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第27章 3学期の合間に

第240話 脅威のメカニズム

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 出来上がった自動車を見て俺は思う。何というか、これは……
 シモンさんとキーンさんに一言言いたい。あなた達技術水準とか世間のレベルとか思い切り無視していませんかと。
 これは作成したレンジエクステンダー方式蒸気自動車についてである。

「まずここの熱で空気と石炭に高熱を加えてガスを作るんだ。そうしたらこのガスをこっちに通してあの飛行機のエンジンと同じ原理で回転する力を得る。これでまず発電機を回すんだ。
 一方タービンエンジンの廃熱やガス化装置の冷却熱で蒸気を作ってこっちのタービンを回す。この回転力も発電機を回すのに使うんだ。これで使う石炭の量を大分少なくできると思うよ。その代わりあくまでこれらは発電のみの仕様になるけれどね」

 普通の内燃機関より先にガスタービンエンジン付き電気自動車、それも石炭ガス化と複合発電コンバインドサイクル付きのレンジエクステンダーか。
 何かもう驚異のメカニズムになってきた気がする。車に積むとなると前世日本のレベルを完全に超えていそうだ。

「あと長い下り坂がある場合はその力で発電するんだ。こっちは別のバッテリーに保存するけれどね。ブレーキも減らないし電気も稼げるしいい感じだよね」

 発電ブレーキまでついている模様。しかも制御部分に書かれた記述魔法を見ると充電用に電圧制御なんて技術まで組み込まれている。動力も交流モーターを記述魔法を利用した周波数制御を使って動かす仕組みになっているし。

 もう驚異のメカニズム過ぎて何も言えない。何処からこういった謎技術を開発したのだ。そう思ってふと気づいた。そう言えば研究室の水力発電機、整流子が減るのを嫌って交流発電機に交換して、電圧制御部分と整流部分を記述魔法で書いた記憶があるようなないような……。あとは可変電圧可変周波数制御なんて技術を思い出して、俺用の小型電気自動車を改造したような気も……

 思い浮かんだ都合の悪い記憶は無視して他の部分を確認。タービン部分の原型はあの模型用ターボプロップエンジンのようだ。ただ補機がもうえらい事になっている。石炭ガス炉とか廃熱タービンとかついているし。
 でもそういった機器類も、意外と小型に収まっている。鑑定魔法によるとこれはこの辺は発電エンジンの稼働回転数や稼働時間を一定にした事による効果のようだ。
 バッテリーがある程度以下になった際に起動し蓄電量が一定のレベルになるまでずっと動きっぱなし。そういう条件に限定して最適化した模様。その辺はキーンさんがかなり攻めた設計変更を提言したようだ。
 おかげで床が高めだが全体として小型に収まっている。ガスタービンなので稼働時のエンジン音が少しだけ気になるけれど。

 結果、記述魔法による自動充電運転も含めた凶悪な自動車が完成。原始的な電池を作ったのが数年前とは思えない位のハイテクな代物だ。

「思ったより大きく重くなってしまったかな。でもあの蒸気自動車や蒸気ボートよりは小さいから何とか魔法で移動できるよね」

 背後のメカニズムを考えればこれでも十分小型化出来ていると思う。5人乗りで前世の自動車とほぼ同じ大きさだ。やや床や車高は高めだけれども、ミニバンだと思えばそんなもの。

「これで同じ石炭の量でも3倍近くは走れるよ。それに運転も大分楽だし」

 確かに燃費はいいし運転も楽だ。何せ動力的には完全に電気自動車。今までのような逆転器の操作とか圧力の維持とかは必要ない。発電は自動運転だから運転手が操作する必要はないし、排気ガスだってかなりクリーンになっている。

「強いて言えば長距離高負荷運転が苦手ですね。例えば北部山岳地帯で長距離運用するには少し不安感があると思います」

「それ用ならタービンエンジンをもう少しだけ大きくした方がいいかもね。これだと上り坂で連続運転時にはどうしても速度が遅くなるから」

 でも普通に使う分には文句は出ないだろう。強いて不便な処を言えば魔力を併用しているところだろうか。充電制御やエンジンの安定運転、電圧調整や電気の直流化等に記述魔法を使っているから。
 乗車中は乗っている人間から魔力を供給するけれど、それ以外は魔力缶2個から魔力を供給している。まあ毎日使っても1年以上持つ計算だけれども。
 こんなの見たらジゴゼンさんが絶句するだろうなと思う。俺はあえて深く考えないことにするけれど。

 他にも色々合宿の用意は進んでいる。ゴムを使った新型水中眼鏡とか浮き輪とかビーチボールとか。
 あとアクアラングセットなんて物もタカス君とミド・リー中心に作っている模様。背負い式の小型タンクから記述魔法方式レギュレーター、フィンなんてものまで。

 あえて前世でのアクアラング装置について詳細を教えなかった結果、かなり使い勝手が違うものが完成してしまった。形が顔全面を覆う感じで、鼻で息を吸って口で吐く方式。
 口で息を吐くときに顔を真っ直ぐ立っている方向にしていると、下に溜まった水が自動で排水される仕組みになっている。付けるのが面倒だけれど呼吸そのものは自然にできそうだ。視界も単なる水中眼鏡より格段に広い。


 更に銛もゴムを使った水中銃へと強化された。

「これで大型の魚と対等に戦えるぞ」

 色々気合い入れすぎだろう。

 オマーチの3人と合流してしまった結果、チートさが抑えきれなくなってきた。他にも怪しい用意を色々した上で、ついに合宿開始当日を迎える。
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