上 下
214 / 266
第24章 冬がはじまるよ

第205話 非常識な退治方法

しおりを挟む
 さて、いよいよ魔獣退治だ。荷馬車にそれぞれの武器になる大型魔法アンテナを積み込む。
 なお今回フールイ先輩は本来の自分用である爆発魔法用ではなく空間系魔法用の杖を積み込んだ。

「これを使うんですか」

「この方が面白い事が出来る」

 先輩の表情は慣れない人が見ると無表情。しかし今の俺が見ると不敵に笑っている感じに見える。
 ちなみに俺は大型の杖も武装も無しだ。何回かやって皆さんの戦闘力はよくわかった。俺がしゃしゃり出る必要は無いだろう。

 一方でシンハ君やヨーコ先輩用の魔法銅《オリハルコン》コーティング済み投げ槍も勿論積み込んだ。

「まさかいきなり熊魔獣《アナログマ》が出ると思わないけれど念の為だな」

 シンハ君はあの黄金色のフルプレートアーマーまで用意済みだ。
 あとは処理用のナイフ等も当然準備。夜間用の照明一式も準備した。電源の鹿魔獣《チデジカ》の魔石は研究で使ったので残り1個しかないけれど。
 それらを全部荷車に積み込んでいく。

「私達は武器とか無しでいいんですか」

 タカモさんはちょっと心配そう。

「今回は僕やミタキ君、ナカさんも武器無しで行くしね」

「皆さん十分強いですから心配いりません」

 シモンさんとナカさんがそう言う。ただ実のところナカさんはどんな魔法を持っているかわかったものじゃない。今までも警戒だの認識阻害だの管理だの色々便利魔法を繰り出してきたし。
 そんな事を思いながら荷車をシンハ君にひいてもらい現場へ。
 堰堤の上まで来たところで先頭のヨーコ先輩が立ち止まる。

「今日はここで杖を準備しよう。フールイが試したい事があるそうだ」

 以前に熊魔獣《アナログマ》を迎え撃ったあたりだ。

「ここでいいんですか」

「ここへ獲物を持ってくるそうだ」

「それじゃ杖を組み立てようか」

 そんな訳でそれぞれの魔法アンテナを組み立てる。フールイ先輩は勿論例の空間系最強魔法アンテナだ。
 全員が用意し終わったところで。

「まず罠にする穴を掘る」

 フールイ先輩がそう言って堰堤の向こう、夏なら水が溜まっているだろう地面の乾いた部分を指さした。
 ドーン、ドーン、ドーン。
 軽い爆発音がして乾いた湖岸に半径2腕4m深さ2腕2mくらいの穴が出来た。このくらいならフールイ先輩は魔法杖を必要としないらしい。

「アキナ先輩、穴の中を超低温で凍らせて。空気が凍って溜まる位」

「わかりましたわ」

 鑑定魔法で見ると穴の底に超低温の液体が溜まっているのがわかる。ちなみにその温度はマイナス200度。氷に見えるのは液体化した窒素だ。強烈すぎるぞそれは。

「アキナ先輩、超低温を解除して元の温度に。ミド・リーさん。一番近い熊魔獣《アナログマ》はどの辺?」

 さっと緊張が走る。熊魔獣だと!

「熊魔獣《アナログマ》だとちょっと遠いわ。川沿いずっと真っ直ぐ、あの滝より更に進んで大きな二俣を右、200腕400mくらい行った左側に中型が1匹。でもいきなり熊魔獣《アナログマ》を狙うの? 中型でも熊魔獣《アナログマ》は生物系魔法でコントロール出来ないわよ」

「問題無い。魔獣も生物なら。でも念の為シンハ君とヨーコ、準備頼む」

「わかった。任せておけ」

 ヨーコ先輩は何か知っている模様だ。シンハ君はあの黄金の槍を構える。

「それでは転送する。多分熊魔獣《アナログマ》は何も出来ない」

 そう言ってフールイ先輩は魔法アンテナにとりついた。

「熊魔獣《アナログマ》捕らえた。転送する」
 
 ドン! 穴の中に何かが落ちる音がした。
 それだけ。他に動く音も無い。

「終了。ミド・リーさん、とどめ頼む」

「わかった。これで大丈夫よ」

「アキナ先輩頼む、温度を戻して」

「はい、これで大丈夫ですわ」

「もう終わったのか?」

 シンハ君は不審気な顔だ。

「終わった。あの中に熊魔獣が倒れている筈」

 俺はやっと何が起きたか気づいた。

「そうか、穴の中で呼吸できなくて倒れた訳か」

 フールイ先輩は頷く。

「その通り。低温にすると呼吸できない空気が液化する。それを溜めた後、気化させてその空気だけにしておけば一息吸っただけで動けなくなる」

「何故そんな事を知っているんですか」

 液体窒素なんてこの世界では使わない筈だ。

「鉱山の事故で似たような事例がある。坑内は場所によっては熱くなる。そこで温度を下げるため液化した空気で室内を冷やした事案があった。結果、液化した空気の近くにいた人間は倒れて死んだ。その事例を思い出して移動魔法と併せてやってみた」

 酸素が全く無い空気を呼吸するとほぼ即時に失神する。確か日本でも何処かの大学でそんな事故があった。でもまさかこの世界で液体窒素を使ったそんな狩りをするとは思わなかった。

「ヨーコ、念の為穴の中を最大限換気頼む」

「大丈夫、やっている」

「じゃ取りに行ってくるぞ」

「私も手伝おう」

 シンハ君とヨーコ先輩がが荷車を引いていった。見ている間によいしょよいしょと巨大な熊魔獣《アナログマ》を引っ張り出す。
 中型と言っていたけれどかなりの大きさだ。以前倒した熊魔獣《アナログマ》と大きさは同じくらいだろう。
 
「移動系魔法杖の練習をしているうちにふと思いついた。なのでヨーコに話をしてやってみようという事になった。うまくいって嬉しい」

「ほぼ傷も何もない上物だぞ。これはいい!」

 下からヨーコ先輩のそんな声が聞こえる。

「魔獣狩りってこんな感じなんですか?」

「いえ、これは普通ではありませんから」

「今までも十分チートだと思ったけれど、これはちょっとチート過ぎるよね」

「僕もそう思うよ」

 タカモさんの質問にアキナ先輩、ミド・リー、シモンさんがそれぞれ答える。

「取りあえずこの熊魔獣《アナログマ》は下へ持っていって処理しておく」

「それじゃ今度は私がやりますね。獲物は鹿魔獣《チデジカ》でいいですか」

 今度はユキ先輩がやるようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~

霜月雹花
ファンタジー
 17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。 なろうでも掲載しています。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

知識チートの正しい使い方 〜自由な商人として成り上ります! え、だめ? よろしい、ならば拷問だ〜

ノ木瀬 優
ファンタジー
商人として貧しいながらも幸せな暮らしを送っていた主人公のアレン。ある朝、突然前世を思い出す。 「俺、異世界転生してる?」 貴族社会で堅苦しい生活を送るより、知識チートを使って商人として成功する道を選んだが、次第に権力争いに巻き込まれていく。 ※なろう、カクヨムにも投稿しております。 ※なろう版は完結しておりますが、そちらとは話の構成を変える予定です。 ※がっつりR15です。R15に収まるよう、拷問シーンは出血、内臓などの描写を控えておりますが、残虐な描写があります。苦手な方は飛ばしてお読みください。(対象の話はタイトルで分かるようにしておきます)

処理中です...