機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第9章 新しい日常

38 警戒員付き小間使い付き親公認

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「あと庭というか屋上もあるのよ。うちの専有スペースだから自由に使えるわ」

 どれどれ、ということで俺達は外に出る。

「おお、広いし見晴らしいいね」

 確かに結構広い。
 俺の魔法によると奥行19メートル幅12.5メートル。
 他にベランダ部分もある。
 そして港から学校まで島内の主要部分を一望。

「ここに露天風呂作ったら常設できるんじゃないか。他から見られる心配もなさそうだし」

 恐ろしいしいことを鈴懸台先輩が言う。

「そのつもりよ。まあ屋上の強度なんかもあるだろうから後ほど専門家に聞くけど」

 その専門家って、ひょっとして俺?
 聞くのが怖いのでそのままにして俺達は部屋に戻る。

 とりあえずソファーとふわふわの敷物のところで皆で落ち着いて。

「ここは私と香緒里。それと香緒里の警戒担当としてジェシー、そして小間使いとして修が住む予定でーす。でもミドリもアカリも自由に来てね。一部屋空いているしベッドもマイクロバスのよりは広いわよ」

 えっ。というか、やっぱり?

「俺は聞いていないぞ」

 由香里姉は俺の方を見る。

「修の親の許可は取ったわよ。うちの親もOKしてくれたし。うちの親からの伝言もあるわ。『何ならどっちか食ってもいいけど責任とれよ』だって」

「わーっ」

 わざとらしく香緒里ちゃんとジェニーがはしゃぐ。
 確かに薊野家の両親ならそう言いそうだ。
 小さい頃からの知り合いだし何故かわからないけれど気に入られているし。

「という訳で修は今日帰ったら早急に荷物まとめてね。明日引っ越すから」

 いきなりかよ。
 まあ俺の荷物なんてまとめるのに一晩どころか2時間いらない程度だけど。

「あ、そうだわ。修がいたらお願いすることがあった」

 由香里姉は巨大な冷蔵庫から包装紙に包まれた箱を取り出す。

「引越しの挨拶用引っ越し蕎麦。下の階は挨拶したから隣だけお願い」

「挨拶なら由香里姉の方がいいんじゃないか」

 女の子がにっこりの方が一般的に受けがいいだろう。

「隣の住民に限っては修のほうが適任なの。行ってみればわかるわ」

 仕方なく蕎麦を持って玄関を出て隣へ。
 表札は出ていない。
 チャイムを押す。

「おはようございます。隣に引っ越して参りました薊野です。ご挨拶に参りました」

 歩いている間に考えた挨拶文句を唱える。

「はい、いま出ます」

 どこか聞き覚えのあるような声がして扉が開く。
 出てきたのは俺がよく知っているむさい中年後期の親父だった。

「え、おい。長津田だよな」

「田奈先生、おはようございます」

 ちょっと対応出来なくて、普通に挨拶をしてしまった。
 成程、隣の住民とは田奈先生だったか。

 確かに田奈先生はパテントをいっぱい持っている金持ち。
 かつこの島に定住していて家族持ち。
 確かにここに住んでいても不思議では無い。

「今度隣に薊野姉妹とともに引っ越してきますので、御挨拶です」

「そうか、最近学生会で緊密だと聞いていたが、ついに」

「違います!」

 そういった間違いは断固として否定する。

「単なる幼馴染で家どうしが仲がいいだけです。正直俺の本意でもありません」

「そうか」

 田奈先生は俺の台詞で何かを察したらしい。

「まあ大変だろうが、頑張れよ」

 何か色々と含みをもったそんな励ましを受けて、俺は田奈邸を辞して部屋に戻る。
 既に荷物移動が始まっていた。

「修兄、ちょうど良かったです。これ運ぶの手伝って欲しいです」

 香緒里ちゃんとジェニーが運ぼうとしているのは巨大なベッドマット。

「でかいなこれ。どこへ運ぶの」

「東南の角部屋です。あそこのベッドも出すのでとりあえずリビングの端までです」

 俺も手伝ってフローリングをずるずるひきずって運ぶ。

「しかし大きいなこのマット」

「ダブルより大きいクイーンサイズです。1枚マットの市販品では最大サイズです」

 何か縦にも横にも寝れそうだ。
 ベッドの台も分解して運び、東南の部屋のシングルベッドを代わりに西側奥の部屋に運び込んで、それぞれベッドを組み立てる。

「ベッドの移動は終わりです。他は最初そのままで使って大丈夫かなと思います」

 香緒里ちゃんがそう宣言する。

「ところで誰がどの部屋を使うかは決定してるの」

 俺は香緒里ちゃんに尋ねる。

「西の一番奥がお姉の部屋で、隣が私の部屋です」

 向こう側は元々家主の部屋っぽかったし、ウォークインクローゼット等もあるから順当だろう。

「東側の3部屋のうち北側の部屋がジェニーの部屋です」

「暑いの苦手なのれ一番風が通る涼しそうな部屋をもらったれすよ」

 成程。それで南側を避けた訳か。

「真ん中は来客用です。シングルベッドの他に折りたたみのサービスベッドも使えるようになっているです」

「つまり金曜日の私達の部屋だな」

 鈴懸台先輩がそう宣言する。

「南東の角が修兄の部屋になります」

 角部屋だし南向きだしいい部屋だ、確かに。
 しかしそこで生じた疑問がひとつ。

「どうせなら俺の部屋より来客用の部屋にあの大きなベッドの方が良くないか」

 そこで香緒里ちゃんの顔がぽっと赤くなった。

「修兄の部屋はあれでいいんです」

 そして由香里姉が追加説明。

「あのベッドなら私と香緒里が一緒に寝ても、ジェニーが一緒に寝ても大丈夫よね」

 おい待てそれまさか。

「夜這いは日本古来の文化だしな」

 鈴懸台先輩! そんな文化を生み出さないで下さい。

「親も公認していらっしゃるみたいですし、良かったですわね」

 月見野先輩までそんな事を。
 よし後で部屋に厳重な鍵をつけよう、絶対だ。

「無駄な鍵とかはつけないでね。必要なら私は魔法の行使を辞さないですし、香緒里も物に言うこときかせる魔法は得意ですから」

 なるほど、確かに。
 どうやら俺に安住の地はなさそうだ。
 唯一不可侵な寮すら追い出されるし。

 カタツムリや貝類はいいな、不可侵な自分の部屋がかならずあって。
 人間はそうもいかないんだよな……

 ちなみにその後、あのベッドに何人寝れるかを実際に試させられた。
 4人でも寝れるがちょっときつい。
 3人なら余裕という結論だった。

 俺は1人で充分だけれども。
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