上 下
73 / 202
第16章 新人歓迎! 新学期

73 トリップ中は見せられません

しおりを挟む
 順調にバネ作業をこなして、時計を見ると5時ちょっと過ぎ。

「そろそろ学生会室へ戻るけれど、どうする」

「今いいところなのです。一段落着いたら行くのです」

 確かに、今離れたら収拾がつかなくなるくらい、色んな形のパーツが溢れている。

「あまり無理するなよ」

 そう声をかけて、俺と香緒里ちゃんは学生会室へ。
 戻ってみると、役員と1年生2人の他に由香里姉も来ていた。

「あれ、どうしたんですか」

「現在の学生最強の見本として呼んだんだ」

 そう、奈津希さん。
 つまりルイス君の教材という訳か。
 ルイス君も奈津希さんも、服がいかにも運動しましたよという感じに汚れたり伸びたりしている。
 多分模擬戦を何度もやったのだろう。

「詩織ちゃんは」

「作業に夢中になっているんで置いてきた。一応鍵は持たせている」

「1人であの機械類を使っても問題ないですか」

「大丈夫だと思います。既に私より使いこなしている感じです」

「香緒里がそう言うんなら大丈夫だろ」

 副会長の承認が下りた。

「何か皆さん、自由ですね」

 ソフィーちゃんがそう感想を漏らす。

「まあ仕事が忙しい時以外は単なる仲良し集団だからな。みんな専門も趣味も違うし、やりたい事があればそっちが優先。まあ一緒に遊びにも行くし、お泊まり会なんかもやったりするけれど」

「だから本気で何か専門を追求したいなら、専門の研究会の方がいいかもしれません。同じ目的の人が多数いますから色々な気づきもあると思います」

 風遊美さんが言うのは正論だ。

「でも攻撃魔法研究会も見たけれど、薊野先輩や宮崎台先輩程の凄さはなかった」

 ルイス君の率直な感想。

「何故か知らないれすが、ここには学校最強の外れ者が集まっているれすから。前の学生会役員もそうれすし、今もそうれす。奈津希さんは攻撃魔法科4年筆頭れすし、風遊美さんも最高レベルの治癒魔法と最強レベルのある魔法を持っているれす。修さんも3年ですけれど物作りの評価は学校トップクラスれすし。香緒里は一番パテントで稼いでいる学生れすし、まあそんな感じれす」

「と、魔法特区最高のPVを誇るポータルサイト運営が言っているけれどな」

 奈津希さんがそう言ってジェニーをフォローする。

「でもまあ、それは結果であってここの実績じゃない。ここはあくまで学生会の仕事をする仲良し集団さ。釣りもするし海水浴もするし合宿っぽいこともするけれど」

「という訳で他の研究会や部活も見た上で、色々考えるのがいいと思います」

「まあ来てくれたらうれしいれすけれど」

 ジェニーがまとめたところで5時50分。
 校舎を出なければならない時間だ。

「それでは今日はそろそろこの部屋を閉めますけれど、詩織さん遅いですね」

「荷物は全部工房に持っていったみたいだから、大丈夫だと思う」

「では帰りに寄ってみましょうか」

 学生会室を片付け、撤収する。
 そして全員で工房の方へ行ってみると。

「うひょひょひょひょー。いいーのですいいのですひひひひ」

 奇声が聞こえた。
 思わず俺達は顔を見合わせる。

 何かを恐れつつ、そーっと工房の中を覗き込む。
 そこには全力で稼働中の工作機械。
 そして仕上がったアルミの部材に頬ずりして、恍惚とした表情を浮かべている変態がいた。

「これ、何かやばくないか」

 奈津希さんすら引いている状態。

「まあ、大丈夫だとは思いますよ」

 一応俺くらいは擁護してあげたいけれど、ちょっと辛いかな。
 そんなこんなしているうちに、中から奇妙な歌が聞こえてきた。
 これ以上不味い事態になる前に止めたほうがいいようだ。

「おーい詩織ちゃん、そろそろ終業時刻」

 変化なし。なので直接近づく。
 CAD画面を見ながら両手を振り上げて乗りに乗っている。
 声をかけるのが正直ちょっと怖い状態だけれど。

「詩織ちゃん、そろそろ時間」

 かなり近づいて言っているのだが変化なし。
 完全にトリップ中のようだ。

「詩織ちゃん」

 肩を軽く叩く。

 おっと、フリーズした。
 動きも声も全て止まる。

 そしてほぼ3秒後。

「みーまーしーたーねー」

 色々な効果線とか効果音とかついていそうな感じだ。
 でもここで怯んではいけない。

「見た。全員で」

 そう言ってシャッター方向を視線で示す。

 詩織ちゃんはシャッター付近に並んだ影を確認。
 またフリーズした。

「そろそろ終業時刻だから、整理して帰るぞ」

 このままだと時間がかかりすぎるので、先に用件を言っておく。

「まあどうせ明日も使うんだろうから、電源落とすだけでいいけれど」

「え、明日も使っていいのですか」

 生き返った。

「完成までは自由に使っていいって言ったろ。でも今日は終業時間だからもうセーブして電源落として」

「うー、うるうる」

 そう言いながら詩織ちゃんは手早くデータをセーブしてシャットダウンをかける。

「じゃあ照明落とすからシャッター頼む」

「了解であります」

 詩織ちゃんは足取り軽くシャッター方向へ。

 ◇◇◇

「いやあ、まさかトリップ中を皆様に見られるとは思わなかったのです。痛恨の極み! という奴なのですははははは」

 何か話し方もすっかり砕けてしまっている。

「しかしどうやってトリップしていたんだ。パソコンはCAD画面のままだったし」

「脳内再生、動画付きなのです」

 詩織ちゃんはきりっと断言。痛い、痛すぎる。

「いやあ、歌はいいですね。リリンの文化の極みですよ」

「そういう方向の歌じゃなかっただろ、見た限りは」

 そういう台詞は鈴懸台先輩のおかげで学習済みだ。
 それにエヴァ系で両手を振り上げて踊るようなノリの歌は多分無い。

「今日はナユタン星人な気分だったのです。ところで今日から当分の間、夕食含めマンション通っていいですか」

「毎日なら食事分位は出せよ」

「それは大丈夫なのです。カフェテリアより美味しいし露天風呂最高!なのです」

 あ、こいつ余分な事言った。

「ロテンブロ、って何ですか」

 ソフィーちゃんに気づかれた。
 でも彼女はそんな単語は知らないらしい。

「ジャパニーズ、オールドスタイル、アウトドアバスですよ。今日だと月も見えて最高だと思うのです」

「面白そう。私もお邪魔でなければ行ってみていいでしょうか」

 あーあ、1人増えてしまった。

「多少増えてもうちは構わないわよ」

 家主の由香里姉もOKを出してしまう。

「ついでだからルイスも一緒に行こうです。皆で親交を深めるですよ」

「僕は今日、着替えもタオルも無いから」

 お、ルイス、君はまともだ。
 あとロテンブロもしくはフロの意味を理解している模様。
 ひょっとしたら混浴というところまで……と思ったところで。

「タオルや着替え位は、修先輩に借りればいいのです。修先輩、いいですよね」

「あ、ああ」

 余分な助け舟を詩織ちゃんが出した。
 ここで駄目と言えないのが、俺の弱いところだ。

「そうね。私も今日はお邪魔しようかしら」

「なら人数分少し買い出していこうか」

 風遊美さんも奈津希さんもOKとの事らしい。
 いいのか、ここの風紀はこれで。
 まあ問題は起こらないのだけれども。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

開発者を大事にしない国は滅びるのです。常識でしょう?

ノ木瀬 優
恋愛
新しい魔道具を開発して、順調に商会を大きくしていったリリア=フィミール。しかし、ある時から、開発した魔道具を複製して販売されるようになってしまう。特許権の侵害を訴えても、相手の背後には王太子がh控えており、特許庁の対応はひどいものだった。 そんな中、リリアはとある秘策を実行する。 全3話。本日中に完結予定です。設定ゆるゆるなので、軽い気持ちで読んで頂けたら幸いです。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...