機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
65 / 202
第15章 とっても長い春休み⑵ 過度な宣伝はやめましょう

65 学生会も宣伝しよう

しおりを挟む
 春休みだが、今日は真面目に学生会の活動をしている。
 現場はいつものマンションのリビングだけれども。

 今日の面子は新学生会役員と由香里姉。
 そして仕事は、新入生対象の学生会役員補佐募集ポスター作成だ。

 出来れば2人は新人が欲しい。
 2人というのは、学年毎にそれ位はいないと引き継ぎが大変だという経験から。

「学生会活動の売りになる活動って何だろうな」

 俺のその言葉に、周りの空気が凍る。

「学祭の美味しいところは、実行委員会が握っているしな」

「基本的に裏方ばかりですね」

 早くも詰んでいる。

「『一緒に高専生活を支えよう!』と言って誤魔化しましょうか」

「それくらいしか書きようがないですね」

 実際、予算処理とか苦情処理とか要望受付とか、地味な仕事ばかりなのだ。

「まさか露天風呂使い放題とか書けないれすしね」

「エロい男子が大量応募してきたら、どうするんですか」

 ジェニーの台詞へ突っ込んだ俺に、奈津希さんがにやりと笑う。

「そりゃあ見た目で選別した後に、一緒に露天風呂に入って観察させて頂くさ。美味しそうなら味見もいいな。お姉さんが教えてア・ゲ・ルなんてな」

 危ない発言は無視だ。

「あとポスターの背景はどうします。適当に選んだサムネイルを出しますから、選んで下さい」

 パソコンに接続した液晶テレビに、それっぽい写真を並べる。
 学生会室の写真とか、校舎を上から撮影した画像とかだ。

「うーん、いまいちありきたりだよな」

「絵的に面白い活動は無いからね」

「魚釣りとか無人島海水浴の写真は?」

「このパソコンの中にはないですね」

 そう俺が言ったところで、香緒里ちゃんが口を開く。

「一応、スマホで取ったのがありますけれど」

  どうやら撮っていてくれたようだ。

「送って。メールでもKURONEKOでもいいから」

 KURONEKOというのは、魔技大と魔技高専で使われているSNSだ。
 香緒里ちゃんから何枚か写真が送られてくる。

「あ、このあたりいいんじゃない。何か青春している感じで」

「こんな活動もしていたんですね」

「マンション買うまでは、露天風呂もゲリラ的に無人の浜でやったりしていたからね」

「そんな楽しそうな事もしていたのか」

 色々収拾がつかなくなりそうな中、俺は取り敢えず学校を上空から撮った写真を背景に、いくつかの良さげな写真を組み合わせてポスターの案を作る。

「概ねこんな物ですかね」

 作ったポスター案を液晶テレビに映す。

「いいんじゃない。どうせ募集は2名程度だろ」

「多くても困りますしね」

「無難な線です」

 大体は賛意を得られたので、学校の俺のアカウントに送信。
 後で学校の準備室のカラープリンタでA3で印字して、適当に貼ればOKだ。

「他にも何か宣伝しますか」

「うーん、フライヤー撒くほど人数は募集していないしね」

 皆で考えたところで。

「何ならHPとかブログとか、一般SNSで発信でもしてみるれすか」

 ジェニーが結構まっとうな提案をしてきた。

「前の学校時代にサークルのブログの管理していたれすから、得意れすよ。もし良ければ、私が作って管理するれすが」

「面白そうですね。頼んでもいいですか」

 新会長様が食いついた。

「任せて下さいれす」

 ジェニーが軽く請け負ったので、取り敢えずこの件はジェニーに一任ということになった。

 ◇◇◇

 その日から、ジェニーは部屋にこもる時間が増えた。
 今までは割と遅くまで露天風呂やリビングにいたのに、割と早めに自室に引っ込むようになった。

 まあ俺も割と自室引きこもり型なので気づかなかったのだが、ポスター作成から3日後の夜、夕食時に香緒里ちゃんがジェニーに尋ねたので気がついた。

「ジェニー、最近部屋から出てこないけど大丈夫?」

 ジェニーはにっこり笑う。

「最近お絵かきあまりしていませんれしたが、やっとカンが戻ってきたれす。HPも大分出来て来ますた」

 表情を見るに自信がありそうだ。

「なら皆で見てみようぜ」

 奈津希さんの意見に全員が賛同したので、食事後皆で液晶テレビの前に集まる。
 俺のパソコンと液晶テレビを接続して、ブラウザを立ち上げる。

「ジェニー、アドレスを教えて」

「検索で魔技高専と打てばでるすよ」

 既に検索エンジン対策もしているらしい。

 俺が検索をかけると公式のHPのすぐ後に『魔法技術高専 学生会公式ブログ』というのが出てくる。
 検索順位も既に上位だ。

「これでいいのか」
「そうれす」
との事でクリックしてみる。

 途端に派手な画面が現れた。
 寄席とか落語とか笑点を想像するような赤と黄色と黒と緑のしましまの幕。
 千客万来と書かれている赤提灯の列。
 後ろ中央に『魔技高専学生会』と勘亭流で書かれている額。

 そして座布団の上に乗っかっている萌え絵風の招き猫娘が6人、横に並んでいる。
 間違ったジャパニズム満載の絵だが、上手いし良く描き込んである。

「これ全部、ジェニーが描いたのか」

「文字だけはフリーのフォントれす」

 つまり絵は、全部ジェニーが描いたということだ。

「まずは左の緑色の着物の猫娘にマウスポインタをあわせてみてれす。」

 合わせると緑色の着物の猫娘が巻物をばさっと広げる。
 巻物には、『役員紹介』と勘亭流で書かれていた。

 クリックする前に他の猫娘にもそれぞれカーソルをあわせてみた。
 それぞれ『学校紹介』、『生活案内』、『学生会活動』、『じぇにい日記』、『りんく』と文字が出てくる。

「凝っているなあ、これ」

 奈津希さんが感心している。

「ジェニー、どれがお勧め?」

「まずは役員紹介れす」

 ならばという事で、俺は最初の猫娘をクリック。
 画面が変わって教室風になる。
 そこに4頭身くらいにデフォルメされた5人が横並びに並んでいる。

「割と似ているです」

「確かに、誰か一目でわかるわね」

 萌え絵にデフォルメされてはいる。
 でも知っている人が見ればどれが誰だか一目瞭然だ。

 俺は何の気無く、風遊美さんと思われる白髪緑瞳のキャラをクリックする。
 下に解説が出てきた。

『学生会会長 攻撃力B 防御力A 魔力A+ 機動力A+ B78W55H78(じぇにい推定)補助魔法科4年。総合戦闘力は学生会最強。北欧出身で謎が多い。むっつりとの噂あり』

「何ですかこれ」

「スリーサイズはジェニーの推定れす。間違っているれすか」

「大体、あっています……」

 次に俺は、奈津希さんと思われるキャラクターをクリックする。

『学生会副会長 攻撃力A 防御力A 魔力B 機動力A B83W62H84(じぇにい推定)攻撃魔法科4年。全属性の攻撃魔法を使えるが、その実力は戦闘以上に料理に発揮される。性別は女だが、以前は彼女がいた両性愛者。下ネタの帝王だが多分まだ処女(じぇにい推定)』

 本人は大笑いしている。

『学生会監査役 攻撃力D 防御力C 魔力D 機動力C BWH男なので省略。魔法工学科3年。天然女たらしの噂があるが、本人はメカフェチで女性に興味ない。最弱だが何でも作れる工匠』

『学生会会計 攻撃力A+ 防御力C 魔力A+ 機動力C B80W58H82(じぇにい推定)魔法工学科2年。実は最強との噂あり。ブラコンで監査役の後を追って当高専に入校したが、報われていない。当校学生の稼ぎ頭で金持ち』

『学生会書記 攻撃力C 防御力C 魔力C 機動力B B88W60H84(じぇにい自称)補助魔法科2年。元オタクで二次元で日本語を学んで留学。両足の義足作成時、現監査役に下半身の全てのデータを確認されている』

「何か微妙にエグくない」

 これは由香里姉。めずらしく真っ当な意見だ。

「これ位は大丈夫だろ。直接的な表現も無いし」

 下ネタ帝王で推定処女はそう言うが大丈夫だろうか。

「一応、『あくまでじぇにいの主観で現実と異なる場合もあります』との但し書も付けたれすし、大丈夫れすよ」

 そう言ってジェニーは俺からノートパソコンを取り上げ、自分で操作。
 画面が変わって『生活案内』になった。

 斜め上から島の学校側を描いた鳥瞰図が現れる。
 寮をクリックすると、寮の部屋の間取りと、窓側を見て描かれた部屋の風景が現れる。
 同じようにスーパーや学食等も。

「よく描けています。確かにこれなら新入生の方も生活イメージが掴みやすいです」

「実はこの画面、レアキャラが隠れているれす」

 ジェニーはそう言って、学校の影に半ば隠れた俺の工房をクリックする。

 するとキャンピングカーと舟のアイコンが出現した。

『前学生会長専用フライングベース そこそこ大きなキャンピングカーで飛行可能。定員6名。要普通免許。必要魔力B以上。前学生会長私有機』

『学生会監査専用フライングシップ 漁船型飛行物体。定員8名前後。必要魔力D以上。学生会幹部活動専用機』

 説明後にアイコンを更にクリックしてやると、浮き上がって飛んでいき、しばらくするとまた元の場所に戻っていく。

「凝っているなあ、これ」

「HTML5対応れす」

 思ってもみなかったジェニーの特技だ。
 絵だけでなくHTMLも書けるんだな。

「あとは生活豆知識ろか、日記を毎日少しずつ書き加えていく予定れす」

「これなら新入生の1人2人くらいは釣れそうかな」

「そうですね。この調子でお願いしてもいいでしょうか」

「任せるれす」

 そしてHPは日々充実していった。
 いつしか、俺達が全容を把握できないくらいまで……
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...