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第13章 冬の終わり頃の、ある記念日に

60 皆で試食会(1名除く)

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「じゃあ誰のから開封する」

「では無難に鈴懸台先輩と月見野先輩から頂いたものから」

 俺は丁寧にラッピングされた箱を開ける。
 出てきたのはスマホ大の長方形で、大きくホワイトチョコで『義理』と書いてある。

「本命チョコの皆様に敬意を表して、だな。それに四角い方が食べやすい」

「私はもう少し、普通のデザインにするつもりでしたけれど」

 多分飴玉や色チョコでデコレーションしているあたりが月見野先輩の主張で、四角い形と義理の文字が鈴懸台先輩の主張なのだろう。

「次は私の希望れす」

 という事なので、ジェニーから貰った平たい箱を開ける。
 薄い青色のハート型という、ある意味チョコらしくない色のチョコレート。

「ちょっと色を工夫してみたれす。可愛い色に出来たれす」

 確かに色としては可愛いが、青色というのはチョコレートの色というか、食べ物の色として適切なのだろうか。
 次に俺はちょっと背の高めの箱を取る。

「これは風遊美さんのですよね」

「気に入って頂ければいいのですが」

 ちょっと期待しつつ開けると、中は小さな円形の塊だった。
 ケーキというにはちょっと違うけど。

「コーヒーチョコマフィンです。チョコ味だけでは飽きるかなと思いまして」

 確かに甘いものだけの中では重宝しそうだ。
 綺麗に茶色い艶があって、チョコチップとナッツがところどころに見えている。
 素直に美味しそうだ。

「じゃあ同じ箱つながりで、香緒里ちゃんのを開けるよ」

 出てきたのはチョコレートケーキ、じゃない。
 分厚いハート型チョコ。厚さ約5センチ。
 カラフルチョコで飾り付けをしてあるが、基本的にはチョコの塊そのもの。

 おいおい、これどうやって食べるんだ。
 そう思いつつも、取り敢えず表情には出さないようにする。

「一昨年は色々やって失敗した憶えがあるので、今年はシンプルに作ってみました」

 ちなみに一昨年のとは、涙のように苦いチョコレートケーキだった。
 本人は焦げの色とチョコの色の違いに気づいていなかったようだが。
 それに比べると今年のは、きっとチョコそのものは美味しいから、まあいいか。

「最後は由香里姉のですね」

 今年こそシンプルなの、と願いつつ箱を開ける。

 巨大なハート型。サイズA4大。厚さも1センチ強。
 ピンクの無駄にかわいい字体で、『EAT ME!』とでっかく書いてある。

 うわーっ、漫画でしか見ないような、ベッタベタの本命チョコだこれ。
 なんという気恥ずかしい代物だ。

「今年は奈津希がいたからテンパリングも万全だし仕上がりも思い通りよ」

 うーん、やっぱり薊野姉妹のセンスは今年も変わらないか。
 まあ今年は味に問題がない分だけ、ましかもしれない。

「やっぱり奈津希、自分の分は無しで本当にいいんですか。」

 奈津希さんの分がやっぱり無い。
 風遊美さんが奈津希さんに再度尋ねる。

「そうだね、それではこの日のために作った構想ウン年制作1週間の大作をもってくるよ。楽しみに待っててな」

 奈津希さんはにやにやしながら客室へと姿を消す。

「何を用意しているのでしょうかね」

「ろくなものではない可能性が高いと思います」

 月見野先輩と風遊美さんがそんな事を話しているうちに。

「じゃーん!ジャジャジャジャジャジャーン!」

 奈津希さんの声がドアの向こうからした。
 注目しろ!という事だろう。
 そして扉が開き、奈津希さんが登場する。

「えっ!」

 全員が絶句した。

 奈津希さんの服装はほとんど裸に近い。
 申し訳程度のビキニだけををまとっている。
 チョコレート色の。

「今年の新作、水着型チョコレートだ!」

 あまりの馬鹿馬鹿しさに全員が真っ白に燃え尽きる中、つい俺は聞いてしまう。

「それ、本当に全部チョコレートなんですか」

 素材強度的に疑問があったのだ。

「よくぞ聞いてくれた修君。本当は全部チョコレートで作る予定だったのだがビキニにするには強度が足りなくてな、だから殆どはチョコレート色の光沢がある人工皮革だ。ただし!」

 そう言って奈津希さんは、両手両足を広げたポーズで俺のすぐ前に立つ。

「よく見ろ、胸の2箇所と下の1箇所、艶が微妙に違う場所があるだろう。ここだけはチョコレートだ。常時魔法で冷やしてやらなければ溶けて丸見えになるがな」

 よく見ると乳首の付近と股間の女性器部分の素材感が違う。

「何という物をつくっているんですか!」

 溶かしたチョコを身体にかけるのは、アダルトビデオであった気もする。
 でもまさか、チョコでビキニを作る馬鹿が身近に実在するとは思わなかった。

「たゆまぬ努力と想像力と魔法によって奇跡のチョコが完成した。チョコ本体はベルギー直輸入で味も確かだぞ。ほれ修、溶ける前に食べてくれ。かじると痛いから優しく舐め取ってくれるとお姉さんは嬉しいぞ。ほれほれ、うりうり」

 右胸の頂点付近を俺の口元へ寄せてくる。
 俺が下がると、その分胸を近づける。
 あ、まずいと思った瞬間。

 不意に奈津希さんが崩れ落ちた。
 その背後には風遊美さん。
 頭を打たないよう、奈津希さんの脇に両手を入れて、何とか支えている。

「うちの代の馬鹿がお見苦しい事をして、申し訳ありません。すぐ片付けますから」

 そのまま風遊美さんは、ずるずると奈津希さんを引っ張って客間へ。
 今崩れ落ちた衝撃で下のパーツのチョコが割れて、一番やばい部分が丸見えになっているのは、取り敢えず見ないふりをしておく。
 チョコに巻き込まないためか毛を剃っているので、よけい丸見えだ。

「何か圧倒されてしまったです」

「いやでも本当にあれを作った技術は凄いと思うよ。布地部分を含め自製だろうし」

「あらゆる方面で優秀なのですが、性格が残念なのです」

 戻ってきた風遊美さんが、そう言ってため息をついた。
 いわゆる『才能の無駄遣い』という奴だろうか。

 まだ『病院が来い』とか『病院逃げて』までは行っていないよな。
 今のを動画に撮って投稿すれば行けるかもしれないけれど。

「さて、これだけチョコが集まりましたから、最初のひとくちを修さんに食べて頂いて、あとは皆で味見しませんか。もちろん全部修さんに食べて欲しいという方がいれば別ですけれど」

「私はそれでいいかな、これ全部修に食べさせたらお腹壊しそうだし」

「私もそれでいいです」

 等々、気絶中の1名を除いて月見野先輩の提案に賛成する。
 そうしてチョコレートパーティが始まった。
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