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第24章 冬がはじまるよ
第210話 ジェットエンジン開発中
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オマーチ組は1時間くらいで帰ってきた。
「シント侯爵邸へ直接出向いて行ってきたわよ。でも話が早くて助かったわ」
「国王庁へ報告の後学園分室の植物園で試験栽培するそうです。パテント関係はしっかりミナミ先輩のものになるよう交渉して参りました」
なるほど、ナカさんはお金や権利の交渉の為に同行した訳か。
「すみません。うちの事なのに色々手伝わせてしまって」
「いいのいいの先輩。うちは既に結構儲かっているしね。それに人間に対する毒性や依存性とかの分析は私の得意分野だし」
「製剤方法もひととおり伝達したし問題無いと思うよ」
なるほど、ミド・リーもシモンさんも得意分野を活かした訳か。この面子であることに意味はあったんだな。
「皆さんすみませんでした。あそこまで色々説明や確認までしていただいて」
「うちの研究室はだいたいあんな感じで毎回あれこれ確認するからね」
確かにそういう意味ではうちの研究室は人材が揃っている。
「さて、ちょうどいいので昼食にしましょうか」
皆でキッチンから皿を運ぶ。
昼食は久しぶりにこの国のスタンダードという感じの食事だった。牛肉塩漬け薄切りを焼いたもの、目玉焼き、ポテトサラダ、ベジタブルスティック、チーズと野菜のディップ、鶏と玉子とタマネギのスープ、パンだ。
スタンダードメニューだがいい材料できっちり作ってあるからとっても美味しい。しかもデザートにパンケーキまでついている。これはバターとトマトのジャム付きだ。
「何かいいものを食べた気になるのだ。たまには王道もいいものなのだ」
「そう言いつつ俺のパンケーキ取るな」
あの抗争はまあいつものことなので無視しよう。本気でやっているわけでも無いし。
「あの魔法杖の調整、私も是非やっていただきたいですわ」
「効果は間違いないわよ。私の生物系魔法杖も今まで出来なかった超高速選択的促成栽培なんて事ができるようになったし」
「楽しみ」
俺の万能魔法用魔道具や移動魔道具も面白いくらいパワーアップした。フールイ先輩愛用の大型超強力移動魔法用アンテナなんてどれくらい性能があがるのだろう。なかなか楽しみだ。
しかし俺はとりあえずガスタービンエンジン試作に取り組む。まずは連続圧縮・連続燃焼が出来るエンジンを作らないとな。
耐熱素材や軽量素材、鋼等は研究用に持ってきてある。だから今までに描いた概念図を基に部品を錬成。実際に組み立ててあとは改良を続けていこうという方法論だ。
ガスタービン、そこからターボジェットエンジン、そしてターボファンエンジンやターボプロップエンジンへと。
そのためにまずは基本のガスタービンから。今までのタービン設計の経験を使いつつ圧縮機を作成する。3段の軸流式と遠心式1段。計算上はこれで圧縮比は3対1程度。
鑑定魔法で確認すると……あまりよろしくない感じだ。連続運転で高温になると隙間が大きくなり圧縮比が落ちる。そんな訳で再設計というか再製造。
うーん……今ひとつかな。もう少し圧縮しないと余剰出力が出なそうだ。
でも一応この状態から他も組み立ててみる。圧縮機や潤滑油、燃料噴射の動力源になるタービンはとりあえず軸流式で3段。
鑑定魔法で見てみる。燃焼室をカン型で作ったせいか爆発が不均等で結果出力も安定しない。一応動くけれど余剰出力はほとんど無い状態だ。しかも熱が不均等なせいでタービンの一部が焼けてしまう。これではいけない。
燃焼以外の場所から圧縮空気を送り込んで全体の温度を下げてみる。そうすると今度は圧縮比が足りない。
おそらく圧縮機や動力タービンの設計が今ひとつなのだろう。少しずつ作り変えて様子を見るしか無いか。そう思った時だ。
「ちょっといいですか」
背後からそんな声がした。振り返るとキーンさんだ。
「これってあの飛行機に使うエンジンですか」
「その原型のつもり。でも効率が悪すぎて思案中」
キーンさんは俺の作った試作品を凝視する。
「構造は間違っていないと思います。ただ前後の羽根車や三角錐型の羽根車、この形状を少しだけ加工したほうがいいように感じます」
そういえばキーンさんは蒸気ボートや研究室の発電機タービンを改良してくれたんだよな。ジェットエンジンを作るときに助けてもらう約束もしていたんだった。
「頼む、どうすればいい」
「形が微妙なので伝えにくいです。ちょっと待っていただけますか。ミナミ先輩」
植物を促成栽培中のミナミ先輩を呼ぶ。
「ごめんなさい、今ちょっと手が離せないんです。用件は何ですか」
「私の魔法で得たイメージをミタキ先輩に転送お願いしようと思ったのですけれど」
「それなら私がやりましょう」
ユキ先輩がやってきた。
「キーンさんが魔法で得たイメージをそのままミタキ君に伝えればいいんですね」
「ええ、お願いしていいでしょうか」
「大丈夫ですよ」
「それでは魔法を展開します」
キーンさんが魔法アンテナを俺が作った模型に向ける。
「演算終了しました。お願いします」
「わかりました」
ユキ先輩の台詞と共に俺の脳裏にイメージが思い浮かぶ。拡大も出来るし縮小して全体図を見る事も出来る状態だ。
「なるほど、羽根車の羽に膨らみを持たせる訳か」
「そうです。厚みが必要なんです」
見えるうちに工作魔法杖で送られたイメージ通りに加工する。圧縮機の静翼動翼遠心圧縮機、タービンの方も同様に。
更に燃焼室も大分形を変えている。前は八つの燃焼室を円周上に配置した形だったけれど全体をすっきりした円筒形に変更。太さを変化させることによって円筒形全体が燃焼室になるようになっている。
初期点火用に魔法で熱するプラグ代わりの耐熱金属もついている。燃料噴射バルブの位置も当然変わった。
「ありがとう。改良終了」
「では転送を終了します」
脳裏からイメージが消える。
出来上がった模型に鑑定魔法を使用して実際に燃焼させずに性能を確認。始動は大丈夫、だんだん高熱になっていっても……問題ない。というか既にターボジェットエンジンとして完成されていないか、これは。
強いて言えば回転軸にエネルギーを取られ過ぎている。後ろのタービンを1段に減らしてやればそのままターボジェットになりそうだ。今回はターボプロップにしたいのでこのまま改造するけれど。
「凄いなこれ。このままでも簡単に実用になる」
「まだ改良するのでしょうか」
「最終的にはここの回転軸から動力を取り出して、大きいプロペラを回すつもりなんだ。プロペラというのは羽根車の羽が少なくて小さいものでこんな感じかな」
紙に簡単にプロペラの絵を描く。とりあえず4枚プロペラの絵だ。
4枚にしたのはYS-11のイメージが何となく頭にあったから。実際に作るのはあんな大物ではなく4人乗りクラスのつもりだけれども。
「これをエンジンの前につけて回してやる。そうすることによって前進力を得るタイプのエンジンにするつもりなんだ。このままエンジンの排気を推進力にするよりこの方が普通の速度では効率がいいから」
遊星歯車か何かで減速してプロペラに動力を伝達して。あとプロペラは出来れば可変ピッチにしたい。そうすればエンジンを操作しなくても推力が変えられる。
本来可変ピッチは複雑な機構が必要なのだけれど、記述魔法を使えば簡単に出来そうだ。ではまず減速機を設計して……
「シント侯爵邸へ直接出向いて行ってきたわよ。でも話が早くて助かったわ」
「国王庁へ報告の後学園分室の植物園で試験栽培するそうです。パテント関係はしっかりミナミ先輩のものになるよう交渉して参りました」
なるほど、ナカさんはお金や権利の交渉の為に同行した訳か。
「すみません。うちの事なのに色々手伝わせてしまって」
「いいのいいの先輩。うちは既に結構儲かっているしね。それに人間に対する毒性や依存性とかの分析は私の得意分野だし」
「製剤方法もひととおり伝達したし問題無いと思うよ」
なるほど、ミド・リーもシモンさんも得意分野を活かした訳か。この面子であることに意味はあったんだな。
「皆さんすみませんでした。あそこまで色々説明や確認までしていただいて」
「うちの研究室はだいたいあんな感じで毎回あれこれ確認するからね」
確かにそういう意味ではうちの研究室は人材が揃っている。
「さて、ちょうどいいので昼食にしましょうか」
皆でキッチンから皿を運ぶ。
昼食は久しぶりにこの国のスタンダードという感じの食事だった。牛肉塩漬け薄切りを焼いたもの、目玉焼き、ポテトサラダ、ベジタブルスティック、チーズと野菜のディップ、鶏と玉子とタマネギのスープ、パンだ。
スタンダードメニューだがいい材料できっちり作ってあるからとっても美味しい。しかもデザートにパンケーキまでついている。これはバターとトマトのジャム付きだ。
「何かいいものを食べた気になるのだ。たまには王道もいいものなのだ」
「そう言いつつ俺のパンケーキ取るな」
あの抗争はまあいつものことなので無視しよう。本気でやっているわけでも無いし。
「あの魔法杖の調整、私も是非やっていただきたいですわ」
「効果は間違いないわよ。私の生物系魔法杖も今まで出来なかった超高速選択的促成栽培なんて事ができるようになったし」
「楽しみ」
俺の万能魔法用魔道具や移動魔道具も面白いくらいパワーアップした。フールイ先輩愛用の大型超強力移動魔法用アンテナなんてどれくらい性能があがるのだろう。なかなか楽しみだ。
しかし俺はとりあえずガスタービンエンジン試作に取り組む。まずは連続圧縮・連続燃焼が出来るエンジンを作らないとな。
耐熱素材や軽量素材、鋼等は研究用に持ってきてある。だから今までに描いた概念図を基に部品を錬成。実際に組み立ててあとは改良を続けていこうという方法論だ。
ガスタービン、そこからターボジェットエンジン、そしてターボファンエンジンやターボプロップエンジンへと。
そのためにまずは基本のガスタービンから。今までのタービン設計の経験を使いつつ圧縮機を作成する。3段の軸流式と遠心式1段。計算上はこれで圧縮比は3対1程度。
鑑定魔法で確認すると……あまりよろしくない感じだ。連続運転で高温になると隙間が大きくなり圧縮比が落ちる。そんな訳で再設計というか再製造。
うーん……今ひとつかな。もう少し圧縮しないと余剰出力が出なそうだ。
でも一応この状態から他も組み立ててみる。圧縮機や潤滑油、燃料噴射の動力源になるタービンはとりあえず軸流式で3段。
鑑定魔法で見てみる。燃焼室をカン型で作ったせいか爆発が不均等で結果出力も安定しない。一応動くけれど余剰出力はほとんど無い状態だ。しかも熱が不均等なせいでタービンの一部が焼けてしまう。これではいけない。
燃焼以外の場所から圧縮空気を送り込んで全体の温度を下げてみる。そうすると今度は圧縮比が足りない。
おそらく圧縮機や動力タービンの設計が今ひとつなのだろう。少しずつ作り変えて様子を見るしか無いか。そう思った時だ。
「ちょっといいですか」
背後からそんな声がした。振り返るとキーンさんだ。
「これってあの飛行機に使うエンジンですか」
「その原型のつもり。でも効率が悪すぎて思案中」
キーンさんは俺の作った試作品を凝視する。
「構造は間違っていないと思います。ただ前後の羽根車や三角錐型の羽根車、この形状を少しだけ加工したほうがいいように感じます」
そういえばキーンさんは蒸気ボートや研究室の発電機タービンを改良してくれたんだよな。ジェットエンジンを作るときに助けてもらう約束もしていたんだった。
「頼む、どうすればいい」
「形が微妙なので伝えにくいです。ちょっと待っていただけますか。ミナミ先輩」
植物を促成栽培中のミナミ先輩を呼ぶ。
「ごめんなさい、今ちょっと手が離せないんです。用件は何ですか」
「私の魔法で得たイメージをミタキ先輩に転送お願いしようと思ったのですけれど」
「それなら私がやりましょう」
ユキ先輩がやってきた。
「キーンさんが魔法で得たイメージをそのままミタキ君に伝えればいいんですね」
「ええ、お願いしていいでしょうか」
「大丈夫ですよ」
「それでは魔法を展開します」
キーンさんが魔法アンテナを俺が作った模型に向ける。
「演算終了しました。お願いします」
「わかりました」
ユキ先輩の台詞と共に俺の脳裏にイメージが思い浮かぶ。拡大も出来るし縮小して全体図を見る事も出来る状態だ。
「なるほど、羽根車の羽に膨らみを持たせる訳か」
「そうです。厚みが必要なんです」
見えるうちに工作魔法杖で送られたイメージ通りに加工する。圧縮機の静翼動翼遠心圧縮機、タービンの方も同様に。
更に燃焼室も大分形を変えている。前は八つの燃焼室を円周上に配置した形だったけれど全体をすっきりした円筒形に変更。太さを変化させることによって円筒形全体が燃焼室になるようになっている。
初期点火用に魔法で熱するプラグ代わりの耐熱金属もついている。燃料噴射バルブの位置も当然変わった。
「ありがとう。改良終了」
「では転送を終了します」
脳裏からイメージが消える。
出来上がった模型に鑑定魔法を使用して実際に燃焼させずに性能を確認。始動は大丈夫、だんだん高熱になっていっても……問題ない。というか既にターボジェットエンジンとして完成されていないか、これは。
強いて言えば回転軸にエネルギーを取られ過ぎている。後ろのタービンを1段に減らしてやればそのままターボジェットになりそうだ。今回はターボプロップにしたいのでこのまま改造するけれど。
「凄いなこれ。このままでも簡単に実用になる」
「まだ改良するのでしょうか」
「最終的にはここの回転軸から動力を取り出して、大きいプロペラを回すつもりなんだ。プロペラというのは羽根車の羽が少なくて小さいものでこんな感じかな」
紙に簡単にプロペラの絵を描く。とりあえず4枚プロペラの絵だ。
4枚にしたのはYS-11のイメージが何となく頭にあったから。実際に作るのはあんな大物ではなく4人乗りクラスのつもりだけれども。
「これをエンジンの前につけて回してやる。そうすることによって前進力を得るタイプのエンジンにするつもりなんだ。このままエンジンの排気を推進力にするよりこの方が普通の速度では効率がいいから」
遊星歯車か何かで減速してプロペラに動力を伝達して。あとプロペラは出来れば可変ピッチにしたい。そうすればエンジンを操作しなくても推力が変えられる。
本来可変ピッチは複雑な機構が必要なのだけれど、記述魔法を使えば簡単に出来そうだ。ではまず減速機を設計して……
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