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第10章 新役員がやってきた
44 露天風呂開始
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「うぉー、何じゃこりゃ」
宮崎台先輩のテンションが急上昇したのが、声だけでわかる。
薊野家専有露天風呂は、更にバージョンアップをしている。
中間テスト後、色々な要望を受けて俺が大分手を加えたのだ。
メインの風呂はそのままに、温度調整が自由に出来る個人用の樽風呂、樽風呂と同じ筐体を使った水風呂、全身がちょうどひたひたになる位の寝湯も作った。
MJ管を使ったジェットバスも1人分作ってある。
規模は小さいがちょっとしたスーパー銭湯程度には色々揃っている筈だ。
「これって、まさか既成でこんな状態の筈は無いですよね。本土の専門の工務店を入れたのでしょうか」
「全部、修の手作りですわ。材料搬送は手伝いましたけれど」
「これは手作りっていうのはちょっと信じがたいレベルですけどね」
「俺の魔法は物作り専門で、これくらいしか出来ないからね」
「それより早く入ろうぜ」
気を抜くと宮崎台さんはすぐにでも服を脱ぎそうな勢いだ。
「その前に、俺はちょっと車の方に避難しておきましょうか」
「何で」
まさか宮崎台さんにそう聞かれるとは思わなかった。
「一応俺は男ですし」
「でも今まで問題なかったんだろ。じゃあ今日も問題ない」
「そうですね。私もそう判断していいかと」
宮崎台さんだけでなく鷺沼さんまで。
「じゃあ鷺沼さんと宮崎台さんはその中央の部屋を使って。ベッドは臨時用の折りたたみ出してあるから。翠と朱里は今日は私と香緒里の部屋を使って」
そんな訳で、露天風呂が始まる。
俺がいるのはメインの風呂の隣に設けた、通称『ぬる湯』。
全体から見ても一番端の方で、かつお湯の温度が一番低い。
低体温で熱い風呂が苦手な俺用のスペースだ。
樽風呂も温度を調節できるのだけれど、大抵は香緒里ちゃんが温度高めにして占拠している。
他はメインの風呂で伸び切っていたり、寝湯にいたり色々。
俺と同じく熱いのが苦手なジェニーは早くもデッキに横になって涼んでいる。
こっちに脚を向けて大の字になっているのだが、見えてはいけないところが丸見えなので少しは色々考えて欲しい。
と、鷺沼さんがこちら側へやって来た。
「隣、いいですか」
「どうぞ」
鷺沼さんは全くためらいもせず、俺の入っている真横に来る。
一応肘が当たらない程度には間があるが、それでもどきりとする。
「何なら出ましょうか」
「お気になさらず。そのままで大丈夫ですよ」
逆に出るタイミングを逸してしまった。
俺は微妙に気まずいまま、ぬる湯で固まる羽目になる。
「これ全部、長津田君が作ったんですよね。設計も施工も」
「これを外部の誰かに頼むのも問題ありそうなんで」
いくら何でもほぼ女子高生だけで住んでいるマンションに露天風呂作れなんて依頼、外に出すわけにもいかないだろう。
「ならこの露天風呂の中の段差も深さも、浴槽の大きさも全部長津田君が考えたんですね」
「えっ?」
予想外の事を言われたので、一瞬俺の認識が遅れる。
「例えばこの露天風呂の深さとか腰掛けるとちょうどお腹の上くらいにくるあたりとか、妙にしっくりくるなと思ったんです。でももうほんの少し低い方が私にはちょうどいいかなって。
ちょっと考えてみたら、薊野さん姉妹やジェニーさん、私よりちょっと大きめの方ならちょうどいい深さや高さになっているんですね。ウッドデッキの段差等も全部試してみました。樽ぶろに入る段差も。
全部よくある既成の寸法ではなく、あの3人にあわせた設計で作っている。違いますか」
確かによくある既製品の寸法とは違うサイズになっている。
どれもこれも使用者を想定して寸法取りをした上での設計だ。
でもまさか今日来たばかりのしかも物作り屋以外に気づかれるとは思わなかった。
「ジェニーの義足を作る時に寸法を測っていますから、それを流用しただけですよ」
「あの義足も凄いですよね。動きも形も自然ですし。色だけは今は御風呂中だからちょっと身体が赤くなっていて分かりやすくなってしまっていますけど」
「あそこまで自然に動かせるのはジェニー自身の努力ですよ。本来の制御機能は普通の動力付き義足とそれ程違わないですし」
実際そうなのだ。
所詮は市販マイコンによる制御。
それをあそこまで自由自在に使えるのは、ジェニーが面倒くさいマニュアル動作を自分の試行錯誤で最適化したからだ。
「他にも魔力導線入りの魔法杖を一般化したのも長津田君ですよね」
「もう皆忘れていると思っていました」
今一般的に魔法攻撃科の学生が使っている魔力導線入りの杖。
杖の握る部分と魔石とが魔力銀の導線で結ばれていて、発動が早く使いやすい杖。
理論は元々あったのだが、それを作って販売しだしたのは確かに俺だ。
原型は由香里姉や月見野先輩に作った杖で、その一般化という形で。
その後魔法杖はあのタイプが一般的になり、今では杖造りが創造製作研究会のいい収入源になったりした訳だが。
「私が学生会役員の話を最初に聞いたのは先週の金曜日。その後、申し訳ありませんが一緒に学生会をやっていく事になるあなた方3人の事を調べさせて頂きました。ですから夏休み前の香緒里さん誘拐騒動の事も、ジェニーさんの留学理由についても知っています」
「でも、何故それを」
「調べた理由は、あなた方と気持ちよく学生会をやっていけるか知りたかったから。調べた事をこうして話す理由はこっそり調べた事について若干私の心の中で負い目があるから。こんな答えでいいですか」
俺の色々な疑問に対する完璧な回答だ。
「すみません。正直に答えていただいて」
今は鷺沼さんは首までお湯に浸かっているからセーフの状態だ。
だから俺は鷺沼さんの方を向いて軽く頭を下げる。
と、ふと違和感を感じた。
メガネと、瞳に。
「あ、気づきました」
「その答えは保留します」
少なくともメガネは伊達メガネだ。
眼鏡の端のレンズが映す画像に歪みがない。
そして瞳が何というか少し不自然だ。
何というか瞳と白目の境界線が。
でもわざわざ隠しているとすればそれを聞くのは多分失礼なんだろう。
だから気づいたとは答えないし、気づかないと嘘も言わない。
俺の答えは、保留だ。
そんな俺の思考に気づいたのか、鷺沼さんは笑顔をみせる。
「ありがとう。来期は楽しい1年を送れそうで良かったです」
そう言って俺の目の前で立ち上がる。
おいおい俺が見ているのにまずいだろ。
慌てて俺は目を逸らす。
「それじゃ今度は熱い方に浸かってみます」
俺を全く気にせず鷺沼さんは立ち上がり、メインの湯船の方へ歩いていった。
まずい。
見慣れない女の子の裸は刺激が強すぎる。
宮崎台先輩のテンションが急上昇したのが、声だけでわかる。
薊野家専有露天風呂は、更にバージョンアップをしている。
中間テスト後、色々な要望を受けて俺が大分手を加えたのだ。
メインの風呂はそのままに、温度調整が自由に出来る個人用の樽風呂、樽風呂と同じ筐体を使った水風呂、全身がちょうどひたひたになる位の寝湯も作った。
MJ管を使ったジェットバスも1人分作ってある。
規模は小さいがちょっとしたスーパー銭湯程度には色々揃っている筈だ。
「これって、まさか既成でこんな状態の筈は無いですよね。本土の専門の工務店を入れたのでしょうか」
「全部、修の手作りですわ。材料搬送は手伝いましたけれど」
「これは手作りっていうのはちょっと信じがたいレベルですけどね」
「俺の魔法は物作り専門で、これくらいしか出来ないからね」
「それより早く入ろうぜ」
気を抜くと宮崎台さんはすぐにでも服を脱ぎそうな勢いだ。
「その前に、俺はちょっと車の方に避難しておきましょうか」
「何で」
まさか宮崎台さんにそう聞かれるとは思わなかった。
「一応俺は男ですし」
「でも今まで問題なかったんだろ。じゃあ今日も問題ない」
「そうですね。私もそう判断していいかと」
宮崎台さんだけでなく鷺沼さんまで。
「じゃあ鷺沼さんと宮崎台さんはその中央の部屋を使って。ベッドは臨時用の折りたたみ出してあるから。翠と朱里は今日は私と香緒里の部屋を使って」
そんな訳で、露天風呂が始まる。
俺がいるのはメインの風呂の隣に設けた、通称『ぬる湯』。
全体から見ても一番端の方で、かつお湯の温度が一番低い。
低体温で熱い風呂が苦手な俺用のスペースだ。
樽風呂も温度を調節できるのだけれど、大抵は香緒里ちゃんが温度高めにして占拠している。
他はメインの風呂で伸び切っていたり、寝湯にいたり色々。
俺と同じく熱いのが苦手なジェニーは早くもデッキに横になって涼んでいる。
こっちに脚を向けて大の字になっているのだが、見えてはいけないところが丸見えなので少しは色々考えて欲しい。
と、鷺沼さんがこちら側へやって来た。
「隣、いいですか」
「どうぞ」
鷺沼さんは全くためらいもせず、俺の入っている真横に来る。
一応肘が当たらない程度には間があるが、それでもどきりとする。
「何なら出ましょうか」
「お気になさらず。そのままで大丈夫ですよ」
逆に出るタイミングを逸してしまった。
俺は微妙に気まずいまま、ぬる湯で固まる羽目になる。
「これ全部、長津田君が作ったんですよね。設計も施工も」
「これを外部の誰かに頼むのも問題ありそうなんで」
いくら何でもほぼ女子高生だけで住んでいるマンションに露天風呂作れなんて依頼、外に出すわけにもいかないだろう。
「ならこの露天風呂の中の段差も深さも、浴槽の大きさも全部長津田君が考えたんですね」
「えっ?」
予想外の事を言われたので、一瞬俺の認識が遅れる。
「例えばこの露天風呂の深さとか腰掛けるとちょうどお腹の上くらいにくるあたりとか、妙にしっくりくるなと思ったんです。でももうほんの少し低い方が私にはちょうどいいかなって。
ちょっと考えてみたら、薊野さん姉妹やジェニーさん、私よりちょっと大きめの方ならちょうどいい深さや高さになっているんですね。ウッドデッキの段差等も全部試してみました。樽ぶろに入る段差も。
全部よくある既成の寸法ではなく、あの3人にあわせた設計で作っている。違いますか」
確かによくある既製品の寸法とは違うサイズになっている。
どれもこれも使用者を想定して寸法取りをした上での設計だ。
でもまさか今日来たばかりのしかも物作り屋以外に気づかれるとは思わなかった。
「ジェニーの義足を作る時に寸法を測っていますから、それを流用しただけですよ」
「あの義足も凄いですよね。動きも形も自然ですし。色だけは今は御風呂中だからちょっと身体が赤くなっていて分かりやすくなってしまっていますけど」
「あそこまで自然に動かせるのはジェニー自身の努力ですよ。本来の制御機能は普通の動力付き義足とそれ程違わないですし」
実際そうなのだ。
所詮は市販マイコンによる制御。
それをあそこまで自由自在に使えるのは、ジェニーが面倒くさいマニュアル動作を自分の試行錯誤で最適化したからだ。
「他にも魔力導線入りの魔法杖を一般化したのも長津田君ですよね」
「もう皆忘れていると思っていました」
今一般的に魔法攻撃科の学生が使っている魔力導線入りの杖。
杖の握る部分と魔石とが魔力銀の導線で結ばれていて、発動が早く使いやすい杖。
理論は元々あったのだが、それを作って販売しだしたのは確かに俺だ。
原型は由香里姉や月見野先輩に作った杖で、その一般化という形で。
その後魔法杖はあのタイプが一般的になり、今では杖造りが創造製作研究会のいい収入源になったりした訳だが。
「私が学生会役員の話を最初に聞いたのは先週の金曜日。その後、申し訳ありませんが一緒に学生会をやっていく事になるあなた方3人の事を調べさせて頂きました。ですから夏休み前の香緒里さん誘拐騒動の事も、ジェニーさんの留学理由についても知っています」
「でも、何故それを」
「調べた理由は、あなた方と気持ちよく学生会をやっていけるか知りたかったから。調べた事をこうして話す理由はこっそり調べた事について若干私の心の中で負い目があるから。こんな答えでいいですか」
俺の色々な疑問に対する完璧な回答だ。
「すみません。正直に答えていただいて」
今は鷺沼さんは首までお湯に浸かっているからセーフの状態だ。
だから俺は鷺沼さんの方を向いて軽く頭を下げる。
と、ふと違和感を感じた。
メガネと、瞳に。
「あ、気づきました」
「その答えは保留します」
少なくともメガネは伊達メガネだ。
眼鏡の端のレンズが映す画像に歪みがない。
そして瞳が何というか少し不自然だ。
何というか瞳と白目の境界線が。
でもわざわざ隠しているとすればそれを聞くのは多分失礼なんだろう。
だから気づいたとは答えないし、気づかないと嘘も言わない。
俺の答えは、保留だ。
そんな俺の思考に気づいたのか、鷺沼さんは笑顔をみせる。
「ありがとう。来期は楽しい1年を送れそうで良かったです」
そう言って俺の目の前で立ち上がる。
おいおい俺が見ているのにまずいだろ。
慌てて俺は目を逸らす。
「それじゃ今度は熱い方に浸かってみます」
俺を全く気にせず鷺沼さんは立ち上がり、メインの湯船の方へ歩いていった。
まずい。
見慣れない女の子の裸は刺激が強すぎる。
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