15 / 202
第4章 香緒里の魔法開発記
15 急いで権利を押さえよう
しおりを挟む
俺はそんな製品を誰か作っていないか、もう一度検索してみる。
魔法利用の機器や道具類はデータベース化され、ネットで見ることが可能だ。
このデータベースは隣の魔法技術大学で管理している。
必要な場合は自由に検索したり、発注したりパテント所有者に連絡したり出来る優れ物だ。
しかしやはり、今回の俺の需要に即した製品はみつからない。
魔力使用人造筋肉というのが一番近いのだが、これは動力と制御に魔力が必要。
つまり今回のケースでは使えない。
そもそも魔力永続付与型の製品自体、種類は少ない。
香緒里ちゃんのような魔法を使える人間が少ないからだ。
香緒里ちゃんは俺と同じようなスケッチブックを取り出して、何か図面を書いたり計算式を書いたりしている。
これはおそらく新しい魔法の開発中だ。
ある程度魔法が使えれば、自分の魔力を元に別の魔法を開発することが出来る。
例えば火弾と水弾を使える魔法使いが、両方の概念を併せて蒸気爆弾を開発するように。
魔法にはそれぞれ基本となる要素がある。
その組み合わせで様々な魔法が発現している訳だ。
だから自分の持っている要素をある程度把握していれば、その組み合わせで新しい魔法を開発することが出来る。
もちろん言うほど簡単な事じゃない。
要素は持っていても得手不得手とか相性とかもあることだし。
ちなみに俺が持っている魔法は物品加工と製品審査。
物品加工は無生物や植物等、自分から動かない物を自由に切断したり削ったり曲げたり穴を開けたり組み合わせたりする魔法。
物品審査は主に製品や道具類の特性や組成、使用する場合の有効性や仕上げ等の状況を確認する事ができる魔法だ。
この2つを組み合わせて、修理と整備の魔法も使うことが出来る。
小さい頃から目覚まし時計を分解したりプラモデルを作ったり電子工作をしたりしているうちに、自然に身についてしまった魔法だ。
この魔法を駆使すれば、工作機械無しでも原理と構造がわかっているものなら何でも作ることが出来る。
普段は魔法は使わず、工作機械を使って物作りをしているけれど。
金属等を能力で加工するとそれなりに疲れるので。
この魔法をフルに使ったのはこの学校では2回。
最初の作品である超小型ヘリコプターを作った時、それと今の学生会幹部3人の武器を本気で作った時だけだ。
不意に考え込んでいた香緒里ちゃんが頭を上げた。
「うーん、あと一歩の素材までは作れそうですが、使えるかは疑問です」
「何が出来た? 何でも参考になるなら」
「何か金属素材ありますか。ある程度弾力性があるものがいいです」
俺はストック場所を引っ掻き回して、細くて薄い鋼材を見つけた。
これならある程度しなるし、条件にあうだろう。
「これでいいか」
俺は鋼材をちょっとしならせてみせる。
「多分大丈夫です。ちょっと魔法をかけてみます」
香緒里ちゃんは鋼材を軽く撫でた。
「これで完成の筈です」
「それでこれはどんな魔法をかけたんだ?」
一見何も変わらないように見える。
「流れる電流で弾性係数が変わる金属です。電流で制御できて力に関係する性質変化を色々試したのですが、結局これくらいしか出来ませんでした。本当は体積が変化すればいいなと思ったのですが」
俺は考える。
弾性係数が変わるという事は。
応用出来る力学的な道具とすれば、バネが使える。
ならこれは、色々使える可能性がありそうだ。
俺は久しぶりに製品審査の魔法を全力で使う。
疲れるとかそういう事を言っていられる状況じゃない。
案の定この物質は面白い性質を持つし、応用範囲も凄く広そうだ。
「香緒里ちゃん、これは面白い事になりそうだ」
俺はそう言うと、ストック場所から鋼線を選んで取り出し、久々に物品加工魔法を使った。
伸びた鋼線がくるくる空中で螺旋を描き、切り離されて太細2本のバネになる。
細いバネの方が太いバネより長い。
細いバネにはその辺にあった熱収縮チューブを全体にかぶせて絶縁して、太いバネの中に入れる。
その辺にあった鋼板を円形に加工して、細いバネを縮めた後、円形の鋼板を太いバネの両端に貼り付ける。
最後に導線2本を両側の鋼板に固着させて完成だ。
そして俺は棚から鉄道模型用のコントローラーを取り出す。
無論鉄道模型用として使っているのではなく、12ボルトまでの任意の電圧の直流を作るのに便利だから使っているだけだ。
コントローラーと導線と適当な抵抗を接続して理論実証用の装置が完成。
「これは何なんですか」
「香緒里ちゃんが作った魔法の理論実証用の模型。この外側のバネだけにさっきの魔法をかけてくれる?」
本当はしまったなと思っている。
魔法をかけてからバネを作れば多分楽だったのに、ついつい気持ちが先走って模型作りを先行させてしまったのだ。
でも幸い、香緒里ちゃんはこの状態でも魔法をかけることが出来た。
「外側のバネだけですね。ならこれで完成です」
「じゃあ実験、見ていてくれ」
俺はコントローラーの電源を入れ、まずはつまみを少しだけひねって電流を流す。
思ったより大きな変化があった。
バネを組み合わせた装置はぐぐっと3割位長くなる。
「電流を流すとバネが柔らかくなるようだな。だから内側のバネの弾力に負けて伸びた」
「これなら義足の動力に使えますか」
香緒里ちゃんはきらきら目で聞いてくる。
でも彼女はまだ、この実証装置が持つ可能性に気づいていない。
義足に使えるとか、そんなレベルじゃない事に。
「気合い入れて行くぞ。これから田奈先生の研究室へ行く」
俺は立ち上がる。
「え、いきなり何でですか」
「田奈教授は魔法工学科の主任教授だ。魔法道具関係のパテント取得窓口もやっている」
奴に話すのが一番早い。
何せこの学校の誰より魔法工学を良く知っている。
「パテントって、この魔法がですか」
「ああ、これは色々応用が効くしな」
俺達は実証装置を持って研究室を目指した。
魔法利用の機器や道具類はデータベース化され、ネットで見ることが可能だ。
このデータベースは隣の魔法技術大学で管理している。
必要な場合は自由に検索したり、発注したりパテント所有者に連絡したり出来る優れ物だ。
しかしやはり、今回の俺の需要に即した製品はみつからない。
魔力使用人造筋肉というのが一番近いのだが、これは動力と制御に魔力が必要。
つまり今回のケースでは使えない。
そもそも魔力永続付与型の製品自体、種類は少ない。
香緒里ちゃんのような魔法を使える人間が少ないからだ。
香緒里ちゃんは俺と同じようなスケッチブックを取り出して、何か図面を書いたり計算式を書いたりしている。
これはおそらく新しい魔法の開発中だ。
ある程度魔法が使えれば、自分の魔力を元に別の魔法を開発することが出来る。
例えば火弾と水弾を使える魔法使いが、両方の概念を併せて蒸気爆弾を開発するように。
魔法にはそれぞれ基本となる要素がある。
その組み合わせで様々な魔法が発現している訳だ。
だから自分の持っている要素をある程度把握していれば、その組み合わせで新しい魔法を開発することが出来る。
もちろん言うほど簡単な事じゃない。
要素は持っていても得手不得手とか相性とかもあることだし。
ちなみに俺が持っている魔法は物品加工と製品審査。
物品加工は無生物や植物等、自分から動かない物を自由に切断したり削ったり曲げたり穴を開けたり組み合わせたりする魔法。
物品審査は主に製品や道具類の特性や組成、使用する場合の有効性や仕上げ等の状況を確認する事ができる魔法だ。
この2つを組み合わせて、修理と整備の魔法も使うことが出来る。
小さい頃から目覚まし時計を分解したりプラモデルを作ったり電子工作をしたりしているうちに、自然に身についてしまった魔法だ。
この魔法を駆使すれば、工作機械無しでも原理と構造がわかっているものなら何でも作ることが出来る。
普段は魔法は使わず、工作機械を使って物作りをしているけれど。
金属等を能力で加工するとそれなりに疲れるので。
この魔法をフルに使ったのはこの学校では2回。
最初の作品である超小型ヘリコプターを作った時、それと今の学生会幹部3人の武器を本気で作った時だけだ。
不意に考え込んでいた香緒里ちゃんが頭を上げた。
「うーん、あと一歩の素材までは作れそうですが、使えるかは疑問です」
「何が出来た? 何でも参考になるなら」
「何か金属素材ありますか。ある程度弾力性があるものがいいです」
俺はストック場所を引っ掻き回して、細くて薄い鋼材を見つけた。
これならある程度しなるし、条件にあうだろう。
「これでいいか」
俺は鋼材をちょっとしならせてみせる。
「多分大丈夫です。ちょっと魔法をかけてみます」
香緒里ちゃんは鋼材を軽く撫でた。
「これで完成の筈です」
「それでこれはどんな魔法をかけたんだ?」
一見何も変わらないように見える。
「流れる電流で弾性係数が変わる金属です。電流で制御できて力に関係する性質変化を色々試したのですが、結局これくらいしか出来ませんでした。本当は体積が変化すればいいなと思ったのですが」
俺は考える。
弾性係数が変わるという事は。
応用出来る力学的な道具とすれば、バネが使える。
ならこれは、色々使える可能性がありそうだ。
俺は久しぶりに製品審査の魔法を全力で使う。
疲れるとかそういう事を言っていられる状況じゃない。
案の定この物質は面白い性質を持つし、応用範囲も凄く広そうだ。
「香緒里ちゃん、これは面白い事になりそうだ」
俺はそう言うと、ストック場所から鋼線を選んで取り出し、久々に物品加工魔法を使った。
伸びた鋼線がくるくる空中で螺旋を描き、切り離されて太細2本のバネになる。
細いバネの方が太いバネより長い。
細いバネにはその辺にあった熱収縮チューブを全体にかぶせて絶縁して、太いバネの中に入れる。
その辺にあった鋼板を円形に加工して、細いバネを縮めた後、円形の鋼板を太いバネの両端に貼り付ける。
最後に導線2本を両側の鋼板に固着させて完成だ。
そして俺は棚から鉄道模型用のコントローラーを取り出す。
無論鉄道模型用として使っているのではなく、12ボルトまでの任意の電圧の直流を作るのに便利だから使っているだけだ。
コントローラーと導線と適当な抵抗を接続して理論実証用の装置が完成。
「これは何なんですか」
「香緒里ちゃんが作った魔法の理論実証用の模型。この外側のバネだけにさっきの魔法をかけてくれる?」
本当はしまったなと思っている。
魔法をかけてからバネを作れば多分楽だったのに、ついつい気持ちが先走って模型作りを先行させてしまったのだ。
でも幸い、香緒里ちゃんはこの状態でも魔法をかけることが出来た。
「外側のバネだけですね。ならこれで完成です」
「じゃあ実験、見ていてくれ」
俺はコントローラーの電源を入れ、まずはつまみを少しだけひねって電流を流す。
思ったより大きな変化があった。
バネを組み合わせた装置はぐぐっと3割位長くなる。
「電流を流すとバネが柔らかくなるようだな。だから内側のバネの弾力に負けて伸びた」
「これなら義足の動力に使えますか」
香緒里ちゃんはきらきら目で聞いてくる。
でも彼女はまだ、この実証装置が持つ可能性に気づいていない。
義足に使えるとか、そんなレベルじゃない事に。
「気合い入れて行くぞ。これから田奈先生の研究室へ行く」
俺は立ち上がる。
「え、いきなり何でですか」
「田奈教授は魔法工学科の主任教授だ。魔法道具関係のパテント取得窓口もやっている」
奴に話すのが一番早い。
何せこの学校の誰より魔法工学を良く知っている。
「パテントって、この魔法がですか」
「ああ、これは色々応用が効くしな」
俺達は実証装置を持って研究室を目指した。
29
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる