機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
71 / 202
第16章 新人歓迎! 新学期

71 硝酸イオンはエロいらしい

しおりを挟む
 ジェニーが走っていって鍵を開ける。
 ドアがすっと開いて、下手をすれば小学生にも見えるくらい小柄な女の子が入ってきた。

「すみません、急におじゃましてしまったです。」

 歩いてくる姿は一見普通に見える。
 が、部屋に入った瞬間、詩織ちゃんの姿が消えた。

「このエアコン、電源コードがありませんがこれも魔法仕様なのですか」

 声が反対側の窓際から聞える。
 見ると窓際のエアコンの下、装置を覗き込む詩織ちゃんの姿があった。

「今の移動って魔法れすか」

 詩織ちゃんはちょっと考える。

「ひょっとして私また魔法、使ってたですか?」

「ほぼ5m、ワープしたわね」

「すみませんです。普通はちゃんと空間に沿って歩くようにしているのですが、気を抜くとつい最短距離を歩いてしまうです」

 説明しつつも、詩織ちゃんは相変わらずエアコンを覗き込んだ姿勢のままだ。

「修先輩、このエアコンは暖気と冷気を手動シャッターで調節して吹き出しているという理解でいいですか」

「あってる。その通りだけど」

 だけどカバーの上から、どうしてわかるのだろう。
 機構は全く見えない筈だけど。

「そっか、電気代がかからないから稼働しっぱなしでも問題ないんですね。季節が変わったり寒暖の差が激しいときだけ調節すれば問題ないから手動で充分。確かに合理的です。シンプルな方が効率もいいし故障も少ないです」

 1人で納得して頷き、また姿を消す。

「台所の熱器具も全部魔法仕様ですね。手前は魔法を通せば熱が出るタイプで、奥は煮込み等用でしょうか、常時220度でシャッターで出力調整しているんですね」

 今度は台所にいきなり現れた。

「で、そろそろ飯にするけれど食べるよな」

 突如目の前に出現した詩織ちゃんを、全く気にしていない奈津希さんも流石だ。

「ありがとうなのです」

 そして満面の笑みでそう答える詩織ちゃんは、間違いなく天然だ。

「やっぱり魔法器具って便利なのです。これが本土に波及すればすごく便利になると思うのです」

「既存産業との兼ね合いもあるからね。持ち出しの際に高い税金がかかるから、結局普及できないでいる訳だ」

「でもあのエアコンなんて便利なのです。うちの実家は北海道ですから、あの暖房側だけでもあればとっても便利なのにって思うのです」

 詩織ちゃんは北海道出身なのか。
 あ、エアコンと言えば。

「そう言えばエアコンのカバー越しに、どうして構造が分かったんだ?」

「私の魔法のせいらしいのです。いわゆる縦横高さの3次元以外の方向も見えるし使えるという事らしいです。私としては特に意識もしていないのです」

「ひょっとして寮からここへ来る時も、特に意識しないで歩いてたれすか」

「見てたのですか? 誰もいないと思ったんで最短ルートを歩いてしまったのです」

 成程。
 色んな次元からみた最短ルートを歩いた結果、あんな変な状態になった訳だ。
 そして本人にそれが特別だという意識はあまりない、と。

 ◇◇◇

 詩織ちゃんの天然ぶり。
 それは露天風呂でも遺憾なく発揮されていた。

 さっきは配管に沿って色々歩いていた。
 今は浄水装置が組込まれた一服用デッキの前でしゃがみ込んでいる。
 全裸でだ。

「修先輩、ここの2層のフィルターは何なのですか」

「大きいゴミを除く物理フィルターと有機物を除く魔法膜フィルター。どっちも週に1度200ℓ程度の水で流して残留物と汚れを流してる」

 俺は視線を動かしもせずに答える。

「成程、水を汚す成分の殆どは確かに有機物なのです。蓄積された無機物も清掃の際に使う水を補充することによって問題ない程度の濃度に収まるという訳なのですか」

 理解が早いのはいい。
 でももう少し、自分がどう見えるかは意識して欲しい。

 詩織ちゃんは身体も小さいが発育も遅め。
 目に入るとある種罪悪感を感じてしまう。
 しかも所々で機構を調査するためか、とんでもない格好をするし。

 ちなみに今日もいつもの面々がいる場所は同じ。
 春休みとの違いは風遊美さんが寮に戻ったこと。
 おかげで俺が気兼ねなくぬる湯で身体を伸ばせる。
 その分余分な目の毒が動き回っているが。

「成程、ひととおり理解したのです」

 詩織ちゃんはそう言うと、ぬる湯の俺の隣へと入ってきた。
 ああ、折角の俺の安寧が。

「あと私に必要なのは実際の工作力なのです。ある程度色々作って鍛えないと。魔法工学科で出た課題をやってみるのもいいのです」

「補助魔法科の方の課題は大丈夫なのか」

「今のところは補助魔法科では特異な課題は出ていないのです。普通科高校と同じ程度の内容なのです」

「魔法工学科の課題って、また空飛ぶ機械の概念設計か」

 詩織ちゃんは意外そうな顔をして俺の方を見る。

「あれ、修先輩も知っているのですか」

「毎年出ているんだよ。香緒里ちゃんの代も、俺の代も、その前も」

「よし! なら負けない位面白いのを創ってみるのです」

 そう言ってガッツポーズを取るのは止めてくれ。
 視界の端に水面上に出たトップが見えてしまったぞ。

「あとは全然関係ないけれど、このお風呂ってエロいのです」

 こともあろうに俺の横で、詩織ちゃんは危険な発言をする。

「まあ風呂だから裸なのはしょうがないだろ」

「裸なのは問題ないです。問題なのはこの水に含まれる不純物なのです」

 何を言いたいのだろう。

「有機物、つまり排泄物とか分泌物のほとんどの成分は有機物なのでフィルターでクリアされます。でもナトリウムとかカリウムとか無機物はそのままなのです。つまりこのお湯の中には修先輩や香緒里先輩達由来のカリウムとかナトリウムとかがイオン状態で浮遊しているのです。そう思うと何かエロいです」

 うーん、この子の思考はかなり特殊なようだ。
 問題ないと香緒里ちゃんが言った意味をしみじみ納得する。

「わかりませんかねえ。こんなにエロいと思うのですが」

「何かエロい話でもあるのかい」

 あ、大魔王がやって来た。

「聞いて下さい奈津希先輩。修先輩に、このお湯の中には先輩達由来の無機イオンが浮遊していてエロいって話したんですけれど、全然理解してくれないんですよ」

「うーん、有機物ならエロいかもしれないけれどなあ。せめて尿酸くらいなら」

「炭素を含んでいるかで分けていますから尿酸はフィルタを通れません」

「有機物でなくて無機物のイオンというところが奥ゆかしくてエロいんですよ」

「強いて言えば硝酸イオンくらいならエロいかもしれないけどな。あれならエロいところ通っている可能性は大だし」

「きゃああ、硝酸イオンエロすぎです。奈津希先輩エッチなのです!」

 俺には訳がわからない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...