機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第16章 新人歓迎! 新学期

73 トリップ中は見せられません

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 順調にバネ作業をこなして、時計を見ると5時ちょっと過ぎ。

「そろそろ学生会室へ戻るけれど、どうする」

「今いいところなのです。一段落着いたら行くのです」

 確かに、今離れたら収拾がつかなくなるくらい、色んな形のパーツが溢れている。

「あまり無理するなよ」

 そう声をかけて、俺と香緒里ちゃんは学生会室へ。
 戻ってみると、役員と1年生2人の他に由香里姉も来ていた。

「あれ、どうしたんですか」

「現在の学生最強の見本として呼んだんだ」

 そう、奈津希さん。
 つまりルイス君の教材という訳か。
 ルイス君も奈津希さんも、服がいかにも運動しましたよという感じに汚れたり伸びたりしている。
 多分模擬戦を何度もやったのだろう。

「詩織ちゃんは」

「作業に夢中になっているんで置いてきた。一応鍵は持たせている」

「1人であの機械類を使っても問題ないですか」

「大丈夫だと思います。既に私より使いこなしている感じです」

「香緒里がそう言うんなら大丈夫だろ」

 副会長の承認が下りた。

「何か皆さん、自由ですね」

 ソフィーちゃんがそう感想を漏らす。

「まあ仕事が忙しい時以外は単なる仲良し集団だからな。みんな専門も趣味も違うし、やりたい事があればそっちが優先。まあ一緒に遊びにも行くし、お泊まり会なんかもやったりするけれど」

「だから本気で何か専門を追求したいなら、専門の研究会の方がいいかもしれません。同じ目的の人が多数いますから色々な気づきもあると思います」

 風遊美さんが言うのは正論だ。

「でも攻撃魔法研究会も見たけれど、薊野先輩や宮崎台先輩程の凄さはなかった」

 ルイス君の率直な感想。

「何故か知らないれすが、ここには学校最強の外れ者が集まっているれすから。前の学生会役員もそうれすし、今もそうれす。奈津希さんは攻撃魔法科4年筆頭れすし、風遊美さんも最高レベルの治癒魔法と最強レベルのある魔法を持っているれす。修さんも3年ですけれど物作りの評価は学校トップクラスれすし。香緒里は一番パテントで稼いでいる学生れすし、まあそんな感じれす」

「と、魔法特区最高のPVを誇るポータルサイト運営が言っているけれどな」

 奈津希さんがそう言ってジェニーをフォローする。

「でもまあ、それは結果であってここの実績じゃない。ここはあくまで学生会の仕事をする仲良し集団さ。釣りもするし海水浴もするし合宿っぽいこともするけれど」

「という訳で他の研究会や部活も見た上で、色々考えるのがいいと思います」

「まあ来てくれたらうれしいれすけれど」

 ジェニーがまとめたところで5時50分。
 校舎を出なければならない時間だ。

「それでは今日はそろそろこの部屋を閉めますけれど、詩織さん遅いですね」

「荷物は全部工房に持っていったみたいだから、大丈夫だと思う」

「では帰りに寄ってみましょうか」

 学生会室を片付け、撤収する。
 そして全員で工房の方へ行ってみると。

「うひょひょひょひょー。いいーのですいいのですひひひひ」

 奇声が聞こえた。
 思わず俺達は顔を見合わせる。

 何かを恐れつつ、そーっと工房の中を覗き込む。
 そこには全力で稼働中の工作機械。
 そして仕上がったアルミの部材に頬ずりして、恍惚とした表情を浮かべている変態がいた。

「これ、何かやばくないか」

 奈津希さんすら引いている状態。

「まあ、大丈夫だとは思いますよ」

 一応俺くらいは擁護してあげたいけれど、ちょっと辛いかな。
 そんなこんなしているうちに、中から奇妙な歌が聞こえてきた。
 これ以上不味い事態になる前に止めたほうがいいようだ。

「おーい詩織ちゃん、そろそろ終業時刻」

 変化なし。なので直接近づく。
 CAD画面を見ながら両手を振り上げて乗りに乗っている。
 声をかけるのが正直ちょっと怖い状態だけれど。

「詩織ちゃん、そろそろ時間」

 かなり近づいて言っているのだが変化なし。
 完全にトリップ中のようだ。

「詩織ちゃん」

 肩を軽く叩く。

 おっと、フリーズした。
 動きも声も全て止まる。

 そしてほぼ3秒後。

「みーまーしーたーねー」

 色々な効果線とか効果音とかついていそうな感じだ。
 でもここで怯んではいけない。

「見た。全員で」

 そう言ってシャッター方向を視線で示す。

 詩織ちゃんはシャッター付近に並んだ影を確認。
 またフリーズした。

「そろそろ終業時刻だから、整理して帰るぞ」

 このままだと時間がかかりすぎるので、先に用件を言っておく。

「まあどうせ明日も使うんだろうから、電源落とすだけでいいけれど」

「え、明日も使っていいのですか」

 生き返った。

「完成までは自由に使っていいって言ったろ。でも今日は終業時間だからもうセーブして電源落として」

「うー、うるうる」

 そう言いながら詩織ちゃんは手早くデータをセーブしてシャットダウンをかける。

「じゃあ照明落とすからシャッター頼む」

「了解であります」

 詩織ちゃんは足取り軽くシャッター方向へ。

 ◇◇◇

「いやあ、まさかトリップ中を皆様に見られるとは思わなかったのです。痛恨の極み! という奴なのですははははは」

 何か話し方もすっかり砕けてしまっている。

「しかしどうやってトリップしていたんだ。パソコンはCAD画面のままだったし」

「脳内再生、動画付きなのです」

 詩織ちゃんはきりっと断言。痛い、痛すぎる。

「いやあ、歌はいいですね。リリンの文化の極みですよ」

「そういう方向の歌じゃなかっただろ、見た限りは」

 そういう台詞は鈴懸台先輩のおかげで学習済みだ。
 それにエヴァ系で両手を振り上げて踊るようなノリの歌は多分無い。

「今日はナユタン星人な気分だったのです。ところで今日から当分の間、夕食含めマンション通っていいですか」

「毎日なら食事分位は出せよ」

「それは大丈夫なのです。カフェテリアより美味しいし露天風呂最高!なのです」

 あ、こいつ余分な事言った。

「ロテンブロ、って何ですか」

 ソフィーちゃんに気づかれた。
 でも彼女はそんな単語は知らないらしい。

「ジャパニーズ、オールドスタイル、アウトドアバスですよ。今日だと月も見えて最高だと思うのです」

「面白そう。私もお邪魔でなければ行ってみていいでしょうか」

 あーあ、1人増えてしまった。

「多少増えてもうちは構わないわよ」

 家主の由香里姉もOKを出してしまう。

「ついでだからルイスも一緒に行こうです。皆で親交を深めるですよ」

「僕は今日、着替えもタオルも無いから」

 お、ルイス、君はまともだ。
 あとロテンブロもしくはフロの意味を理解している模様。
 ひょっとしたら混浴というところまで……と思ったところで。

「タオルや着替え位は、修先輩に借りればいいのです。修先輩、いいですよね」

「あ、ああ」

 余分な助け舟を詩織ちゃんが出した。
 ここで駄目と言えないのが、俺の弱いところだ。

「そうね。私も今日はお邪魔しようかしら」

「なら人数分少し買い出していこうか」

 風遊美さんも奈津希さんもOKとの事らしい。
 いいのか、ここの風紀はこれで。
 まあ問題は起こらないのだけれども。
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