機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
29 / 202
第6章 嵐と実りの季節です

29 懐かしい日々

しおりを挟む
 全てをさらけ出して諦めと悟りの境地にたどり着いた後、俺はおとなしく湯に浸かっていた。
 確かにまあ気持ちいいことは気持ちいいのだ、大きい風呂は。
 雑念の元がその辺りを動き回らなければ、だが。

「このシャッター、開くすか」

「開きますけれども雨風が吹き込みますわよ。それに万が一誰かに見られたらまずいですわ」

「今日は誰もこないす。何なら魔法で見るすか」

 ジェニーが何か唱える。
 俺の脳裏に新しい感覚がプラスされた。
 イメージ的にはこの工房を中心とした学校全体を含む付近の上空から見た鳥瞰図。

 この工房内に6つの動く光点が多分俺達。
 校舎内にある動かない光点は監視カメラだろう。
 後は最も近いのが男子寮にある光点で、付近100mには光点はない。

「これってひょっとして」

「私の魔法す。近くにいる人やカメラを探知出来るす。共有することも出来るす」

 これは確かに便利だ。
 こうやって人目をはばかるような活動をしている時は特に。

「じゃあちょっとだけ、シャッターを開けてみるわね」

 由香里姉が全裸のままとことこ歩いてシャッターのボタンを操作する。
 雨は強いが思った程風は吹き込まない。
 身長くらいまで開けてシャッターを止める。

 ジェニーが飛び出していった。
 全裸に裸足のまま外へ出て、両手を広げ全身で雨を浴びる。

「火照った身体に気持ちいいすよ。開放感もサイコーす」

 その台詞を聞いて鈴懸台先輩が飛び出していく。

「成程、確かにこれは気持ちいいね」

 そう聞いた他の面々もぞろぞろと外へ。
 思い思いの姿勢を取って豪雨を楽しみ始める。

 夜の校舎を背景に全裸女子高生5人というのは背徳的な気もするが、何故か今は不思議とエロさを感じない。
 むしろ幻想的というかいい感じ。
 まあ俺の神経がいじめられ過ぎて過適応を起こしている可能性も大だけれども。

「修兄もこっち来ないですか。気持ちいいし何か楽しいですよ」

 香緒里ちゃんに誘われ、俺も風呂から出てそのまま外へ。
 確かに冷たすぎない豪雨のシャワーが気持ちいい。
 鈴懸台先輩はアスファルト舗装の上に仰向けに寝て、全身で豪雨を受け止めていたりする。
 髪とか大丈夫かな、と少し思うけれども。

 その後かなり長い間、俺達は全裸のまま風呂と外とを行ったり来たりして、豪雨と風呂を楽しんでいた。
 いい加減風呂と雨とを楽しみすぎて全員がクタクタになった頃。

「さて、そろそろ毎回恒例のベッド争奪戦のくじ引きですわよ」

 え、やるの!? 寮へ帰るんじゃないの?
 そう思った俺の表情を読んだのか、月見野先輩が説明する。

「この雨の中寮へ帰ったら身体が冷えてしまいますわ。ここにはいつものキャンピングカーとベッドがあります。一晩過ごせば雨もやんでいると思いますの」

 わかった、一応理解はした。
 身体が冷えるという割には全裸で雨を楽しんでいた気もするが、まあいいだろう。

「今回もくじを用意しました。指定席はこの前と同じ、後ろの下段に私とミドリ、前の奥が長津田君ですわ。なので前のベッド通路側と後ろのベッド上段のくじ引きですわよ」

 月見野先輩はこの前と同じ竹棒タイプのくじをどこからともなく取り出す。
 真っ先に引きに行った由香里姉が、引いた竹棒を確認して高々と上に掲げた。

「よし!前ベッド取ったわ!」

 まずい、一番危険な人が今日の俺の隣だ。
 どうすれば逃げられるか。

 一番簡単かつ確実な方法は由香里姉に先に寝てもらう事だ。
 他に確実な方法は思い浮かばない。
 よし、ここは長湯作戦だ。

 と思ったら、由香里姉がこっちに向かってくる。
 そして俺の左隣に座った。

「ふふふ、今日は逃さないよ」

 由香里姉はそう言って、俺の左手を握った。

『久しぶりに手を握ってみたけれど、通じるかな?』

「え、由香里姉?」

 そう言って俺は今のが音声でなかった事に気づく。

『やっぱり今でも通じるんだね、久しぶり過ぎてもう駄目かなと思ってたんだ。良かった』

 そう言われると手を通じて伝わるこの感じがとても懐かしいもののように感じる。

『憶えてないかな。幼稚園のころから私が中学入る位までかな。よく3人で手を繋いで色々お話しあっていたんだよ。普通に声で話す事との違いを特に意識していなかったかもしれないけれど』 

 記憶で思い出すのは公園の山のトンネル。
 完全に公園の中にある歩行者専用の小さい小さいトンネル。
 公園でも雑草が多い人通りの少ない場所にあって、通る人もほとんどいないトンネルだ。

 トンネルの中央部に何故か広くなっている部分があって、そこの広くなっている幅の分だけが一段高くなっている。
 そこが幼稚園時代の俺と由香里姉と香緒里ちゃんの秘密基地だった。

 そこでよく3人でお昼寝をしてたりした憶えがある。
 確かに色々話をしていた記憶もある。

『思い出せるかな』

『公園のあのトンネルで、か』

『やっぱり憶えていてくれたんだ!』

 そう言った後に由香里姉は手を離した。

「のぼせるわよ。私も出るから修も出なさい。でも逃さないから覚悟してね」

「はいはい」

 由香里姉が風呂から出たのにちょっと遅れて、俺も風呂から出る。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。 しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

異世界の剣聖女子

みくもっち
ファンタジー
 (時代劇マニアということを除き)ごく普通の女子高生、羽鳴由佳は登校中、異世界に飛ばされる。  その世界に飛ばされた人間【願望者】は、現実世界での願望どうりの姿や能力を発揮させることができた。  ただし万能というわけではない。 心の奥で『こんなことあるわけない』という想いの力も同時に働くために、無限や無敵、不死身といったスキルは発動できない。  また、力を使いこなすにはその世界の住人に広く【認識】される必要がある。  異世界で他の【願望者】や魔物との戦いに巻き込まれながら由佳は剣をふるう。  時代劇の見よう見まね技と認識の力を駆使して。  バトル多め。ギャグあり、シリアスあり、パロディーもりだくさん。  テンポの早い、非テンプレ異世界ファンタジー! *素敵な表紙イラストは、朱シオさんからです。@akasiosio

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...