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第22章 黒い油と秋の空

第176話 夏休みその後

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 勿論作業や研究ばかりでは無い。展望風呂も残念ながら活躍している模様だ。俺は上に行かないのだがどうやら水風呂にして涼める状態になっているらしい。
 でもだからと言って水着で研究室内を歩き回らないでくれ。目に優しいがじっくり見る訳にもいかないしさ。俺的に色々困るのだ。

 俺やフールイ先輩が作業をしているので昼食は大体ナカさん作。たまに他の誰かが作る時もあるがその場合は味が外れるばあいもある。
 だからミド・リー。君は料理を作らなくていいんだ。頼むから。
 勿論そんな事は本人には言えないけれど。

 ◇◇◇

 夏休みももう終わり近く。やっと動くパルスジェットエンジン試作品が出来た。
 模型用だから大きさはペン3本をまとめた程度。燃料は以前仕分けした灯油系を更に分けたうち軽い方がいいようだ。
 小さいからか起動は簡単。

  ① 燃料をエンジンに付属した燃料タンクに入れ
  ② エンジン内部を200度近くに加熱しながら
  ③ 前から風魔法で空気を押し込んでやると動き出す

 ポポポポポポポポポポポポポポ…… そんな音を響かせて火を噴く。
 試しに下に車軸と車輪をつけてみた。ポポポポと火を噴きながら結構いい速度で研究室内を走っていく。

「火事にならないよう気をつけてね」

「煩いけれどなかなか面白いな」

「でもあれが空を飛ぶの?」

 確かに今は火を噴きながら走っているだけだ。

「あれはあくまで動力源で本体は別。ただ作った経験なんてないから試行錯誤になるけれど」

 ただの試行錯誤よりましなのは
  ① 俺が完成形を外見だけでも知っている事
  ② 鑑定魔法で形を見ればある程度性能や特性を判断できる事
  ③ 工作魔法である程度自由かつ早く物を作れる事
といったあたりだ。
 つまりはまあ、まずは数を作りまくる事。それで少しずつ改良していけばいい。

 ところで皆さんはどんな感じだろう。タカス君中心でナカさんミド・リー、時々フールイ先輩や身体強化組のやっている作業をのぞいてみる。

「こっちはどんな感じだ」

「派手なものは無いけれど着実につくっているわよ」

 そう言っていくつか試作品を見せてくれる。

「これは温かい座布団。中に魔力を熱変換するよう記述してあるの。座っていると少しずつ暖かくなる感じ。学園祭の頃は結構涼しくなっているからいいんじゃないかなと思って。魔力もあまり使わないし」

「これは自動ドアです。人が近づくとその魔力で勝手に開く。ただ相手が子供で魔力があまりないと開かないのが欠点ですね」

「あと快適下着なんてものも作ってみたのだ。いつでも快適温度でさらさらなのだ。呪文をいかに隠しつつ薄く着心地良くするのがこれからの課題なのだ」

「他には市販中の匂い取りとか自動灯火も展示する予定です」

 なるほど、色々堅実というか地に足がついた開発という感じだ。

 次に会議室の方をのぞいてみる。ああ、見ない方が正解だったかもしれない。これは漫画制作中という感じだな。
 内容は俺よりタカス君向けの奴だ。つまり百合なお話。でも一応聞いてみよう。

「何を描いているんですか」

「見た通り新作の漫画ですね。そろそろ描いてくれと手紙が来ましたので、アキナにも手伝ってもらって描いています」

「一応他の方には秘密にしていますので、よろしくお願いしますね」

 はいはい了解。

「さて、こちらの方はそろそろ頼まれた分は描き終わります。そこで何か学園祭で作ってみたいのですけれど、面白そうな趣向はありますでしょうか」

 ふと思いついたので聞いてみる。

「ユキ先輩は魔法で絵を描くこともできるんですよね」

「ええ。普段は手で描いていますけれど、ある程度決まった絵なら魔法でも描けますわ。こんな具合に」

 白い紙が開かれたままになっているスケッチブックに、ささっと線が躍る。あっという間に漫画チックな絵が完成した。女の子2人が花摘みをしている絵だ。
 この速度で描けるなら出来るかもしれない。そう判断した俺は言ってみることにした。

「僕が以前いた世界にはアニメーションというものがあったんです。少しずつ違う絵を高速で切り替えて、全体として動いている絵のように見せるという技術です」

「それってどんな感じかしら」

 話を聞いてくれるようだ。

「要は超高速紙芝居です。ノートの端なんかに描くとわかりやすいのですけれどね。ちょっと待っていてください」

 俺は一度会議室を出て研究室の俺のデスクに戻る。紙を束ねて工作魔法杖を使い、小さくて分厚いメモ帳みたいなものを作成。これとペンを持って再び会議室へ。

「たとえばこのメモ帳もどきの隅にこんな感じで絵を描きます」

 俺には絵心が無いので棒人間を描く。20枚ほど棒人間が歩いている様子を描いてメモ帳を閉じる。

「これは原始的な方法ですけれど、こうやって紙をペラペラめくれば」

 棒人間がひょこひょこ歩いている姿が見えた。

「これはなかなか面白いです。確かに動いているように見えますわ」

「そうですね。つまりこれの枚数を増やすと登場人物が動いている物語が作れることになりますね」

 2人ともすぐ理解してくれたようだ。

「勿論いまやったのは原始的な方法です。実際はある程度大きな紙を時間差で巻き取るとかいろいろ方法を考えないといけないでしょう。その辺は俺よりきっとシモンさんの方が得意だと思います」

「仮に1秒に8枚として、1分の物語に480枚の絵が必要な訳ですね。それくらいなら絵コンテさえあれば魔法で簡単に描けますわ」

「1秒に何枚必要かはちょっと自信がないのでさっきの方法でちょっと確かめてみて下さい」

 確か日本のアニメは1秒24コマだったっけ。でも簡単なところは3フレームごとに切り替えていたりもしたような……その辺はあまり興味が無かったのでよく覚えていない。

「それではちょっとこのメモ帳をいただいていいかしら。少し試してみたいので」

「どうぞ」

「では今描いているのが終わったら作ってみますね」

「出来たらよろしく」

 でもどんなメカニズムで作ればいいだろうか。高速で切り替えて止めてまた動かして……。結構難しそうだ。
 やっぱりその辺はシモンさんに任してしまった方がいいだろう。不等歯車だの使って簡単に作ってしまいそうだ。
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