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第17章 ゴールデンウィークは雨模様
80 嵐の前の乾杯
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「まあ、今の時期に修が自衛魔法を憶えてくれて正直ほっとしたんだ。そろそろまた嫌な予感がする時期になってきたからさ」
「また変な海外情勢動向でも拾ってきたのですか」
奈津希さんは首を横に振る。
「直接の付近動向では無いんだ。ただ何ていうのかな。何か起きる気がするんだ。そしてその起点がどこかもわかっている。でも直接防ぐのも正直心が痛むし、何かいい方法があるような気もするんだ」
「奈津希にしては随分弱気ね」
「自覚はあるよ」
奈津希さんは頷いて、そして立ち上がる。
「静かについてきて」
俺達は奈津希さんの後をついていく。
奈津希さんが向かったのは、俺の部屋?
俺の部屋の扉を音を立てずに開け、そして中へ入る。
奈津希さんが部屋の中で指差した先は、俺のベッド。
そこには、いつの間にか侵入者がいた。
小さな体で大きなベッドを、凄まじい寝相で占拠している。
「これは……」
奈津希さんはジェスチャーで俺を黙らせる。
そして静かに皆で部屋を出て、扉を閉めた。
「これだけは言っておく。本人には邪気も悪気も全くない。今ここにいる理由は、単に寮の自分のベッドよりこっちのベッドの方が寝心地が良いとか、今日は何か自分の部屋で寝たくない気分だとかその程度だと思う」
俺が疑われている訳ではない事を知って、ちょっとほっとする。
「ただ、この子の魔法は異常なんだ。どう異常なのかは、僕より風遊美のほうがよくわかるだろ」
風遊美さんは頷いた。
「詩織さんの魔法は、自然発生とか自己訓練で得たものではありえません。無論基本となる魔法は自分のものでしょう。でも今の形態は、明らかに人為的な訓練なり操作なりが加わっています」
奈津希さんは、軽く頷き返す。
「そういう訳だ。だが誤解するなよ。詩織ちゃん本人が天然で機械好きなのは芝居でも何でもない。そして危害を加えるつもりだって、こいつ自身には全く無い」
「でも埋め込みはありますね。私の魔法ではかろうじて感知しか出来ませんけれど。正直な処、奈津希に言われなければ気づきませんでした」
知らない言葉が出てきた。
「埋め込み、って何ですか」
俺は2人に尋ねる。
「別人格って言うのがいいのかな。普段は意識下に眠っていて、何かのきっかけで目覚めてメインの人格を乗っ取る。乗っ取った後どうなるかは、プログラミング次第で何とも言えない。心理操作魔法の最悪なものの一つさ」
「それは解除出来ないのですか」
「魔技大の教授でも無理ですね。潜伏中は一切の魔法を受け付けません。解除する為には一度裏人格を発現させて、心理操作魔法の使い手に人格の特徴を確認させる必要があります」
「つまり、解除できるのは事案発生後って訳だ。どうする修」
奈津希さんはにやりと笑って、俺を見る。
普通なら、詩織ちゃんから極力距離を置けと言う処だろう。
しかし奈津希さんの表情は、きっとそれを求めていない。
だからあえて俺は、奈津希さんに尋ねる。
「勝算はあるんですね」
「勝算と言うか、準備だな」
奈津希さんはそう言って続ける。
「この島で出やすいのは抽象魔法って言っただろ。僕がもう1つ持っている魔法がそれさ」
抽象魔法で、今の状況に一番ふさわしい魔法を、俺は口に出してみる。
「予知ですか」
「そこまでいかないな。僕の魔法は、『これから起こる事柄が、望んだ方向に進むために、必要なものがわかる』程度だ。実際に起きる事を、事前に知ることは出来ない。何が必要かは、知ることが出来る。そんな程度だな」
「冬休みのある日、ソフト剣が必要だと判断したようにですか」
風遊美さんは奈津希さん相手だと少々厳しい。
「風遊美、あれは悪かったって謝ったじゃないか。それ以来、ちゃんと事前に相談するようにしているし」
「襲撃の時だって、私が現場に先行するのを止めましたしね」
「あの時は理由を聞かずに止めてくれて助かった。修に治療魔法を覚えてもらうのと、香緒里に自分の魔法を明らかにしてもらう必要があったんだ」
奈津希さん、色々暗躍していたらしい。
というか今の台詞を考えると、実際には予知に近い魔法を使えるような気がする。
まあ奈津希さんがそう言うなら、その必要なり何なりあるのだろう。
奈津希さんが信頼できる事は、間違いないから。
「なら現時点で、準備は整ったと思っていいですね」
奈津希さんは頷いた。
「修が自衛魔法の方法論に気付いた時点で、準備は整った。正直今日思いつかないようなら、明日にでも風遊美に次のヒントを出してもらう予定だったんだけどさ。ただし準備が出来ても、ハードな事態を防げる保証は無い。どうする」
今度は真面目な顔で、奈津希さんは俺に尋ねる。
しかし俺にも答えは見えている。
そして俺が出す答と先輩2人の求めている答えは、きっと同じだ。
「でもベストな未来に通じる準備は出来たんですよね。なら俺は信じるだけです。奈津希さんの魔法と、俺自身を」
「言ったな」
奈津希さんはにやりと笑顔を見せ、立ち上がる。
「なら祝杯だ。紅茶より良い物が冷蔵庫にある。いーい感じの清涼飲料水だ」
「奈津希、アルコールは20歳未満禁止ですよ」
例の飲み物については、既に風遊美さんにばれているらしい。
「梅酒やサングリアは清涼飲料水なの」
奈津希さんのいつもの言い訳。
夜は終わらない。
「また変な海外情勢動向でも拾ってきたのですか」
奈津希さんは首を横に振る。
「直接の付近動向では無いんだ。ただ何ていうのかな。何か起きる気がするんだ。そしてその起点がどこかもわかっている。でも直接防ぐのも正直心が痛むし、何かいい方法があるような気もするんだ」
「奈津希にしては随分弱気ね」
「自覚はあるよ」
奈津希さんは頷いて、そして立ち上がる。
「静かについてきて」
俺達は奈津希さんの後をついていく。
奈津希さんが向かったのは、俺の部屋?
俺の部屋の扉を音を立てずに開け、そして中へ入る。
奈津希さんが部屋の中で指差した先は、俺のベッド。
そこには、いつの間にか侵入者がいた。
小さな体で大きなベッドを、凄まじい寝相で占拠している。
「これは……」
奈津希さんはジェスチャーで俺を黙らせる。
そして静かに皆で部屋を出て、扉を閉めた。
「これだけは言っておく。本人には邪気も悪気も全くない。今ここにいる理由は、単に寮の自分のベッドよりこっちのベッドの方が寝心地が良いとか、今日は何か自分の部屋で寝たくない気分だとかその程度だと思う」
俺が疑われている訳ではない事を知って、ちょっとほっとする。
「ただ、この子の魔法は異常なんだ。どう異常なのかは、僕より風遊美のほうがよくわかるだろ」
風遊美さんは頷いた。
「詩織さんの魔法は、自然発生とか自己訓練で得たものではありえません。無論基本となる魔法は自分のものでしょう。でも今の形態は、明らかに人為的な訓練なり操作なりが加わっています」
奈津希さんは、軽く頷き返す。
「そういう訳だ。だが誤解するなよ。詩織ちゃん本人が天然で機械好きなのは芝居でも何でもない。そして危害を加えるつもりだって、こいつ自身には全く無い」
「でも埋め込みはありますね。私の魔法ではかろうじて感知しか出来ませんけれど。正直な処、奈津希に言われなければ気づきませんでした」
知らない言葉が出てきた。
「埋め込み、って何ですか」
俺は2人に尋ねる。
「別人格って言うのがいいのかな。普段は意識下に眠っていて、何かのきっかけで目覚めてメインの人格を乗っ取る。乗っ取った後どうなるかは、プログラミング次第で何とも言えない。心理操作魔法の最悪なものの一つさ」
「それは解除出来ないのですか」
「魔技大の教授でも無理ですね。潜伏中は一切の魔法を受け付けません。解除する為には一度裏人格を発現させて、心理操作魔法の使い手に人格の特徴を確認させる必要があります」
「つまり、解除できるのは事案発生後って訳だ。どうする修」
奈津希さんはにやりと笑って、俺を見る。
普通なら、詩織ちゃんから極力距離を置けと言う処だろう。
しかし奈津希さんの表情は、きっとそれを求めていない。
だからあえて俺は、奈津希さんに尋ねる。
「勝算はあるんですね」
「勝算と言うか、準備だな」
奈津希さんはそう言って続ける。
「この島で出やすいのは抽象魔法って言っただろ。僕がもう1つ持っている魔法がそれさ」
抽象魔法で、今の状況に一番ふさわしい魔法を、俺は口に出してみる。
「予知ですか」
「そこまでいかないな。僕の魔法は、『これから起こる事柄が、望んだ方向に進むために、必要なものがわかる』程度だ。実際に起きる事を、事前に知ることは出来ない。何が必要かは、知ることが出来る。そんな程度だな」
「冬休みのある日、ソフト剣が必要だと判断したようにですか」
風遊美さんは奈津希さん相手だと少々厳しい。
「風遊美、あれは悪かったって謝ったじゃないか。それ以来、ちゃんと事前に相談するようにしているし」
「襲撃の時だって、私が現場に先行するのを止めましたしね」
「あの時は理由を聞かずに止めてくれて助かった。修に治療魔法を覚えてもらうのと、香緒里に自分の魔法を明らかにしてもらう必要があったんだ」
奈津希さん、色々暗躍していたらしい。
というか今の台詞を考えると、実際には予知に近い魔法を使えるような気がする。
まあ奈津希さんがそう言うなら、その必要なり何なりあるのだろう。
奈津希さんが信頼できる事は、間違いないから。
「なら現時点で、準備は整ったと思っていいですね」
奈津希さんは頷いた。
「修が自衛魔法の方法論に気付いた時点で、準備は整った。正直今日思いつかないようなら、明日にでも風遊美に次のヒントを出してもらう予定だったんだけどさ。ただし準備が出来ても、ハードな事態を防げる保証は無い。どうする」
今度は真面目な顔で、奈津希さんは俺に尋ねる。
しかし俺にも答えは見えている。
そして俺が出す答と先輩2人の求めている答えは、きっと同じだ。
「でもベストな未来に通じる準備は出来たんですよね。なら俺は信じるだけです。奈津希さんの魔法と、俺自身を」
「言ったな」
奈津希さんはにやりと笑顔を見せ、立ち上がる。
「なら祝杯だ。紅茶より良い物が冷蔵庫にある。いーい感じの清涼飲料水だ」
「奈津希、アルコールは20歳未満禁止ですよ」
例の飲み物については、既に風遊美さんにばれているらしい。
「梅酒やサングリアは清涼飲料水なの」
奈津希さんのいつもの言い訳。
夜は終わらない。
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