたな。
でも
「うちに居合なんて授業や研究会ありましたっけ」
「実際は単位時間内に何本の藁苞を切れるかの競争だとさ。例の件で日本刀ブームが来ちゃってさ、未だに盛り上がったままの状態なんだ。ルイスもあの刀をいたく気に入っているしな」
「でも確かに見た目にわかりやすいし、面白そうな大会ですね」
「僕は刀使いじゃないから遠慮したけどさ、攻撃魔法科の半数以上は参加申し込みしている感じだ。大人げないことに翠さんも出場するらしいぜ」
それは確かに大人げない。
少なくともうちの学生の剣使いとしては、鈴懸台先輩は最強にして別格の存在だ。
「まさかクラウ・ソラスで居合い斬りやる訳じゃないですよね」
「天叢雲剣ってのを新調したらしいぜ。実態は香緒里の村正の拵えを変えただけらしいけどな」
鈴懸台先輩は6月の推薦試験で、専科の合格が決まっている。
だから単位さえ落とさなければ、あとはやりたい放題だ。
「ルイス君はどれ位まで行けますかね」
「トーナメントじゃないから予選くらいは通るだろ。本質的には風の魔法使いだが、剣を使った近接戦闘も得意だしな」
そんな雑談をしながら書類を処理していく。
今年は今のところ装備やテント類もあまり壊れていない。
なので予算上は割と問題が無い状況。
だが怪しげな日本刀の話がどこから漏れたのか。
その筋からの問い合わせが妙に多い。
刀鍛冶や居合道関係者から刀剣愛好家まで。
無論学校側に問い合わせをした場合は、教授会なり事務官なりが対応する。
でも生徒宛に来た場合は基本学生会対応だ。
そしてこの関係の問い合わせがあまりにも多すぎた。
結局そのほとんどに、定型文で対応する事にした。
『刀鍛冶が作った伝統的日本刀とは、作りと形は似ていますが製法的には別のものです。付けられた呼称については、模造刀等に付いている名称と同様のものと解してください。何をもって刀の優劣をつけるかはおまかせしますが、実物は学園祭で展示及び実演しますので、詳細は自分の目でお確かめ下さい』
勿論実際にはもっと敬語表現にして、学生会会長と制作工房責任者、つまり風遊美さんと俺の連名で返送したのだ。
学生会内での了解も取ったし、教授会にも決裁を取った上での措置である。
実は色々無礼な奴が多くて俺は腹をたてているのだが、まあそれはそれ、これはこれである。
手紙もメールも基本的に同様の措置とした。
正直俺はそんな面倒な輩などに、それ以上関わり合いにはなりたくなかったのだが。
忙しない感じのノック音。
こっちの返答を聞かずに扉が開く。
学生会担当教官、筑紫野先生だ。
「長津田君、最近 頭の悪い化石に喧嘩を売ったようね」
何のことだかは想像はついている。
日本刀の事で、思い出したくもないような汚い文面で罵ってきた、自称日本刀の第一人者にして一流刀工の事だろう。
「学生の身ながら大人の態度でもって、事実と予定だけを率直にお返事させていただいただけです」
「という訳で、学校側にも自称刀工を名乗る、頭が悪いカミツキガメが噛み付いてきましたわ」
やはり同じ件のようだ。
そして先生も頭にきている模様。
「処理はどうする予定ですか」
「殺っておしまいなさい」
残念ながら今日の留守番は風遊美さんだ。
「先生、この学校でその言葉を使うと冗談では済まなくなります」
「ノリが悪いわね。奈津季ならここで『手打ちにしますが、半殺しにしますか?』位聞いてくるわよ」
「ぼたもちじゃないんですから」
上方落語なお約束だ。
「まあ具体的に言うと、社会的に抹殺してもよしという事よ。既に刀剣保存協会や刀匠会にも話は通してあるわ。どうも腕が無い癖に口だけ煩い役立たずの爺さんのようね。だから旧来の日本刀そのものに傷がつかない決着なら、どう料理してもいいとの言質も取ったわ」
おっと、腹黒先生、どうやら本気で怒っているようだ。
何をしてもいいようおに、しっかり工作を進めている模様。
「という訳で爬虫類さんを、比較用の展示会と試し切り会、あと居合大会という名のメッタ斬り会に招待致しましたの。そこで旧来の日本刀と最近学内で流行りつつある日本刀と較べてどれ位勝算があるか、製作元代表に聞いてみていいかしら」
そういう事か。なら問題はない。
「あの2人の打った刀なら、国宝級の刀を持ってきても負けませんよ」
さらっと俺は事実を言ってのける。
「本当かしら」
「最近流行ったように見えても、元々は香緒里ちゃんが冬休みに博物館等で名刀と言われるものを見て、確認して作っています。それこそ単純な強度や全体の塑性弾性や材質も分子の構造に至るまで、完全に計算した上でそれを超える物にしているんです。ただ昔からの方法のまま発展も工夫もしないで作っているだけの民芸品に勝ち目があると思いますか。ただ馬鹿なりに汚い手を使ってくる可能性があるので、公平な査定者を呼んでおく必要はあるかと」
筑紫野先生はふん、と笑う。
「それは手を打ったわ。それにしても。長津田も毒を吐く時はあるのね」
「馬鹿は嫌いですから」
先生はにやりとする。
「じゃあ舞台設定は教授会でやりますわ。10月31日水曜日に予定しているから、よければ見に来てね」
そう言って先生は立ち上がり、どすどす去っていった。
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