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第2章 学生会長の野望
6 女王様の召喚状
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それは、いつもと同じ放課後から始まった。
いつもの第1工作室。
俺は小さい機械相手にはんだゴテを奮っていた。
今日は電子工作だ。
改造母体は中国製安物デジタルアンプ。安い割に音がいい。
でも安値追求のためか、部品面で惜しい箇所が結構ある。
例えばオペアンプのICとかコンデンサとか。
そういう訳で、部品をそれなりのものと交換。
ちまちま小さい基盤相手に格闘していたら、4限終了のチャイムが鳴った。
数分後いつものように前の扉が開き、香緒里ちゃんが入ってくる。
しかしそこからが、いつもと少し違った。
「長津田先輩、ちょっとお出かけ出来ませんか?」
何だろう。
「これ終わってからじゃ駄目か」
「出来ればちょっと急ぎたいです」
何だか想像がつかない。こういう事は初めてだ。
仕方ない。俺はやりかけのはんだ付けを一旦終了し、スイッチを切る。
第1工作室がある実務教室棟から教室棟へ。
教室棟の一番東寄りの階段を上に登った時点で、僕は香緒里ちゃんの目的地に気がついた。
この上、階段脇にある学生会室だ。
学生会は高校等の生徒会と違い、権限がかなり大きい。
何せ部活や研究会等の予算の決定権を握っている。装備や備品や部品の購入を決めたりもする。
つまり、この学校の学生側官僚組織のトップなのだ。
しかし香緒里ちゃんがわざわざここへ連れてくるとなると、そんな学生会の権限とは意味がきっと異なる。
香緒里ちゃんと学生会の接点は多分1人。
そして香緒里ちゃんは、学生会室のドアをノックした。
「香緒里です、入ります」
返事を聞かずにドアを開けて、俺を引っ張り込む。
中で待っていたのは女の先輩3人。
中央の席で俺がこの学校を受験した原因がこっちを睨んでいた。
「待っていたわよ。修」
香緒里ちゃんの姉にして攻撃魔法科4年。
別名氷の女王こと、薊野由香里さん、昔の言い方だと由香里姉だ。
「ええと学生会長、何か御用でしょうか」
「ふざけないでよ!」
寒波が飛んできた。
氷混じりでないので怪我はしない。
「幼なじみだし何時でもここへ顔を出していいと言ったのに、来てくれたのはこの杖を作った時と調整してもらった時だけじゃない。せっかくいつでもお茶出来る程度の準備はしてあるのに」
他に人がいる場所で、そんなぶっちゃけを言って良いのだろうが。
「あの長津田君が会長の幼馴染って聞いてさ、いつここへ来るか楽しみにしていたんだ。でも結局自発的に来てくれないまま今日になった訳だ」
「私達のことはお気にしなくても結構です。会長から色々お伺いしておりますので」
由香里さん以外にここにいる、2人の女の先輩達も俺は知っている。
副会長の鈴懸台先輩と書記兼会計兼監査の月見野先輩。
どっちも一応俺のお客様だ。
昨年の夏休み前、この3人が別々にだが俺に専用武器を発注してくれた。
始めは由香里姉、次いで鈴懸台先輩、そして月見野先輩。
3人共当時としては難しい注文をしてくれたものだ。
でもお陰で魔法武器の制作に必要な一通りのノウハウが身についた。
それぞれ杖、剣、仕込み入り杖と全く違う道具。
俺が作った初めての魔法杖、魔法剣、そして医療用の杖だ。
3点ともに魔道具としては、未だトップクラスの出来。
使用者の実力と、注文要求が明確で分かりやすかったおかげだけれど。
「去年作った武器の調子はどうですか。何ならメンテナンスしますけれど」
「残念だが私のクラウ・ソラスは全くもって絶好調だな」
「私のカドゥケウスもです。あれは良く出来た杖ですから」
「何、私を差し置いて雑談しているの!」
由香里姉が、ちょっとむくれている。
この状態の由香里姉を見るのは久しぶりだ。
「だって由香里姉、一般学生がここに気安く来るわけに行かないじゃないですか」
「あ、やっとその名前で呼んでくれた」
由香里姉が微笑んだ。
そして俺は気づいてしまう。つい昔の癖で由香里姉と呼んでしまった事に。
まあ様子から見て、取り敢えず問題は無さそうだけれど。
「まあ、積もる話もあるでしょう。お茶の用意をしますから、ちょっとそこへお掛けになってお待ち下さい」
「あ、私も手伝います」
月見野先輩と香緒里ちゃんが席を立って、左奥の給湯室らしき方へ。
残ったのは由香里姉と鈴懸台先輩。
氷の女王と戦闘隊長。攻撃魔法科4年生の2トップだ。
なお月見野先輩は補助魔法科の4年生。
学生会会計としては『深淵の監査』と呼ばれる事が多い。
『お前の研究会が監査を見ている時、監査もお前達の行動を見ているのだ!』と畏怖を持って語られている。
まあその辺は置いておいて。
「それにしても由香里姉、今日は何で俺を呼んだんですか」
「長津田君がいつまでたってもここに遊びに来ないで、あまつさえ妹とイチャイチャしているから姉さんの方が怒っちゃってね」
「ミドリ!」
キン!と甲高い音がした。
鈴懸台先輩を見ると、涼しい顔で愛剣クラウ・ソラスを鞘に収めている。
よく見ると天井に氷片が刺さっていた。
つまりは由香里姉が氷雪系魔法で攻撃し、鈴懸台先輩が刀で払ったと。
戦闘系でない俺には視認できない速さで行われたようだ。
よく見ると天井の一部が傷だらけだ。
つまり今のやりとり、よくあることらしい。
攻撃魔法科ではない俺としては、なかなかに怖い世界だと感じる。
「まずは個人的な話からよ」
由香里姉がポケットからパスケースを取り出す。
「春休みに島外で奮闘して、何とかこれを手に入れたの」
出てきたのは自動車免許証。
真面目な顔をした由香里姉の写真が貼ってあり、普通自動車一種のところに丸がついている。
「あ、運転免許取られたんですね。おめでとうございます」
「結構大変だったわよ。時間がなくて仮免も本試験も試験場一発試験で取ったの」
島内には自動車学校はない。だから取るなら、夏休みを利用して合宿免許か試験場試験か。
普通は合宿免許で取る。
それを春休み期間だけで、仮免だけでなく免許証まで取るとは、なかなか凄い。
「それでね。先日香緒里が動かなくてもいいから中古の大型スクーターが欲しいと言ってきて探した際にね、丁度安くていい車を見つけたので買っちゃった」
これで謎がひとつ解けた。
香緒里ちゃんが用意したスクーターは、由香里姉が探してきたものだったようだ。
由香里姉は学生会長として、学校外とも色々交流がある。
そういった物を探すのには適役だろう。
「それで島外の工場に頼んで愛車の改装と整備をして貰ってね。無事終わって、今日夕方の船で港に着く予定なの」
どんな車を購入したのだろう。
由香里姉の事だからスポーツカーだろうか。
「今日の午後6時のフェリーで到着予定よ。だから時間になったら一緒に見に行って欲しいんだけれど」
「そういう事なら喜んで」
「なら決まりね。ここの全員で行くわ。他の皆にはもう話してあるの」
全員で行くなら最低でも5人乗りは出来る車だろう。
なら普通のセダンかハッチバックだろうか。
少なくとも2人乗りのスポーツカーという事は無さそうだ。
いつもの第1工作室。
俺は小さい機械相手にはんだゴテを奮っていた。
今日は電子工作だ。
改造母体は中国製安物デジタルアンプ。安い割に音がいい。
でも安値追求のためか、部品面で惜しい箇所が結構ある。
例えばオペアンプのICとかコンデンサとか。
そういう訳で、部品をそれなりのものと交換。
ちまちま小さい基盤相手に格闘していたら、4限終了のチャイムが鳴った。
数分後いつものように前の扉が開き、香緒里ちゃんが入ってくる。
しかしそこからが、いつもと少し違った。
「長津田先輩、ちょっとお出かけ出来ませんか?」
何だろう。
「これ終わってからじゃ駄目か」
「出来ればちょっと急ぎたいです」
何だか想像がつかない。こういう事は初めてだ。
仕方ない。俺はやりかけのはんだ付けを一旦終了し、スイッチを切る。
第1工作室がある実務教室棟から教室棟へ。
教室棟の一番東寄りの階段を上に登った時点で、僕は香緒里ちゃんの目的地に気がついた。
この上、階段脇にある学生会室だ。
学生会は高校等の生徒会と違い、権限がかなり大きい。
何せ部活や研究会等の予算の決定権を握っている。装備や備品や部品の購入を決めたりもする。
つまり、この学校の学生側官僚組織のトップなのだ。
しかし香緒里ちゃんがわざわざここへ連れてくるとなると、そんな学生会の権限とは意味がきっと異なる。
香緒里ちゃんと学生会の接点は多分1人。
そして香緒里ちゃんは、学生会室のドアをノックした。
「香緒里です、入ります」
返事を聞かずにドアを開けて、俺を引っ張り込む。
中で待っていたのは女の先輩3人。
中央の席で俺がこの学校を受験した原因がこっちを睨んでいた。
「待っていたわよ。修」
香緒里ちゃんの姉にして攻撃魔法科4年。
別名氷の女王こと、薊野由香里さん、昔の言い方だと由香里姉だ。
「ええと学生会長、何か御用でしょうか」
「ふざけないでよ!」
寒波が飛んできた。
氷混じりでないので怪我はしない。
「幼なじみだし何時でもここへ顔を出していいと言ったのに、来てくれたのはこの杖を作った時と調整してもらった時だけじゃない。せっかくいつでもお茶出来る程度の準備はしてあるのに」
他に人がいる場所で、そんなぶっちゃけを言って良いのだろうが。
「あの長津田君が会長の幼馴染って聞いてさ、いつここへ来るか楽しみにしていたんだ。でも結局自発的に来てくれないまま今日になった訳だ」
「私達のことはお気にしなくても結構です。会長から色々お伺いしておりますので」
由香里さん以外にここにいる、2人の女の先輩達も俺は知っている。
副会長の鈴懸台先輩と書記兼会計兼監査の月見野先輩。
どっちも一応俺のお客様だ。
昨年の夏休み前、この3人が別々にだが俺に専用武器を発注してくれた。
始めは由香里姉、次いで鈴懸台先輩、そして月見野先輩。
3人共当時としては難しい注文をしてくれたものだ。
でもお陰で魔法武器の制作に必要な一通りのノウハウが身についた。
それぞれ杖、剣、仕込み入り杖と全く違う道具。
俺が作った初めての魔法杖、魔法剣、そして医療用の杖だ。
3点ともに魔道具としては、未だトップクラスの出来。
使用者の実力と、注文要求が明確で分かりやすかったおかげだけれど。
「去年作った武器の調子はどうですか。何ならメンテナンスしますけれど」
「残念だが私のクラウ・ソラスは全くもって絶好調だな」
「私のカドゥケウスもです。あれは良く出来た杖ですから」
「何、私を差し置いて雑談しているの!」
由香里姉が、ちょっとむくれている。
この状態の由香里姉を見るのは久しぶりだ。
「だって由香里姉、一般学生がここに気安く来るわけに行かないじゃないですか」
「あ、やっとその名前で呼んでくれた」
由香里姉が微笑んだ。
そして俺は気づいてしまう。つい昔の癖で由香里姉と呼んでしまった事に。
まあ様子から見て、取り敢えず問題は無さそうだけれど。
「まあ、積もる話もあるでしょう。お茶の用意をしますから、ちょっとそこへお掛けになってお待ち下さい」
「あ、私も手伝います」
月見野先輩と香緒里ちゃんが席を立って、左奥の給湯室らしき方へ。
残ったのは由香里姉と鈴懸台先輩。
氷の女王と戦闘隊長。攻撃魔法科4年生の2トップだ。
なお月見野先輩は補助魔法科の4年生。
学生会会計としては『深淵の監査』と呼ばれる事が多い。
『お前の研究会が監査を見ている時、監査もお前達の行動を見ているのだ!』と畏怖を持って語られている。
まあその辺は置いておいて。
「それにしても由香里姉、今日は何で俺を呼んだんですか」
「長津田君がいつまでたってもここに遊びに来ないで、あまつさえ妹とイチャイチャしているから姉さんの方が怒っちゃってね」
「ミドリ!」
キン!と甲高い音がした。
鈴懸台先輩を見ると、涼しい顔で愛剣クラウ・ソラスを鞘に収めている。
よく見ると天井に氷片が刺さっていた。
つまりは由香里姉が氷雪系魔法で攻撃し、鈴懸台先輩が刀で払ったと。
戦闘系でない俺には視認できない速さで行われたようだ。
よく見ると天井の一部が傷だらけだ。
つまり今のやりとり、よくあることらしい。
攻撃魔法科ではない俺としては、なかなかに怖い世界だと感じる。
「まずは個人的な話からよ」
由香里姉がポケットからパスケースを取り出す。
「春休みに島外で奮闘して、何とかこれを手に入れたの」
出てきたのは自動車免許証。
真面目な顔をした由香里姉の写真が貼ってあり、普通自動車一種のところに丸がついている。
「あ、運転免許取られたんですね。おめでとうございます」
「結構大変だったわよ。時間がなくて仮免も本試験も試験場一発試験で取ったの」
島内には自動車学校はない。だから取るなら、夏休みを利用して合宿免許か試験場試験か。
普通は合宿免許で取る。
それを春休み期間だけで、仮免だけでなく免許証まで取るとは、なかなか凄い。
「それでね。先日香緒里が動かなくてもいいから中古の大型スクーターが欲しいと言ってきて探した際にね、丁度安くていい車を見つけたので買っちゃった」
これで謎がひとつ解けた。
香緒里ちゃんが用意したスクーターは、由香里姉が探してきたものだったようだ。
由香里姉は学生会長として、学校外とも色々交流がある。
そういった物を探すのには適役だろう。
「それで島外の工場に頼んで愛車の改装と整備をして貰ってね。無事終わって、今日夕方の船で港に着く予定なの」
どんな車を購入したのだろう。
由香里姉の事だからスポーツカーだろうか。
「今日の午後6時のフェリーで到着予定よ。だから時間になったら一緒に見に行って欲しいんだけれど」
「そういう事なら喜んで」
「なら決まりね。ここの全員で行くわ。他の皆にはもう話してあるの」
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