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第25章 加速する情勢
第216話 俺には大きすぎる話
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今度は後ろに向かって貨物室を歩いていく。確かに蒸気機関以外の部品もいろいろある。
隠蔽されているから詳しくはわからない。でもこれらの部品も全てユニット構造になっているようだ。先程の説明にあったように故障した部分を丸ごとユニット交換できるように。
その辺は実用品として色々考えられている。俺達の蒸気ボートや蒸気自動車のような一品物でなく実用製品として設計されている訳だ。
ある程度行くと部品の種類もまた変わってきた。同じようにユニット構造だけれども先ほどまでのより構成部品が小さい。
「この辺は蒸気自動車用ですか」
「流石元々を知っているだけあるな。その通り蒸気自動車の部品だよ。今回の航海で各船10台ずつ、合計30台を援助としてブーンゴに贈る予定だ。無論国外用に設計し直したものだけれどね。さっき僕達が乗っていたのと同じ仕様さ」
「すべての部品を簡略化及びユニット化し、さらに耐久性を上げてあります。その分性能が少し落ちますけれど。あとそちらの自動車に使われているような自動給炭装置、送風装置を蒸気作動によるものに変更しています」
蒸気作動によるものに変更、そうわざわざ言ったところで気付く。そういえばあの蒸気自動車、補助的に電気を使っていたんだった。
あの辺は明らかに別の系統の技術だよな。全くもって失念していた。
「つまり電気を使っていないという事ですね」
「その通りです。実は上で申し上げた事後承諾の技術というのも電気関係です。全てを魔法で行うと乗組員の疲労を招くので、蒸気で発電機を動かして使用しています。具体的には大型魔法杖の作動や蒸気機関への吸気と排気、ここの換気等もですね」
確かに全て蒸気で行うよりも簡単に出来るよな。全部を魔法でやると魔力を消耗するし。
「よくあれを解析できましたね」
「全く同じものを鑑定魔法と工作系魔法で作って色々調べさせていただきました。それにオマーチの研究所に納めたものも見ましたしね。正直まだまだ理解できないところは数多くあります。でもこの船の省力化に必要な程度、あと蒸気自動車に必要な程度には何とか使えるようになりました。現状では技術として最高秘密の一つになっていますけれど。
それで権利関係について事後承諾になりますが契約書を作りましたので、後程精査願います」
「それにしてもしまったなあ。僕は電気の事に全然気づかなかった」
「俺もだ」
シモンさんと2人で顔を見合わせる。
「その辺の話はまた少し落ち着けるところでしよう。間もなくさっきの場所だ。また蒸気自動車で移動するからついてきてくれ」
そんな訳で再び蒸気自動車に乗車。後席のミド・リー等に指示してもらいながらバックで船を出る。
◇◇◇
こんどは軍本部内の会議室のような場所だ。お茶と菓子が予め人数分用意されていた。
ただこのお茶というか紅茶と菓子はどうにも見覚えがあるものだったりする。こんな処まであの店の商品が蔓延しているとは。俺としては何とも言えない気分だ。
「さて、ここでは質疑応答というか話をする時間だな。お茶とデザートをでも食べながら思った事をそのまま言って欲しい。
まずはジゴゼン、先ほどの新機関の契約書からだ」
「はい」
ジゴゼンさんは書類の入った封筒をアキナ先輩に渡し、更に何か印字された紙を全員に配る。
「封筒の方は正式な契約書です。皆さんにお配りしたのはその中の契約内容と付記の部分を抜粋したものになります」
どれどれと思って読んでみる。
契約内容は魔法杖や魔道具の時とほぼ同じ。金額は発電機関一般とモーター、電気照明をあわせた契約代金が正金貨120枚《6000万円》。発電機関一式毎に代価の1割か小金貨1枚のいずれか高い金額。モーターと照明器具が同じく代価の1割か小銀貨3枚の高い方。
期間は10年間だ。
「蒸気機関とほぼ同じですね」
「ええ、基本的に同じ金額にしてあります」
なるほど。
「いいんじゃないかなと思うよ。僕としては」
「同じくかな」
「2人がそう言うなら問題ないですわ」
他の皆さんも同意してくれたようだ。
「契約書の確認も終わりました。この紙と同じ内容で間違いないです」
ナカさんによる契約書の確認も終わった。そんな訳で改めて契約書にサインする。
「それにしてもブーンゴにこれだけの支援をするとは思いませんでしたわ」
アキナ先輩からそんな台詞。確かにそうだよな。
今年の秋に出来たばかりの最新兵器である高速戦闘船。あれが既に10隻もブーンゴに行っていると聞いた。
そして今度は蒸気自動車も30台持っていくのだ。勿論その見返りも色々あるのだろう。
「国際情勢がかなり動きますね」
これはユキ先輩。
殿下は大きくうなずいた。
「動かすつもりなんだ。思い切りよくね」
「戦争ですか」
俺はあえてその言葉を出してみる。
「戦争をさせないための札の一つさ。ブーンゴとアストラムが手を組めば相対的にスオーの力が弱くなる。今まではスオーが陸路を押さえていた。そして海はイーヨの私掠船が出没して貿易には使えなかった。
でも蒸気船のおかげで海を押さえる事ができた。近海からはイーヨの私掠船はほぼ撤退したし、今後はブーンゴとの間の海域も常時哨戒活動を行う予定だ。
これを機に情勢を変化させる。ブーンゴとアストラム、あと更に東側のハーリマ等と連合を組んで、単独の強国による現状変更を起こさせにくい情勢にね」
そこまで大きい話になったのか。たかが蒸気機関という技術の使用から。まあ蒸気機関の他にも魔法杖とか新素材とか色々あるのだけれど。
それにしてもだ。話が大きくて急展開過ぎて俺の理解がなかなか追いつかない。
隠蔽されているから詳しくはわからない。でもこれらの部品も全てユニット構造になっているようだ。先程の説明にあったように故障した部分を丸ごとユニット交換できるように。
その辺は実用品として色々考えられている。俺達の蒸気ボートや蒸気自動車のような一品物でなく実用製品として設計されている訳だ。
ある程度行くと部品の種類もまた変わってきた。同じようにユニット構造だけれども先ほどまでのより構成部品が小さい。
「この辺は蒸気自動車用ですか」
「流石元々を知っているだけあるな。その通り蒸気自動車の部品だよ。今回の航海で各船10台ずつ、合計30台を援助としてブーンゴに贈る予定だ。無論国外用に設計し直したものだけれどね。さっき僕達が乗っていたのと同じ仕様さ」
「すべての部品を簡略化及びユニット化し、さらに耐久性を上げてあります。その分性能が少し落ちますけれど。あとそちらの自動車に使われているような自動給炭装置、送風装置を蒸気作動によるものに変更しています」
蒸気作動によるものに変更、そうわざわざ言ったところで気付く。そういえばあの蒸気自動車、補助的に電気を使っていたんだった。
あの辺は明らかに別の系統の技術だよな。全くもって失念していた。
「つまり電気を使っていないという事ですね」
「その通りです。実は上で申し上げた事後承諾の技術というのも電気関係です。全てを魔法で行うと乗組員の疲労を招くので、蒸気で発電機を動かして使用しています。具体的には大型魔法杖の作動や蒸気機関への吸気と排気、ここの換気等もですね」
確かに全て蒸気で行うよりも簡単に出来るよな。全部を魔法でやると魔力を消耗するし。
「よくあれを解析できましたね」
「全く同じものを鑑定魔法と工作系魔法で作って色々調べさせていただきました。それにオマーチの研究所に納めたものも見ましたしね。正直まだまだ理解できないところは数多くあります。でもこの船の省力化に必要な程度、あと蒸気自動車に必要な程度には何とか使えるようになりました。現状では技術として最高秘密の一つになっていますけれど。
それで権利関係について事後承諾になりますが契約書を作りましたので、後程精査願います」
「それにしてもしまったなあ。僕は電気の事に全然気づかなかった」
「俺もだ」
シモンさんと2人で顔を見合わせる。
「その辺の話はまた少し落ち着けるところでしよう。間もなくさっきの場所だ。また蒸気自動車で移動するからついてきてくれ」
そんな訳で再び蒸気自動車に乗車。後席のミド・リー等に指示してもらいながらバックで船を出る。
◇◇◇
こんどは軍本部内の会議室のような場所だ。お茶と菓子が予め人数分用意されていた。
ただこのお茶というか紅茶と菓子はどうにも見覚えがあるものだったりする。こんな処まであの店の商品が蔓延しているとは。俺としては何とも言えない気分だ。
「さて、ここでは質疑応答というか話をする時間だな。お茶とデザートをでも食べながら思った事をそのまま言って欲しい。
まずはジゴゼン、先ほどの新機関の契約書からだ」
「はい」
ジゴゼンさんは書類の入った封筒をアキナ先輩に渡し、更に何か印字された紙を全員に配る。
「封筒の方は正式な契約書です。皆さんにお配りしたのはその中の契約内容と付記の部分を抜粋したものになります」
どれどれと思って読んでみる。
契約内容は魔法杖や魔道具の時とほぼ同じ。金額は発電機関一般とモーター、電気照明をあわせた契約代金が正金貨120枚《6000万円》。発電機関一式毎に代価の1割か小金貨1枚のいずれか高い金額。モーターと照明器具が同じく代価の1割か小銀貨3枚の高い方。
期間は10年間だ。
「蒸気機関とほぼ同じですね」
「ええ、基本的に同じ金額にしてあります」
なるほど。
「いいんじゃないかなと思うよ。僕としては」
「同じくかな」
「2人がそう言うなら問題ないですわ」
他の皆さんも同意してくれたようだ。
「契約書の確認も終わりました。この紙と同じ内容で間違いないです」
ナカさんによる契約書の確認も終わった。そんな訳で改めて契約書にサインする。
「それにしてもブーンゴにこれだけの支援をするとは思いませんでしたわ」
アキナ先輩からそんな台詞。確かにそうだよな。
今年の秋に出来たばかりの最新兵器である高速戦闘船。あれが既に10隻もブーンゴに行っていると聞いた。
そして今度は蒸気自動車も30台持っていくのだ。勿論その見返りも色々あるのだろう。
「国際情勢がかなり動きますね」
これはユキ先輩。
殿下は大きくうなずいた。
「動かすつもりなんだ。思い切りよくね」
「戦争ですか」
俺はあえてその言葉を出してみる。
「戦争をさせないための札の一つさ。ブーンゴとアストラムが手を組めば相対的にスオーの力が弱くなる。今まではスオーが陸路を押さえていた。そして海はイーヨの私掠船が出没して貿易には使えなかった。
でも蒸気船のおかげで海を押さえる事ができた。近海からはイーヨの私掠船はほぼ撤退したし、今後はブーンゴとの間の海域も常時哨戒活動を行う予定だ。
これを機に情勢を変化させる。ブーンゴとアストラム、あと更に東側のハーリマ等と連合を組んで、単独の強国による現状変更を起こさせにくい情勢にね」
そこまで大きい話になったのか。たかが蒸気機関という技術の使用から。まあ蒸気機関の他にも魔法杖とか新素材とか色々あるのだけれど。
それにしてもだ。話が大きくて急展開過ぎて俺の理解がなかなか追いつかない。
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