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第20章 それでも続く夏合宿

第165話 禁断の飲食物と強制トレーニング

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 一人はまり、二人はまり。そして結果的には全員がジャンクフードの罠にはまってしまった。

「うう、それほど美味しいとも思えない。なのにどれも止まらないのだ」

「本当だ。これ何なんだよ」

「この脂まみれの塩味とこの飲料の臭さが妙にあいますね」

 ひっひっひっ、それこそがジャンクフードの泥沼だ。

「こんなの絶対身体に良くない! 良くないとわかっているのに……」

「だから言っただろ、悪魔のセットだって」

「食べなければよかったです……もうすぐなくなりますけれどおかわりは?」

「ドリンクももう空だぞ」

 シンハ君の言葉を聞いてしまったと思う。このコーラもどき、コーラとはほど遠いながらも結構気に入っていたのに!
 もう一度作るべきだろうか。レシピは一応頭の中に入っている。
 しかし俺はそこで冷静になった。

「今日はここまでにしましょう。確かにこれは身体に良くない食べ物です。やめどきを間違えると太りますよ」

「うう……罪作りな食べ物なのだ」

「これは知らない方が良かったかもしれませんね。またいつか欲しくなることがありそうですから」

「禁断症状が出そうだよね」

「依存性が高い嗜好物なんだよ。麻薬みたいに」

「今日は勇気を持って撤退しましょう。でも……」

 そこでアキナ先輩がちょっと考えて、そして口を開く。

「1日1回くらいならいいですよね。明日もまたお願いしますわ」

 全員がうんうんと頷いている。まあいいか、合宿中くらいは。

 それにしてもこのジャンクフードセット、思った以上に出来が良かった。後でレシピを紙に書いていつでも作れるようにしておこう。
 ただし材料に猪魔獣《オツコト》が必要になるけれど。

 ◇◇◇

 ジャンクフード沼にはまりきった反動だろうか。

「この生活を続けたら帰った頃にヤバいよね。少しは運動しないと」

「そうですね。微妙に身体が重くなった気も致しますわ」

「同意だね。登山と魔獣狩りをやったけれどそれ以上に食べている気がするよ」

「ならジョギングかな。全員で」

 恐ろしい提案が広がってしまった。

「そこまでする事は無いんじゃないか。折角のリゾートだしのんびりすれば」

 当然のことながら俺は反対した。しかしだ。

「一番トレーニングが必要なのはミタキだよね」

「僕もそう思うよ」

「観念しようや。まあ初心者用にゆっくりやるからさ」

 そんな訳で俺まで強制参加となってしまったのだ。
 なお足りない体力の救済手段である万能魔法杖はトレーニング前に取り上げられた。

「これを使うとトレーニングにならないでしょ」

「登山の時は一応あれでも鍛えられたけれどな」

「ならあれくらいハードにやってみる?」

「遠慮しておきます」

 そんな訳で湖一周ジョギングのスタートだ。

「こっちは先に行くぜ」

「なのだー!」

「3周くらいしないとトレーニングにならないしな」

 身体強化組3人は凄い速さで走り去っていく。シンハ君、初心者用にゆっくりやるのではなかったのか。まあこうなるとは想像していたけれど。

 残りは小走り程度の速さでスタートだ。この湖の一周は2離4kmくらい。
 だから歩いたならそんなに苦労はしない距離。実際朝に散歩したし楽勝だよな。その筈だが、その筈なのだが……

 やばい、呼吸が続かない。足もだるい。ペースが維持できない。

「どうしたのミタキ、もう駄目?」

「先に行ってくれ。こっちはゆっくり回るから」

「まだ半離1kmも走っていないじゃない」

「……正確には271腕542mだ」

 自分が走った距離は鑑定魔法でわかる。
 なお他の皆さんはこれくらいは平気らしい。

「皆体力あるなあ」

「ミタキが軟弱なだけよ」

 はいそうですか。まあ自覚はあるけれど。
 仕方無く全員俺に会わせて歩きペースになる。

「これは根本的に鍛えないと駄目だよね」

「いいじゃないか。別に不自由することも無いしさ」

 あ、ミド・リーとシモンさん、それにナカさんの様子が変だ。どうも伝達魔法で会話をしているような気がする。他の皆さんも会話に加わっている様子。
 そして。

「よし、方針を変えましょう。一度別荘に戻ります」

 ユキ先輩が宣言する。何だ。何をする気だ。俺だけ何もわからないまま別荘をUターン。

「計画変更でドライブをしましょう。確か見晴台まで馬車道があるはずです」

 ドライブに変更か。それなら楽でいい。
 身体強化組3人は走らせたままにしておいて、取りあえず蒸気自動車をスタンバイさせる。石炭を投入し、水を回して、魔法で釜を加熱させて……

「それじゃ行こうか」

 その場にいる全員が乗って自動車はスタート。

 見晴台までは3離6kmちょっと。湖畔、沢沿い、気持ちのいい森を抜けて到着する。

「ついたよ。取りあえず降りて。僕は自動車を転回させるから」

 そんな訳でシモンさんだけを残して俺達は蒸気自動車を降りる。 蒸気自動車は3回くらい切り返して方向を変えて……えっ!

 転回を終えた蒸気自動車はそのまま走り出してしまった。運転席のシモンさんだけが乗った状態で今来た道を帰っていく。

 どういう事だ……まさか!

「これならミタキも運動せざるを得ないよね。帰るために」

「ちょっと遠いから走らなくてもいいですわ。それでは行きましょうか」

 そういう事か、やっぱり! まあ蒸気自動車が走り去った時点で想像はしていたのだけれど。

「折角ですから見晴台まで行ってから帰りましょう」

 そういう事で見晴台の場所へ。

 ちょっと開けたところに木製の展望台があった。高さは3階建てくらい。
 上がってみると確かに見晴らしがいい。前側正面が中央山地で左右が平地。そして右側の平地は海まで遠く見晴らせる。

「ここもなかなか景色がいいね。シンコ・イバシの方もよく見える」

「お弁当を持ってくるといいかもしれないね」

「でもこれ、カロリー消費の為の運動だよ」

「そうだった」

 そんな事を言いながら景色を堪能した後はいよいよ帰りだ。

 道そのものは大変歩きやすい。馬車道だから平坦で舗装済み。しかも緩い下り坂だ。
 ある程度リズムをつけて歩けば自動的に足が出る。足が追いつかなくならないようブレーキをかけなければならない位だ。

「これは楽だな、気持ちよく歩ける」

「今のうちはね」

 そう言ってミド・リーがにやりとする。確かこの道はずっとこの調子で下り坂か平坦な筈。それとも何かあるのだろうか。

「それじゃ身体も温まってきたし、そろそろ走ろうか」

 なんだと!
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