機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第17章 ゴールデンウィークは雨模様

75 梅雨の休みの過ごし方

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 砂湯は結局、あきらめてもらった。
 時折強い風が吹くので、砂風呂を作っても砂が飛んでいってしまう。

 流れる風呂は、要望が多くて断れなかった。
 流れている風呂の中を歩くと、水圧で適度な運動にもなり美容にもいい。
 そんな根拠の薄い意見に、女性陣全員が毒されてしまったためである。

 ジェットバスも若干の出力増強をしておいた。
 これでもう最後だよな、露天風呂の改装。

 既に施設はこれだけ揃えている。
  ○ 樽湯(温度調整25度~44度)✕3
  ○ 水風呂(筐体は樽湯と同じ)
  ○ ミストサウナ(詰めれば4人用)
  ○ サウナ(詰めれば4人用)
  ○ 流れて歩けるお風呂(1周12メートル、深さ1.1メートル)
  ○ 寝湯(長さ1.9メートル幅4メートル)
  ○ ジェットバス
  ○ メインの浴槽
  ○ ぬる湯
  ○ 洗い場6人分
 
 大きさはともかく、浴槽の種類ではそこらのスーパー銭湯以上だろう。
 聟島には銭湯なんてないけれど。

 実際これ以上は、スペース的にも増やせない。
 屋上は風呂以外に、空飛ぶシリーズが着陸できる場所が必要だし。

 ゴールデンウィークは、天候的には全滅のようだ。
 今日は3日だが、天気も予報も雨。
 このまま8日日曜日まで降り続く予定だ。

 やることがないので、学生会の新旧役員どもは、保養所のようにこのマンションに入り浸っている。
 今はリビングで、奈津希先生によるエアロビ教室を実施中。
 軽快な音楽にあわせて、俺を除く全員が飛んだり跳ねたり運動中だ。

 幸か不幸かマンションの作りが良すぎて、ここまでしても下の階に影響はない。
 本マンション住民の奈津希さんが言うことだけに、そのとおりなのだろう。
 これで苦情でも入っていれば、少しは静かに暮らせたかもしれないが。

 リビングで流れていた音楽が終わる。

「はい午前の部はここまで。皆様お疲れ様でした」

 講師の奈津希先生の言葉とともに、人の流れは露天風呂の方へ。
 と思ったらルイス君がこっそり俺の部屋へ入って来た。

「匿ってくれ。この状況で外へ出たくない」

 何せ女子9名だものな。

「でも汗だくじゃないか。諦めれば」

「もう少し誤魔化して内風呂に入る。今は誰か身体を洗っているからまずい」

 外の洗い場は6人分しかないので、人数が多い時は内風呂の洗い場も使う。
 その内風呂組が露天風呂へ出たら、内風呂へ行く気だろう。
 その間の裸女が右往左往する時間は、俺の部屋にこもって逃げると。

 正しい判断だ。
 でも問題点が無いわけでもない。
 それは。

「ルイス君、このままじゃ風邪を引くぞ。風呂でさっぱり汗を流そうぜ」

 問題点とは、過保護な先輩とおせっかいな同級生の存在。
 彼女らの目を逃れきれなかったのが、ルイス君の敗因だ。

「わかった。自分で脱ぐから。後で合流するから」

 ルイス君は同級生2人と奈津希さんに剥かれつつ、露天風呂へ。
 俺はそんな彼を、ただ無言で見送る。

 ◇◇◇

 さて、このマンションの屋上は、もう一箇所存在する。
 俺達の部屋の反対側、田奈先生の部屋の屋上だ。

 そこには今までの学生の傑作・駄作・怪作を並べた整備庫があるらしい。
 通称『田奈コレクション』。

 そんな噂が事実である事を俺は知っている。
 この前泊まった時、窓から見たからだ。

 この話をすると、香緒里ちゃんと詩織ちゃんがのってきた。
 暇だし他に行く場所も無いので、俺は田奈先生に電話する。
 幸い田奈先生は快く見学をOKしてくれた。

 そして20分後、俺達は田奈邸の屋上に来ている。

「これは凄いね。天候シールドかな」

 屋根も壁も無いのに、不思議と屋上には雨粒ひとつ落ちていないし、風も吹き込んでこない。

「まあその辺は長年の技だな」

 にやりと笑う田奈先生。
 しかし。

「永続魔法、それも水分を99.9%以上含む30g以内の物質を弾き飛ばす、魔法をかけてありますね。風は一定以上の速さの移動を阻止。今度うちの屋上も真似してみます」
 付与魔法の使い手である香緒里ちゃんが解析してしまった。
 しょぼんとする田奈先生。

「でもこの工作機器は凄いですね。魔法仕様の最新型だ」

「ふっふっふっ、何せ開発者は私自身だからな。メーカに頼んで常に最新型をここに置いている」

「つまり課題作成の際に間に合わなければ、ここの機械も使える訳なのです」

 にやりと笑う詩織ちゃん。

「お前達は学生会の工房を使えるだろう。あそこの工作機器も高津や長津田が整備や改良をしているから、機能的にはこの最新型と変わらん筈だぞ」

「ばれていましたか」

「大体はな」

 お見通しなようだ。

「あ、私のもあるのですよ」

 詩織ちゃんは並んでいるコレクションの方を見る。
 詩織ちゃん作のSFP-01が置いてあった。

「代々の空飛ぶ課題の優秀作は、ほぼ置いてあるぞ」

 その言葉通り、香緒里ちゃんのスクーターも俺のヘリコプターもある。

「今年の本来の優秀作はどれですか」

「これだな」

 先生は華奢な感じの、プロペラがついた超小型飛行機を指した。

「これも魔法仕様だが、最小限の魔力で飛べるように出来ている。少しでも魔法が使える人間なら大体使用可能だな。飛ぶ際は10m程度の滑走距離が必要だが、着陸はほぼ無滑走で可能。長津田のヘリ程ではないが汎用性を重視した作りだ。部品もごく一般的な魔法部品を使っている」

 俺の審査魔法で確認してみる。
 確かにこれなら俺の魔法力でも充分飛ばせる。
 しかも各部の仕上がりがかなりいい。
 動力伝達部分も最小限で、ロスが少なく効率的だ。

「かなり設計慣れした作りですね。ここまで簡素かつ無駄の無い構造は見事です」

「これもパテントを取った。魔力が必要だから例のヘリ程ではないが、それでも結構売れ始めている」
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