機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第7章 ついに開始だ学園祭

31 学園祭が始まった

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 10月28日土曜日。天気晴れ。
 この島の一大イベント、隣の魔法技術大学と同時開催の学園祭が始まった。

 俺は結局ロボコンには参加しなかった。
 どうもルール上俺的に気に入らない部分があったからだ。

 例えば反則行為で『相手のロボットを倒したり拘束したりする行為』は禁止。
 だが、例えば双方のロボットの大きさが違いすぎて片方が前に進めなくなった場合は拘束になるのかとかが不明。
 他にも武器が威力無さすぎてロボットの性能差が出にくくなっているとか。

 個人的な意見なので無視してくれてもいい。
 でも俺としては納得いかないルールで戦って、納得いかない結果になるのは面白くない。

 どうせならルールは最小限にしてガチガチの勝負でやりたいと思うのだ。
 壊れてもリペアルールなんて半端な救済措置なしのガチ勝負で。
 そんな訳で今回は参加せず、学生会の活動に専念することにした。

「賑わっていますね、今年も」

 現在地は教室棟上空50m。
 でかでかと『魔法高専学園祭』と書いた紙を貼ったキャンピングカー内だ。

 学園祭での学生会の仕事は主にトラブル対処。
 細かいトラブルは第一には学園祭事務局で対応する。
 しかし予算措置が伴ったり研究会同士等で裁定が必要な場合は学生会の出番になる。

 なおこのキャンピングカーは宣伝用の飛行船のつもりで飛ばしている。
 勿論何か出番があれば飛行するなり降りるなりするけれど。

「事務局池尻より学生会宛、一階1E付近で迷子保護」

「学生会了解す。親が1A付近でその子を探している筈す。親は女性35歳位。水色のポロシャツにジーパン姿す。捜索して接触願うす」

「池尻了解。ありがとうございます」

 こういった時に有能なのはジェニーだ。
 色々な目的に使える様々な探知魔法を持っている。
 迷子、トラブル、落とし物等ほぼ何でもお任せ状態だ。

 現在この移動学生会室キャンピングカーにいるのは俺と香緒里ちゃんとジェニーの補佐3人組。
 学生会幹部の3人は視察という名目で学祭を見物中だ。
 まあ何かあれば連絡用魔道具ですぐに呼び出せるし、3人もここに詰めている必要もないのだが。

「2人は学園祭って来たことある?」

「私は無いす」

「私は去年来ました。由香里姉に案内して貰ったです」

「なら次交代したら3人で回ろうか」

「賛成です!」

「いいす!」

 2人共乗り気のようだ。

 なので学生会の当番を交代した後、香緒里ちゃんとジェニーを連れて、まずは俺の古巣から回ることにする。
 創造製作研究会の売店だ。

 本来は活動で作った魔法の杖や魔法湯沸かし保温ポット等の魔法生活道具の売店。
 しかし昨年から江田部長の趣味で甘味の売店も併設している。

 困ったことに甘味の売店のほうが客入も売上もいい。
 昨年は甘味の売り上げが魔法関連の5倍以上だった。

 顔を出すと馴染みの部員が早速声をかけてくる。

「香緒里ちゃん久しぶり、学生会は大丈夫?はいこれ!」

「こっちも持ってけや。黒糖蜜と本天草使用のみつ豆だ!」

 あっという間に香緒里ちゃんの手にお盆が渡され、甘味4種類でお盆がうまる。

「どうですか、景気は」

「相変わらず甘味ばかり売れているよ」

 市ケ尾副部長が苦笑している。

「まあ物品はお土産に買っていく最終日がヤマだけどね」

 そう言って満員の店内ではなく部員の休憩室の方に案内してくれた。
 香緒里ちゃんのお盆を近くの机に置く。

 客の入りは初日だけど順調すぎるぐらい順調に見える。
 俺達が入った後に客が並び始め、既に10人位の列が出来ていた。

 むくつけき男ばかりの店だが、全員が白衣に白い料理帽というスタイルで清潔感を出している。
 そのスタイルが醸し出す職人感と味が結構受けているらしいと、学園祭の非公式ガイドブックには書いてあった。
 職人と言っても本当は甘味ではなく魔道具作りの方なのだが。

「ジェニーも一緒に食べませんか。私一人だと全部は無理です」

「いいのすか。凄く美味しそうす」

 そこですかさずジェニー用の小皿と食器入りのお盆が横から出てくる。
 江田部長がにやりと笑って立っていた。

「部長、すみません」

「お前らはまだ部員だからな。学生会に派遣しているだけで」

「そうなんすか」

 ジェニーは知らなかった模様。
 そういえば確かに言っていなかったなと思い出す。

「ああ、本来はあくまで派遣なんだ。帰れる見込みは大分薄くなったけどな。それでも大分貢献してもらったし」

 貢献とは杖とか例の飛行スクーターの件だろう。

「まあゆっくり食べて行けや。今年は砂糖も小豆もこだわった。都内の名店にも負けない自信はあるぞ」

「部長つぶあん第3弾製造開始お願いします。このままだと今日1日持ちません」

 玉川先輩が部長を呼んでいる。

「おう今行く。じゃあな」

 部長は製造スペースへと消えていった。

「今の人、甘味職人さんすか」

「本職は魔道具製造だけれど、何でも作り込むしこだわるからな」

「あ、でも確かに美味しいですこのあんみつ。すっきりして雑味がないのに凄く奥深い味がします」

 江田部長の魔法は主に材料錬成で、物質の構成割合や分子構造まで思い通りにいじれる魔法持ち。
 それが趣味と実益兼ねてこだわって作っているのだ。
 不味い訳はない。

「このかき氷も凄いす。さらさらでふわふわで、いくら食べてもキーンとこないす」

 見ると綿菓子以外ほとんどの製造は江田部長がメインだ。
 他の部員がやっているのは部長が作った半製品を組み合わせて皿に盛るだけ。
 かき氷の氷さえ削る前と後に部長が魔法をかけている。
 まあ去年も似たような感じだったのだが。

「部長、今からでも学校辞めて甘味屋開いたほうが大成するんじゃないか」

 そう言いつつ俺もあんこときなこのかかった餅をいただく。
 確かにこれは無茶苦茶に美味い。
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