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第29章 春の嵐
第248話 見えない手の汚れ
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春合宿終了以降、研究室は大分静かになった。理由は幾つかある。
最も大きな理由はオマーチ勢が遊びに来なくなった事だ。
「大変申し訳ありません。しばらくオマーチの研究室をはじめ、基本的に移動魔法を使わないようにお願いいたします」
ターカノさんからのお願いだ。理由は言わなかったしこちらもあえて聞かなかった。きっと今はそういう時期なのだろう。そう思っただけだ。
他にも学校の事務局からこんなお願いが来た。
『今期の新人勧誘は自粛願いたい』
だから昨年のように新人が来るかと待ち構える事はない。移動魔法が使えないから歓迎合宿も残念合宿も当然企画しない。
あとは一見、いつも通りに見える。皆がいつも通りに振る舞おうとしているのかもしれないけれど。
シンハ君やヨーコ先輩、フルエさんは相変わらずトレーニングや勉強会をしている。しかしどうもパワーがいまいちな感じに見えるのは気のせいだろうか。
フールイ先輩は再び強力空間系魔法杖を使って一人で何かを研究している様子。元々無口だけれど以前とはまた違う感じがしないでもない。
他の皆さんもそれぞれ何かやっている。小物作りとか漫画描きとか。しかし何かいまいち気合が入っていない感じだ。
俺とシモンさんは新たに小型の自動車を作ってみた。ホバークラフトにしてしまった買い出し用自動車の代用だ。
しかしいまいち自分でもノリが良くないと感じる。
「性能は悪くない筈なんだけれどな」
「既存技術ばかりで面白みがないのは確かだよね。キーンさんがいないから攻めた最適化が出来ないし。ゴムや軽量合金のようなオマーチ製特殊素材ももう在庫分しか使えないしね」
シモンさんの言う通りだ。そして素材関係についてはそれだけではない。
他の一般的な資材類の納期が長くなりはじめた。今まで注文して3日程度あれば届いたものが8日経っても届かなかったりする。
更に市場では鉄や銅等の価格が値上がりしているようだ。現在は以前に比べて2割程度の価格上昇。だがもっと上がりそうな気配だ。
市場というか街そのものの方も今までと違う雰囲気らしい。
「景気はいいんだけれどね、何か落ち着かない感じ」
うちの姉が言った言葉だ。今の街の様子をよく表していると感じる。一見何も変わらない。しかし少しずつ何かがおかしい気がする。そんな感じだ。
二階、露天風呂の横に生えている魔力クレソンは相変わらず青々と茂っている。気温も温かくなって来た。それでももやもやした感じは抜けない。
学校そのものは何事もないように見える。
クラスメイトの皆さんはそんな変化に気付いているのか気付いていないのか。3年生になった今もクラス内はあまり変わらないように見える。
変化と言えばクラス替えでミド・リーやシンハ君と別のクラスになってしまった事だろうか。どっちにしろ研究室内の事はクラス内では話さない。クラス内ではミササ君辺りと雑誌の連載小説の話等他愛も無い話をする程度。
そしてある日。
「本日から暗くなってからの外出は自粛になります。課外活動も午後4時には終わらせて帰宅するようにしてください。なおこれは学校だけでなく国内一斉の措置になります」
朝一番に急遽設けられた臨時ホームルームで俺達はそう告げられた。他に情勢に注意する事や万が一の為に食料等を備蓄しておく事等、細々した指示も入る。
その後の休憩時間。その単語は自然と耳に入った。
「やっぱりスオーと戦争が始まったようだぞ。北部の方は完全に交通閉鎖しているらしいってさ」
「軍人も長期出張とやらで家に帰ってこない処が多いらしいよな。男爵家の奴がそんな事を言っていた」
あくまで噂だ。そうらしい、そう聞いたようだ、言っていた。全て伝聞形。
どの話が正しくてどの話が間違っているのかは俺にはわからない。新聞にもはっきりした事は載っていない。調べるにも移動魔法をはじめとした空間系魔法を使う事そのものが今は自粛という名の禁止状態だ。
シンハ君あたりとか、ヨーコ先輩やアキナ先輩辺りはある程度の事は知っているだろうと思う。でもそれでも重要な事は何も言わないし言えないだろう。だから確認は出来ないけれど、それでも俺は感じる。
きっと本当に戦争は始まった。もしくは始まろうとしている。
国民全員を巻き込んだ総力戦体制でない事は喜ぶべきなのだろうか。正直その辺の事すら俺にはわからない。
俺が作った魔法アンテナ、蒸気自動車、蒸気ボート、飛行機等の色々。あれは戦争のきっかけになってしまったのだろうか。それともそんな物とは関係なく戦争は起こってしまうものだったのだろうか。
ただ俺が作った物で何かしら歴史が変わったのは確かだろうと思う。殿下もそんな事を以前言っていたし。
きっと俺が知らない処で俺が作ったもので人が死ぬ。敵が死ぬのか味方が死ぬのかは別として。
でも考えてみれば既に俺の手は血で汚れている。イーヨとの制海権争いは既に終わった。その際に主力になった蒸気船や主力武器の魔法アンテナは間違いなく俺がもたらしたものだ。
どうしても気分が鬱っぽくなる。
クラス内の喧騒とは裏腹にテンションが異様に低くなったまま放課後突入。研究室へと向かう。
最も大きな理由はオマーチ勢が遊びに来なくなった事だ。
「大変申し訳ありません。しばらくオマーチの研究室をはじめ、基本的に移動魔法を使わないようにお願いいたします」
ターカノさんからのお願いだ。理由は言わなかったしこちらもあえて聞かなかった。きっと今はそういう時期なのだろう。そう思っただけだ。
他にも学校の事務局からこんなお願いが来た。
『今期の新人勧誘は自粛願いたい』
だから昨年のように新人が来るかと待ち構える事はない。移動魔法が使えないから歓迎合宿も残念合宿も当然企画しない。
あとは一見、いつも通りに見える。皆がいつも通りに振る舞おうとしているのかもしれないけれど。
シンハ君やヨーコ先輩、フルエさんは相変わらずトレーニングや勉強会をしている。しかしどうもパワーがいまいちな感じに見えるのは気のせいだろうか。
フールイ先輩は再び強力空間系魔法杖を使って一人で何かを研究している様子。元々無口だけれど以前とはまた違う感じがしないでもない。
他の皆さんもそれぞれ何かやっている。小物作りとか漫画描きとか。しかし何かいまいち気合が入っていない感じだ。
俺とシモンさんは新たに小型の自動車を作ってみた。ホバークラフトにしてしまった買い出し用自動車の代用だ。
しかしいまいち自分でもノリが良くないと感じる。
「性能は悪くない筈なんだけれどな」
「既存技術ばかりで面白みがないのは確かだよね。キーンさんがいないから攻めた最適化が出来ないし。ゴムや軽量合金のようなオマーチ製特殊素材ももう在庫分しか使えないしね」
シモンさんの言う通りだ。そして素材関係についてはそれだけではない。
他の一般的な資材類の納期が長くなりはじめた。今まで注文して3日程度あれば届いたものが8日経っても届かなかったりする。
更に市場では鉄や銅等の価格が値上がりしているようだ。現在は以前に比べて2割程度の価格上昇。だがもっと上がりそうな気配だ。
市場というか街そのものの方も今までと違う雰囲気らしい。
「景気はいいんだけれどね、何か落ち着かない感じ」
うちの姉が言った言葉だ。今の街の様子をよく表していると感じる。一見何も変わらない。しかし少しずつ何かがおかしい気がする。そんな感じだ。
二階、露天風呂の横に生えている魔力クレソンは相変わらず青々と茂っている。気温も温かくなって来た。それでももやもやした感じは抜けない。
学校そのものは何事もないように見える。
クラスメイトの皆さんはそんな変化に気付いているのか気付いていないのか。3年生になった今もクラス内はあまり変わらないように見える。
変化と言えばクラス替えでミド・リーやシンハ君と別のクラスになってしまった事だろうか。どっちにしろ研究室内の事はクラス内では話さない。クラス内ではミササ君辺りと雑誌の連載小説の話等他愛も無い話をする程度。
そしてある日。
「本日から暗くなってからの外出は自粛になります。課外活動も午後4時には終わらせて帰宅するようにしてください。なおこれは学校だけでなく国内一斉の措置になります」
朝一番に急遽設けられた臨時ホームルームで俺達はそう告げられた。他に情勢に注意する事や万が一の為に食料等を備蓄しておく事等、細々した指示も入る。
その後の休憩時間。その単語は自然と耳に入った。
「やっぱりスオーと戦争が始まったようだぞ。北部の方は完全に交通閉鎖しているらしいってさ」
「軍人も長期出張とやらで家に帰ってこない処が多いらしいよな。男爵家の奴がそんな事を言っていた」
あくまで噂だ。そうらしい、そう聞いたようだ、言っていた。全て伝聞形。
どの話が正しくてどの話が間違っているのかは俺にはわからない。新聞にもはっきりした事は載っていない。調べるにも移動魔法をはじめとした空間系魔法を使う事そのものが今は自粛という名の禁止状態だ。
シンハ君あたりとか、ヨーコ先輩やアキナ先輩辺りはある程度の事は知っているだろうと思う。でもそれでも重要な事は何も言わないし言えないだろう。だから確認は出来ないけれど、それでも俺は感じる。
きっと本当に戦争は始まった。もしくは始まろうとしている。
国民全員を巻き込んだ総力戦体制でない事は喜ぶべきなのだろうか。正直その辺の事すら俺にはわからない。
俺が作った魔法アンテナ、蒸気自動車、蒸気ボート、飛行機等の色々。あれは戦争のきっかけになってしまったのだろうか。それともそんな物とは関係なく戦争は起こってしまうものだったのだろうか。
ただ俺が作った物で何かしら歴史が変わったのは確かだろうと思う。殿下もそんな事を以前言っていたし。
きっと俺が知らない処で俺が作ったもので人が死ぬ。敵が死ぬのか味方が死ぬのかは別として。
でも考えてみれば既に俺の手は血で汚れている。イーヨとの制海権争いは既に終わった。その際に主力になった蒸気船や主力武器の魔法アンテナは間違いなく俺がもたらしたものだ。
どうしても気分が鬱っぽくなる。
クラス内の喧騒とは裏腹にテンションが異様に低くなったまま放課後突入。研究室へと向かう。
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