機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
76 / 202
第17章 ゴールデンウィークは雨模様

76 汎用性と独創性

しおりを挟む
「うーん、私も勉強しなきゃいけないですね」

 香緒里ちゃんが、今年の優秀作を見て呟く。

「薊野のスクーターは一番実用的だぞ。使っている魔法が特殊だから、量産がきかないけどな」

 確かにスクーターは一番使っている感じがする。
 他と違って、明らかに床が擦れている感じだ。

「成程、勉強になるです。汎用性ですか」

「旗台のはあれでいいと思うぞ。実用無視のロマン仕様だろう。ああいう方向性も必要だ。実際、結構売れている。パーツの加工は困難だが、使っている魔法部品そのものは一般的だしな。まあ購入したのはドイツやアメリカの特区のナード共ばかりだが。近々あれを使ってリアルロボット大戦をやろうと、ドイツのアホゲルが言っている。運が良ければテレビ局にも売れるかもしれん」

 アホゲルとは田奈先生の知り合いで、ドイツの特区のお偉いさんらしい。
 良く名前が出てくるのだが、本名や肩書等は俺も知らない。

「設計図の状態で売ったんですか」

「一応パテントも取ってな。特殊な機体なんで結構ふっかけたから、来月あたりにはいい小遣い銭が入ってくるぞ」

「え、もっと儲かるのですか」

 キラーン! という感じで、詩織ちゃんの目が輝いた。

「もっともっとな。まあ薊野には負けるけどな。あれはもう一生ものだ」

 これは例のバネの件だろう。

「売れる商品にするには、部品の段階での汎用性と製品の独創性だな、やっぱり。という訳だ。最近ヒットを出していない先輩君」

 俺に小言が振ってきた。

「まあ、地味に稼いでいるからいいですよ」

「この前の草刈り機は、実用性は確かなんだがやや凝りすぎだ。もっと白物家電を見習ってシンプルにした方がいいぞ。まあ便利だから、結局もう1台生産したんだっけか」

 確かにあの草刈り機、不整地走行能力とか色々機能をつけすぎた。
 閣下、機構が複雑かつ大型になりすぎた。

 だからメインの導入は、もっと簡単な機構の別の学生が設計した機械が選ばれた。
 俺の設計した奴は、機能や安全性を買われて不整地や崖沿い、あと人が良く通る場所等に限定して使用されている。
 まあ買い上げプラス1台追加で、そこそこ懐は潤ってはいるのだけれど。

 俺は気を取り直して他の展示品を見る。
 飛行機械も色々なコンセプトがある。
 基本的にはヘリコプターやオートジャイロ等、既存の原理を使った物が多い。
 だが時々、例のパワードスーツと同様ぶっ飛んだものもある。

「この椅子も飛ぶ機械ですか」

「それは高空に浮かんで地上の人間を見ながら『見よ、人がアリのようだ。ガハハハ』と笑うのがコンセプトという空飛ぶ椅子だ。その時に掲げるワイングラスもちゃんと置ける。背中から出ている反転同軸プロペラで浮上して椅子下のダクテッドファンでバランスを取るという構造だ。だが、実際バランスを取るのが難しくてな。私も3回落ちた。もう乗る気は無いが、コンセプトが馬鹿馬鹿しくて面白いのでつい置いてしまった」

 何だか変な趣味の奴だ。
 他にも。

「この椅子もさっきの同類ですか」

「これは緊急脱出が出来る椅子で、ボタンを押すと背もたれと座面ごと空中40mまで上昇して、パラシュートで降りてくる仕組みだ。最大の欠点は空が見える場所で使わないと、天井にぶつかってお陀仏になるところだな。まあ空を飛べるということで合格点はつけた」

 何やら玉石混交な感じだが、確かに面白かったし参考になった。
 礼を言って田奈邸を辞して部屋へ帰ると、もう昼食の時間。

 今日の昼食は、奈津希さんとジェニーのコラボ。
 ジャパニーズ天ぷら蕎麦、だそうだ。
 実際見た目にも美味しそうな、太めで色濃いめの田舎蕎麦がザルに盛られている。
 天ぷらはエビとかき揚げだ。

「うん、美味しい。さっぱりしているし、今日みたいな湿気た日にはちょうどいい」

「天ぷらもさっくり揚がっていて、いい感じです」

 確かに美味しい。

「蕎麦は今日は三七で打った。まあいい粉が二八で打つには足りなかったせいだけど、悪くないだろ」

 悪くないどころか凄く美味しい。
 何でも出来るな、奈津希さんは。

「本当はそろそろ新鮮な魚でも獲りたいんだけれど、この天気じゃな」

 船で出かけたい天気ではない。
 風はそれほどでもないが、雨が鬱陶しい。

「そう言えば魚って、ある程度決まったところを泳ぐですよね」

 不意に妙な事を詩織ちゃんが言った。

「まあ、そうと言えばそうだけど」

「もし2m✕2mの網を3箇所張ったとして、何分位待てば大きくて美味しい魚がかかるですかねえ」

「難しいんじゃないかな。餌でもあれば、ある程度寄せることができるだろうけれど」

「美味しい巨大魚さんの餌って何ですか」

「基本的には生きた小魚かな。カンパチあたりは動きのある餌しか食べないって言うし。釣りだと小魚に似せた疑似餌を動かして誘うけれど」

「そうなのですか」

 詩織ちゃんは。何か考え込んでいる感じだ。

 その後詩織ちゃんに何を考えているのか聞いてみたが、空返事ばかり。
 内容のある話は何一つ聞けなかった。
 俺以外は特に、誰も気にしていないようだったけれど。

 ◇◇◇
 
 食事の後。
 ジェニーとソフィーちゃんは、サイト更新作業でジェニーの部屋へとこもった。
 由香里姉は自分の部屋で何やら勉強中。
 鈴懸台先輩と月見野先輩は、客間で勉強かお昼寝か。
 風遊美さんと奈津希さんと香緒里ちゃんは、液晶テレビで対戦ゲーム。

 そして詩織ちゃんは、俺の部屋のすぐ外のデッキ部分で何やら考え込んでいた。
 デッキの上は一応屋根をかけているので、濡れる心配は無い。

 しかし1人で、そこで何やら考え込まれると、どうしても気になる。
 おかげで片付けようと思っていた、課題のプログラムの最適化に手がつかない。

「うーん、ルート5端点失敗クローズ。ぶつぶつ」

 時々意味の分からない言葉をつぶやきつつ、詩織ちゃんは何やら考え込んだまま。
 もう食事後30分以上そのままだ。
 せめて言葉が通じれば、相談なり何なりのってやるんだが。
 と、不意に。

「ゲット! ルート12」

 詩織ちゃんは急にそう叫ぶ。
 次の瞬間、露天風呂のぬる湯が大きく沸いた。
 気がつくと、でっかい魚がぬる湯の浴槽でばちゃばちゃやっている。

「魔法で漁業、成功なのです。でも効率最悪なのです。疲れたんで寝るのです」

 詩織ちゃんはそう言うと立ち上がり、何も説明しないまま俺のベッドに倒れ込む。
 俺は浴槽で跳ねる巨大魚と、俺のベッドで寝入った詩織ちゃんを交互に眺めて。

 何とかしてくれそうな奈津希さんに助けを求めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...