機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第12章 冬の嵐

56 修復

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 白いサマードレスの少女が俺の前にとことこ歩いてくる。
 これは姉さんの方だな。
 そしてこれは夢だ。
 割と最近よくある事なので、そこまではすぐに理解する。

「修、今回は色々大変だったみたいだけど、状況は把握できている?」

 声と話し方は今の由香里姉だ。

「出血かショックで意識が飛んじゃったからなあ。説明してくれるとありがたい」

 彼女の溜め息が聞こえた気がした。

「という事はほぼ理解できているって事ね。全くずぶどいというか、もう少し自分を大切にしたら」

「でも俺以外は多分大怪我は無いんだろ、意識なくなる前の感じなら。ならそれ程心配しなくてもいいかと」

「自分の心配をしなさいよ。確かに香緒里もジェニーも翠も怪我らしい怪我は無いわよ。敵も撤収済みで残された人員もいない。だから問題は修だけよ」

 予想通りだったが、結果を聞いて安心した。
 なら次の課題だ。

「両腕無しで義手を作るのが面倒だよな。香緒里ちゃんにも協力してもらわないと」

「あのねえ、それを理解している癖にそれだけ他人事のように言えるなんてどういう神経しているのよ」

「こういう神経」

 少女は頭を抱える。

「冗談じゃなく手から神経線維見えているんだからね。何か心配して凄く損している気分。じゃあ次に変わるわ」

 変わるって、いつも通りなら香緒里ちゃんかな。

 そう思ったが現れた少女は香緒里ちゃんではなかった。
 白い髪に緑色の瞳が印象的な水色のサマードレスの無表情な女の子。

「ひょっとして風遊美さん」

「正解です。修君からは私はどんな風に見えているのでしょうか」

「白いおかっぱの髪に緑色の瞳、水色のサマードレスを着た7歳位の美少女」

「修君はロリコンなんですか」

 無表情かつ冷たい口調で言われる。
 ぎくっ。

「意識が多分出会った頃の薊野姉妹にあわせて、型を作っているんではないかと」

「まあ、それは置いておいて」

 風遊美さんは無表情なまま続ける。

「今、私は由香里さんに中継してもらって修君とお話しています。自分の現状は理解していますね」

「両手が切断されたことなら」

 風遊美さんは小さく頷いた。

「なら話が早いです。まず、切断面は修君が意識を失った後、由香里さんが急速冷凍したので本体側も離れた手の側も綺麗に残っています。これについては奈津希が側にいるのでいつでも元の状態に解凍可能です。
 次に、私は補助魔法科として当然ある程度の医療魔法も使えますし医療の知識も持っています。それもご存知ですね」

「ええ。という事は風遊美さんの魔法で両手を繋げられるのですか」

 風遊美さんは首を横に振る。

「出来ない事はないのですが、完全に元通りとまでは保証できないのが実情です。ですが修君はご自分の魔法がありますよね。機械を思い通りに製造する魔法が」

 何を言おうとしているのかは何となく理解できた。

「でも、あれは機械限定の魔法です。生物に応用したことは無いですが」

「原理は同じです。特に今回は切断されたものを繋ぐだけですから。必要なら私の記憶を使って医療知識を引き出して下さい。自由に使っていただいて結構です」

 ちょっと俺は考えて気づく。

「それだと風遊美さんの全部の記憶を読み放題って事になるけれど。いいんですかそれで」

「私は構いません。見たいと思うならこのチャンスに私の恥ずかしい記憶でも何でも読んで結構です」

 あくまで無表情で冷静な口調のまま、風遊美さんはそう言い放つ。
 記憶を見られるなんて、ある意味裸になる以上に恥ずかしい事のような気がするのだけれども。

 しかしそれに風遊美さんが気づいていないという事はありえない。
 とするとこの無表情な風遊美さんも相応な覚悟をしている、という事だ。

「わかりました。やってみます」

 できるだけ風遊美さんの記憶に触れずに何とかやってみよう。

「では私の視界を送ります。魔法はこのままでも使えるはずです」

 俺の意識に風遊美さんから見た俺の腕が映し出される。
 血や千切れた肉片がかなり生々しい。

「解凍は」

「済ませました。いつでも」

「なら」

 俺は魔法を起動する。

 ◇◇◇

 白ではない、灰色で屋根の凹凸が丸見えの天井。
 何処かはすぐ気づく。
 下の硬さと視点の高さと位置から見て、工房の作業台の上だ。
 学生会幹部の面々の顔が見える。

 俺は起き上がる途中で気づく。
 作業台の上、俺の隣に誰か寝ている。
 香緒里ちゃんだ。

「状況は? 怪我じゃないよな」

「先に自分の心配をしたらどうだい」

 呆れ顔で鈴懸台先輩が言う。

「自分の方は確認済みです。それより香緒里ちゃんは?」

「肉体的な損傷はないわ。修を引き継ぐまでは問題なかったし。泣いていたけれど」

 由香里姉が答えてくれる。
 確かに香緒里ちゃんの顔に涙の痕が見えた。

「なら今の状況は?」

「修を引き継いでこの作業台に載せて、とりあえず応急措置をしたのを確認してから突然意識を失ったの。手を繋いで呼びかけても応えてくれない」

「魔法の影響とかは無いよね」

「無いわ。修には内緒にしていたけど、あの魔法が本来の香緒里の最強魔法だから」

 俺は少し考える。

「月見野先輩、香緒里ちゃんの脳系統に異常があるか確認する魔法はありますか?」

「肉体的には脳を含めて異常なしですわ」

 月見野先輩は断言する。

「ありがとうございます。あとはこの場合の医学的措置は?」

「意識して水分を取れない状態。だから放っておくと72時間程度で重篤な脱水症状に陥ります。ですから病院で点滴を打ちながら回復を待つのが常套手段ですわ」

「では救急車、というか車で搬送しましょうか」

 この島には救急車も病院も1つずつしかない。
 だから自分の車で行った方が早いだろう。

 幸い由香里姉の車は襲撃の影響を受けずに無事だ。
 俺はポケットを探って車の鍵を取り出し、ドアを開ける。
 俺の手は自然に動いてくれた。

「それでは搬送しましょう。月見野先輩、病院に連絡をお願いしていいですか」

 ◇◇◇

 月見野先輩のおかげで病院での受け入れもスムーズに済んだ。
 空いていた個室のベッドに香緒里ちゃんは寝かされ、回りを学生会の面々が取り囲んでいる。

「それでこの場にいるたった一人の身内に申し訳無いんですが、由香里姉は車で一度戻っていただいて、車体で工房の入口を塞いでいただけますか。あと出来れば鈴懸台先輩とジェニー、あと月見野先輩は一緒に行って警察や教授会や学校側にさっきの襲撃の届け出をお願いします」

「修は」

「正直血液が少ないせいかしんどいんで、ちょっとここで休ませてもらいます」

 実は嘘だ。
 確かに貧血気味だがそこまでしんどい訳ではない。
 でもこの場からできるだけ人を排除して、かつ俺は残りたい。
 これからやる事のためには人は少ない方がいい。

「わかったわ、修。でも絶対無理はしないでね。確かに香緒里を失いたくはないけれど、それ以上に香緒里を恨む羽目にはなりたくない。わかるわよね」

 その言葉で由香里姉が、俺のやろうとしている事に気づいているのがわかる。
 だから俺は由香里姉に軽く頭を下げた。

「お願いします」

「わかったわ。じゃあ香緒里をお願い」

 由香里姉も月見野先輩もそれ以上は言わず、部屋を出て行く。
 俺はもう一度、頭を軽く下げた。
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