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第14章 とっても長い春休み⑴ 漁船と宴会と怪しい朝と
62 食べずに後悔するよりも
しおりを挟む「…………」
車内は、無言に包まれていた。
シーは後ろの席で、寝ているかのように目を閉じている。
支配者クラスは車なんて使わなくても移動に困らない。むしろ、シュウのように、狭い車内にいる方が煩わしいと感じる方が普通だ。
ただ、シーは車が好きなのか、これまでも何度もシーは、俺に運転を命じて、移動に使っている。
今日もコウの住居からの帰りも車を選んだ。
(それにしても、何故シー様は、コウ様、シュウ様と今日お会いになったのだろうか……)
シーは、中央政治局常務委員会の後、シュウと共にコウに会った。
それはよく考えると、大きなリスクだ。
もし、コウとシュウが力を合わせれば、シーは負けていたのではないか。
コウもシュウも、シーが総書記になったときに、影響力を残したいと考えている。
だから、コウとシュウが、共謀してシーを襲い、思力で支配しようとした可能性は大いにあったはずだ。
俺は再度ミラー越しにシーの表情を見た。シーは目を閉じ、休んでいるように見えた。
「何故、自分を重要な場に連れ出すのだとでも聞きたそうだな」
突然シーは俺にそう話しかけてきた。まだ目は閉じたままであったが。
「あ、い、いえ……。それもあるのですが、何故今日コウ様にお会いになったのでしょうか。危険ではなかったのですか?」
俺は、今ある疑問を率直に聞いた。
シーからこのような形で話しかけてることなんて殆どない。シーが何を考えているのか聞ける滅多にないチャンスであった。
「そうだな。コウ様とシュウ様も虎視眈々と私の隙を狙っていたよ」
「え!? ということは、先程のコウ様との面会、思闘になってもおかしくなかったということですか?」
「ああ……。ただ、コウ様、いや、中央政治局常務委員になるような者は、リスクは絶対に侵さない。今日、私が、コウ様、シュウ様と闘えば十中八九負けていただろう。ただ、十中八九ではコウ様は動かない。絶対に勝てるという確証がなけれな」
「……そうなのですか」
「それに、コウ様もシュウ様も私の力を測りかねている。七光りで力の無い私が、あの絶大な思力を誇るボアに勝ったのだからな」
「そ、そんなことは……」
「いや、私は、私の力を知っている。それが私の強みだからな。それに、ルーも役に立っていたのだぞ」
「え、私が……!?、ですか?」
「ああ、何故私が、ボアに勝てたのか、コウ様もフー様も調べはしてるだろう。ただ、あれは密室で起こった。だから、私達以外本当の事は分からない。ただ、そんな中、私とボア以外、唯一あの部屋にいた者がいて、その者を私が側近にして、しかも重要な会議に連れ回しているのだ。ルー、貴様は自分が想像出来ないほど、周りからは異様な存在として見られているぞ」
「え、え!? そんな風に?」
「ただの男が、私とボアの対決の場にいた。そして、他の場面でも支配者クラスのプレッシャーに平然としている。何かあの男には裏があるのでは? それが私が、ボアに勝った理由なのでは?と皆、疑心暗鬼なのだ。中央政治局常務委員は、計算できないリスクを最も嫌う。そして、他から見たらルーはその計算できないリスクなのだよ」
「い、いや、平然としていた訳では……」
「ㇵㇵッ、そうだな。今日は醜態だったな。私としてはもっとしっかりできると期待していたぞ。コウ様の色気に当てられて、前後不覚だったな」
「い、いや、その。それは本当に至らず申し訳ありませんでした……。」
「ま、及第点だな。確かに、コウ様の色気に耐えられる男はそうはいない」
「しっかり修練に励みます……」
「そうだな。名実共にルーは私の切り札だ。半分はブラフだが。シュウ様は、私が、ルーをコウ様の所に連れて行くと言ったとき嬉しそうにしていただろ?」
「そ、そうでしたでしょうか。むしろ、反対していたような」
「私が、連れて行かなければ理由を付けてルーをコウ様の前に連れていっただろうよ。コウ様もシュウ様も今日の一番の目的はルー、貴様が私の手札なのかの確認だったのだよ」
「え、ええ!? ボア様の事や、新中央政治局常務委員のことなど、重要なお話がたくさんあったではないですか」
「ボアの件は、私が、ボアに勝った時点で結論は決まってたさ。難くせつけてるのは、フー様に主導権を握られないため。新中央政治局常務委員も、もし本気で反対するなら、私が、フー様と面談した直後にはシュウ様が飛んできたさ」
「そ、そういうものなのですか……?」
「ああ、オウキが暴れん坊で手に負えないなんてコウ様、シュウ様が知らないはずないだろう。ただ、自分たちからフラワーセブンにする案は提案しにくい。私に提案させたかったのだ」
「では、すべて、コウ様の思い通りにシー様は動いたということですか……」
「もちろん、私にもメリットはあるからな。そんなことはコウ様もシュウ様も分かっている。それよりも、ルーだったのだ。しかも、コウ様の思力に耐えてみせた。ますます、ルーに対する疑念が深まっただろうよ。だから、コウ様は、今日はリスクを侵さなかった」
「……そうだったのですか。自分がコウ様の思力に耐えられなかったらと思うとゾッとします。あの時、助けていただきありがとうございました」
俺の礼にシーは特に応えなかったが、微かな笑みを浮かべて、これで会話は終わりだとでも言うように、また目を閉じた。
(これが、この国の上層にいる支配者クラスのの駆け引きか……。シー様も相当なプレッシャーだったのだろうな。)
そんなプレッシャーに解放されたからなのか、いつものシーと違い口数が多かった。
そして、普段、何も考えていないようなシーはやはり見せかけで、支配者クラスのトップにいるに相応しい神算鬼謀を謀っているということがわかった。
俺は、再度、ミラー越しにシーを見た。
目を閉じ休むシーは、年齢に見合わず、まだ成熟していない少女のようであった。
ただ、その少女の中身には、闇よりも濃い、支配欲を潜んでいる。
俺は、そのことを改めて、心に刻んだ。
車内は、無言に包まれていた。
シーは後ろの席で、寝ているかのように目を閉じている。
支配者クラスは車なんて使わなくても移動に困らない。むしろ、シュウのように、狭い車内にいる方が煩わしいと感じる方が普通だ。
ただ、シーは車が好きなのか、これまでも何度もシーは、俺に運転を命じて、移動に使っている。
今日もコウの住居からの帰りも車を選んだ。
(それにしても、何故シー様は、コウ様、シュウ様と今日お会いになったのだろうか……)
シーは、中央政治局常務委員会の後、シュウと共にコウに会った。
それはよく考えると、大きなリスクだ。
もし、コウとシュウが力を合わせれば、シーは負けていたのではないか。
コウもシュウも、シーが総書記になったときに、影響力を残したいと考えている。
だから、コウとシュウが、共謀してシーを襲い、思力で支配しようとした可能性は大いにあったはずだ。
俺は再度ミラー越しにシーの表情を見た。シーは目を閉じ、休んでいるように見えた。
「何故、自分を重要な場に連れ出すのだとでも聞きたそうだな」
突然シーは俺にそう話しかけてきた。まだ目は閉じたままであったが。
「あ、い、いえ……。それもあるのですが、何故今日コウ様にお会いになったのでしょうか。危険ではなかったのですか?」
俺は、今ある疑問を率直に聞いた。
シーからこのような形で話しかけてることなんて殆どない。シーが何を考えているのか聞ける滅多にないチャンスであった。
「そうだな。コウ様とシュウ様も虎視眈々と私の隙を狙っていたよ」
「え!? ということは、先程のコウ様との面会、思闘になってもおかしくなかったということですか?」
「ああ……。ただ、コウ様、いや、中央政治局常務委員になるような者は、リスクは絶対に侵さない。今日、私が、コウ様、シュウ様と闘えば十中八九負けていただろう。ただ、十中八九ではコウ様は動かない。絶対に勝てるという確証がなけれな」
「……そうなのですか」
「それに、コウ様もシュウ様も私の力を測りかねている。七光りで力の無い私が、あの絶大な思力を誇るボアに勝ったのだからな」
「そ、そんなことは……」
「いや、私は、私の力を知っている。それが私の強みだからな。それに、ルーも役に立っていたのだぞ」
「え、私が……!?、ですか?」
「ああ、何故私が、ボアに勝てたのか、コウ様もフー様も調べはしてるだろう。ただ、あれは密室で起こった。だから、私達以外本当の事は分からない。ただ、そんな中、私とボア以外、唯一あの部屋にいた者がいて、その者を私が側近にして、しかも重要な会議に連れ回しているのだ。ルー、貴様は自分が想像出来ないほど、周りからは異様な存在として見られているぞ」
「え、え!? そんな風に?」
「ただの男が、私とボアの対決の場にいた。そして、他の場面でも支配者クラスのプレッシャーに平然としている。何かあの男には裏があるのでは? それが私が、ボアに勝った理由なのでは?と皆、疑心暗鬼なのだ。中央政治局常務委員は、計算できないリスクを最も嫌う。そして、他から見たらルーはその計算できないリスクなのだよ」
「い、いや、平然としていた訳では……」
「ㇵㇵッ、そうだな。今日は醜態だったな。私としてはもっとしっかりできると期待していたぞ。コウ様の色気に当てられて、前後不覚だったな」
「い、いや、その。それは本当に至らず申し訳ありませんでした……。」
「ま、及第点だな。確かに、コウ様の色気に耐えられる男はそうはいない」
「しっかり修練に励みます……」
「そうだな。名実共にルーは私の切り札だ。半分はブラフだが。シュウ様は、私が、ルーをコウ様の所に連れて行くと言ったとき嬉しそうにしていただろ?」
「そ、そうでしたでしょうか。むしろ、反対していたような」
「私が、連れて行かなければ理由を付けてルーをコウ様の前に連れていっただろうよ。コウ様もシュウ様も今日の一番の目的はルー、貴様が私の手札なのかの確認だったのだよ」
「え、ええ!? ボア様の事や、新中央政治局常務委員のことなど、重要なお話がたくさんあったではないですか」
「ボアの件は、私が、ボアに勝った時点で結論は決まってたさ。難くせつけてるのは、フー様に主導権を握られないため。新中央政治局常務委員も、もし本気で反対するなら、私が、フー様と面談した直後にはシュウ様が飛んできたさ」
「そ、そういうものなのですか……?」
「ああ、オウキが暴れん坊で手に負えないなんてコウ様、シュウ様が知らないはずないだろう。ただ、自分たちからフラワーセブンにする案は提案しにくい。私に提案させたかったのだ」
「では、すべて、コウ様の思い通りにシー様は動いたということですか……」
「もちろん、私にもメリットはあるからな。そんなことはコウ様もシュウ様も分かっている。それよりも、ルーだったのだ。しかも、コウ様の思力に耐えてみせた。ますます、ルーに対する疑念が深まっただろうよ。だから、コウ様は、今日はリスクを侵さなかった」
「……そうだったのですか。自分がコウ様の思力に耐えられなかったらと思うとゾッとします。あの時、助けていただきありがとうございました」
俺の礼にシーは特に応えなかったが、微かな笑みを浮かべて、これで会話は終わりだとでも言うように、また目を閉じた。
(これが、この国の上層にいる支配者クラスのの駆け引きか……。シー様も相当なプレッシャーだったのだろうな。)
そんなプレッシャーに解放されたからなのか、いつものシーと違い口数が多かった。
そして、普段、何も考えていないようなシーはやはり見せかけで、支配者クラスのトップにいるに相応しい神算鬼謀を謀っているということがわかった。
俺は、再度、ミラー越しにシーを見た。
目を閉じ休むシーは、年齢に見合わず、まだ成熟していない少女のようであった。
ただ、その少女の中身には、闇よりも濃い、支配欲を潜んでいる。
俺は、そのことを改めて、心に刻んだ。
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