253 / 266
第28章 春合宿は……
第244話 平穏さの理由
しおりを挟む
今回の合宿は不思議な程平穏だ。海鮮は捕り放題だし邪魔者がやってくる事も無い。
何故その辺が平穏に進んでいるか。それが判明したのは買い出し途中、ニュースの号外を手に入れてだった。
「空を飛ぶ乗り物、オイターやアッカシーまで1日でだって」
買い物から帰ってきたミド・リーが号外をこっちに寄越す。航空便開設を伝えるB4サイズ程度3枚組の号外だ。目新しいニュース等が出た時に出版社から発行される。
ちなみに前世であった新聞の号外と違い有料。でも安価だしニュース源が少ないからか毎回結構売れているらしい。
早速皆で回し読みをしてみる。
「あの大型飛行機、いよいよ定期便が出来たんだね。それも国外にも」
オマーチからブーンゴのオイター間、ハーリマのアッカシー間をそれぞれ8時間程度で結ぶと書いてある。他に国内便としてシンコ・イバシからオマーチ、ウージナからオマーチの便も出来るとの事。
そしてハーリマ行きの第一便に乗り込むイラストがあった。描画魔法による写実的なイラスト。そこに描かれている人物が俺達の知っている奴だった。
「なるほど、殿下はハーリマへ行っているのか」
こっちへちょっかいを出して来れないのも当然だ。更にイラストと説明は続いている。
「皇太子殿下の方はブーンゴに行っているみたいね。どっちにしろ直系の王族が国外に行くのは初めてじゃないかしら」
「少なくともここ百年はなかった筈ですね。協力関係を演出する為でしょうけれど、かなり思い切った事をなさっているようです」
船で物資を行き来させるだけでなく、重要人物も行き来するようになった。国内外へそのことをアピールしているのだろう。
「でも大丈夫なのかな、国外へ行って」
「勿論最大限の警戒はしているでしょうけれどね」
ホン・ド殿下は厄介な人だがそれでも顔見知り以上の存在だ。
今回の日程は向こうの国王に親書を渡し、会食をして一泊。明日の朝飛行機に乗って帰ってくるだけ。
それでも無事を祈らずにはいられない。祈る以外には何も出来ないけれど。
「これで国際情勢はどうなるのでしょうか」
「完全にスオーとリョービ対策ですわね。この2国を外した協調体制を作ることで軍事だけでなく経済的にも優位に立とうとする姿勢を見せる。当然スオーもリョービも面白くないでしょう。特にスオーは覇権国家指向が強いですから、この図式を替えようとアストラムを狙ってくるでしょう」
「アストラムの技術が要だというのは誰が見てもわかる筈ですしね」
そういう事だ。ただ。
「勝つつもりなんでしょうね。少なくともアストラム側には勝算がある。だからこそこういった目立つ手を打っているのでしょう」
ユキ先輩の意見にほぼ全員が頷いた。
その辺がどういう手段かは俺にはわからない。でもきっとこれはスオーの動きを誘っている。
ただアストラムはスオーに比べると小さい国だ。人口で3分の1、面積比だと5分の1。総力戦になったら勝ち目は無い。
無論それなりの手は打っているのだろうけれど。
海は蒸気機関と魔力アンテナを搭載した船で圧倒できた。しかし陸戦だとどうなのだろう。
例えば俺の使っている万能魔道具とか。魔法缶を使ったゴーレムとか。そういった新兵器で対抗できるのだろうか。
最後にして最悪の手段としては量産移動魔道具による多発型テロもある。これなら確実に国力を落とすことが可能だ。しかしこんな作戦を実行してしまうと、相当長い間遺恨を残してしまう事だろう。
どっちにしろ俺がここで考えても何もならない。
「とりあえず殿下の無事を祈りつつ、変な注文をしてこないこの機会にのんびり休暇を楽しむ。それが正しい気がしますわ」
確かにアキナ先輩の台詞が正しいよなと思う。殿下には申し訳ないけれど。
「そうだな。そういえばアージナにもブーンゴ製のちょっと変わったハムが入荷していたからさ、試しに買って来てみた。ちょっと塩が強いけれど薄くカットして野菜やチーズ等と食べれば美味しいらしい。ちょっと試してみないか」
ヨーコ先輩が取り出したのはでっかい豚の後脚そのままの塊。大型のこん棒みたいな代物だ。
これはひょっとしてひょっとすると、地球で言う処の生ハム様では。
鑑定魔法で見るとやっぱり生ハムだ。間違いない。
「これってこのまま全部輪切りにすればいいのかな」
「とにかく切れば食えるだろ」
何か勿体ない事をしそうなシモンさんやシンハ君を慌てて止める。
「ちょい待て。これはそれなりの食べ方がある。まずは台を作って安置して、周りをオリーブオイルで拭いてさ」
そんな訳で生ハム作業に取り掛かる。しかし当然生ハム台も専用の薄く切る為のナイフなんてのもない。
時間があれば記憶を思い出しながら納得がいくものを俺自身で作ればいい。しかしそんな時間は無いし、ぐずぐずしていたら勿体ない切り方で食べられてしまう。
だからここはシモンさんにお願いだ。
「シモンさん、まずはこの生ハムを置く為の台を作って欲しいんだ。材質は木でも金属でもかまわない。こんな角度で置いて、足首の細い部分をわっかとピンで固定する形で。
あと専用ナイフも欲しい。細くて長くてしなる位の薄い刃の。刃は片刃で」
何故その辺が平穏に進んでいるか。それが判明したのは買い出し途中、ニュースの号外を手に入れてだった。
「空を飛ぶ乗り物、オイターやアッカシーまで1日でだって」
買い物から帰ってきたミド・リーが号外をこっちに寄越す。航空便開設を伝えるB4サイズ程度3枚組の号外だ。目新しいニュース等が出た時に出版社から発行される。
ちなみに前世であった新聞の号外と違い有料。でも安価だしニュース源が少ないからか毎回結構売れているらしい。
早速皆で回し読みをしてみる。
「あの大型飛行機、いよいよ定期便が出来たんだね。それも国外にも」
オマーチからブーンゴのオイター間、ハーリマのアッカシー間をそれぞれ8時間程度で結ぶと書いてある。他に国内便としてシンコ・イバシからオマーチ、ウージナからオマーチの便も出来るとの事。
そしてハーリマ行きの第一便に乗り込むイラストがあった。描画魔法による写実的なイラスト。そこに描かれている人物が俺達の知っている奴だった。
「なるほど、殿下はハーリマへ行っているのか」
こっちへちょっかいを出して来れないのも当然だ。更にイラストと説明は続いている。
「皇太子殿下の方はブーンゴに行っているみたいね。どっちにしろ直系の王族が国外に行くのは初めてじゃないかしら」
「少なくともここ百年はなかった筈ですね。協力関係を演出する為でしょうけれど、かなり思い切った事をなさっているようです」
船で物資を行き来させるだけでなく、重要人物も行き来するようになった。国内外へそのことをアピールしているのだろう。
「でも大丈夫なのかな、国外へ行って」
「勿論最大限の警戒はしているでしょうけれどね」
ホン・ド殿下は厄介な人だがそれでも顔見知り以上の存在だ。
今回の日程は向こうの国王に親書を渡し、会食をして一泊。明日の朝飛行機に乗って帰ってくるだけ。
それでも無事を祈らずにはいられない。祈る以外には何も出来ないけれど。
「これで国際情勢はどうなるのでしょうか」
「完全にスオーとリョービ対策ですわね。この2国を外した協調体制を作ることで軍事だけでなく経済的にも優位に立とうとする姿勢を見せる。当然スオーもリョービも面白くないでしょう。特にスオーは覇権国家指向が強いですから、この図式を替えようとアストラムを狙ってくるでしょう」
「アストラムの技術が要だというのは誰が見てもわかる筈ですしね」
そういう事だ。ただ。
「勝つつもりなんでしょうね。少なくともアストラム側には勝算がある。だからこそこういった目立つ手を打っているのでしょう」
ユキ先輩の意見にほぼ全員が頷いた。
その辺がどういう手段かは俺にはわからない。でもきっとこれはスオーの動きを誘っている。
ただアストラムはスオーに比べると小さい国だ。人口で3分の1、面積比だと5分の1。総力戦になったら勝ち目は無い。
無論それなりの手は打っているのだろうけれど。
海は蒸気機関と魔力アンテナを搭載した船で圧倒できた。しかし陸戦だとどうなのだろう。
例えば俺の使っている万能魔道具とか。魔法缶を使ったゴーレムとか。そういった新兵器で対抗できるのだろうか。
最後にして最悪の手段としては量産移動魔道具による多発型テロもある。これなら確実に国力を落とすことが可能だ。しかしこんな作戦を実行してしまうと、相当長い間遺恨を残してしまう事だろう。
どっちにしろ俺がここで考えても何もならない。
「とりあえず殿下の無事を祈りつつ、変な注文をしてこないこの機会にのんびり休暇を楽しむ。それが正しい気がしますわ」
確かにアキナ先輩の台詞が正しいよなと思う。殿下には申し訳ないけれど。
「そうだな。そういえばアージナにもブーンゴ製のちょっと変わったハムが入荷していたからさ、試しに買って来てみた。ちょっと塩が強いけれど薄くカットして野菜やチーズ等と食べれば美味しいらしい。ちょっと試してみないか」
ヨーコ先輩が取り出したのはでっかい豚の後脚そのままの塊。大型のこん棒みたいな代物だ。
これはひょっとしてひょっとすると、地球で言う処の生ハム様では。
鑑定魔法で見るとやっぱり生ハムだ。間違いない。
「これってこのまま全部輪切りにすればいいのかな」
「とにかく切れば食えるだろ」
何か勿体ない事をしそうなシモンさんやシンハ君を慌てて止める。
「ちょい待て。これはそれなりの食べ方がある。まずは台を作って安置して、周りをオリーブオイルで拭いてさ」
そんな訳で生ハム作業に取り掛かる。しかし当然生ハム台も専用の薄く切る為のナイフなんてのもない。
時間があれば記憶を思い出しながら納得がいくものを俺自身で作ればいい。しかしそんな時間は無いし、ぐずぐずしていたら勿体ない切り方で食べられてしまう。
だからここはシモンさんにお願いだ。
「シモンさん、まずはこの生ハムを置く為の台を作って欲しいんだ。材質は木でも金属でもかまわない。こんな角度で置いて、足首の細い部分をわっかとピンで固定する形で。
あと専用ナイフも欲しい。細くて長くてしなる位の薄い刃の。刃は片刃で」
18
お気に入りに追加
2,199
あなたにおすすめの小説
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。
蒼井美紗
ファンタジー
魔物に襲われた記憶を最後に、何故か別の世界へ生まれ変わっていた主人公。この世界でも楽しく生きようと覚悟を決めたけど……何この世界、前の世界と比べ物にならないほど酷い環境なんだけど。俺って公爵家嫡男だよね……前の世界の平民より酷い生活だ。
俺の前世の知識があれば、滅亡するんじゃないかと心配になるほどのこの国を救うことが出来る。魔法陣魔法を広めれば、多くの人の命を救うことが出来る……それならやるしかない!
魔法陣魔法と前世の知識を駆使して、この国の救世主となる主人公のお話です。
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
知識チートの正しい使い方 〜自由な商人として成り上ります! え、だめ? よろしい、ならば拷問だ〜
ノ木瀬 優
ファンタジー
商人として貧しいながらも幸せな暮らしを送っていた主人公のアレン。ある朝、突然前世を思い出す。
「俺、異世界転生してる?」
貴族社会で堅苦しい生活を送るより、知識チートを使って商人として成功する道を選んだが、次第に権力争いに巻き込まれていく。
※なろう、カクヨムにも投稿しております。
※なろう版は完結しておりますが、そちらとは話の構成を変える予定です。
※がっつりR15です。R15に収まるよう、拷問シーンは出血、内臓などの描写を控えておりますが、残虐な描写があります。苦手な方は飛ばしてお読みください。(対象の話はタイトルで分かるようにしておきます)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる