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第7章 ついに開始だ学園祭
33 別腹の定義
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こっちの学祭でも大学の学祭でも一番多い出し物は飲食店だ。
しかも出前もしてくれるところが結構ある。
中でも毎年評判がいい店というのはある訳で、有名なのは大学歴史文化研究会のやっているパンとサンドイッチとケーキの店だ。
ここは出前を注文すると、ステレオタイプな魔女コスプレをした店員が箒に乗って空飛んで配達してくれる。
なかなかに魔法特区らしい店だが、味も確かだ。
なお売り物の各種パンは大学の部室で焼いているらしい。
サンドイッチの具材もそれなりにいい物を使っているらしく、ちょっと高いが美味しいと評判だ。
学祭期間に限らず常設して欲しいとの希望も多いようだが、結構手間も時間もかかるらしい。
だから今のところ学祭期間のみの営業。
例年予約だけでほぼ営業終了してしまうので、評判は高いが食べたという人は多くない。
それを今回は大学に姉がいるという鈴懸台先輩のつてで大量に予約していた。
「毎度あり~」
巨大な袋2つに詰まったパンを置き、魔女が学生会室の窓から外へと飛んでいく。
ちなみに飛行中に下からスカートの中が見えるのではという疑問はスパッツで解決しているようだ。
この心遣いを学生会幹部共も見習って欲しい。
さて。俺達は会議用の折りたたみ机2つを空きスペースに設置。
パイプ椅子6つで取り囲むように座る。
そして広げる各種のパン。
この島は足りないものが多い。
例えば本土ではあたりまえのようにある菓子パン類。
同じくケーキ類。
なにせ実態は辺境の孤島で、研究者と学生がほとんどの魔法特区。
こういった潤いのある贅沢品はほとんどないのだ。
しかし今は、学祭期間中だけとは言え営業している店がある。
そして1人1,000円の予算で買いまくった成果がテーブル上に並んでいる。
「いただきます」
全員で唱和した直後から戦争は始まった。
由香里姉が残像すら残さないような腕の動きで最初に取ったのはクリームパン。
半分をちぎって口に入れた所で、残り半分を鈴懸台先輩に奪われる。
奪った鈴懸台先輩はそのままクリームパンを口の中にいれて味わい、
「デカルチャー!」
と訳わからない感嘆詞を叫んだ。
その間に香緒里ちゃんはメロンパンとあんぱんとスコーンを少しずつちぎって取ってもぐもぐ。
月見野先輩はブレッツェルをうっとりした目をして頬ぼっていて、その横でジェニーはフランスパンのサンドイッチを豪快にがしがし食べている。
俺は黒パンのサンドイッチを食べながらのんびりと観察。
平和で幸せな午後のひととき、という感じだ。
最後にチーズケーキを食べていた時、学生会室のドアがノックされた。
「はい」
「お届け物です」
聞き覚えのある声がする。
香緒里ちゃんがドアを開けると、創造製作研究会の玉川先輩が現れた。
「どうしたんですか先輩」
「田奈先生からの差し入れ、だと」
そう言って俺に向かって出したのは、皿に入ってラップされた少し透明がかった小豆色の塊が2つ。
「特製水羊羹。生物なのでお早めにお召し上がり下さいとのことだ。じゃあな」
どうもこの部屋は居心地が悪いらしく、玉川先輩は逃げるように去っていった。
そして俺の前に残された小豆色の塊。
「どうします。今食べたばかりですし、冷蔵庫に入れておきますか」
便宜上受け取ってしまった俺は皆に尋ねる。
「チイチイ、甘いよ長津田君。甘いものは」
「別腹よ!」
鈴懸台先輩と由香里姉の声がハモった。
「でもチーズケーキも食べましたよね、今」
疑問に思う俺に月見野先輩が諭すように言う。
「長津田君。普通の食べ物と甘いものは別腹ですし、洋のデザートと和のデザートも別腹なのですのよ。ですからそれはこのテーブルの中央に置きなさいな」
俺にその理論は理解できない。
でも言いたいことはわかった。
俺はテーブルの中央、さっきまでチーズケーキがあった場所に皿を置く。
ラップを取って俺の手が皿を離れた瞬間、由香里姉が右手に氷の刃を出現させ、目にも留まらぬ早業で2本の水羊羹を6等分。
そしてそのまま一切れを自分の皿に運ぶ。
「いい仕事をしているわ。やっぱり暑い午後には冷たい和のスイーツがよく合うわ」
確かにここは南の島。
11月近い今でも気温は25℃ある。
でもチーズケーキのあとに水羊羹、それもでっかい1本を3等分した塊を食べるだろうか、普通は。
しかし既に俺以外の皆は自分の皿に水羊羹を運んでいる。
下手をすると取られてしまいそうなので、俺も慌てて自分の皿に水羊羹を運んだ。
「うん、いける。久しぶりに和菓子を食べたけれどやっぱりいいね」
「さっきあんみつを食べたけれど、これはこれで美味しいです」
どうも俺以外は和菓子と洋菓子別腹派のようだ。
「確かにこれは良いものですわね。田奈先生も空中スクーターは別として、人間大砲くらいは許してあげてもいいかもしれませんわ」
と月見野先輩。
「えっ、でも田奈先生肋骨にひびが入ったんじゃ」
「あれは脅しですわ。そうでもしないと無茶されるでしょ」
月見野先輩はそう言ってウィンクする。
やっぱり月見野先輩、怖いな。
そう思いつつ俺は他の皆様方を見習い水羊羹に手をつける。
上品で自然なあんこの甘みとつるりとした舌触り。
ついつい抵抗なく食べきってしまった。
うん、これは確かに別腹。
俺も納得せざるを得ないようだ。
しかも出前もしてくれるところが結構ある。
中でも毎年評判がいい店というのはある訳で、有名なのは大学歴史文化研究会のやっているパンとサンドイッチとケーキの店だ。
ここは出前を注文すると、ステレオタイプな魔女コスプレをした店員が箒に乗って空飛んで配達してくれる。
なかなかに魔法特区らしい店だが、味も確かだ。
なお売り物の各種パンは大学の部室で焼いているらしい。
サンドイッチの具材もそれなりにいい物を使っているらしく、ちょっと高いが美味しいと評判だ。
学祭期間に限らず常設して欲しいとの希望も多いようだが、結構手間も時間もかかるらしい。
だから今のところ学祭期間のみの営業。
例年予約だけでほぼ営業終了してしまうので、評判は高いが食べたという人は多くない。
それを今回は大学に姉がいるという鈴懸台先輩のつてで大量に予約していた。
「毎度あり~」
巨大な袋2つに詰まったパンを置き、魔女が学生会室の窓から外へと飛んでいく。
ちなみに飛行中に下からスカートの中が見えるのではという疑問はスパッツで解決しているようだ。
この心遣いを学生会幹部共も見習って欲しい。
さて。俺達は会議用の折りたたみ机2つを空きスペースに設置。
パイプ椅子6つで取り囲むように座る。
そして広げる各種のパン。
この島は足りないものが多い。
例えば本土ではあたりまえのようにある菓子パン類。
同じくケーキ類。
なにせ実態は辺境の孤島で、研究者と学生がほとんどの魔法特区。
こういった潤いのある贅沢品はほとんどないのだ。
しかし今は、学祭期間中だけとは言え営業している店がある。
そして1人1,000円の予算で買いまくった成果がテーブル上に並んでいる。
「いただきます」
全員で唱和した直後から戦争は始まった。
由香里姉が残像すら残さないような腕の動きで最初に取ったのはクリームパン。
半分をちぎって口に入れた所で、残り半分を鈴懸台先輩に奪われる。
奪った鈴懸台先輩はそのままクリームパンを口の中にいれて味わい、
「デカルチャー!」
と訳わからない感嘆詞を叫んだ。
その間に香緒里ちゃんはメロンパンとあんぱんとスコーンを少しずつちぎって取ってもぐもぐ。
月見野先輩はブレッツェルをうっとりした目をして頬ぼっていて、その横でジェニーはフランスパンのサンドイッチを豪快にがしがし食べている。
俺は黒パンのサンドイッチを食べながらのんびりと観察。
平和で幸せな午後のひととき、という感じだ。
最後にチーズケーキを食べていた時、学生会室のドアがノックされた。
「はい」
「お届け物です」
聞き覚えのある声がする。
香緒里ちゃんがドアを開けると、創造製作研究会の玉川先輩が現れた。
「どうしたんですか先輩」
「田奈先生からの差し入れ、だと」
そう言って俺に向かって出したのは、皿に入ってラップされた少し透明がかった小豆色の塊が2つ。
「特製水羊羹。生物なのでお早めにお召し上がり下さいとのことだ。じゃあな」
どうもこの部屋は居心地が悪いらしく、玉川先輩は逃げるように去っていった。
そして俺の前に残された小豆色の塊。
「どうします。今食べたばかりですし、冷蔵庫に入れておきますか」
便宜上受け取ってしまった俺は皆に尋ねる。
「チイチイ、甘いよ長津田君。甘いものは」
「別腹よ!」
鈴懸台先輩と由香里姉の声がハモった。
「でもチーズケーキも食べましたよね、今」
疑問に思う俺に月見野先輩が諭すように言う。
「長津田君。普通の食べ物と甘いものは別腹ですし、洋のデザートと和のデザートも別腹なのですのよ。ですからそれはこのテーブルの中央に置きなさいな」
俺にその理論は理解できない。
でも言いたいことはわかった。
俺はテーブルの中央、さっきまでチーズケーキがあった場所に皿を置く。
ラップを取って俺の手が皿を離れた瞬間、由香里姉が右手に氷の刃を出現させ、目にも留まらぬ早業で2本の水羊羹を6等分。
そしてそのまま一切れを自分の皿に運ぶ。
「いい仕事をしているわ。やっぱり暑い午後には冷たい和のスイーツがよく合うわ」
確かにここは南の島。
11月近い今でも気温は25℃ある。
でもチーズケーキのあとに水羊羹、それもでっかい1本を3等分した塊を食べるだろうか、普通は。
しかし既に俺以外の皆は自分の皿に水羊羹を運んでいる。
下手をすると取られてしまいそうなので、俺も慌てて自分の皿に水羊羹を運んだ。
「うん、いける。久しぶりに和菓子を食べたけれどやっぱりいいね」
「さっきあんみつを食べたけれど、これはこれで美味しいです」
どうも俺以外は和菓子と洋菓子別腹派のようだ。
「確かにこれは良いものですわね。田奈先生も空中スクーターは別として、人間大砲くらいは許してあげてもいいかもしれませんわ」
と月見野先輩。
「えっ、でも田奈先生肋骨にひびが入ったんじゃ」
「あれは脅しですわ。そうでもしないと無茶されるでしょ」
月見野先輩はそう言ってウィンクする。
やっぱり月見野先輩、怖いな。
そう思いつつ俺は他の皆様方を見習い水羊羹に手をつける。
上品で自然なあんこの甘みとつるりとした舌触り。
ついつい抵抗なく食べきってしまった。
うん、これは確かに別腹。
俺も納得せざるを得ないようだ。
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