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第17章 ゴールデンウィークは雨模様

78 俺の自衛魔法とは

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 実は冬から考えている事が、俺にはある。
 俺自身の自衛能力の強化だ。

 冬の襲撃の時に両手を失いかけたし、香緒里ちゃんが寝込む羽目になった。
 俺がもう少し強ければ、こんな事態にはならなかった筈だ。

 いつまでも香緒里ちゃんや先輩方に、頼っている訳にはいかない。
 最低でも自衛出来て、出来れば他の人も守れる位の力が欲しい。

 しかし参考にできるかと思った田奈先生の魔法は、俺には魔力的に無理だった。
 何せ田奈先生の魔法は、本人所有の強大な魔力任せ。
 砂漠から鉄を抽出して槍を生成して飛ばす、なんて荒業すら使用可能だ。

 俺の魔力で実用可能な自衛魔法。
 少ない魔力で最大限に効果を発揮させる魔法。
 奈津希さんの魔法に、何かそれを可能にするヒントはないだろうか。

「修君、今日は無口ですね」

 隣から風遊美さんの声。

 今いるのは、いつもの露天風呂のぬる湯。
 ちなみにルイス君は、一番部屋寄りの樽湯に引きこもり中。
 ジェニーは寝湯を大股広げて堪能していて、詩織ちゃんはメインの浴槽で泳いでいるという感じ。
 他の面子はミストサウナやサウナ、流れの中を歩ける美容風呂といった新施設を試すのに忙しいようだ。

「いえ、ちょっと考え事をしていて」

「何でしたら相談にのりますけれど」

 風遊美さんは優しい。
 だからつい、聞いてしまう。

「冬にあった襲撃以来、ずっと考えているんです。やっぱり俺も、何か自衛できる魔法を使えるようにしなきゃって。でもなかなか方法論が思いつかないんです」

「それで奈津希に聞いてみようと思ったのですか」

 何故そこで、奈津希さんの名前が出てくるのだろうか。
 その通りなのだけれど。

「ご飯の途中から目が時々奈津希を追っていましたからね」

 相変わらず風遊美さんの観察力は普通じゃない。

「確かに奈津希に聞くのは、ある意味正解かもしれません。でも同時に奈津希だからこそ、厳しい答えが返ってくる可能性も高いです。その理由は、奈津希に聞こうと思った修君ならわかりますね」

「奈津希さんの魔法は天然ではなく、おそらく自分の意思で開発した魔法だから」

「正解です」

 風遊美さんは頷く。

「ならば奈津希に相談する前に、少し雑談をしましょう。修君は魔法の『属性』という言葉についてどう思いますか」

 それは前に、誰かに聞いたことがある。
 田奈先生だっただろうか。

「個人の魔法の傾向を表すのに便利な言葉だけど、実際にはそんな物は存在しない。そう誰かに聞きました」

 風遊美さんはゆっくり頷いた。

「正解です。この属性だから自分にあっているというような事は、実際にはありません。ただ無秩序に存在する魔法をカテゴライズする為に、属性という言葉を使っているだけです。つまり属性とは便宜上の言葉です。本来、魔法に属性という物はありません。
 また、同じ魔法でも使う対象によって属性は変わります。ある対象に対する魔法が他の対象に使えない訳ではありません。そのことを奈津希に相談する前に、じっくりと考えてみて下さい」

 そう言って風遊美さんは、浴槽にちょっと沈み込むように身体を延ばす。
 忠告終了、という事だろう。

 浴槽の中で俺は考える。
 風遊美さんは多分、俺が求める答えを知っている。
 だからこそ、さっきの会話をした訳だ。

 ならば、さっきの会話に答えがある。
 奈津希さんに聞く前に、そこを詰めておく必要があるだろう。

 風遊美さんのさっきの話をまとめると、『属性にとらわれるな』という事だろう。
 俺の魔法は属性だと木とか金属性。具体的に言うと機械の審査魔法と作成魔法。
 応用で機械の修理魔法。更に応用で工業製品をある程度動かす事が出来るが、普通のサイコキネシス系魔法持ちに比べると極端に効率は悪い。

 これらの魔法で何が出来るか。属性にとらわれず何が出来るか。

 例えば機械の修理魔法は、機械の故障魔法にも使える。
 襲撃者の靴を壊して、一時的に脚を止めることも出来る。
 でも風遊美さんがほのめかしていた答えは、おそらくはそういったものでは無い。
 うーん。

 色々と考えていると、露天風呂内の人間が動き出した。

「そろそろ皆さん上がるみたいですね」

 そう言って風遊美さんも立ち上がった。
 とっさに見ないようにしたのだが、風遊美さんは全く気にしない様子で俺の前を横切り、俺の斜め前で足を上げて浴槽から出ていった。
 まあそれが最短距離なのだが、こっちの事も少し気にしてくれ。

 俺も少し遅れて上がり、自分の部屋で手早く体を拭いて服を着る。
 俺の部屋で着替えているのは俺とルイス君と……おい。

「何故詩織がここにいる」

「客間は人数が多くて狭いですからね」

 ルイス君の当然な疑問にいけしゃあしゃあと答え、詩織ちゃんはこちらの目を全く気にすること無く、のんびり身体を拭いて服を着ている。
 多分何も考えていないんだろう。

「ルイス、気にしたら俺達の負けだ」

「そうですね」

 大分彼もわかってきたようだ。

「別に見たければ見ればいいし、気にしなければそれでいいし。あまり意味はないと思いますけどね。所詮多少の機能と外形が違う程度です」

 そんな俺達の配慮を無にする一言。
 性差も所詮、機能と外形の違いか。ある意味詩織ちゃんこいつらしい言い草だ。
 詩織ちゃんこいつから見れば機械も人間も変わらないんだろう。

 ん、待てよ。何か俺の頭に引っかかった。

 機械も人間も変わらない。
 その瞬間、一気に霧が晴れた気がした。

 例えば機械の補修魔法で治した俺の腕。
 俺の使える機械相手の魔法。
 そして、俺の自衛魔法の形。

 気がつけば、ヒントは色々出ていたのだ。
 あの事件の直後、俺の腕を魔法で治した時にも。
 ならば今の俺に必要なのは知識だ。
 人間の身体の構造に関する知識。
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