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第11章 冬休み
52 奈津希さんの企み(1)
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俺と奈津希さんはリビングでテレビを見ている。
実際にはテレビは何か番組を流しているだけで見てはいない。
単に間を持たせるためについているだけ。
風遊美さんは真ん中の部屋から出てこない。
もうとっくに風呂からは上がっている筈なのだが。
「それにしても天然というのは最強だよな」
にやりと笑って奈津希さんは言う。
「普通は女の子に向かって似合っていないとか言わないぞ。それも化粧や髪型や服ならともかく、普通は変えられない目の色とかそんなのを」
「似合っていないとは言っていないじゃないですか」
俺は不自然だと何となく感じたのがちょっと言葉に出ただけだ。
まあそれでも失礼だとは思うけれど。
「それにわざわざ大事にしたのは奈津希さんじゃないですか」
「まあな」
あっさりと奈津希さんはそれを認めた。
「ちょうどいい機会だと思ったからさ」
奈津希さんは続ける。
「これから1年ちょっとは一緒にやっていくんだ。なら面倒臭いことはさっさと片付けておこうと思ってさ。そうでなくても風遊美は色々隠し過ぎなんだ。昔はどうであれ、ここは日本の魔法特区。世界に誇るHENTAI文化の発祥地、日本が誇る魔法特区なんだ。怪人怪物なんでもござれ、多少の違いなんで誰も気にしちゃいねえ。ただそうは言っても、本人だとなかなか壁は超えにくいんだと、うちのおふくろが言っていたな」
これは絶対風遊美さんに聞かせているな。
そう思いつつ俺は頷く。
「僕はこの島育ちだし、修は日本の本土育ちだから多分本当のところはわからないんだろうけどな。ただ少なくともこの島には差別も偏見もほとんど無いし、そんな事に囚われていたら損だ。だから誰かが気づかせてやらなきゃならないんだが、それも難しいよな。どうしても僕達が知らない重さってのがあるから。そういう意味では天然最強だよな、というのが結論という訳さ」
何だかな。
「何かすごく持って回った言い方で、物知らずと言われた気がします」
「褒めてるんだよこれでも。修みたいな素直な奴に言われた意見が一番入りやすいしな。さて、そろそろいいだろ」
俺は奈津希さんの視線の方向を振り返る。
真ん中の部屋のドアが開き、風遊美さんが出てきた。
銀色の髪はまだ濡れていてストレート気味になっている。
いつもの眼鏡はかけていない。
そして目の色が前の濃い栗色ではなく、緑色。
あとはいつもと全く同じ。
でも今までと違って全てが自然で、そして。
「綺麗だ」
「えっ」
風遊美さんが不意に立ち止まり、顔を赤らめる。
「あのなあ修、天然なのはいいけどまた口に出ているぞ」
言われて気づいた。
つい感想がそのまま口に出てしまったらしい。
「本当にそう思いますか? この目の色、変ではありませんか?」
「似合っていますよ。今のほうがずっと自然に見えます」
それは本当だ。
「本当に、目の色とか髪の色とか怖くないですか」
「何故ですか」
「怖いと感じないですか?」
「全然、よく似合っていますよ」
「本当に?」
「本当ですって」
「あんまり修を虐めるなよ。困っているじゃないか」
「だって……」
奈津希さんはふっと息をついて、風遊美さんに話しかける。
「修が嘘をつくようなタイプに見えるか」
「そうは思いません。ですがお世辞くらいは……」
「なら、修はうまいお世辞を言える程器用なタイプに見えるか?」
「ごめんなさい。そうは見えません」
「なら答えは一つだろ」
「そうですね」
「ならこの件はこれで以上だ。あ、待てよ」
奈津希さんはにやりと笑う。
「風遊美、明日何か用事あるか?」
「うーん、特にないですね」
「修は」
「残念ながら無いですよ」
「なら明日、朝メシ食ってちょっとやりたい事がある」
何だろう。
「釣りじゃ無いですよね」
「これ以上釣っても冷蔵庫に入る場所がない。まあ楽しみにしてな」
奈津希さんの笑みが少し邪悪に見えるのは気のせいだろうか。
◇◇◇
次の日の午前8時、俺達は学校のグラウンドに来ていた。
奈津希さんの手にはおもちゃの刀のようなものが3本、抱えられている。
「ここで何をするんですか」
おもちゃの刀があるあたりで、大体の想像がつくのだが。
「見たとおり、チャンバラごっごさ」
そう言って奈津希さんは俺達におもちゃの刀を配る。
「この刀は柔らかいから顔面突きでもしない限り怪我はしない。これで身体の何処へでも一太刀入れれば勝ち、というシンプルなルールさ。ただし、相手を怪我させない限り魔法使用可能。移動可能な範囲も野球場の内側の四角、つまりホームベースから1塁2塁3塁、ホームベースと結んだ四角の中だね」
「これって、魔法攻撃科の訓練ではないのでしょうか」
「訓練というよりは遊びだな。実戦だと魔法による直接攻撃禁止なんてまどろっこしい事はしないし。ただ怪我しないしルール的も簡単、見た目に勝敗がわかりやすい。という訳で」
だだーっと奈津希さんは走っていって距離を取る。
「最初だから2対1でいいよ。という訳で模擬戦、スタート!」
いきなりだ。
「何かもう、唐突ですね」
俺はそう言って風遊美さんの方を見る。
風遊美さんは何か考え込んでいる感じだ。
「風遊美さん」
何か様子がおかしい。
実際にはテレビは何か番組を流しているだけで見てはいない。
単に間を持たせるためについているだけ。
風遊美さんは真ん中の部屋から出てこない。
もうとっくに風呂からは上がっている筈なのだが。
「それにしても天然というのは最強だよな」
にやりと笑って奈津希さんは言う。
「普通は女の子に向かって似合っていないとか言わないぞ。それも化粧や髪型や服ならともかく、普通は変えられない目の色とかそんなのを」
「似合っていないとは言っていないじゃないですか」
俺は不自然だと何となく感じたのがちょっと言葉に出ただけだ。
まあそれでも失礼だとは思うけれど。
「それにわざわざ大事にしたのは奈津希さんじゃないですか」
「まあな」
あっさりと奈津希さんはそれを認めた。
「ちょうどいい機会だと思ったからさ」
奈津希さんは続ける。
「これから1年ちょっとは一緒にやっていくんだ。なら面倒臭いことはさっさと片付けておこうと思ってさ。そうでなくても風遊美は色々隠し過ぎなんだ。昔はどうであれ、ここは日本の魔法特区。世界に誇るHENTAI文化の発祥地、日本が誇る魔法特区なんだ。怪人怪物なんでもござれ、多少の違いなんで誰も気にしちゃいねえ。ただそうは言っても、本人だとなかなか壁は超えにくいんだと、うちのおふくろが言っていたな」
これは絶対風遊美さんに聞かせているな。
そう思いつつ俺は頷く。
「僕はこの島育ちだし、修は日本の本土育ちだから多分本当のところはわからないんだろうけどな。ただ少なくともこの島には差別も偏見もほとんど無いし、そんな事に囚われていたら損だ。だから誰かが気づかせてやらなきゃならないんだが、それも難しいよな。どうしても僕達が知らない重さってのがあるから。そういう意味では天然最強だよな、というのが結論という訳さ」
何だかな。
「何かすごく持って回った言い方で、物知らずと言われた気がします」
「褒めてるんだよこれでも。修みたいな素直な奴に言われた意見が一番入りやすいしな。さて、そろそろいいだろ」
俺は奈津希さんの視線の方向を振り返る。
真ん中の部屋のドアが開き、風遊美さんが出てきた。
銀色の髪はまだ濡れていてストレート気味になっている。
いつもの眼鏡はかけていない。
そして目の色が前の濃い栗色ではなく、緑色。
あとはいつもと全く同じ。
でも今までと違って全てが自然で、そして。
「綺麗だ」
「えっ」
風遊美さんが不意に立ち止まり、顔を赤らめる。
「あのなあ修、天然なのはいいけどまた口に出ているぞ」
言われて気づいた。
つい感想がそのまま口に出てしまったらしい。
「本当にそう思いますか? この目の色、変ではありませんか?」
「似合っていますよ。今のほうがずっと自然に見えます」
それは本当だ。
「本当に、目の色とか髪の色とか怖くないですか」
「何故ですか」
「怖いと感じないですか?」
「全然、よく似合っていますよ」
「本当に?」
「本当ですって」
「あんまり修を虐めるなよ。困っているじゃないか」
「だって……」
奈津希さんはふっと息をついて、風遊美さんに話しかける。
「修が嘘をつくようなタイプに見えるか」
「そうは思いません。ですがお世辞くらいは……」
「なら、修はうまいお世辞を言える程器用なタイプに見えるか?」
「ごめんなさい。そうは見えません」
「なら答えは一つだろ」
「そうですね」
「ならこの件はこれで以上だ。あ、待てよ」
奈津希さんはにやりと笑う。
「風遊美、明日何か用事あるか?」
「うーん、特にないですね」
「修は」
「残念ながら無いですよ」
「なら明日、朝メシ食ってちょっとやりたい事がある」
何だろう。
「釣りじゃ無いですよね」
「これ以上釣っても冷蔵庫に入る場所がない。まあ楽しみにしてな」
奈津希さんの笑みが少し邪悪に見えるのは気のせいだろうか。
◇◇◇
次の日の午前8時、俺達は学校のグラウンドに来ていた。
奈津希さんの手にはおもちゃの刀のようなものが3本、抱えられている。
「ここで何をするんですか」
おもちゃの刀があるあたりで、大体の想像がつくのだが。
「見たとおり、チャンバラごっごさ」
そう言って奈津希さんは俺達におもちゃの刀を配る。
「この刀は柔らかいから顔面突きでもしない限り怪我はしない。これで身体の何処へでも一太刀入れれば勝ち、というシンプルなルールさ。ただし、相手を怪我させない限り魔法使用可能。移動可能な範囲も野球場の内側の四角、つまりホームベースから1塁2塁3塁、ホームベースと結んだ四角の中だね」
「これって、魔法攻撃科の訓練ではないのでしょうか」
「訓練というよりは遊びだな。実戦だと魔法による直接攻撃禁止なんてまどろっこしい事はしないし。ただ怪我しないしルール的も簡単、見た目に勝敗がわかりやすい。という訳で」
だだーっと奈津希さんは走っていって距離を取る。
「最初だから2対1でいいよ。という訳で模擬戦、スタート!」
いきなりだ。
「何かもう、唐突ですね」
俺はそう言って風遊美さんの方を見る。
風遊美さんは何か考え込んでいる感じだ。
「風遊美さん」
何か様子がおかしい。
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