機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第15章 とっても長い春休み⑵ 過度な宣伝はやめましょう

66 謎で噂な秘密基地

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 何か最近、まわりの視線がおかしい。
 俺の気のせいだろうか。

 春休み中だが、居残っている学生は多い。
 研究会だの何だので、学生が結構学内をうろうろしている。

 俺も時々、工房や学生会室や研究室等へ行くために学校へ行く。
 その際、どうも注目を集めているような気がするのだ。
 特に誰にという訳ではないのだが。

 もやもやした気分を抱えながら工房へ向かう。
 と、工房の前で男女学生が4人程、中をうかがっていた。
 顔を見ると、確か新3年生と新2年生だ。
 名前は俺は知らないけれど。

「どうかしましたか」

 俺は声をかける。

「ここが学生会の工房だって、本当ですか」

「本当ですよ。中を見ますか」

 以前は口外禁止の上、関係者以外は立ち入り厳禁だった。
 香緒里ちゃんが狙われたり、所属不明の工作機械があったりしたから。

 今は安全も確保されたし、中の機器の所属も学生会のものと確認された。
 だから積極的な広報こそしていないものの、秘密にはしていない。
 見学も立ち会いさえあれば自由だ。
 なので俺はシャッターを開け、中が見えるようにする。

「本当だ。フライングシップもフライングベースもある」

「謎のバネ教団の痕跡もあるわ」

「とすると、まさか空スパの神像とかピンクユニコーン像も」

「それは見当たらないわね」

「あと隠し部屋へのはしごも無さそうだな」

「呪われた日本刀は飾ってあるわね」

 何か訳のわからない事を言いながら、中を覗き込んでいる。

「何なら中へ入ってみてもいいですよ」

 俺がそう言うと、4人とも興味深そうに入ってきた。
 まあ俺の工房には、盗まれて困るほどのものはない。
 香緒里ちゃんのバネ工場の方は、ジェニーの在庫管理魔法がかかっている。
 盗まれたらその場でわかるので心配いらない。

「おお、でも大体噂の通りだな」

「永劫の竈も3つありますしね」

「禁断のベッドは無いようですね」

 あまりに何かわからないことを言っているので、俺はつい聞いてみた。

「何かお探しですか」

 すると先頭の、おそらく3年の補助魔法科の男子生徒が軽く頭を下げる。

「僕らは探検部の取材班です。この特区や学校の調査活動をしているのですが、ここのところ噂の学生会の秘密基地を調べてくれとの要望が多くて」

「今日は下調べのつもりで来たのですが、監査さんがいてくれて良かったです」

 俺はそんな噂を聞いたことはない。

「どんな噂ですか」

「印刷もしてきましたが、もしネットが見られればその方が早いかと」

 ならばという事で、俺はネット閲覧可能な制御端末に案内する。
 さっきの男子生徒がキーボードを叩いてあるページを表示させた。

「もともとはSNSでの書き込みなんですが、誰かが書き込みをまとめたイラストを描いて、アップしてくれたんです」

 何やら見覚えのあるタッチで、この工房内部の鳥瞰図が描かれている。

 内部には、
 ○ バネを崇め奉る謎のバネ教団の教会
 ○ 空飛ぶスパゲティモンスターの神像
 ○ 見えざるピンクのユニコーンの神像
 ○ 生贄を解体する巨大な作業台
 ○ 生贄を解体するための呪われた日本刀
 ○ 永遠に火を吹き続ける永劫の竈
 ○ 愛が破れた禁断のベッド
が描かれており、更に、
 ○ 移動秘密基地フライングベース
 ○ 緊急脱出艇フライングシップ
の基地を兼ねているとなっている。

 更に外には、
 ○ 深夜全裸で踊る女の幽霊が出現
と記載がある。

 何だこれは。こんなのが公表されていたのか。
 ただこの時点で俺には、噂を流した犯人の見当はついている。
 間違いなく内部犯だ。

 しかしまず、ここで噂の誤解を解いておく必要があるだろう。

「それならこの噂の解説をしましょうか」

 探検部の面々が頷いたので、俺は順繰りに解説していくことにした。
 まずは謎のバネ教団ではなく、香緒里ちゃんのバネ工場だ。

「まずこのバネについては、宗教でも何でもありません。ある魔法工学科の学生がバネに関する魔法でパテントを取って通信販売をしている、その作業所です。パテントの番号は017-332Eで検索すると出てくると思います」

 メモを取ったり写真を撮ったりする取材班の作業を見ながら次へ。
 俺の工房の作業台の前で止まって説明。

「これは単なる作業台で生贄を解体するなんて事はしていません。大型の金属部品を扱う事が多々あるので、それにあわせて大きく作っただけです」

 そして壁に鞘無しでかけてある日本刀へ。

「これはある魔法工学科の1年生が、日本式の刃物を作る練習の過程で作った日本刀です。一応藁苞で試し切りはしましたが、生贄解体などという血生臭い用途には使っていません。あくまで習作です」

「でも本物の日本刀ですよね」

「作り方は別として、機能的にはそうです。例えば」

 俺はあたりにあった適当な細い木切れをもって、日本刀に近づける。
 刀の刃の部分に木切れを当てて、そっと滑らせた。

「これ位ならあっさり切れます」

 おーっ、という歓声。
 次は竈だ。

「これは日本刀等の、和式の刃物を作るために使う竈です。付加魔法で常時1,500℃以上になるように、魔法をかけられています。またそれぞれの炉は、日本刀等を作るのに便利な付加魔法がかかっています。魔法はそれぞれ接着、成分不変、展延性増大の3種類です」

 そしてキャンピングカーの方へ歩きながら説明。

「神像なんてここにはありません。ここはあくまで工房ですから。まあ見えざるピンクのユニコーンは見えないので、見えないし触れないけれど存在していると言われると困りますけれど。空スパ像も同じです。あと、確かに今月頭までは私が仮眠するためのパイプベッドがありましたが、フレームを他の資材に使ったので現在はありません」

 そしてキャンピングカーの扉を開ける。

「これは前学生会長の、私有マイカーです。確かに飛行機能もついていますが、中は普通のキャンピングカーです。見ますか」

 全員頷いたので中へ案内。

「お、本当にキャンピングカーだ」

「なかなかいい感じですね」

「中古のキャンピングカーですが、ひととおり整備し直してあります。噂通り飛行機能もついていますが、空中での推進と姿勢制御に結構な魔力を使います。あと当然ですが、公道では普通免許が必要です」

「飛ぶんですか」

「何なら軽く浮かせてみましょうか」

 俺はそう言って運転席につく。
 ハンドルを引いて軽く手前へ。
 すっと1メートルくらい車体が浮いた。

「おおおっ」

 再び歓声。
 俺はハンドルを押してキャンピングカーを着地させ、それから外へ。
 全員出てきたのを確認して鍵を閉めてから、最後にボートを案内する。

「これは春休み直前に作った作品で、飛行原理はキャンピングカーと同じです。軽い分だけ必要な魔力が少ないです。個人認証がありますから、学生会幹部しか動かせません」

 本当は個人認証などない。
 隠しスイッチがあるだけだ。

「これも乗ってみていいですか」

「どうぞ。何なら飛ばしてみましょうか」

「ぜひお願いします!」

 との事なので4人を載せて少し浮かす。
 そのまま工房を出て、そして一気に上昇。
 学校を見下ろす位の高さまで上がる。

「思ったより安定していますね」

「加速度センサで姿勢制御していますから。ただ風には弱いので姿勢は低いままでお願いします」

 俺はそのまま学校上空を1周して、そして工房へと戻った。
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