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第24章 冬がはじまるよ

第207話 お約束の肉祭りとその翌朝

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 さて、遅くなったがこれから夕食の準備だ。
 メインは勿論鹿魔獣チデジカのモツ。食べる分の鹿魔獣の内臓はある程度下で洗ってある。
 ミド・リーが殺菌殺虫魔法処理をしたので匂いも割と少ない。それでも下拵えはしっかりやらないと食べている途中でうわっとなったりする訳だ。

 例えば胃袋はイボイボな皮を取ってしっかり洗う。血管の太いのもよくこすって汚れを取る。
 大体において最初は塩で、最後に小麦粉で洗うと色々取れるのだ。特に匂いそうな小腸大腸は殺菌の上蒸留酒に漬けてたりもする。とどめに濃いめのタレに漬けたりショウガたっぷり入れて煮込んだり。

 刺身用の方はハツやタンは生で、ヤバそうな場所は湯がいて薄切り。焼き肉用はタレか塩麹にそれぞれ軽く漬けておく。

 俺とシモンさんがそんなある意味趣味的な部位をやっている間に、ユキ先輩やナカさん、フールイ先輩はサラダとか麦飯とかスープとか他の肉とかを準備している。いくら鹿魔獣《チデジカ》一頭分でもモツだけではこの大食い連中の胃袋を満たせない。だから他に焼く肉とかも準備している訳だ。

 なお今回の俺のスペシャリテはモツ煮込み。俺がウージナで研究の上作って持ってきた煮込み用の甘辛タレ。これが腸だったトロトロ肉にじっくりしみ込んだ逸品だ。
 高熱&高圧、低温&減圧を繰り返すことで長時間煮込んだ様な状態になっている。ショウガや蒸留酒等のおかげで嫌な臭いは全く無い。

「腹が減ったのだ。飯はまだかなのだ」

「だったら手伝ってこい」

「私が入っても邪魔になるだけなのだ。だからここで飢えに耐えるのだ」

 何だかなと思いつつ回りを見る。皆さん準備は出来たようだ。
 つまり俺が作ったモツ煮込みが最後だったと。ちょい申し訳無いけれどまあいいか。

「なら運んで貰うとするか」

「待っていたのだ」

 肉、肉、肉、肉、肉、サラダという感じで色々テーブル上が賑わっていく。

「初めての人がいるので説明します。こっちの皿はそのままで食べる用です。タレは基本的にこれとこれですが、好みに合わせて自由に選んで下さい。自分の皿の上なら混ぜるのもありです。
 こっちの皿の肉は基本的に焼いて下さい。自分の網の上に持っていって生活魔法で熱を通します。だいたい色が変わればOKですが、この辺の肉は良く焼くこと推奨です。他の火加減は自分で適当に最適値を探してみて下さい。
 主食はパンでもいいですがこの麦入りご飯に山芋をすった奴をかけて食べるのが肉祭りの時のお勧めです。タレは基本的にこれですが自分の好きな物をかけてください。そのままというのも可です。
 あとは普段通りです」

 食事開始。モツの希少部位は無くなるのが早い。タンは特に人気があるようであっさり消えた。
 何かオマーチの3人に申し訳ないな。そう思ったらミド・リーだのナカさんだのがそれぞれ焼いて勧めていたりする。ならいいか。俺は食べられなかったけれど。

 でも今の俺の気分はタンではない。本日のスペシャリテはモツ煮込みなのだ。邪道は百も承知で麦とろご飯の上に汁ごとのせて食べる。
 うん、これこれ。この甘辛具合、ウージナで研究して作ったタレがいい感じに染みている。 しかもモツがとろっとろ。
 味が少々濃いので牛肉の赤身が多い部分をさっと焼いて口直し。うん、これもいい。

 肉につけるタレも揃えた。
 俺自身は煎酒にホースラディッシュの擦りおろしを入れたものが好みだ。味としてはいわゆるわさび醤油。本物の醤油よりは優しい味だけれど生肉にも焼いた肉にもいい感じであう。
 ただ人気はいかにもという甘い焼肉タレのようだ。あとはレモン塩もそこそこ人気がある。
 西部組はニンニクや生姜、唐辛子のきいた赤くて辛めのタレがお好きな模様。ユキ先輩、タカス君、フルエさん3人ともこの赤いタレメインで使っている。

 ところでミド・リーが色々混ぜた怪しいオリジナルなタレで食べているが、あれは果たして美味しいのだろうか。俺の鑑定魔法では『試さない方がいい』と警告が出ているのだけれど。

 俺のスペシャリテだったモツ煮込みは最初俺しか食べていなかった。でも少しずつ減りだしたかなと思ったら一気に皆さん取り始め、そこからあっという間に消えた。
 俺としては明日も食べたかったのだけれどな。非常に残念だ。もっと作っておけばよかった。もう材料が無いけれど。
 やはり鹿魔獣1匹分のモツではこの人数の大食いには勝てない。牛肉も1重6kgくらいは用意したのだけれどな。


 肉祭りでもナカさんがちゃんとデザートを作っていてくれた。ちなみに今夜のデザートは餡蜜のずんだ豆バージョンだ。

「懐かしいよな。去年の夏だっけこれ作ったの」

「そうそう。あの時甘いものを探してこれになったんだよね」 

 しかしそこまで食べると流石に全員が限界だ。

「動くのが辛い」
なんてフールイ先輩が言っている状態だし。

 フルエさんに至っては動くのが辛いではなく動けない状態だ。
 これは一度お腹いっぱいになった後、タカス君の『食べ過ぎ魔法』でお腹の中を整理し、そこに更に肉だのデザートだのを突っ込んだ結果。つまり自業自得という奴である。

「片付けは明日にしましょう。清拭魔法はかけておきます。では私は失礼します」

 ナカさんは清拭魔法でテーブル上を一応綺麗にした後、移動魔法で自分の部屋へと消えた。多分歩く余裕が無かったからだろう。
 他の皆さんも様子は似たり寄ったり。オマーチの3人も同様だ。
 なお俺自身は歩いて部屋に帰る程度は出来た。でもその程度なので当然夜はここで終了だ。

 翌朝。
 肉祭りの翌朝はいつもはつけ麺。でも此処の朝は寒いので暖かい麺を用意する。
 スープは塩&鶏出汁タイプと煎酒&牛骨出汁の2種類。トッピングは野菜各種からゆで卵、茹で鶏まで基本的にさっぱり系を用意。
 鶏唐揚げなんてものも欲しい人がいるだろうから用意。汁追加用にガーリックチップとか刻みタマネギとか酢とか唐辛子粉も。

 なお今回に限り麺はスパゲティ代用ではなく本気の中華麺。家から生麺を持ってきたのだ。ただ数量的に1回分がやっとの状態。即席麺や乾麺の開発が今後の課題だな。

 そんな用意をしていると匂いに釣られて皆さん起きてくる。
 例外はシンハ君とヨーコ先輩でこの2人は今朝もトレーニングをした模様。何というかタフな人達だ。身体強化組のもう1人フルエさんは起きられなかったようだけれど。

「この麺は初めてですね」

「肉祭りの後の朝はだいたいこれだよ。いつもは冷たい麺だけれど」

「でもいつもの麺とちょっと違う。それに暖かい」

「今回はスパゲティ代用ではなく本式のラーメン用の麺だ。あと此処は寒いから暖かいのにした」

「おかずは取り放題なのだ」

「でも回りをみて加減しろ」

 最後のはタカス君からフルエさん宛て。そんな感じで朝がスタートする。

「まずは吊しておいた鹿魔獣《チデジカ》の解体だね」

「終わったら買い物に行って、そして夕方また魔獣狩りだな」

「今日の買い物は食品だけだから全員じゃなくてもいいね」

「その辺は適当に当番を作ろうか」

 確かにそれでもいいな。
 そこで俺はふと昨日聞き忘れた事を思い出した。

「そう言えば熊魔獣《アナログマ》の内臓とかは幾らになったんですか」

「報奨金が小金貨1枚10万円、肉と皮、内臓含めてこれも小金貨1枚10万円だ」

 鹿魔獣《チデジカ》は幾らだったっけ……

「鹿魔獣《チデジカ》は毛皮と報奨金で1頭正銀貨1枚1万円、肉が1頭分で正銀貨2枚2万円、内臓が1頭分で小銀貨1枚1000円だから6倍以上だな」

「そんなに高いんですか」

 キーンさんが驚いている。

「まあ熊魔獣《アナログマ》は滅多に捕れないからな。罠をあちこちに仕掛けても年に2頭捕れるかどうからしい。私達も昨年は結構苦労したからな」

「まさかあんな狩りの方法があるとは思いませんでしたからね、昨年は」

 そこから昨年の熊魔獣討伐の話になる。何人も魔法杖を飛ばされたとか攻撃魔法を弾かれたとか。それだけ苦労しても報奨金だけだったとか。

「昨年は結構苦労されたのですね」

「熊魔獣《アナログマ》の時だけだけどな。まさか昨日のあんな方法があるとは思わなかったし」

「あの特別な魔法杖とアキナ先輩のおかげ」

「でも普通はあんな方法思いつかないと思います」

 確かに窒素ガスで窒息させるなんてこの世界の普通の発想じゃ無いよな。

「そういえば魔石は売っていないようですけれど何に使うんですか」

「魔法道具に使えるんだ。昨日は使わなかったけれどあの灯り用とか」

「昨年ここで取ったものはほとんど研究用で使ってしまいましたけれどね」

「今年のも研究用かな」

鹿魔獣チデジカの魔石は電気関係色々に使えるし、今年は風魔法の石もできるだけとっておきたいんだ。空を飛ぶ機械用につけて、万が一エンジンが止まった際の非常用に使うつもりだ」

「風魔法の魔石だけで空を飛ぶのは無理かな」

「出来ない事はないけれど魔石を相当使うと思うな」

「それはそうとしておかわりなのだ」

 そんな感じで朝食の時間が続く。

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