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第28章 春合宿は…… 

第244話 平穏さの理由

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 今回の合宿は不思議な程平穏だ。海鮮は捕り放題だし邪魔者がやってくる事も無い。
 何故その辺が平穏に進んでいるか。それが判明したのは買い出し途中、ニュースの号外を手に入れてだった。

「空を飛ぶ乗り物、オイターやアッカシーまで1日でだって」

 買い物から帰ってきたミド・リーが号外をこっちに寄越す。航空便開設を伝えるB4サイズ程度3枚組の号外だ。目新しいニュース等が出た時に出版社から発行される。
 ちなみに前世であった新聞の号外と違い有料。でも安価だしニュース源が少ないからか毎回結構売れているらしい。
 早速皆で回し読みをしてみる。

「あの大型飛行機、いよいよ定期便が出来たんだね。それも国外にも」

 オマーチからブーンゴのオイター間、ハーリマのアッカシー間をそれぞれ8時間程度で結ぶと書いてある。他に国内便としてシンコ・イバシからオマーチ、ウージナからオマーチの便も出来るとの事。
 そしてハーリマ行きの第一便に乗り込むイラストがあった。描画魔法による写実的なイラスト。そこに描かれている人物が俺達の知っている奴だった。

「なるほど、殿下はハーリマへ行っているのか」

 こっちへちょっかいを出して来れないのも当然だ。更にイラストと説明は続いている。

「皇太子殿下の方はブーンゴに行っているみたいね。どっちにしろ直系の王族が国外に行くのは初めてじゃないかしら」

「少なくともここ百年はなかった筈ですね。協力関係を演出する為でしょうけれど、かなり思い切った事をなさっているようです」

 船で物資を行き来させるだけでなく、重要人物も行き来するようになった。国内外へそのことをアピールしているのだろう。
 
「でも大丈夫なのかな、国外へ行って」

「勿論最大限の警戒はしているでしょうけれどね」

 ホン・ド殿下は厄介な人だがそれでも顔見知り以上の存在だ。
 今回の日程は向こうの国王に親書を渡し、会食をして一泊。明日の朝飛行機に乗って帰ってくるだけ。
 それでも無事を祈らずにはいられない。祈る以外には何も出来ないけれど。

「これで国際情勢はどうなるのでしょうか」

「完全にスオーとリョービ対策ですわね。この2国を外した協調体制を作ることで軍事だけでなく経済的にも優位に立とうとする姿勢を見せる。当然スオーもリョービも面白くないでしょう。特にスオーは覇権国家指向が強いですから、この図式を替えようとアストラムを狙ってくるでしょう」

「アストラムの技術が要だというのは誰が見てもわかる筈ですしね」

 そういう事だ。ただ。

「勝つつもりなんでしょうね。少なくともアストラム側には勝算がある。だからこそこういった目立つ手を打っているのでしょう」

 ユキ先輩の意見にほぼ全員が頷いた。
 その辺がどういう手段かは俺にはわからない。でもきっとこれはスオーの動きを誘っている。
 ただアストラムはスオーに比べると小さい国だ。人口で3分の1、面積比だと5分の1。総力戦になったら勝ち目は無い。
 無論それなりの手は打っているのだろうけれど。

 海は蒸気機関と魔力アンテナを搭載した船で圧倒できた。しかし陸戦だとどうなのだろう。
 例えば俺の使っている万能魔道具とか。魔法缶を使ったゴーレムとか。そういった新兵器で対抗できるのだろうか。

 最後にして最悪の手段としては量産移動魔道具による多発型テロもある。これなら確実に国力を落とすことが可能だ。しかしこんな作戦を実行してしまうと、相当長い間遺恨を残してしまう事だろう。
 どっちにしろ俺がここで考えても何もならない。

「とりあえず殿下の無事を祈りつつ、変な注文をしてこないこの機会にのんびり休暇を楽しむ。それが正しい気がしますわ」

 確かにアキナ先輩の台詞が正しいよなと思う。殿下には申し訳ないけれど。

「そうだな。そういえばアージナにもブーンゴ製のちょっと変わったハムが入荷していたからさ、試しに買って来てみた。ちょっと塩が強いけれど薄くカットして野菜やチーズ等と食べれば美味しいらしい。ちょっと試してみないか」

 ヨーコ先輩が取り出したのはでっかい豚の後脚そのままの塊。大型のこん棒みたいな代物だ。
 これはひょっとしてひょっとすると、地球で言う処の生ハム様では。
 鑑定魔法で見るとやっぱり生ハムだ。間違いない。

「これってこのまま全部輪切りにすればいいのかな」

「とにかく切れば食えるだろ」

 何か勿体ない事をしそうなシモンさんやシンハ君を慌てて止める。

「ちょい待て。これはそれなりの食べ方がある。まずは台を作って安置して、周りをオリーブオイルで拭いてさ」

 そんな訳で生ハム作業に取り掛かる。しかし当然生ハム台ハモネロも専用の薄く切る為のナイフなんてのもない。
 時間があれば記憶を思い出しながら納得がいくものを俺自身で作ればいい。しかしそんな時間は無いし、ぐずぐずしていたら勿体ない切り方で食べられてしまう。
 だからここはシモンさんにお願いだ。

「シモンさん、まずはこの生ハムを置く為の台を作って欲しいんだ。材質は木でも金属でもかまわない。こんな角度で置いて、足首の細い部分をわっかとピンで固定する形で。
 あと専用ナイフも欲しい。細くて長くてしなる位の薄い刃の。刃は片刃で」
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