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第3章 迷い考えて作るんだ!~魔法工学生の夏~

11 小話1終話 熱帯魚は流氷の夢を見るか

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 俺は工房へとやってきた。
 明日までに、魚捕り作戦の準備をしなければならない。

 まずは網、浮いている魚を掬える程度の網が必要だ。
 ちょうどいい材料など転がっている訳はない。
 ここにある材料で、何とかごまかして作ることになる。

 まず俺の目についたのは、古いレースのカーテン。
 悪いが君にはカーテンとしての人生を終えて貰おう。

 そしてステンレスの細い丸棒。
 これは網を保持する外枠として採用。

 そして内径20mmのステンレス丸パイプで柄の部分を作る。
 後はカーテンのレースをステンレスの番線で形を整え網部分を作成。

 本当はミシンがけして作るのが正しいと思う。
 しかし俺の工房にミシンなどという軟弱なものは無い。

 だから網の形を縫うのも番線だし、網を枠に止めるのも番線だ。
 少々重くなるけれど、材料が無いのでしょうがない。

 そうして出来上がったのは、大きくて頑丈で重い網。
 形は小学生が水辺で遊ぶのに使っている網と同じだが、大きさがまるで違う。
 網の直径が約1m、奥行きも約1m、柄が2mの大物だ。

 俺だと両手把持して何とか振り回せるかなという重さだが、腕力自慢の鈴懸台先輩なら余裕で振り回せるだろう。
 だから問題は無い。

 後はネットで海図をチェック。あとこの島直近の海流の流れや深さをチェック。
 これは明日、狙うべきポイントを絞る為の作業だ。

 人と織り調べて、場所を確認して、本日の作業は無事終了。
 あとは明日、晴れればいいが。
 鳥山が出ていればもっと良いのだけれど。

 ◇◇◇

 そして翌日放課後。
 俺達のキャンピングカーは港の手前から暴走を開始。

 岸壁からそのまま海へダイブ……せずに海上2mの空中を走っていく。
 目標地点は港からぐるっと半島部分を回った裏のあたりだ。

 鳥山が立っていればそこを狙ったのだが、残念ながら今日は見当たらない。
 だから海底がちょっと深く落ち込んでいて、流れが遅めの予定地点を狙う。

「由香里姉、この辺で停止お願いします」

 スマホのGPSで場所を確認。
 半島と小さな岩の島の間で車を停める。

 そして俺はドアを開け、持っていたパン粉の袋を開けて中身を海へばらまいた。
 これで少しは魚が集まってくれればいいが。

 そこそこ効果があったようで小魚が下に寄ってくる。
 でもまだだ。もう少し待とう。

 俺の後ろでは由香里姉がスタンバイしている。
 今回の作戦の第1のキーマンは由香里姉だ。

 そして小魚が海面へ跳ね始めた。

「今です。由香里姉、できるだけ海中広範囲に、凍る寸前の低温層を作ってください。付近の岩も含めて」

「本当は氷をぶち込む方が性に合うんだけどね」

 由香里姉は杖を振りかざして、攻撃魔法を唱える。
 海面が一瞬凍ったように見えた後、少し海面下が沸き立った。

 さあ、これで魚が浮いてくればいいが。
 南国の魚は低温に弱い。
 沖縄では冬の寒い早朝、寒さに弱い魚が浮いてくる日があるという。
 それを参考にした寒冷魔法攻撃による魚捕り。

 少し待つと徐々に海面に何か浮いてきた。
 成功のようだ。

「それでは由香里姉運転お願いします。鈴懸台先輩、網をよろしくおねがいします」

「おいよ。ユカリ、ゆっくり下降して。1m位」

 車の高度が下がる。

「よし、ゆっくり前進と。で、ストップ。網を一度上げる」

 鈴懸台先輩は網を上げ、中身をプラスチックの大型衣装ケースに入れる。
 イワシのような小魚に混じって、体長30cmクラスの魚もちらほら。

「それじゃまた少し前進、でちょっとだけ左。はいストップ」

 鈴懸台先輩が網を一振り。
 衣装ケースの中の魚が増える。

 小物中心だがそこそこ大きい魚も混じっている。
 赤っぽくて太い美味しそうな魚もいた。

「どうですか。食べられそうですか」

 作業は由香里姉と鈴懸台先輩に任せ、俺は月見野先輩に鑑定をお願いする。
 彼女は補助魔法科医療専攻なので、魔法で毒がわかるのだ。

「全部大丈夫ですわ。シガテラ毒があるのもいないですし、不味いのもいないようです。ただちょっとだけ今思いついた問題点があるのですけれど」

 何だろう。
 鈴懸台先輩の作業は順調だ。
 でっかい衣装ケースが既に半分以上魚で埋まっている。

 一応大漁と言ってもいいだろう。
 なのに問題とは。

「この魚、誰が調理するのでしょうか。誰か魚を捌ける人っていたかしらね」

 あっ! その場の空気が凍りついた。

 まず由香里姉に作らせてはいけない。
 彼女の料理の腕は殺人級だ。

 妹の方は少しはましだ。
 不味いが食べても死なないという点において。

 勿論俺も魚を捌く技術なんて持っていない。
 俺の専門は機械であって生物ではないのだ。

 そして今の発言からして月見野先輩も多分対象外。
 とすると残ったのは鈴懸台先輩だが……

「鈴懸台先輩は魚を料理するのは得意ですか」

「魚? 焼けば大丈夫なんじゃない?」

 駄目だ……。
 なまじ大漁なだけに始末に負えない。

「誰か魚を捌ける友人がいませんか」

 誰も声をあげない。
 沈黙がその場を支配する。

「いないなら私が料理するわ」

「結構です。由香里姉は運転に専念してください」

 食べても大丈夫な食材から毒をつくるのは由香里姉の特技だ。
 本人は自覚をしていないが、俺は数回あの世を見た。

 だから由香里姉には次の言葉を贈ろう。
 ネバーセイ、ネバーアゲイン!
 いやこれだと「次はない」とは言わないでという意味か。
 ネバーセイ・アゲインだけだな。

 そう思ったところで俺の頭にある考えが閃いた。
 今ならこれを持っていって調理してくれるところがある。
 腕は確かだ。

 唯一の欠点は、この大漁の成果のほとんどを失うこと。
 それでも食べられない料理を量産して皆で死にかけるよりはましだ。
 だから俺は宣言する。

「カフェテリアに持っていきましょう。今なら食材何でも大歓迎の筈です。料理の腕も確かですし皆に感謝されるでしょう」

 月見野先輩は少し考える。

「そうですね。たまには皆に感謝される事をするのも、いいかもしれません」

 先輩、食べられない大量より食べられる少量を選んだようだ。

「まあ人助けにもなりますし仕方ないです」

 香緒里ちゃんも同意する。

「ん、人助けならしょうがないな」

 鈴懸台先輩も同意してくれた。

「皆の意見ならしょうがないわね。じゃあ大学のカフェテリアまで行くわよ」

 鈴懸台先輩が網をしまい、扉を閉めた。
 キャンピングカーは浮上して島へ向かって飛行を開始する。

 ◇◇◇
 
 カフェテリアのおばちゃん達からは大変感謝された。
 おかげで晩御飯だけは大変豪勢だ。
 出たのはグルクンの唐揚げやミーバイやアカマチやマクブーの刺し身、イワシ類の小魚の丸揚げ等。
 久しぶりに料理らしい料理を、俺たちは食べまくる。

 調子に乗った由香里姉と鈴懸台先輩が、次の船が入港した木曜日までの間、風の弱い隙を狙って出漁しまくったのは言うまでもない。
 おかげでカフェテリアにはほぼ毎日新鮮な魚メニューが並び、学生会幹部会が皆に賞賛される珍しい事態が発生した。

 ちなみにその裏で。
 海に出るたび下回りを洗車して主要部分をグリスアップしまくった、俺の誰も認めてくれない苦労があったのは言うまでもない。

 これをサボると間違いなく車が錆びるのだ。
 日本車ならまだ何とかなるかもしれないが、これはイタ車だし。

 疲れた……
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