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第4章 香緒里の魔法開発記

15 急いで権利を押さえよう

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 俺はそんな製品を誰か作っていないか、もう一度検索してみる。
 魔法利用の機器や道具類はデータベース化され、ネットで見ることが可能だ。
 このデータベースは隣の魔法技術大学で管理している。
 必要な場合は自由に検索したり、発注したりパテント所有者に連絡したり出来る優れ物だ。

 しかしやはり、今回の俺の需要に即した製品はみつからない。
 魔力使用人造筋肉というのが一番近いのだが、これは動力と制御に魔力が必要。
 つまり今回のケースでは使えない。

 そもそも魔力永続付与型の製品自体、種類は少ない。
 香緒里ちゃんのような魔法を使える人間が少ないからだ。

 香緒里ちゃんは俺と同じようなスケッチブックを取り出して、何か図面を書いたり計算式を書いたりしている。
 これはおそらく新しい魔法の開発中だ。

 ある程度魔法が使えれば、自分の魔力を元に別の魔法を開発することが出来る。
 例えば火弾ファイアボール水弾ウォーターシュートを使える魔法使いが、両方の概念を併せて蒸気爆弾スチームボムを開発するように。

 魔法にはそれぞれ基本となる要素がある。
 その組み合わせで様々な魔法が発現している訳だ。
 だから自分の持っている要素をある程度把握していれば、その組み合わせで新しい魔法を開発することが出来る。

 もちろん言うほど簡単な事じゃない。
 要素は持っていても得手不得手とか相性とかもあることだし。

 ちなみに俺が持っている魔法は物品加工と製品審査。
 物品加工は無生物や植物等、自分から動かない物を自由に切断したり削ったり曲げたり穴を開けたり組み合わせたりする魔法。
 物品審査は主に製品や道具類の特性や組成、使用する場合の有効性や仕上げ等の状況を確認する事ができる魔法だ。

 この2つを組み合わせて、修理と整備の魔法も使うことが出来る。
 小さい頃から目覚まし時計を分解したりプラモデルを作ったり電子工作をしたりしているうちに、自然に身についてしまった魔法だ。

 この魔法を駆使すれば、工作機械無しでも原理と構造がわかっているものなら何でも作ることが出来る。
 普段は魔法は使わず、工作機械を使って物作りをしているけれど。
 金属等を能力で加工するとそれなりに疲れるので。

 この魔法をフルに使ったのはこの学校では2回。
 最初の作品である超小型ヘリコプターを作った時、それと今の学生会幹部3人の武器を本気で作った時だけだ。

 不意に考え込んでいた香緒里ちゃんが頭を上げた。

「うーん、あと一歩の素材までは作れそうですが、使えるかは疑問です」

「何が出来た? 何でも参考になるなら」

「何か金属素材ありますか。ある程度弾力性があるものがいいです」

 俺はストック場所を引っ掻き回して、細くて薄い鋼材を見つけた。
 これならある程度しなるし、条件にあうだろう。

「これでいいか」

 俺は鋼材をちょっとしならせてみせる。

「多分大丈夫です。ちょっと魔法をかけてみます」

 香緒里ちゃんは鋼材を軽く撫でた。

「これで完成の筈です」

「それでこれはどんな魔法をかけたんだ?」

 一見何も変わらないように見える。

「流れる電流で弾性係数が変わる金属です。電流で制御できて力に関係する性質変化を色々試したのですが、結局これくらいしか出来ませんでした。本当は体積が変化すればいいなと思ったのですが」

 俺は考える。

 弾性係数が変わるという事は。
 応用出来る力学的な道具とすれば、バネが使える。
 ならこれは、色々使える可能性がありそうだ。

 俺は久しぶりに製品審査の魔法を全力で使う。
 疲れるとかそういう事を言っていられる状況じゃない。

 案の定この物質は面白い性質を持つし、応用範囲も凄く広そうだ。

「香緒里ちゃん、これは面白い事になりそうだ」

 俺はそう言うと、ストック場所から鋼線を選んで取り出し、久々に物品加工魔法を使った。

 伸びた鋼線がくるくる空中で螺旋を描き、切り離されて太細2本のバネになる。
 細いバネの方が太いバネより長い。

 細いバネにはその辺にあった熱収縮チューブを全体にかぶせて絶縁して、太いバネの中に入れる。

 その辺にあった鋼板を円形に加工して、細いバネを縮めた後、円形の鋼板を太いバネの両端に貼り付ける。
 最後に導線2本を両側の鋼板に固着させて完成だ。

 そして俺は棚から鉄道模型用のコントローラーを取り出す。
 無論鉄道模型用として使っているのではなく、12ボルトまでの任意の電圧の直流を作るのに便利だから使っているだけだ。
 コントローラーと導線と適当な抵抗を接続して理論実証用の装置が完成。

「これは何なんですか」

「香緒里ちゃんが作った魔法の理論実証用の模型。この外側のバネだけにさっきの魔法をかけてくれる?」

 本当はしまったなと思っている。
 魔法をかけてからバネを作れば多分楽だったのに、ついつい気持ちが先走って模型作りを先行させてしまったのだ。
 でも幸い、香緒里ちゃんはこの状態でも魔法をかけることが出来た。

「外側のバネだけですね。ならこれで完成です」

「じゃあ実験、見ていてくれ」

 俺はコントローラーの電源を入れ、まずはつまみを少しだけひねって電流を流す。
 思ったより大きな変化があった。
 バネを組み合わせた装置はぐぐっと3割位長くなる。

「電流を流すとバネが柔らかくなるようだな。だから内側のバネの弾力に負けて伸びた」

「これなら義足の動力に使えますか」

 香緒里ちゃんはきらきら目で聞いてくる。
 でも彼女はまだ、この実証装置が持つ可能性に気づいていない。
 義足に使えるとか、そんなレベルじゃない事に。

「気合い入れて行くぞ。これから田奈先生の研究室へ行く」

 俺は立ち上がる。

「え、いきなり何でですか」

「田奈教授は魔法工学科の主任教授だ。魔法道具関係のパテント取得窓口もやっている」

 奴に話すのが一番早い。
 何せこの学校の誰より魔法工学を良く知っている。

「パテントって、この魔法がですか」

「ああ、これは色々応用が効くしな」

 俺達は実証装置を持って研究室を目指した。
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